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夕食の時間。
少し遅れながらも着替えを済ませた沙雪が食堂に入ると、既に珍しく全員の姿があった。いつもは忙しくしており、中々夕食を共に取れない父の姿に驚くと共に、少々足取りが重かったかと苦笑しながら席に向かう。
先代である祖父の大造、祖母の菊乃、現当主の父、真。そして怜と公子。
沙雪が来るまでも会話が弾んでいたようで、和やかな雰囲気に先程までの怜とのやり取りで一人蟠りを感じていた沙雪もまた笑みを浮かべる。
「申し訳ありません、遅れまして…」
一礼し席に着けば、何か違和感を覚えた。いつもより少しばかり、怜の席が近いような気がしたのだ。
どうか勘違いであるようにと半ば祈りに似た気持ちで怜を見上げ確認しようとすれば、真が口を開き、沙雪の意識がそちらに向かう。
「怜と公子さんが内々に婚約をしてそろそろ半年だ。仲睦まじい様子も見られて何よりだと思っている。そこで、来月の初めに大々的な婚約披露パーティーを開こうと怜に提案したんだが…。どう思う?沙雪」
真の言葉に、沙雪はにこりと微笑む。
昔から、兄だけでなく姉も欲しいと思ってきた沙雪。怜と公子の婚約はとても喜ばしいことであるのだから、反対のしようがない。
「とてもおめでたく、喜ばしいことと思います。ですが、お兄様はまだよほど親しいご友人以外には婚約のことをお知らせしていません。突然大きなパーティーで知るのも親しい方たちにとっては快くはないかもしれないですし、まずはご友人達をお招きして、お庭かホールで園遊会を開いてはいかがでしょう?」
怜を見て、公子を見て、お似合いだとばかりに頷き微笑みながらの沙雪の言葉に、真も小さく頷き「それもそうだ」と呟いた。
「沙雪の言う通りかもしれん。どうだ?怜」
「そうですね。まずは友人たちにからかわれてしまえば婚約披露パーティーでも気楽に堂々と振る舞えることでしょう。いい提案だ、沙雪」
真に習うように頷き微笑めば、そのまま沙雪へ声をかけながら視線が向く。
「?!」
瞬間、隣に座っている怜の手が、膝に置いていた沙雪の手に伸びてきた。
手を引っ込めようとするも、そのまま掴まれ指を絡められる。
二人の手は長いテーブルクロスに隠れて周りからは見えづらい。使用人達も今は給仕に忙しく、二人の様子は気にかからないだろう。
強いておかしなところを挙げるとすれば、いつもより席どうしの距離が近い事くらいである。だがそれすらも、当人同士以外は気付くかどうかである。
どう振り払ってもその前に怜が自らに触れていたことがわかってしまう。
そんなことを考えている間にも怜の指先は沙雪の細い指を形を確かめるかのようになぞっていた。
「では、週末の土曜に園遊会を開くことにしようか。沙雪、お前もお友達を呼ぶといい」
真の声にハッとして、なるべく気づかれないよう怜の手を振り払い、真に向け微笑んだ。
「ありがとうございます、お父様。…では三名、まずは宮子。そして…一ノ宮家のご兄妹、勘太郎様と彩子さん。この三名をご招待したいです」
「ほう、一ノ宮家か。そういえば沙雪は仲がよかったな」
沙雪の言葉に真は微笑み問題ないと頷く。
歴史から見ればまだまだこの業界では新参者の一ノ宮家。しかしその経営手腕と経済力は是が非でも味方にし、共闘できる間柄になりたいところである。そこに沙雪と一ノ宮兄妹の仲は真にとっては絶好のコネに繋がるのである。
「では、一ノ宮家と宮子にご招待のお電話をしておきますね。お兄様、公子さん、よろしいですか?」
うっかり真と話し込んでしまい、肝心の主役である怜と公子の許可を取っていなかったことにハッとして沙雪は慌てた様子で問いかける。
「勿論ですよ、沙雪さん。一度、一ノ宮家の方とはお会いしてみたかったの。怜さんは、いかがですか?」
「…ああ…構わないよ」
公子に問われ、怜は食前酒のワインを口に運びながら答える。また少々機嫌が悪そうである。
しかし、沙雪は怜の手が離れたこと、勘太郎と彩子、二人同時に合えること、了承が得られれば勘太郎との約束がひとつ増えることに喜び上がってしまっていたために、すぐ隣で湧き上がっていた僅かな狂気に気付くことが出来なかった。
