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罠
しおりを挟む「さてと、これだけあれば大丈夫だろう」
薬草を少しだけ頂戴して、生えやすいように余計な雑草も根こそぎ引っこ抜いた。
ルリも手伝いたいと言ってくれたのだが、どれが雑草でどれが薬草なのか分かっていなかったので好意だけは受け取った。
なので暇を持て余したルリは俺の頑張りをニコニコしながら近くで見ているだけ。
俺が立ち上がり、額にかいた汗を拭っているとルリが駆け寄ってくる。
「お、お疲れ様です。お兄ちゃん」
「お兄ちゃん!?」
「ぴぇい!? だ、ダメでしたか?」
ルリは右手を軽く握り、胸に当てると俺のことをお兄ちゃんと呼んでいた。
そんな呼ばれ方をするとは思わなかったので俺は声を荒らげて驚いてしまい、その呼び方では怒られると思ったのか、ルリは瞳をうるうるとさせ上目遣いで訊ねられる。
「ううん。すごくいい……まるで高原に吹き抜ける爽やかな風のようだ」
「そ、そうですか。少し早いですけど、お、お昼ご飯にしませんか?」
俺の意味不明な返しにハテナを沢山浮かべながらご飯にしようと提案してきた。
そこまで大きくない島でも行ったり来たりして、更には草むしりもしたからかご飯と言われると腹が減ってきた。
「いつも済まないな」
「そ、それは言わない約束ですよ。お兄ちゃん」
セリフはまるで寝たきりのお父さんを諭すようにする娘のようだった。
と言ってもルリは嬉しそうにしているし、お父さんではなく、お兄ちゃんと言っているのだが。
◆
ルリの美味しいご飯を食べ終え、俺は一人でまた俺が漂着していた砂浜へと再び舞い戻ることにした。
何やらルリは他にすることがあるそうで、俺についてくることはなかった。
でもその方がルリのためでもある。
目的の砂浜に辿り着くと、早速横になっているルビィちゃんであろう人物が目に入った。
「居た……まだ寝てるのか?」
向きは反対側に寝転がっているが、呼吸をしていて小さく腹が動いているだけ。
あんなに大事そうに抱えていた手帳は、今や寝ている隣に背を向けるようにして置かれている。
茶色く古びた手帳は俺が見つけたリュックの中に入っていたもので間違いない。
起こさないように取り返せば大丈夫だろう。
俺は恐る恐るルビィちゃんとやらの領域に侵入し、彼女の近くまでやってきた。
余程眠たいのか俺が近寄っても目覚める気配はない。
手帳に手をつけようとした瞬間──
「な、なんだ!?」
手帳には触ることが出来ず、俺は何故か宙に浮いていた。
いきなり浮遊出来る能力に目覚めてしまった、なんてことはない。
理由はシンプルで俺は両手両足、四箇所別々に引っ張られ大の字に無理やりなるよう上手いこと近くの木々を使って罠が張られていたのだ。
「掛かったわね!」
狸寝入りをしていたのか、バサッと飛び上がり、俺に向かって人差し指を突きつけていた。
陽の光に反射して輝く赤い髪と初めて目を開けた姿を見たので綺麗なモスグリーンの瞳がとても印象的だ。
服は黄色のネグリジェにもパジャマにもルームウェアにも見える短めの物を着ている。
どうやら俺はまんまと彼女の手のひらの上で踊らされていたようだ……。
「ルビィちゃん……なんだよな?」
「えぇ、そうよ。私がルビィだけど──あんたルリの匂いがするわね」
静止したムササビのように上空に浮かんでいる俺を怪訝そうな目で見つめ、ゆっくりと近付き鼻をクンクンと動かすと、ルリの匂いがすると言い出し警戒を強めていた。
「あのー……どうして俺は捕らえられているのでしょうか?」
下手に出る。
ヘタに上から目線だとルビィちゃんを怒らせかねない。
ルリ曰く、ライオンのような人らしいので、もしカンカンに怒らせでもしたら俺はすぐにでもあの世行きだ。
「コレよ。こんなもの見たことないわ」
手帳を手に取り、左右にヒラヒラと動かしてみせる。
