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第3章 自称雷帝にして鵺(ぬえ)の娘(名はまだない)

何で、こいつが?

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 余りに部屋から聞こえる話に耳を傾けておったので、気付かなかったのだ。
 いや、そうではない。
 足音は聞こえておった。
 しかし、かまわなかったのだ。
 宮女であれ護衛であれ、あるいは王妃や他の王子・王女であれ、
――誰であれ、私は怒りをあらわにして追い返す気でおった。
 私には、この話を聞き続ける必要があった。
 絶対に。
 母様かあさまの話である。
 誰であれ邪魔させる気は無かったし、止める者があれば、許さぬぞと想っておった。
 その想像もしなかった、今、私の眼前におる者を除いては。

(何で、こいつが?)

 私は再び恥ずかしさに襲われた。
 しかも先の護衛の時を上回って。
 なぜなら、その者の存在は、ここ数日の間に、すっかり私の中でようになってしまったから。

(東国の一行は去ったと聞いたが。
こいつだけ、残ったのか?)

 その者の切れ長の目は一層細められた。
 一応とばかりに、先の謁見室にてなしたのと同じ、少しヒザを曲げる礼をなした後に、そのおちょぼ口が開くと、

「ソフィア王女様。
どいてくださらない。
そこにおられますと、わたくしが中に入れませんわ」

 その声を聞くや、私はとびのき、そこから脱兎だっとの如く走って逃げた。
 礼も言葉を返さずに。
 裸足はだしが大理石を打ってペタペタと大きめの音を立てるのも、最早もはやかまわずに。
 信じられぬほどの羞恥しゅうちに包まれて。
 あれは、さげすみの目でなかったか?
 私は盗み聞きする王女と想われたに違いなかった。


 これより前のこと。
 東国の王が去る際、ソフィアは大玉の真珠を置きみやげとしてもらっておった。
 「手へのブチュウのお礼か」と憎まれ口の一つも叩くも、顔はにんまり。
 早速、王家直属の金銀細工師に、これを用いて髪飾りを造るよう頼んだ。
 その際、ヒロミがしておった髪飾りのデザインを、記憶を元に伝えておった。
 おそろいの髪飾りを、という訳である。
 そんなこんなのソフィアの恋心であった。



 ここまで読んでいただきありがとうございます。
 次章のタイトル予告です。
『人外参上――自称雷帝の置きみやげ』
 次章も是非お読みいただければと想います。

 ただ申し訳ありませんが、次章の開始まで2週間ほどの時日をいただきたく想います。
 といいますのは、これより後の話を書いていて、現状の敵設定では面白くないぞと痛感したためです。
 これは根本的に練り直さなければ、どうしようもないとなりました。
 ここから先は、敵との戦いが増していきます。
 どうかご了承ください。
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みんなの感想(1件)

スパークノークス

おもしろい!
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ひとしずくの鯨
2021.08.28 ひとしずくの鯨

SparkNorkx様
『軍略家』に引き続き、『爆炎』までお気に入りしていただき、とてもうれしいです。
『爆炎』はなかなかお気に入りが付かず、「閑話」に書いた如くを想っていたところです。

ひとしずくの鯤

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