少し遅れながらも着替えを済ませた沙雪が食堂に入ると、既に珍しく全員の姿があった。いつもは忙しくしており、中々夕食を共に取れない父の姿に驚くと共に、少々足取りが重かったかと苦笑しながら席に向かう。
先代である祖父の大造、祖母の菊乃、現当主の父、真。そして怜と公子。
沙雪が来るまでも会話が弾んでいたようで、和やかな雰囲気に先程までの怜とのやり取りで一人蟠りを感じていた沙雪もまた笑みを浮かべる。
「申し訳ありません、遅れまして…」
一礼し席に着けば、何か違和感を覚えた。いつもより少しばかり、怜の席が近いような気がしたのだ。
どうか勘違いであるようにと半ば祈りに似た気持ちで怜を見上げ確認しようとすれば、真が口を開き、沙雪の意識がそちらに向かう。
「怜と公子さんが内々に婚約をしてそろそろ半年だ。仲睦まじい様子も見られて何よりだと思っている。そこで、来月の初めに大々的な婚約披露パーティーを開こうと怜に提案したんだが…。どう思う?沙雪」
真の言葉に、沙雪はにこりと微笑む。
昔から、兄だけでなく姉も欲しいと思ってきた沙雪。怜と公子の婚約はとても喜ばしいことであるのだから、反対のしようがない。
「とてもおめでたく、喜ばしいことと思います。ですが、お兄様はまだよほど親しいご友人以外には婚約のことをお知らせしていません。突然大きなパーティーで知るのも親しい方たちにとっては快くはないかもしれないですし、まずはご友人達をお招きして、お庭かホールで園遊会を開いてはいかがでしょう?」
怜を見て、公子を見て、お似合いだとばかりに頷き微笑みながらの沙雪の言葉に、真も小さく頷き「それもそうだ」と呟いた。
「沙雪の言う通りかもしれん。どうだ?怜」
「そうですね。まずは友人たちにからかわれてしまえば婚約披露パーティーでも気楽に堂々と振る舞えることでしょう。いい提案だ、沙雪」
真に習うように頷き微笑めば、そのまま沙雪へ声をかけながら視線が向く。
「?!」
瞬間、隣に座っている怜の手が、膝に置いていた沙雪の手に伸びてきた。
手を引っ込めようとするも、そのまま掴まれ指を絡められる。
二人の手は長いテーブルクロスに隠れて周りからは見えづらい。使用人達も今は給仕に忙しく、二人の様子は気にかからないだろう。
強いておかしなところを挙げるとすれば、いつもより席どうしの距離が近い事くらいである。だがそれすらも、当人同士以外は気付くかどうかである。
どう振り払ってもその前に怜が自らに触れていたことがわかってしまう。
そんなことを考えている間にも怜の指先は沙雪の細い指を形を確かめるかのようになぞっていた。
「では、週末の土曜に園遊会を開くことにしようか。沙雪、お前もお友達を呼ぶといい」
真の声にハッとして、なるべく気づかれないよう怜の手を振り払い、真に向け微笑んだ。
「ありがとうございます、お父様。…では三名、まずは宮子。そして…一ノ宮家のご兄妹、勘太郎様と彩子さん。この三名をご招待したいです」
「ほう、一ノ宮家か。そういえば沙雪は仲がよかったな」
沙雪の言葉に真は微笑み問題ないと頷く。
歴史から見ればまだまだこの業界では新参者の一ノ宮家。しかしその経営手腕と経済力は是が非でも味方にし、共闘できる間柄になりたいところである。そこに沙雪と一ノ宮兄妹の仲は真にとっては絶好のコネに繋がるのである。
「では、一ノ宮家と宮子にご招待のお電話をしておきますね。お兄様、公子さん、よろしいですか?」
うっかり真と話し込んでしまい、肝心の主役である怜と公子の許可を取っていなかったことにハッとして沙雪は慌てた様子で問いかける。
「勿論ですよ、沙雪さん。一度、一ノ宮家の方とはお会いしてみたかったの。怜さんは、いかがですか?」
「…ああ…構わないよ」
公子に問われ、怜は食前酒のワインを口に運びながら答える。また少々機嫌が悪そうである。
しかし、沙雪は怜の手が離れたこと、勘太郎と彩子、二人同時に合えること、了承が得られれば勘太郎との約束がひとつ増えることに喜び上がってしまっていたために、すぐ隣で湧き上がっていた僅かな狂気に気付くことが出来なかった。
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