出会って五秒で合体!?~半人半獣になってしまった私は獣人に間違えられ殺されそうになりました~(仮)

ぽりんここりんこぷりぷりのえび

文字の大きさ
24 / 66
始まり

忌み嫌われる者

しおりを挟む

「この国はね。昔……と言っても数千年前に獣人による虐殺が起こったんだ」

 ニコニコ笑顔は止めて、真剣な眼差しで私を見つめゆっくりと話し始める。

「人間よりも足が速く、魔術も魔力も何倍もある獣人に……ううん、魔術だけじゃなくて筋力もだね。人々は抵抗するも無惨に一方的に蹂躙されていた」

 その言葉を聞いて頭の中でイメージする。
 逃げ惑う人々をゲスな笑みを浮かべながら魔法や武器を使って殺す獣人の姿が想像出来てしまう。

「食料は奪われ、着るものも当時の娯楽品だって獣人に奪われてしまっていたんだ。それだけでなく子供は奴隷として高く売買出来るって噂でね。死は免れても子供は失う……そんな家庭も少なくはなかった」

 殺すだけじゃなく大切な我が子を取られてしまうのはきっと死よりも辛い。
 それが分かっているからこそあえて両親は活かしているのかもしれない……そんなことを考えてしまうと獣人とはどれだけ恐ろしい存在なのかと安易に理解してしまう。

 だけどそんなことしてしまうと……。

「そのままでは人間は居なくなるんじゃ?」
「そう、だから我々人間は知恵を搾り、彼らの生態を研究した。その結果、獣人はリーダーの命令に従って行動していることが分かったんだ。そのことに気付いた人間は獣人のリーダーが根城にしていた今では愚者の洞窟と呼ばれる場所へと向かったんだ」

 ビシッと私に人差し指を向けると、軽く頷いて見せた。
 愚者の洞窟……そんな呼ばれ方をし始めたのは獣人たちのせいなのかな。

「静まり返った夜に──即ち、夜襲だね。洞窟に向かって一斉に魔法を放ったんだ。結果は大成功、見事リーダーを討ち取って獣人を追い払うことにも成功したんだ。だから今もその跡が残り、入り組んだ形になってると言われてるんだ」

 壁に向かい、右の手のひらを広げ、左手でその手首を抑え、まるで今から魔法を放つのではないかと思わせるポーズをとる。
 青い屋根の家での出来事を思い出させられる。
 あんな火の玉を直接食らったりしたり一溜りもないだろう。

「なるほど……だから迷路みたくなっていたんですね」
「ん? マリアちゃん、愚者の洞窟に入ったことがあるの?」

 目を丸くさせパチパチ瞬きなんでさせながら訊ねられる。
 その表情は余程驚いているようにも見える。

「えーと、入ったって言うより入ってた、みたいな? そこで毛むくじゃらの魔獣に会って多分気が付いたらこんな感じに」

 後頭部を抑え、自分の尻尾を動かし前に出す。
 今では自由自在に動かせるようになっていた。

「そっか。崩落する危険もあるから入らないように言われてるんだけどね」

 顎に手を当てて何か考えるように頷くと、中は崩落する恐れがあったようだ。
 もしかしたら、上から岩が落ちてきてそのままグシャリ、なんてこともあったかもね。

「でも確かアルがその毛むくじゃらを退治しに行く予定だったとか言ってたような?」
「それもガイアスの仕業なんだろうね。もしかしたら、愚者の洞窟で不慮の事故を装ってアルフレッドくんを殺そうとしていたのかも」

 そんな疑問を口にすると、目を細め怒りをあらわにしているのかとっても険しい。
 あのくそパーマ男ならやりかねないけど……。

「アルを王に仕立てたいのに、ですか?」
「うん。アルフレッドくんを殺したのはエル派の人間だ、とでも言ってエル派を解体に追いやりたかったんじゃないかなぁ」

 なるほどねぇ……異世界訳分からん。
 少なくとも日本ではそんなことは有り得ない。
 魔法ではなく、科学が発展した日本では悪いことをすると大体バレてしまう。
 特に殺人や放火などはかなりの確率で犯人が判明してしまうのだ。
 そんな環境で育ってきているので、何とも理解し難い。

「因みに今回の放火は……?」
「自然発火、とでも言いそうだなぁ。はぁ~薬剤作るの結構重労働なんだけどなぁ」

 私を刺した時みたいに不問になったりするのかと思いきや、自然発火と言う扱いにされてしまうのかぁ。
 でも確かに釜もあるし自然に燃えそうではあるけど、何とも煮え切らない。

「ごめんなさい、私のせいで……」
「ううん、マリアちゃんは悪くないよ。ボクこそ一人にしてごめんね?」

 下を俯き謝ると、いつものニコニコしたヒックさんに戻っていた。

「いえ、助けてくれたし、怪我もなかったので大丈夫です。ところでこのブレスレットはどんな効果があったんですか?」
「ボクの元に転移、それから──まぁいつか分かるよ」

 それ以上はこのブレスレットのことについて教えてくれることはなかった。

「問題はこれからだね……またマリアちゃんは狙われるかもしれないから暫くは単独での行動は止めておいた方がいいと思う」
「ですよね……今行けば間違いなく疑われそう」

 ヒックさんは腕を組み目を瞑り、唸るように考えていた。
 このままおちおち戻っていったら家に火をつけた犯人なんかにされちゃう可能性も無きにしも非ず。
 立場があやふやな私は自分だけでなくエルとアルの将来まで完全に潰しかねないのだ。

「暇潰し、になるか分からないけどボクで良ければ魔法の基礎を教えるけど」
「みっちりじゃなければ……」

 ここで簡単に首を縦に振ると私の中にある魔力が枯渇するまで魔法の特訓をさせられそうだった。
 ただでさえカラカラなのにね!

「あはは、ルナにみっちり勉強を教えてもらってるんだってね」
「知ってるんですか?」

 私の受け答えを聞いて苦笑いを浮かべながらそう答える。
 ルナさんとも知り合いだとは……まぁ宮廷魔術師専用の家が離れにあるくらいだし知らない訳もないか。

「知ってるも何もルナはボクの妹だよ」
「ええええっ──!? 似てないですね!!!」

 突然のカミングアウトに、つい本音がポロリしてしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...