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始まり
初めての魔法
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「そう素直に言われると何とも反応がしづらいね……とりあえず最後に獣人について言い足すと、そんな歴史が色濃く残ったグラダラスは獣人を毛嫌いする人が多く存在するんだ」
人差し指を立てて最後に付け加えていた。
遺恨が残っているから獣人嫌いが多いということはよく分かった。
それをエルもゴルデスマンさんも、ルナさんですら教えてくれなかったのは少々残酷な気がするからだろうね。
「よく分かりました。ヒック先生!」
「先生って……嬉しいけどボクに先生は向いてないからいつも通りヒックさんでお願いするよ」
右頬をかき照れながらいつも通りに呼んで欲しいとお願いされる。
「分かりました。では早速魔法を教えてください!」
「元気が良くてボクは嬉しいよ。それじゃあ、先ずはこれを手にしてみて」
魔法を教えて欲しくてうずうずしていると、赤・青・黄・茶の四種類の色の違う一センチ台の石を私に渡す。
どれも形は不揃いだ。
「魔石……ですか?」
「お、よく知ってるね。ルナにでも教えてもらったのかな?」
静かに頷く。
この世界では至る所に魔石が使われていて、赤色の魔石ならコンロやお風呂を沸かすのに、青色の魔石なら水道など、と言うふうに様々な場面で使われているそう。
大きさにより使用出来る回数や時間が決まっていて、ある程度使用すると砕けて消え去るんだとか。
「試しに使いたい魔石を握ってみて」
赤色は火なので出来れば使いたくない……私は青い色の魔石を右手に握り、それ以外の石は左手に持った。
「目を瞑って水が流れるのを意識するんだ。そして、唱える──ウォーター」
「ウォーター」
言われるがままに私は目を瞑り、水道から流れる水をイメージして呪文を唱える。
すると、右手からはひんやりと冷たい感触が伝わってくる。
目を開けると蛇口を閉め忘れちゃったのかな? なんて思うくらいの極々少量の水が右手から滴り床に流れていた。
「成功……だね。おめでとう」
渋い顔をして初めての魔法が出来たのを祝ってはいるが、何とも喜んではいなそうに見える。
「ありがとうございます。でも何だか嬉しそうには思えないんですが」
「あはは、バレちゃった? ちょっと魔石を貸してみて」
指摘すると、頬をかいていた。
私は言われるがまま魔石を渡す。
「ウォーター」
私の蛇口を閉め忘れちゃったものとは違い、ヒックさんの手からは勢いよく水が流れていた。
すぐに床は水浸しになる。濡れた床を魔石も使わず魔法を使い、風を起こして乾かし始める。
そして、あっという間に床は濡れていたことすら分からないほど乾いてしまう。
「っとまぁこんな感じかな。ボクの出していた水の量の五分の一くらいなら五歳児でも出来るよ」
「うげ……五歳児以下……」
魔力も筋力も乏しく、オマケに五歳児以下……私、どうして転生させられたのでしょうか。
これを見てるのか見てないのか知らないけど、くそ女神様はさぞかし楽しそうにしているでしょうね。
口元を手で抑えて「プ……クスクス」なんて言いながら笑っているのを容易に想像出来てしまう。
「安心して、魔力も筋力も鍛えるとある程度は強くなるから……それにしてもこれだけしか使えないのならマリアちゃんは余程魔法を使わなくても良いような生活をしてたんだろうね。実は何処かのお姫様だったりしてね」
腕を組みながら私が記憶を失くす前のことを親身になって考えてくれているが、それは考えれば考えるだけ無駄である。
「お姫様、ですか……」
残念だけど極々普通の家庭で育った一般人なんですけどね。
もし私がお姫様だったらこんな何度も殺されかけるなんてことはなかったのかもしれない。
「マリアちゃんの可愛さならゆくゆくは有り得なくないかもしれないよ?」
「……お世辞ありがとうございます。それよりもう少し魔法を教えてください」
美貌も知性も何もない私はお姫様なんて何回転生すればなれるのでしょうね。
なれたとしても大変そうだし、獣人モドキじゃなくて人間に戻れればそれだけで満足だ。
そんなことよりもう少し魔法を覚えたい。
せめて自分の身は自分で守れるくらいに。
次、あのくそパーマ男が攻めてきても逃げ切れるくらいにはなっておきたい。
「お世辞じゃないんだけどなぁ、マリアちゃんは少し達観してる部分もあるよね。まぁいいや、一通り魔石を使ってみようか」
黄・茶・赤色の順番でそれぞれに合ったイメージをし、魔法を使っていく。
黄色は風、茶色は土、赤は炎、そのどれも私が出すのは何とも表現しづらい不完全なものばかり。
炎なんてどうしても死ぬ前のことがフラッシュバックしてしまい、ろくなイメージは出来ず、ただ小さな火が弾けるだけ。
「うん、土が一番まともかもね……暇になったらその魔石を使って練習してみるといいよ。でもあんまり練習しすぎると──」
突然、立ちくらみがした。
倒れそうになる私をヒックさんが受け止めてくれていた。
「貧血に似た症状が現れるから気を付けてって言おうとしたんだけど、遅かったみたいだね」
「ありがとうございます」
