白き薔薇の下で永遠の純心を君に

綾峰由宇

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十一

「沙雪」

自室へ向かう途中、怜がふと声をかけてくる。
兄妹故に部屋は近い。お互い自室へ戻ろうとすれば自然と一緒に向かうことになる。

「はい、どうなさいましたか?」
「お前は、俺と公子嬢の婚約をどう思う?」

問われると同時に、先に沙雪の自室へ着く。部屋の扉を開く怜を見て、沙雪は戸惑った。
いくら今は兄としての顔を見せてはいても、沙雪自身が行き過ぎた愛情表現だと納得をしてみても、昨夜沙雪の唇を奪ったのは、今目の前にいる怜本人だ。
しかし、先に部屋へと入ってしまう怜。どうやら答えを聞くまで出ていく気は無いらしい。
警戒はしているものの、兄としての顔もまだ信用している沙雪。
怜も意外に頑固で、己の意思は簡単には曲げない。仕方ないと観念し、部屋に入れば沙雪は怜を見上げ口を開いた。

「私個人としては、お姉様が出来て嬉しいです。西園寺家としても、宮家との繋がりが強い寺宮家と婚姻関係を結べるのは今後の強みになるかと。公子さんご自身もお優しくて聡明でいらっしゃいますし…。お兄様もいたく気に入られてるとお見受け致しましたけど」
「…こちらの思いどおりになる、従順な妻が欲しかった。彼女はお嬢様育ち故の良妻教育を受け、その育ち故の世間知らずだ。気に入っているのではなく、都合がいい。それだけさ」

心のない怜の言葉に、沙雪は手のひらで口元を覆いながら目を見開く。
あまりにも、酷い。
本当に怜が言っているのだろうか。最近は少し様子が違っていたが、それでも沙雪が産まれてからの十五年間、怜は沙雪にとって良き兄であった。母を亡くし、父も忙しく、幼さゆえに寂しい思いをしていた沙雪に寄り添い支え続けたのも、人を愛するということを沙雪に教えてくれたのも、怜なのだ。そんな怜が、なぜこんな酷い言動をとるようになってしまったのだろう。そしてそれは、いつの頃からの事だろう…。

「俺には沙雪さえいれば良い。今回の婚約は西園寺家を存続させるため、俺の代で終わらせないために仕方なくしただけのこと。公子はただの飾りだ」

呟きながら怜は視線で沙雪を捉える。その視線、瞳の奥に情欲の色があることに沙雪は意味が解らないまでも気付いてしまった。怜は笑みを浮かべ、怯える沙雪に近づきその柔らかい頬に触れる。
びくりと肩を震わす沙雪に、変わらぬ瞳を向けながら、怜はそのまま頬を撫でた。

「お、兄様…」
「…何も、後継を産むのは公子じゃなくても良いんじゃないかと思うんだ。むしろ沙雪、お前となら、純粋な西園寺家の子を産める」

うっとりとした笑みを浮かべながら呟く怜の言葉に、沙雪の背筋がぞわりと粟立った。
何を言っているのか。どうして一度でも気を許してしまったのか。何故部屋に入れてしまったのか。
どうして。
この状況を何とか理解できたのは、怜に突き飛ばされ、冷えたシーツに倒されてからであった。

「お兄様…!」

身を起こし、怜から逃れようとすれば、肩を押されベッドに押し付けられる。
男女の力の差を思い知らされるが、それでも沙雪は何とか逃れようと身をよじる。

「お兄様…!お気を確かに…」
「確りしてるさ。この二ヶ月、ずっと考えていた。お前を繋ぎ止めておく方法をずっとな」
「そん…辞めてください…!誰、か…っん」

誰か来てくれないかと呼ぼうとすれば、口を怜の手のひらで塞がれる。もがいてみても、力の強い怜から逃げられるはずがなかった。
声を上げてみても漏れ聞こえるのはくぐもった声ばかり。
それでも抵抗を続けている内に、怜の手が乱れ始めていた着物の合わせに伸びた。
目を見開き、抗う力を強めてみても怜の体はビクともしない。
どれだけ涙を流しても、怜の心には響かない。
もう、怜は兄ではなく、ただの獣。沙雪にはそうとしか見えなかった。

「沙雪、お前は俺のものだ。今までも、これからも、ずっとな…」

袴の紐をほどかれ、足を怜の手のひらが這う。
もう、駄目だ…。
そう思った瞬間に、沙雪は固く目を閉じた。
怜の息遣いが迫ってくる。身を固くし、顔を背け、必死に怜の胸を押し返すことだけが、今の沙雪に出来るせめてもの抵抗だった。
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