12 / 45
十一
「沙雪」
自室へ向かう途中、怜がふと声をかけてくる。
兄妹故に部屋は近い。お互い自室へ戻ろうとすれば自然と一緒に向かうことになる。
「はい、どうなさいましたか?」
「お前は、俺と公子嬢の婚約をどう思う?」
問われると同時に、先に沙雪の自室へ着く。部屋の扉を開く怜を見て、沙雪は戸惑った。
いくら今は兄としての顔を見せてはいても、沙雪自身が行き過ぎた愛情表現だと納得をしてみても、昨夜沙雪の唇を奪ったのは、今目の前にいる怜本人だ。
しかし、先に部屋へと入ってしまう怜。どうやら答えを聞くまで出ていく気は無いらしい。
警戒はしているものの、兄としての顔もまだ信用している沙雪。
怜も意外に頑固で、己の意思は簡単には曲げない。仕方ないと観念し、部屋に入れば沙雪は怜を見上げ口を開いた。
「私個人としては、お姉様が出来て嬉しいです。西園寺家としても、宮家との繋がりが強い寺宮家と婚姻関係を結べるのは今後の強みになるかと。公子さんご自身もお優しくて聡明でいらっしゃいますし…。お兄様もいたく気に入られてるとお見受け致しましたけど」
「…こちらの思いどおりになる、従順な妻が欲しかった。彼女はお嬢様育ち故の良妻教育を受け、その育ち故の世間知らずだ。気に入っているのではなく、都合がいい。それだけさ」
心のない怜の言葉に、沙雪は手のひらで口元を覆いながら目を見開く。
あまりにも、酷い。
本当に怜が言っているのだろうか。最近は少し様子が違っていたが、それでも沙雪が産まれてからの十五年間、怜は沙雪にとって良き兄であった。母を亡くし、父も忙しく、幼さゆえに寂しい思いをしていた沙雪に寄り添い支え続けたのも、人を愛するということを沙雪に教えてくれたのも、怜なのだ。そんな怜が、なぜこんな酷い言動をとるようになってしまったのだろう。そしてそれは、いつの頃からの事だろう…。
「俺には沙雪さえいれば良い。今回の婚約は西園寺家を存続させるため、俺の代で終わらせないために仕方なくしただけのこと。公子はただの飾りだ」
呟きながら怜は視線で沙雪を捉える。その視線、瞳の奥に情欲の色があることに沙雪は意味が解らないまでも気付いてしまった。怜は笑みを浮かべ、怯える沙雪に近づきその柔らかい頬に触れる。
びくりと肩を震わす沙雪に、変わらぬ瞳を向けながら、怜はそのまま頬を撫でた。
「お、兄様…」
「…何も、後継を産むのは公子じゃなくても良いんじゃないかと思うんだ。むしろ沙雪、お前となら、純粋な西園寺家の子を産める」
うっとりとした笑みを浮かべながら呟く怜の言葉に、沙雪の背筋がぞわりと粟立った。
何を言っているのか。どうして一度でも気を許してしまったのか。何故部屋に入れてしまったのか。
どうして。
この状況を何とか理解できたのは、怜に突き飛ばされ、冷えたシーツに倒されてからであった。
「お兄様…!」
身を起こし、怜から逃れようとすれば、肩を押されベッドに押し付けられる。
男女の力の差を思い知らされるが、それでも沙雪は何とか逃れようと身をよじる。
「お兄様…!お気を確かに…」
「確りしてるさ。この二ヶ月、ずっと考えていた。お前を繋ぎ止めておく方法をずっとな」
「そん…辞めてください…!誰、か…っん」
誰か来てくれないかと呼ぼうとすれば、口を怜の手のひらで塞がれる。もがいてみても、力の強い怜から逃げられるはずがなかった。
声を上げてみても漏れ聞こえるのはくぐもった声ばかり。
それでも抵抗を続けている内に、怜の手が乱れ始めていた着物の合わせに伸びた。
目を見開き、抗う力を強めてみても怜の体はビクともしない。
どれだけ涙を流しても、怜の心には響かない。
もう、怜は兄ではなく、ただの獣。沙雪にはそうとしか見えなかった。
「沙雪、お前は俺のものだ。今までも、これからも、ずっとな…」
袴の紐をほどかれ、足を怜の手のひらが這う。
もう、駄目だ…。
そう思った瞬間に、沙雪は固く目を閉じた。
怜の息遣いが迫ってくる。身を固くし、顔を背け、必死に怜の胸を押し返すことだけが、今の沙雪に出来るせめてもの抵抗だった。
自室へ向かう途中、怜がふと声をかけてくる。
兄妹故に部屋は近い。お互い自室へ戻ろうとすれば自然と一緒に向かうことになる。
「はい、どうなさいましたか?」
「お前は、俺と公子嬢の婚約をどう思う?」
問われると同時に、先に沙雪の自室へ着く。部屋の扉を開く怜を見て、沙雪は戸惑った。
いくら今は兄としての顔を見せてはいても、沙雪自身が行き過ぎた愛情表現だと納得をしてみても、昨夜沙雪の唇を奪ったのは、今目の前にいる怜本人だ。
しかし、先に部屋へと入ってしまう怜。どうやら答えを聞くまで出ていく気は無いらしい。