魔法の特訓はここまでにして、軽くお話をして楽しんでいると、ヒックさんが呼んでくれたのか今日お休みだったはずのルナさんが私を迎えに来てくれて、獣耳と尻尾が隠れるほどの大きな麻色のローブと、それから子供のように手を繋がれ、私は城へと帰るのであった。
人差し指を立てて最後に付け加えていた。
遺恨が残っているから獣人嫌いが多いということはよく分かった。
それをエルもゴルデスマンさんも、ルナさんですら教えてくれなかったのは少々残酷な気がするからだろうね。
「よく分かりました。ヒック先生!」
「先生って……嬉しいけどボクに先生は向いてないからいつも通りヒックさんでお願いするよ」
右頬をかき照れながらいつも通りに呼んで欲しいとお願いされる。
「分かりました。では早速魔法を教えてください!」
「元気が良くてボクは嬉しいよ。それじゃあ、先ずはこれを手にしてみて」
魔法を教えて欲しくてうずうずしていると、赤・青・黄・茶の四種類の色の違う一センチ台の石を私に渡す。
どれも形は不揃いだ。
「魔石……ですか?」
「お、よく知ってるね。ルナにでも教えてもらったのかな?」
静かに頷く。
この世界では至る所に魔石が使われていて、赤色の魔石ならコンロやお風呂を沸かすのに、青色の魔石なら水道など、と言うふうに様々な場面で使われているそう。
大きさにより使用出来る回数や時間が決まっていて、ある程度使用すると砕けて消え去るんだとか。
「試しに使いたい魔石を握ってみて」
赤色は火なので出来れば使いたくない……私は青い色の魔石を右手に握り、それ以外の石は左手に持った。
「目を瞑って水が流れるのを意識するんだ。そして、唱える──ウォーター」
「ウォーター」
言われるがままに私は目を瞑り、水道から流れる水をイメージして呪文を唱える。
すると、右手からはひんやりと冷たい感触が伝わってくる。
目を開けると蛇口を閉め忘れちゃったのかな? なんて思うくらいの極々少量の水が右手から滴り床に流れていた。
「成功……だね。おめでとう」
渋い顔をして初めての魔法が出来たのを祝ってはいるが、何とも喜んではいなそうに見える。
「ありがとうございます。でも何だか嬉しそうには思えないんですが」
「あはは、バレちゃった? ちょっと魔石を貸してみて」
指摘すると、頬をかいていた。
私は言われるがまま魔石を渡す。
「ウォーター」
私の蛇口を閉め忘れちゃったものとは違い、ヒックさんの手からは勢いよく水が流れていた。
すぐに床は水浸しになる。濡れた床を魔石も使わず魔法を使い、風を起こして乾かし始める。
そして、あっという間に床は濡れていたことすら分からないほど乾いてしまう。
「っとまぁこんな感じかな。ボクの出していた水の量の五分の一くらいなら五歳児でも出来るよ」
「うげ……五歳児以下……」
魔力も筋力も乏しく、オマケに五歳児以下……私、どうして転生させられたのでしょうか。
これを見てるのか見てないのか知らないけど、くそ女神様はさぞかし楽しそうにしているでしょうね。
口元を手で抑えて「プ……クスクス」なんて言いながら笑っているのを容易に想像出来てしまう。
「安心して、魔力も筋力も鍛えるとある程度は強くなるから……それにしてもこれだけしか使えないのならマリアちゃんは余程魔法を使わなくても良いような生活をしてたんだろうね。実は何処かのお姫様だったりしてね」
腕を組みながら私が記憶を失くす前のことを親身になって考えてくれているが、それは考えれば考えるだけ無駄である。
「お姫様、ですか……」
残念だけど極々普通の家庭で育った一般人なんですけどね。
もし私がお姫様だったらこんな何度も殺されかけるなんてことはなかったのかもしれない。
「マリアちゃんの可愛さならゆくゆくは有り得なくないかもしれないよ?」
「……お世辞ありがとうございます。それよりもう少し魔法を教えてください」
美貌も知性も何もない私はお姫様なんて何回転生すればなれるのでしょうね。
なれたとしても大変そうだし、獣人モドキじゃなくて人間に戻れればそれだけで満足だ。
そんなことよりもう少し魔法を覚えたい。
せめて自分の身は自分で守れるくらいに。
次、あのくそパーマ男が攻めてきても逃げ切れるくらいにはなっておきたい。
「お世辞じゃないんだけどなぁ、マリアちゃんは少し達観してる部分もあるよね。まぁいいや、一通り魔石を使ってみようか」
黄・茶・赤色の順番でそれぞれに合ったイメージをし、魔法を使っていく。
黄色は風、茶色は土、赤は炎、そのどれも私が出すのは何とも表現しづらい不完全なものばかり。
炎なんてどうしても死ぬ前のことがフラッシュバックしてしまい、ろくなイメージは出来ず、ただ小さな火が弾けるだけ。
「うん、土が一番まともかもね……暇になったらその魔石を使って練習してみるといいよ。でもあんまり練習しすぎると──」
突然、立ちくらみがした。
倒れそうになる私をヒックさんが受け止めてくれていた。
「貧血に似た症状が現れるから気を付けてって言おうとしたんだけど、遅かったみたいだね」
「ありがとうございます」
魔法の特訓はここまでにして、軽くお話をして楽しんでいると、ヒックさんが呼んでくれたのか今日お休みだったはずのルナさんが私を迎えに来てくれて、獣耳と尻尾が隠れるほどの大きな麻色のローブと、それから子供のように手を繋がれ、私は城へと帰るのであった。
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