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第3部 仇(あだ)
8:オトラル戦5:チンギス軍議2
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人物紹介
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主
ジョチ:チンギスと正妻ボルテの間の長子。
チャアダイ:同上の第2子
クナン:ジョチ家筆頭の家臣。ゲニゲス氏族。
ココチョス:チャアダイ家の家臣。バアリン氏族
人物紹介終了
立ち並ぶ重臣たちの中から素早く前に出てひざまずく者が一人。
「カンよ。
これまで通りジョチ大ノヤンはカンのご期待に応えるべく励みましょうぞ。
わたくしも及ばずながら尽力いたします。」
「クナンよ。ジョチを頼んだぞ。」
よくぞ申したとばかりに、チンギスはすかさず、そう応じた。
まさにチンギスの心を良く察するを得るゆえのクナンの発言に他ならなかった。
その両者のやりとりを見せられれば、ジョチとしても何事かを推し量らざるを得なかったようであり、ようやくひざまずき、答えた。
「軍勢を授けて下さり、ありがとうございます。
きっとカンの恩顧に応えるべく、クナン共共尽力することを誓います。」
軍議の場には未だ猛々しい雰囲気が残されておった。
しかし、ジョチとクナンがそう誓約した以上、これで幕引きとなるは明らかであった。
大騒動にならずに済んだかと、少なからずの諸将の顔には安堵の表情が浮かんでおった。
「ジョチよ。
クナンの言葉を父からのものと想って聞け。
そのために、そなたに与えたのだからな。」
「はっ。」
ただチャアダイ一人はその成り行きに大いに不満であったようであり、それを露骨に顔に出しておった。
果たしてチンギスはそれに気付いたのか、
「ところでチャアダイよ。
ジョチにクナンの忠言が必要な如く、そなたにはココチョスが必要なはず。
あの者の顔が見えぬようだが、何かあったか。」
不意に問われ、チャアダイはひざまずくも、しばし答えられず、ようやく
「ココチョス・ノヤンには、我が宮廷の留守を託して来ました。」
「チャアダイよ。
かたわらに置いておらねば、その言葉が耳に届くことはあるまい。
よもや口うるさいと想い、置いて来たのではあるまいな。」
「決してそのようなことは。信頼すればこそであります。」
「チャアダイよ。
今後常にココチョスを、そのかたわに置け。」
「かしこまりました。」
そう答える顔は苦りきっておった。
ただ、チンギスは息子の性格を良く知っておったゆえか、いずれにしろ顔付きまでも何とかしろと言うことはなかった。
その後チンギスがジョチの軍に加わる諸将、チャアダイ、オゴデイの合軍に加わる諸将の名を挙げて行き、各将がひざまずいて拝命して、軍議は閉会となった。
チンギス軍、ジョチ軍共に軍議の決定に従い早々に進発した。
チャアダイ、オゴデイの軍が馬草を得るのに苦労することのなきように、とのチンギスの命のゆえであった。
替え馬としてモンゴル軍は一人当たり数頭を遠征に携えたと言われる。
無論のこと、その数は戦の結果や遠征の状況により変動しよう。
この西征にどれだけの軍馬を携えて来たかは伝えられておらぬ。
ただ、少なめに見積もって兵一人当たり二頭としても三十~四十万頭、三頭とすれば四十五~六十万頭近く、五、六頭とみなせば百万頭に達する膨大な数となる。
加えてモンゴル軍は糧食確保のために、羊群、山羊群、牝中心の馬群、また運搬用も兼ねて牛群、ラクダ群までも引き連れておったは確かである。
全軍がだらだらと留まるならば、早々にこの地の草を食べ尽くすことは明らかであった。
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主
ジョチ:チンギスと正妻ボルテの間の長子。
チャアダイ:同上の第2子
クナン:ジョチ家筆頭の家臣。ゲニゲス氏族。
ココチョス:チャアダイ家の家臣。バアリン氏族
人物紹介終了
立ち並ぶ重臣たちの中から素早く前に出てひざまずく者が一人。
「カンよ。
これまで通りジョチ大ノヤンはカンのご期待に応えるべく励みましょうぞ。
わたくしも及ばずながら尽力いたします。」
「クナンよ。ジョチを頼んだぞ。」
よくぞ申したとばかりに、チンギスはすかさず、そう応じた。
まさにチンギスの心を良く察するを得るゆえのクナンの発言に他ならなかった。
その両者のやりとりを見せられれば、ジョチとしても何事かを推し量らざるを得なかったようであり、ようやくひざまずき、答えた。
「軍勢を授けて下さり、ありがとうございます。
きっとカンの恩顧に応えるべく、クナン共共尽力することを誓います。」
軍議の場には未だ猛々しい雰囲気が残されておった。
しかし、ジョチとクナンがそう誓約した以上、これで幕引きとなるは明らかであった。
大騒動にならずに済んだかと、少なからずの諸将の顔には安堵の表情が浮かんでおった。
「ジョチよ。
クナンの言葉を父からのものと想って聞け。
そのために、そなたに与えたのだからな。」
「はっ。」
ただチャアダイ一人はその成り行きに大いに不満であったようであり、それを露骨に顔に出しておった。
果たしてチンギスはそれに気付いたのか、
「ところでチャアダイよ。
ジョチにクナンの忠言が必要な如く、そなたにはココチョスが必要なはず。
あの者の顔が見えぬようだが、何かあったか。」
不意に問われ、チャアダイはひざまずくも、しばし答えられず、ようやく
「ココチョス・ノヤンには、我が宮廷の留守を託して来ました。」
「チャアダイよ。
かたわらに置いておらねば、その言葉が耳に届くことはあるまい。
よもや口うるさいと想い、置いて来たのではあるまいな。」
「決してそのようなことは。信頼すればこそであります。」
「チャアダイよ。
今後常にココチョスを、そのかたわに置け。」
「かしこまりました。」
そう答える顔は苦りきっておった。
ただ、チンギスは息子の性格を良く知っておったゆえか、いずれにしろ顔付きまでも何とかしろと言うことはなかった。
その後チンギスがジョチの軍に加わる諸将、チャアダイ、オゴデイの合軍に加わる諸将の名を挙げて行き、各将がひざまずいて拝命して、軍議は閉会となった。
チンギス軍、ジョチ軍共に軍議の決定に従い早々に進発した。
チャアダイ、オゴデイの軍が馬草を得るのに苦労することのなきように、とのチンギスの命のゆえであった。
替え馬としてモンゴル軍は一人当たり数頭を遠征に携えたと言われる。
無論のこと、その数は戦の結果や遠征の状況により変動しよう。
この西征にどれだけの軍馬を携えて来たかは伝えられておらぬ。
ただ、少なめに見積もって兵一人当たり二頭としても三十~四十万頭、三頭とすれば四十五~六十万頭近く、五、六頭とみなせば百万頭に達する膨大な数となる。
加えてモンゴル軍は糧食確保のために、羊群、山羊群、牝中心の馬群、また運搬用も兼ねて牛群、ラクダ群までも引き連れておったは確かである。
全軍がだらだらと留まるならば、早々にこの地の草を食べ尽くすことは明らかであった。
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