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第3部 仇(あだ)
24:カンとの謁見1:ダーニシュマンドの野心2
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人物紹介
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主
ダーニシュマンド・ハージブ:チンギスの臣。ホラズム出身の文官
トゥルイ:チンギスと正妻ボルテの間の第4子。
ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。
シギ・クトク:チンギスの寵臣。戦場で拾われ正妻ボルテに育てられた。タタルの王族。
人物紹介終了
ところでそのダーニシュマンドがチンギスに報告した時のことである。
多少というか、かなり大げさに自らの説得の勲功を訴えた。
もちろん、強調するは、
――いざとなれば、自らの命を差し出してとまで約束して、相手の譲歩を引き出し、
――結果、カンの軍勢を1兵とりとも、損わなかったこと。
かたわらで聞くボオルチュは、明らかに途中から鼻白む顔を見せておったが。
それで弁が止まるダーニシュマンドではなかった。
そしてそれに応じる如くの
「大義であった。
こたびの遠征を終えた後には、今回の功に対する褒美を存分に与えることを約束しよう。
これからも我のかたわらにおり我を助けよ。」
とのチンギスからの言葉を頂いた。
しかしそれで満足することなく、チンギスの覚えが良いまさにこの時を好機とみなしたのか、更に次の如くに提案した。
「このホラズムの国情に詳しい者が、新たに投降して来た者たちの中におります。
是非お引き合わせ致したく想います。
お許し頂けますか。」と。
ホラズム帝国に不満を抱く者やこれを負け戦とみなした者が、チンギスの元に続々と降って来ておったのである。
そして後日実現した謁見のときのこと。
チンギスのかたわらには、
――トゥルイとボオルチュとシギ・クトクが控え、
――ダーニシュマンドは通訳の任も兼ねて同席した。
「報告したいことがあるそうだが。」
とここで一拍置いて、チンギスはぎょろりとその者をにらみつけてから、
「述べてみよ。」と続けた。
その者は極度の緊張からか恐れのゆえか、
――ブルブルと震えておったが、
――やがて話し始めた。
――その震えは声に移り、
――ダーニシュマンドが問い返すこと度々となったが。
「はい。チンギス・カンにお目通りを許されて、これほど喜ばしきことはありません。
わたくしが聞き知っておりますのは、スルターン・ムハンマドとその母についての情報です。
この二人は実の母子でありながら、極めて険悪な仲であるとのこと。
それに伴い、スルターンを奉じる勢力とテルケン・カトンを奉じるカンクリ勢もまた険悪な関係にあるとのことです。」
「カンクリもキプチャクと並ぶ名族と聞きます。
そのような古き血筋の王統ならば、新興のホラズムの血筋を軽んじることも大いにありえること。」
とボオルチュ。
それを聞いたトゥルイも納得の表情を見せて言った。
「テルケン・カトンの結婚は、お互いの血統に敬意を抱くゆえというより、打算の行いであったのでしょう。」
チンギスは二人の言葉を聞きつつも、別のことを考えておった。
報告しておるこの者は、ダーニシュマンドの仕込みであろうと。
何故そんな芝居じみたことをするのかと、ボオルチュやトゥルイならば怒り心頭に発するのかもしれぬと想いつつも、
――チンギスにはある種の可愛げと映る。
そしてその芝居の主役は何を言う気なのか、というのが最も気になるところであった。
ゆえにそのことを直截に問うた。
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主
ダーニシュマンド・ハージブ:チンギスの臣。ホラズム出身の文官
トゥルイ:チンギスと正妻ボルテの間の第4子。
ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。
シギ・クトク:チンギスの寵臣。戦場で拾われ正妻ボルテに育てられた。タタルの王族。
人物紹介終了
ところでそのダーニシュマンドがチンギスに報告した時のことである。
多少というか、かなり大げさに自らの説得の勲功を訴えた。
もちろん、強調するは、
――いざとなれば、自らの命を差し出してとまで約束して、相手の譲歩を引き出し、
――結果、カンの軍勢を1兵とりとも、損わなかったこと。
かたわらで聞くボオルチュは、明らかに途中から鼻白む顔を見せておったが。
それで弁が止まるダーニシュマンドではなかった。
そしてそれに応じる如くの
「大義であった。
こたびの遠征を終えた後には、今回の功に対する褒美を存分に与えることを約束しよう。
これからも我のかたわらにおり我を助けよ。」
とのチンギスからの言葉を頂いた。
しかしそれで満足することなく、チンギスの覚えが良いまさにこの時を好機とみなしたのか、更に次の如くに提案した。
「このホラズムの国情に詳しい者が、新たに投降して来た者たちの中におります。
是非お引き合わせ致したく想います。
お許し頂けますか。」と。
ホラズム帝国に不満を抱く者やこれを負け戦とみなした者が、チンギスの元に続々と降って来ておったのである。
そして後日実現した謁見のときのこと。
チンギスのかたわらには、
――トゥルイとボオルチュとシギ・クトクが控え、
――ダーニシュマンドは通訳の任も兼ねて同席した。
「報告したいことがあるそうだが。」
とここで一拍置いて、チンギスはぎょろりとその者をにらみつけてから、
「述べてみよ。」と続けた。
その者は極度の緊張からか恐れのゆえか、
――ブルブルと震えておったが、
――やがて話し始めた。
――その震えは声に移り、
――ダーニシュマンドが問い返すこと度々となったが。
「はい。チンギス・カンにお目通りを許されて、これほど喜ばしきことはありません。
わたくしが聞き知っておりますのは、スルターン・ムハンマドとその母についての情報です。
この二人は実の母子でありながら、極めて険悪な仲であるとのこと。
それに伴い、スルターンを奉じる勢力とテルケン・カトンを奉じるカンクリ勢もまた険悪な関係にあるとのことです。」
「カンクリもキプチャクと並ぶ名族と聞きます。
そのような古き血筋の王統ならば、新興のホラズムの血筋を軽んじることも大いにありえること。」
とボオルチュ。
それを聞いたトゥルイも納得の表情を見せて言った。
「テルケン・カトンの結婚は、お互いの血統に敬意を抱くゆえというより、打算の行いであったのでしょう。」
チンギスは二人の言葉を聞きつつも、別のことを考えておった。
報告しておるこの者は、ダーニシュマンドの仕込みであろうと。
何故そんな芝居じみたことをするのかと、ボオルチュやトゥルイならば怒り心頭に発するのかもしれぬと想いつつも、
――チンギスにはある種の可愛げと映る。
そしてその芝居の主役は何を言う気なのか、というのが最も気になるところであった。
ゆえにそのことを直截に問うた。
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