警戒はしているものの、兄としての顔もまだ信用している沙雪。
怜も意外に頑固で、己の意思は簡単には曲げない。仕方ないと観念し、部屋に入れば沙雪は怜を見上げ口を開いた。
「私個人としては、お姉様が出来て嬉しいです。西園寺家としても、宮家との繋がりが強い寺宮家と婚姻関係を結べるのは今後の強みになるかと。公子さんご自身もお優しくて聡明でいらっしゃいますし…。お兄様もいたく気に入られてるとお見受け致しましたけど」
「…こちらの思いどおりになる、従順な妻が欲しかった。彼女はお嬢様育ち故の良妻教育を受け、その育ち故の世間知らずだ。気に入っているのではなく、都合がいい。それだけさ」
心のない怜の言葉に、沙雪は手のひらで口元を覆いながら目を見開く。
あまりにも、酷い。
本当に怜が言っているのだろうか。最近は少し様子が違っていたが、それでも沙雪が産まれてからの十五年間、怜は沙雪にとって良き兄であった。母を亡くし、父も忙しく、幼さゆえに寂しい思いをしていた沙雪に寄り添い支え続けたのも、人を愛するということを沙雪に教えてくれたのも、怜なのだ。そんな怜が、なぜこんな酷い言動をとるようになってしまったのだろう。そしてそれは、いつの頃からの事だろう…。
「俺には沙雪さえいれば良い。今回の婚約は西園寺家を存続させるため、俺の代で終わらせないために仕方なくしただけのこと。公子はただの飾りだ」
呟きながら怜は視線で沙雪を捉える。その視線、瞳の奥に情欲の色があることに沙雪は意味が解らないまでも気付いてしまった。怜は笑みを浮かべ、怯える沙雪に近づきその柔らかい頬に触れる。
びくりと肩を震わす沙雪に、変わらぬ瞳を向けながら、怜はそのまま頬を撫でた。
「お、兄様…」
「…何も、後継を産むのは公子じゃなくても良いんじゃないかと思うんだ。むしろ沙雪、お前となら、純粋な西園寺家の子を産める」
うっとりとした笑みを浮かべながら呟く怜の言葉に、沙雪の背筋がぞわりと粟立った。
何を言っているのか。どうして一度でも気を許してしまったのか。何故部屋に入れてしまったのか。
どうして。
この状況を何とか理解できたのは、怜に突き飛ばされ、冷えたシーツに倒されてからであった。
「お兄様…!」
身を起こし、怜から逃れようとすれば、肩を押されベッドに押し付けられる。
男女の力の差を思い知らされるが、それでも沙雪は何とか逃れようと身をよじる。
「お兄様…!お気を確かに…」
「確りしてるさ。この二ヶ月、ずっと考えていた。お前を繋ぎ止めておく方法をずっとな」
「そん…辞めてください…!誰、か…っん」
誰か来てくれないかと呼ぼうとすれば、口を怜の手のひらで塞がれる。もがいてみても、力の強い怜から逃げられるはずがなかった。
声を上げてみても漏れ聞こえるのはくぐもった声ばかり。
それでも抵抗を続けている内に、怜の手が乱れ始めていた着物の合わせに伸びた。
目を見開き、抗う力を強めてみても怜の体はビクともしない。
どれだけ涙を流しても、怜の心には響かない。
もう、怜は兄ではなく、ただの獣。沙雪にはそうとしか見えなかった。
「沙雪、お前は俺のものだ。今までも、これからも、ずっとな…」
袴の紐をほどかれ、足を怜の手のひらが這う。
もう、駄目だ…。
そう思った瞬間に、沙雪は固く目を閉じた。
怜の息遣いが迫ってくる。身を固くし、顔を背け、必死に怜の胸を押し返すことだけが、今の沙雪に出来るせめてもの抵抗だった。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『床下に札束を隠す金髪悪女は、毎朝赤いマットの上で黒の下着姿で股を開く』〜ストレッチが、私の金脈〜
まさき
恋愛
毎朝六時。
黒の下着姿で、赤いヨガマットの上に脚を開く。
それが橘麗奈、二十八歳の朝の儀式。
ストレッチが終わったら、絨毯をめくる。
床下収納を開けて、封筒の束を確認する。
まだある。今日も、負けていない。
儚く見える目と、計算された貧しさで男の「守りたい」を引き出し、感情を売らずに金だけを回収してきた。
愛は演技。体は商売道具。金は成果。
ブリーチで傷んだ金髪も、柔らかく整えた体も、全部武器だ。
完璧だったはずの計算が、同じマンションに住む地味な男——青木奏の登場で、狂い始める。
奢らない。
触れない。
欲しがらない。
それでも、去らない。
武器が全部外れる相手に、麗奈は初めて「演じない自分」を見られてしまう。
赤いマットの上で、もう脚を開けなくなる朝が来るまでの話。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。