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九
「別…のものです…」
「うん、どんな?」
答えてみれば、更なる問い。
沙雪は答えようとするものの照れからか言葉に詰まり、勘太郎を見た。
勘太郎もまた沙雪の手をそっと握り、その手が逃げることも離れる事もない事実が沙雪の答えであることはわかっている。
それでも、沙雪の薄く愛らしい唇から言葉を紡いで欲しいのだ。
だが、通常では有り得ないほど真っ赤になっている沙雪に、勘太郎はくすくす笑いながら観念した。
「降参降参。沙雪、良いよ」
「え…?」
ぽふぽふと頭を撫でられ、沙雪が再度勘太郎を見れば優しい笑み。
決して急かさない。それも勘太郎からの想いなのだと、沙雪は感じると共に胸がキュウと高鳴る。
「沙雪が自然に言おうって思ってくれるまで、待つよ」
「勘太郎様……。ありがとうございます。必ず、きちんとお伝えしますから」
勘太郎の言葉に、沙雪は真っ直ぐ見つめながら答える。
勘太郎の気遣いがとても嬉しく感じると共に、すぐに答えることの出来ない自分に腹が立った。
昨晩、怜からの口付けを防ぐことの出来なかった己が、酷く汚れ、醜いものに思えて仕方がないのだ。
純粋に想いを伝えてくれる勘太郎に、自分も澄んだままの心で答えを返したいと願っても、間近で見てしまった怜の眼差しが脳裏に焼き付き、蝕んでいる。
「…ゆき……沙雪!」
勘太郎の自らを呼ぶ声が聞こえハッとして顔を上げる。視線を向ければ、心配そうに顔をのぞき込む勘太郎の姿があった。
「あ…すみません」
「全然大丈夫だけどさ。と言うより、沙雪こそ大丈夫?」
勘太郎の言葉に小さく笑みを浮かべ頷く。しかし、その笑みでは勘太郎を納得させるには至らなかったようである。
テーブル越しに勘太郎の手が伸び、沙雪の頬を両手で包んだ。小さな沙雪の顔は大きな勘太郎の手にいとも簡単に包まれてしまう。
勘太郎の掌の温かさに、冷えた頬が暖められ、更に熱くなり思わず真っ赤になってしまう。
「沙雪、君はなんでもすぐに独りで抱え込む。辛いことや悲しいことに限ってはね。でも、決していけないことではないけれど、少しは僕にも抱えさせて欲しい」
「勘太郎様……」
真っ直ぐに見つめられ、沙雪は勘太郎から目が離せなくなる。勘太郎の沙雪を思ってくれている気持ちが痛いほど流れ込んでくる。
「教えて、沙雪…」
小さく、でも確りと沙雪に伝えるために囁く。
「…今はまだ…整理が付いていないんです。色んなことがありすぎて…でも、先程のお返事とともにお話したい。…待たせてばかりでごめんなさい、勘太郎様」
「…うん、わかった。大丈夫だよ、沙雪。僕はいくらでも待つよ。これまでだって待ったんだから、君が待っていてと言っている限り。だって僕は君を……」
そこまで呟き、口を閉ざす勘太郎に沙雪は首を傾げる。
「…僕も、この先は大事に取っておこうかな。なんだか近いうちに言える気がするんだ」
にこりと微笑み、沙雪の頬から手を離す。そんな勘太郎に首を傾げるも、その言葉を信じるとばかりににこりと微笑んだ。
「彩子ちゃんにお会いするのも、久しぶりですね…。近頃のお加減はいかがですか?」
「彩子も沙雪に会いたがっていたよ。最近は暖かくなってきたからか、体調も良くてね。明日のことを伝えたらもっと元気になるかもしれないね」
勘太郎の妹彩子は、生まれつき体が弱く、ことに心臓が弱いらしい。それ故他の子供たちと一緒に外で遊ぶことも出来ず、屋敷にこもりがちであった。幼い頃はそれでも明るい性格であったのだが、病は心まで蝕んでしまったのだろうか、歳を重ねるうちに彩子は泣いてばかりの悲観しがちな性格になってしまった。
しかし、勘太郎が沙雪を一ノ宮家に連れてくるようになり、彩子とも話をするようになった頃から、彩子に笑顔が戻ってきたのだ。
「彩子は本当に沙雪に懐いているからねぇ…」
沙雪の優しく明るい性格につられ、彩子も徐々に元の明るい性格を取り戻し、今では病ですら克服しつつあるのである。
勘太郎のみならず、これには彩子本人も医者も驚いていた。
遊べないからと屋敷にこもっていたのがいけなかったのかもしれない、と、本当に時々ではあるが、近頃は沙雪と共に外に出ることもしているのである。
「彩子ちゃんと仲良くなれて、本当に嬉しいです。私、昔から妹が欲しかったんですもの。実の妹では無いですが…それ以上に可愛い存在です」
「沙雪のその言葉を伝えたら、きっと彩子は舞い上がってしまうね」
