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第3部 仇(あだ)

76:サマルカンド戦6

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  人物紹介
 モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主。

シギ・クトク:チンギスの寵臣。戦場で拾われ正妻ボルテに育てられた。タタルの王族。

ジェベ:チンギスの臣。四狗の一人。ベスト氏族。

 ホラズム側
スルターン・ムハンマド:ホラズム帝国の現君主。
  人物紹介終了



 チンギスは捕らえた敵から、これがサマルカンド内の騎馬軍総出の逃走であるを知るや、近衛隊ケシクテン万人隊並びにシギ・クトク万人隊を除く、全騎馬隊を追撃に発すると共に、次の命を徹底した。

「騎兵の逃走を許すな。スルターンとの合流を決して許すな。殺せ。捕らえよ」と。

 更にチンギスは次のことに注意を喚起することも忘れなかった。

「スルターンが共に逃げておるかもしれぬ。見つけ次第、必ず生け捕りにせよ」と。

 あの者が軍の支配者というならば、己と同じく常に最大の軍勢を手許に置くを望もう。これだけの軍勢を残して立ち去るなど、チンギスにはどうしてもうなずけぬ、信じ難きことであった。



 それを受けて、自ずと追跡する兵の士気も上がった。是が非にも己がスルターンを捕らえんと。さすれば恩賞にもありつけ、何より子々孫々にまで語り継がれる栄誉となろうと。



 ただホラズム軍側にも有利な点はあった。これが最初から逃走を目的とした企てであったこと。決して総崩れの後の敗走ではなかった。あくまで逃げ延びる、生き延びることを目的としての軍事行動であったこと。ゆえに追われるままに、バラバラとなって逃げ散るのではなく、軍勢を保つを得た。目的地も定まっておった。迷いもなかった。

 更に言えばこの部隊はそもそも大軍であった。確かに追撃にかかるモンゴルの騎馬軍に比べれば少ないとはいえ、絶対数で五~六万といえば大軍という他ない。

 それゆえ待ち受けるジェベの部隊の下に至ったホラズム軍は、逃走軍というより、まるで突撃部隊の如くの隊形と勢いを保って襲いかかって来た。

 退く者は斬るぞとの、ジェベ以下、隊長ノヤンたちの叱咤にもかかわらず、モンゴル兵はその突撃のいさましさにひるみ、道を開けた。ホラズム軍は勢いのままにジェベの部隊を突破した。

「追え。一兵たりとも逃がすな」

 ジェベの命の下、その部隊も追撃に転じた。
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