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始まり

獣術と測石

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「それじゃあ、いくよ」

 私たちはヒックさんから距離を取り、彼の行動を見守る。
 杖でトン、と地面を叩くとまるでマジックでも見ているのかと思わせる光景が目の前にはある。

 その叩かれた地面は青く光、そこからパタパタと黄色いインコのような鳥が羽ばたき、ヒックさんの左肩に乗ったのだ。

 ビックリして開いた口が塞がらない。

「驚いたかい? これはヤカカルタと言って魔獣だけど王都ではメジャーなペットなのさ。危険性はほとんどなく安心して飼うことが出来るんだ。と言っても虐めるようなことをすると怒ってつついてくるけどね」
 
 ヤカカルタ、と呼ばれた鳥の頭を撫でながら私に説明してくれる。
 撫でられたヤカカルタも嬉しそうにピチピチとさえずっていた。

「なぁ、早く見せてくれよ!」
「はいはい。アルフレッドくんはいつにも増して元気だね。それじゃあ今度こそ──」

 くそぽっちゃりが催促すると苦笑いを浮かべ、獣術に取り掛かり始める。
 目を瞑るヒックさんは精神を統一させているようだ。
 すると、彼とヤカカルタは青いオーラのようなものを纏い始めた。

「我、汝と共に。女神による奇跡を起こし給え──合体コーアレス!」

 最後は目を開け力強く言葉を発すると、青いオーラは膨張を始め、一度弾ける音がして、次第に空気へと霧散していった。
 私たちは何が起こったのか分からず、ただヒックさんを眺めることしか出来ない。

「どう、なったんですか?」

 無言の時間が耐えられなくなったのか、エルがヒックさんに訊ねていた。

「うーん、どうも失敗したみたい。マリアちゃんのように獣人モドキの姿もしてないし、ただ魔力が減っただけみたい」
「そんなぁ……」

 ヒックさんは自分の身体を左右何度も見て、何も起こっていないことをありのまま伝えていた。
 その言葉を聞いた、くそぽっちゃりは肩が外れたのではないかと思わせるほど脱力を見せる。
 私だって同じくらい脱力したいが、落ち込んでもいられない。

「新しい魔法を発見したら魔法学会に提出すると大金が手に入るんだけど──ゴルデスマンのその様子じゃ報告したがらないよね」

 ヒックさんは私を見て言った後に、ゴルデスマンさんを見て頬をかいていた。
 その本人は腕を組んで睨むようにしてヒックさんを見ていたのだ。

 大金が貰えるのなら悪いことではないような気もする。
 私はこの世界では無一文だ、城で生活してるうちは問題ないが、ある程度の日が経ったらこの国から出たいので資金は必要。
 何せ獣人モドキなせいであまりいい思いをしないからだ。
 人間に戻れるのならいい国なのかもしれないけどね。

「提出と再現がセットだからな。マリア嬢ちゃん以外に再現出来ないのなら本人が必然的に魔法学会まで足を運ばねばならん」

 私が金に目が眩んでいる、と思ったのかゴルデスマンさんは丁寧に教えてくれる。
 もしかしたら、目がお金のマークになっていたかも。

 なるほど……再現ね。
 確かに「新しい魔法見つけました!」とか適当に提出してそれを再現出来なければ新しい魔法を見つけたとは言えないもんね。

「それにずっとこのままでは再現なんて不可能に近い。マリア嬢ちゃんが彼奴らの研究材料になるだけだ」
「うげぇ……」

 心底嫌な声が漏れてしまう。
 モルモットになるのだけは勘弁。

「そんなこと絶対ダメです!」

 エルが大声で嫌がっていた。
 私だって嫌だし、もし逆の立場でエルが魔法学会とやらに連行されるのも嫌だ。

「ふっ、分かってる。だからヒック、このことは王都には──」
「もちろん誰にも口外しないよ。でも確かめてもいいかな?」

 ゴルデスマンさんは軽く笑うと、ヒックさんを見つめ、ヒックさんもゴルデスマンさんが言いたいことは理解しているようで頷いてみせる。
 でも何かを確かめたいみたい。

「触らないのなら……」

 私は一歩引いてそう答える。

 ここでヒックさんに触らせるとくそぽっちゃりが自分も触りたいとうるさそう。
 絶対くそぽっちゃりには触られたくない。

「うん、最初から触るつもりはないよ。これを持ってみて」

 ヒックさんはローブのポケットから小さな緑の宝石を取り出し、私に手渡した。
 太陽に透かすとピカピカしててとても綺麗だ。

「これは?」
「それはね、測石はかりいしと言ってね、持つ人の魔力量や筋力量を測ることが出来るんだ。簡易的なものだけどね」

 これよくあるやつ?
 転生者特典でSSSの魔力量だったりSSSの筋力量があったりしちゃったりするんじゃ?
 それか測定不能で石が弾け飛ぶか。
 どちらにせよ心の中で興奮が冷めやらない。

「持ってるだけでいいんですか?」
「うん、しっかり握っててね……鑑定アプレイザル

 言われた通りに石を握り、それを確認すると、ヒックさんが呪文を唱え、私の手の中で収まっている石は指と指の隙間から見えるほど一度強く光輝く。
 熱くはなくじんわりと暖かな熱が私の右手に伝わり、光は消えた。
 目の前にステータスが並ぶとかそんなことはない。

「どうですか?」
「手を広げてみて」

 手を広げてみる。
 石は少し……ほんの少しだけ光輝いたままだ。

「うーん、非常に申し訳ないのだけど」

 ヒックさんは私の手のひらにある石に目を凝らし、最終的には目を瞑ってしまう。
 その仕草だけで何が言いたいのか察しが付いてしまった。

「魔力量も筋力量も全て微々たるものみたい。獣術を使ってるなら魔力量も筋力量も計り知れないほど増えているかと思ったけど……予想以上に酷いねこりゃ」

 目を開けたかと思えば申し訳なさそうに頷いて私とは目を合わすことなく自分の頬を摩り淡々と喋るだけ。

 うん。何となくそうじゃないかなって分かってたよ……分かってたけどさぁ、改めて言われると結構心に来るものがあった。
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