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番外編 ウルゲンチ戦ーーモンゴル崩し
第33話 死地8
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人物紹介
モンゴル側
チャアダイ:チンギスと正妻ボルテの間の第2子
カラチャル:チャアダイ家の家臣。万人隊長。
人物紹介終了
こうしてチャアダイ隊はあっという間に大崩れとなった。そしてそれにまず気付いたのは、南城侵攻を委ねられたカラチャル万人隊、その最後方の千人隊であった。というより気付かざるを得ぬ。何せ後方から攻撃を受けたのだから。
それを押し返そうとするが、自軍が北門を破壊したせいで――その後とりあえずの通り道を再び開いたとはいえ――そもそもの造りより手狭になっておったこともわざわいして、なかなか退路を切り開くまでには至れぬ。
その状況下、逆側となる大通りの向こうに変化があった。これまで姿を見せるものといえば、犬猫の類いのみであったが、歩兵の大部隊とのことであった。その報告を伝令から聞き、急ぎ味方をかき分け先頭に辿り着いたのはカラチャル。やはり引き入れられておったかとの言葉は飲み込み、代わりに発したは、
「全軍。突撃用意」
今、周りにおるはカラチャル直属の千人隊ではなかった。戦線拡大に伴い、大通りに留まる部隊の隊列は、整然としたものではなくなっておった。それに混雑が拍車をかけ、更には後方と前方の敵の出現で、隊列はぐだぐだになっておった。とはいえ隊列を整えておる時も空間もなかった。
このまま敵の攻撃を受ければ、ひどいことになるぞ。その想いにのみカラチャルは衝き動かされておった。命令に従い、前方の騎馬兵は突撃の構えをなし、また何人かの良く知る隊長たちも最前列に顔を出した。すぐに決断しなければならなかった。
騎馬の戦で負けることはない、馬扱いにて劣ることはないとの自負を他のモンゴル将兵と同様カラチャルもまた抱いておった。そしてそれこそが勝利をもたらすものとの確信も。しかし果たしてこの泥濘の中、突撃できるのか。
敵は待ってくれなかった。いきなり太鼓が打ち鳴らされ、叫びが聞こえて来た。
「下馬せよ。下馬して敵の突撃に備えよ」
急ぎ変更したカラチャルの命令が行き渡らぬうちに、敵は迫り、矢が射交わされた。伝わらなかったのだろう。突撃を試みる騎馬兵もおったが、馬が足を捕られたために落馬する者が続出した。
やがて敵軍は槍の間合い、剣の間合いに達し、そこからはまさに敵味方入り乱れての乱戦となった。どこから槍の穂先が突き出されるか、剣が振り下ろされるか分かったものではなかった。その渦中のカラチャルは死を覚悟した。
そこはモンゴル軍にとって文字通り死地と化した。憤然と槍を振るい、決然と矢を放ち、まなじり決して退路を切り開かんとした。それでも多くが命を落とした。更には自軍の兵の亡骸が逃走の邪魔となり、新たな犠牲者を生むという最悪の状況であった。
モンゴル側
チャアダイ:チンギスと正妻ボルテの間の第2子
カラチャル:チャアダイ家の家臣。万人隊長。
人物紹介終了
こうしてチャアダイ隊はあっという間に大崩れとなった。そしてそれにまず気付いたのは、南城侵攻を委ねられたカラチャル万人隊、その最後方の千人隊であった。というより気付かざるを得ぬ。何せ後方から攻撃を受けたのだから。
それを押し返そうとするが、自軍が北門を破壊したせいで――その後とりあえずの通り道を再び開いたとはいえ――そもそもの造りより手狭になっておったこともわざわいして、なかなか退路を切り開くまでには至れぬ。
その状況下、逆側となる大通りの向こうに変化があった。これまで姿を見せるものといえば、犬猫の類いのみであったが、歩兵の大部隊とのことであった。その報告を伝令から聞き、急ぎ味方をかき分け先頭に辿り着いたのはカラチャル。やはり引き入れられておったかとの言葉は飲み込み、代わりに発したは、
「全軍。突撃用意」
今、周りにおるはカラチャル直属の千人隊ではなかった。戦線拡大に伴い、大通りに留まる部隊の隊列は、整然としたものではなくなっておった。それに混雑が拍車をかけ、更には後方と前方の敵の出現で、隊列はぐだぐだになっておった。とはいえ隊列を整えておる時も空間もなかった。
このまま敵の攻撃を受ければ、ひどいことになるぞ。その想いにのみカラチャルは衝き動かされておった。命令に従い、前方の騎馬兵は突撃の構えをなし、また何人かの良く知る隊長たちも最前列に顔を出した。すぐに決断しなければならなかった。
騎馬の戦で負けることはない、馬扱いにて劣ることはないとの自負を他のモンゴル将兵と同様カラチャルもまた抱いておった。そしてそれこそが勝利をもたらすものとの確信も。しかし果たしてこの泥濘の中、突撃できるのか。
敵は待ってくれなかった。いきなり太鼓が打ち鳴らされ、叫びが聞こえて来た。
「下馬せよ。下馬して敵の突撃に備えよ」
急ぎ変更したカラチャルの命令が行き渡らぬうちに、敵は迫り、矢が射交わされた。伝わらなかったのだろう。突撃を試みる騎馬兵もおったが、馬が足を捕られたために落馬する者が続出した。
やがて敵軍は槍の間合い、剣の間合いに達し、そこからはまさに敵味方入り乱れての乱戦となった。どこから槍の穂先が突き出されるか、剣が振り下ろされるか分かったものではなかった。その渦中のカラチャルは死を覚悟した。
そこはモンゴル軍にとって文字通り死地と化した。憤然と槍を振るい、決然と矢を放ち、まなじり決して退路を切り開かんとした。それでも多くが命を落とした。更には自軍の兵の亡骸が逃走の邪魔となり、新たな犠牲者を生むという最悪の状況であった。
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