白き薔薇の下で永遠の純心を君に

綾峰由宇

文字の大きさ
4 / 45

一方、怜に手を引かれたままエントランスに横付けされた車に乗せられた沙雪は、お行儀が悪いとわかっていつつも窓際に肘を付き、頬杖をついて外を眺めていた。
まだ自動車自体が珍しいこのご時世、外からの視線は向けられやすいが為に車内ですらお行儀に気を付けなればならない。
だがこの時ばかりは沙雪も機嫌を損ねていた。

「ご機嫌斜めだな」

顔は前を向いたまま、ちらりと横目で沙雪の様子を見た怜が、呆れたように息をつき声をかける。

「…ひどいです、お兄様」
「お前が一人で勝手に屋敷を出ていくからだろう?」

沙雪の一言に目を閉じながら再びため息混じりに呟く怜に釣られたかのように沙雪もまた息をつく。
ここ最近はそればかりである。同性の友人とならばあっさりと外出も許されるのに、勘太郎との外出は詳細を説明してから、もしくは書いておかねば出かけることすら許されないのである。

「きちんと、勘太郎様とお会いすること、場所や帰宅時間まで書いてお兄様のお部屋に置きました。書き記した帰宅時間までは大分時間があっ…」
「今日は随分と反抗的だな。そんなにあいつとの語らいを邪魔されたのが不満か?沙雪」

沙雪の言葉を遮るように、顎を掴まれ半ば無理やり怜と視線を合わせられる。

怖いーーーー

怜の冷たい眼差しに背筋が凍りつきそうになる。いつもは優しく包み込んでくれる怜の手の平すら、今は冷たい。

「お兄様…離し…っ」
「あいつが…一ノ宮が好きなのか?」

怜の問いに、沙雪の肩が緊張で強ばる。
先程気づいたばかりではあるが、この勘太郎への自らの気持ちは間違いない。しかし、今の怜の前で素直に頷いてはいけない。
そう、沙雪の本能が告げていた。

「……いえ」

絞り出すように呟くと同時に、漸く怜の手が顎から離れた。恐る恐る沙雪が怜を見上げると、先程までの怒りが嘘かのように不器用な、それでいて優しいいつもの笑みを浮かべていた。
普段ならばその笑みに包まれほっと安堵するところではあるが、先程の怜の怒りを目の当たりにした沙雪には恐怖が残るばかりである。

「それなら良い。…ああ、着いたな」

怜の言葉に顔を上げ、窓の外を見れば運転手が先に下車しドアを開けるところであった。いつの間にか自宅へ帰りついていたようだ。
怜に続き沙雪が車から降りると、屋敷の玄関には女中頭の高山と、怜の婚約者である、寺宮公子が待っていた。

「お帰りなさいませ、怜様、沙雪様」

白髪が混じり始めた髪をきっちりと結い上げ、襟の詰まった洋風の女中服を身につけた高山は、先代の頃から西園寺家に使えるベテランの女中である。厳格な性格ではあるが、早くに母を亡くした怜や沙雪には厳しくも優しい育ての母のような存在であった。

「ただ今帰りました、高山さん」
「お帰りなさいませ。…おや、沙雪様…。どこかお加減でも悪うございますか?」

特に沙雪をどこに出しても恥ずかしくないよう一人前の淑女にと熱心に教育してきた高山。それ故に、沙雪の変調にはいち早く気づく。
そんな高山に少しばかり心中ドキリとしながらも、沙雪はにこりと微笑み首を振りながら口を開いた。

「いいえ、大丈夫ですよ、高山さん。もうすぐお夕飯の時間ですね。少し急いで着替えてまいりますね」

これ以上共にいると、なにやら見透かされてしまいそうな気がして、沙雪は笑みを浮かべたまま怜、公子と高山に軽く挨拶を済ませ、足早に自室へと戻っていく。
高山も沙雪を見送れば、怜と公子に一礼しその場を去った。

「…沙雪さん、少しばかり様子が変でしたけれど…喧嘩でもなさったんですか?」

上着を脱ぐ怜に手を伸ばし、受け取りながら問う公子に「さぁ…どうなんでしょうね」と上の空で呟き、怜はそのまま自室へと戻って行った。

「貴方はいつも……私のことを見て下さらないんですね…」

そんな怜を見送りながら、公子は手のひらを強く、強く握りしめていた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

『床下に札束を隠す金髪悪女は、毎朝赤いマットの上で黒の下着姿で股を開く』〜ストレッチが、私の金脈〜

まさき
恋愛
毎朝六時。 黒の下着姿で、赤いヨガマットの上に脚を開く。 それが橘麗奈、二十八歳の朝の儀式。 ストレッチが終わったら、絨毯をめくる。 床下収納を開けて、封筒の束を確認する。 まだある。今日も、負けていない。 儚く見える目と、計算された貧しさで男の「守りたい」を引き出し、感情を売らずに金だけを回収してきた。 愛は演技。体は商売道具。金は成果。 ブリーチで傷んだ金髪も、柔らかく整えた体も、全部武器だ。 完璧だったはずの計算が、同じマンションに住む地味な男——青木奏の登場で、狂い始める。 奢らない。 触れない。 欲しがらない。 それでも、去らない。 武器が全部外れる相手に、麗奈は初めて「演じない自分」を見られてしまう。 赤いマットの上で、もう脚を開けなくなる朝が来るまでの話。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。