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第3部 仇(あだ)
77:サマルカンド戦7:亡霊終話
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チンギスは呼ばれる如くにそちらへ赴いておった。
ただただ確かめたく想ったのだ。
あの者なのか・・・・・・と。
ジャムカなのか・・・・・・と。
それとも、その亡霊なのかと。
あの者は軍神となりて、我を加護してくれておると、
我が黒のトクに宿るに、あの者ほどふさわしきはおるまいと、
――我はむしろそう想うておったが
――ブハーラーにてグル・カンの報告を聞くまでは。
確かにそれはずい分と虫の良い話かもしれぬ。あやつからみれば、我はあやつを処刑せよと命じ、黒のトクを奪い取った許し難い敵。ならばと、我が命をこそ奪いに来たか。
いずれにしろ、見れば分かると。
「お下がりください」
「敵は少数といえど、勇猛にして精強」
「万が一ということもありますれば」
そう言い、何とか止めようとする近衛隊の隊長たちを押しのけて進む。とはいえ、実際、その体をつかんでまで、という者はおらぬ。
それをなしうる者は――あえてそれをなして許されると考える者は、と言った方が良いかもしれぬ――ボオルチュやシギ・クトク、そして4子はかたわらにおらなかった。
勇者千人隊――近衛万人隊中の最精鋭部隊である。ゆえに全軍中の最精鋭でもあり、チンギスを守る最後の盾である――の隊長のみは以下を請うた。
「クトク・ノヤンの援軍に向かいたく想います。我が隊に突撃の許可を」
さすがにそれに対しては、捨て置けぬと想うた。
「待て。ここはシギ・クトクに任せよ」
と答える。心中の想いは、といえば、
(何より確かめる必要があるのだ。自らの眼により)
そして見えた。
薄く雪の舞う中、2人の猛将に率いられた軍勢がまさに血路を切り開かんとしておった。
「信じがたいな」
チンギスはつぶやく。更には
「覚悟の違いか。数ではるかに勝るクトクの兵の方が腰が引けておる」
2人共に槍をふるい、モンゴルの騎馬兵をあるいは突き、あるいはなぎ払って、寄せ付けぬ。
どっちだと迷うことは無かった。何せ往年の宿敵である。一方の者にチンギスの目は自ずと引きつけられた。
そんな余裕は無かろうに、その者はこちらをしばしば見ておる気さえする。いや、気のせいではあるまい。確かにしばしば眼が合っておった。
生身ならば、その抑えがたき怒りのゆえか?――あるいは亡霊となり果ててのゆえか?――その眼は赤く染まっておった。そしてそのいずれにしろ、己の首を獲りに来たのだけは疑いようがない。
「クトク・ノヤンに生きて捕らえよと伝えよ」
伝令の者が急ぎ向かうのを見送った後のこと。不意にジャムカは亡霊に違いない、もう1人の将も黄泉から引き連れて来た相棒に他ならぬ、その妄念に襲われ、チンギスは次の如く命じた。
「勇者隊。敵を殲滅せよ」
そして恐れつつも、確認せざるを得なかった。
その帰結を。
ジャムカであるは分かった。
ならば、あの者は亡霊なのか人なのかを。
やがて、もう1人の将が視界から消えた。
そして遂にはジャムカも。
(人であったか)
チンギスはブハーラー戦以来ようやく心を安んずるを得た。
バリシュマス・カンは捕らえられ、グル・カンたるジャムカは戦死し、他の兵もやはりそのどちらかの結末を迎えた。ただサマルカンド突撃隊はその役目を見事に果たしたといえよう。
ただただ確かめたく想ったのだ。
あの者なのか・・・・・・と。
ジャムカなのか・・・・・・と。
それとも、その亡霊なのかと。
あの者は軍神となりて、我を加護してくれておると、
我が黒のトクに宿るに、あの者ほどふさわしきはおるまいと、
――我はむしろそう想うておったが
――ブハーラーにてグル・カンの報告を聞くまでは。
確かにそれはずい分と虫の良い話かもしれぬ。あやつからみれば、我はあやつを処刑せよと命じ、黒のトクを奪い取った許し難い敵。ならばと、我が命をこそ奪いに来たか。
いずれにしろ、見れば分かると。
「お下がりください」
「敵は少数といえど、勇猛にして精強」
「万が一ということもありますれば」
そう言い、何とか止めようとする近衛隊の隊長たちを押しのけて進む。とはいえ、実際、その体をつかんでまで、という者はおらぬ。
それをなしうる者は――あえてそれをなして許されると考える者は、と言った方が良いかもしれぬ――ボオルチュやシギ・クトク、そして4子はかたわらにおらなかった。
勇者千人隊――近衛万人隊中の最精鋭部隊である。ゆえに全軍中の最精鋭でもあり、チンギスを守る最後の盾である――の隊長のみは以下を請うた。
「クトク・ノヤンの援軍に向かいたく想います。我が隊に突撃の許可を」
さすがにそれに対しては、捨て置けぬと想うた。
「待て。ここはシギ・クトクに任せよ」
と答える。心中の想いは、といえば、
(何より確かめる必要があるのだ。自らの眼により)
そして見えた。
薄く雪の舞う中、2人の猛将に率いられた軍勢がまさに血路を切り開かんとしておった。
「信じがたいな」
チンギスはつぶやく。更には
「覚悟の違いか。数ではるかに勝るクトクの兵の方が腰が引けておる」
2人共に槍をふるい、モンゴルの騎馬兵をあるいは突き、あるいはなぎ払って、寄せ付けぬ。
どっちだと迷うことは無かった。何せ往年の宿敵である。一方の者にチンギスの目は自ずと引きつけられた。
そんな余裕は無かろうに、その者はこちらをしばしば見ておる気さえする。いや、気のせいではあるまい。確かにしばしば眼が合っておった。
生身ならば、その抑えがたき怒りのゆえか?――あるいは亡霊となり果ててのゆえか?――その眼は赤く染まっておった。そしてそのいずれにしろ、己の首を獲りに来たのだけは疑いようがない。
「クトク・ノヤンに生きて捕らえよと伝えよ」
伝令の者が急ぎ向かうのを見送った後のこと。不意にジャムカは亡霊に違いない、もう1人の将も黄泉から引き連れて来た相棒に他ならぬ、その妄念に襲われ、チンギスは次の如く命じた。
「勇者隊。敵を殲滅せよ」
そして恐れつつも、確認せざるを得なかった。
その帰結を。
ジャムカであるは分かった。
ならば、あの者は亡霊なのか人なのかを。
やがて、もう1人の将が視界から消えた。
そして遂にはジャムカも。
(人であったか)
チンギスはブハーラー戦以来ようやく心を安んずるを得た。
バリシュマス・カンは捕らえられ、グル・カンたるジャムカは戦死し、他の兵もやはりそのどちらかの結末を迎えた。ただサマルカンド突撃隊はその役目を見事に果たしたといえよう。
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