そう言ってくすくす笑う勘太郎に沙雪も、そうでしたら、私も嬉しいです。と、微笑むのであった。
「うん、どんな?」
答えてみれば、更なる問い。
沙雪は答えようとするものの照れからか言葉に詰まり、勘太郎を見た。
勘太郎もまた沙雪の手をそっと握り、その手が逃げることも離れる事もない事実が沙雪の答えであることはわかっている。
それでも、沙雪の薄く愛らしい唇から言葉を紡いで欲しいのだ。
だが、通常では有り得ないほど真っ赤になっている沙雪に、勘太郎はくすくす笑いながら観念した。
「降参降参。沙雪、良いよ」
「え…?」
ぽふぽふと頭を撫でられ、沙雪が再度勘太郎を見れば優しい笑み。
決して急かさない。それも勘太郎からの想いなのだと、沙雪は感じると共に胸がキュウと高鳴る。
「沙雪が自然に言おうって思ってくれるまで、待つよ」
「勘太郎様……。ありがとうございます。必ず、きちんとお伝えしますから」
勘太郎の言葉に、沙雪は真っ直ぐ見つめながら答える。
勘太郎の気遣いがとても嬉しく感じると共に、すぐに答えることの出来ない自分に腹が立った。
昨晩、怜からの口付けを防ぐことの出来なかった己が、酷く汚れ、醜いものに思えて仕方がないのだ。
純粋に想いを伝えてくれる勘太郎に、自分も澄んだままの心で答えを返したいと願っても、間近で見てしまった怜の眼差しが脳裏に焼き付き、蝕んでいる。
「…ゆき……沙雪!」
勘太郎の自らを呼ぶ声が聞こえハッとして顔を上げる。視線を向ければ、心配そうに顔をのぞき込む勘太郎の姿があった。
「あ…すみません」
「全然大丈夫だけどさ。と言うより、沙雪こそ大丈夫?」
勘太郎の言葉に小さく笑みを浮かべ頷く。しかし、その笑みでは勘太郎を納得させるには至らなかったようである。
テーブル越しに勘太郎の手が伸び、沙雪の頬を両手で包んだ。小さな沙雪の顔は大きな勘太郎の手にいとも簡単に包まれてしまう。
勘太郎の掌の温かさに、冷えた頬が暖められ、更に熱くなり思わず真っ赤になってしまう。
「沙雪、君はなんでもすぐに独りで抱え込む。辛いことや悲しいことに限ってはね。でも、決していけないことではないけれど、少しは僕にも抱えさせて欲しい」
「勘太郎様……」
真っ直ぐに見つめられ、沙雪は勘太郎から目が離せなくなる。勘太郎の沙雪を思ってくれている気持ちが痛いほど流れ込んでくる。
「教えて、沙雪…」
小さく、でも確りと沙雪に伝えるために囁く。
「…今はまだ…整理が付いていないんです。色んなことがありすぎて…でも、先程のお返事とともにお話したい。…待たせてばかりでごめんなさい、勘太郎様」
「…うん、わかった。大丈夫だよ、沙雪。僕はいくらでも待つよ。これまでだって待ったんだから、君が待っていてと言っている限り。だって僕は君を……」
そこまで呟き、口を閉ざす勘太郎に沙雪は首を傾げる。
「…僕も、この先は大事に取っておこうかな。なんだか近いうちに言える気がするんだ」
にこりと微笑み、沙雪の頬から手を離す。そんな勘太郎に首を傾げるも、その言葉を信じるとばかりににこりと微笑んだ。
「彩子ちゃんにお会いするのも、久しぶりですね…。近頃のお加減はいかがですか?」
「彩子も沙雪に会いたがっていたよ。最近は暖かくなってきたからか、体調も良くてね。明日のことを伝えたらもっと元気になるかもしれないね」
勘太郎の妹彩子は、生まれつき体が弱く、ことに心臓が弱いらしい。それ故他の子供たちと一緒に外で遊ぶことも出来ず、屋敷にこもりがちであった。幼い頃はそれでも明るい性格であったのだが、病は心まで蝕んでしまったのだろうか、歳を重ねるうちに彩子は泣いてばかりの悲観しがちな性格になってしまった。
しかし、勘太郎が沙雪を一ノ宮家に連れてくるようになり、彩子とも話をするようになった頃から、彩子に笑顔が戻ってきたのだ。
「彩子は本当に沙雪に懐いているからねぇ…」
沙雪の優しく明るい性格につられ、彩子も徐々に元の明るい性格を取り戻し、今では病ですら克服しつつあるのである。
勘太郎のみならず、これには彩子本人も医者も驚いていた。
遊べないからと屋敷にこもっていたのがいけなかったのかもしれない、と、本当に時々ではあるが、近頃は沙雪と共に外に出ることもしているのである。
「彩子ちゃんと仲良くなれて、本当に嬉しいです。私、昔から妹が欲しかったんですもの。実の妹では無いですが…それ以上に可愛い存在です」
「沙雪のその言葉を伝えたら、きっと彩子は舞い上がってしまうね」
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