「見たことないって?」
手帳を見たことがないのだろうか。
「ここに書いてあるのは何! 私にはサッパリ分からないんだけど!」
おもむろに手帳を開き、そのページを俺の顔面に持ってくる。
だが俺も分からない。近過ぎるのだ。
「もう少し離して見せてくれないか?」
「ほら、コレよ!」
手帳との距離は離れ、見やすくなったのだが代わりにルビィちゃんの声が大きくなる。
少し耳は痛いが、そんなことより手帳の中身を初めて確認することが出来た。
中に書かれていたのは数式やパーセンテージ、それから何かの材料の絵。
それらを釜に入れてかき混ぜている。
「んー……」
「どうなのよ、早く言いなさいよ!」
何となく見たことがあるような気もするし、見たことがないかもしれない。
ルビィちゃんは少々せっかちのようで唸る俺を怒鳴りながら急かしてくる。
「ごめんな。再現出来そうな気はするんだけど、なにぶん記憶喪失で……」
「そう、使えないわね」
書いてあることが理解出来ないと分かると「ふんっ」なんて言いながらそっぽを向き、腕組みをしてバッサリと切り捨てられる。
「用はそれだけ? だったら降ろして欲しいんだけど、あと手帳も返してくれ」
「嫌よ。欲しかったら力づくで奪ってみなさい。じゃあね」
再び手帳をヒラヒラと左右に振ると、宙ぶらりんになった俺を助けることはなく、そのまま手帳を持って何処かへ消え去ってしまう。
今は照りつける太陽にジリジリと焼かれ、ザバーっと言う波の音だけが定期的に聞こえていた。
身動きが取れないのを除くと、昨日の再放送だ。
「どうしよう……でも名前は分かったな」
去り際に手帳をヒラヒラさせていたお陰で手帳の名前欄がハッキリと見えた。
俺の名前は「ツバサ」と言うらしい。
今まさにツバサが生え、飛んでいる気分なのは偶然か、はたまた必然なのか、それとも何かの嫌がらせか。
どちらにせよこの状況はどうにかしたい。
ルリには事前にここに来ることを伝えてはあるのだが、こんな状態を見られるのは凄く恥ずかしい。
でも運命のイタズラか、後ろから足音がドンドンと近付いてくる。
「──お、お兄ちゃん!?」
後ろから声がしてルリが駆け寄ってくる。
振り向くと手には斧が握られていた。
「よ、よぉ。そんな装備で何してるんだ?」
「ま、薪を採りに来てました。お、お兄ちゃんこそ何をしてるんです?」
まぁ疑問に思うよな。
でも良かった。それで俺を一振り、なんてことはなさそうで。
俺もルビィちゃんの罠にハマったことと、手帳はルビィちゃんが持ち去ってしまったこと、それと去り際に手帳に書いてあった名前を見ることが出来、俺の名前が分かったことを伝えた。
宙ぶらりんになりながね!
「そう、でしたか。ひ、酷いことはされませんでした?」
「まぁ、この状態が酷くないって言うならされてないんじゃないかな」
「ご、ごめんなさい!? 今切りますね」
酷いことをさらていないか、と心配してくれるのは嬉しいのだが、そろそろ手首が紫色に変色し始めていたので何とかして欲しかった。
それに気付き、慌てながらもジャンプをして斧を使い木と俺を繋いでいる紐を切ってくれる。
「ありがとう、助かったよ。ルリが来てくれなかったらどうなってたことやら」
「ぶ、無事でよかったです。はい、これ。そ、そろそろ水分補給をしないと、た、倒れてしまいますよ」
どうやらまた倒れるのを心配して水を届けにきてくれたようだった。
「サンキューな」
「えへへ」
ありがとうばかりではありがとうを聞き過ぎてありがとうの価値がなくなりそうだったので、バリバリ日本語に聞こえる英語でお礼を言い、頭を撫でる。
俺の撫でる手はまだ紫色から回復しておらず、手の感触もあまりないのだが、撫でられたルリは嬉しそうだし、良しとした。
そうして俺たちは手を繋いで家へと戻る。
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