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十二
勘太郎様に、もう会えない。
そんな絶望感が沙雪を襲う。自らの気持ちに気付いたばかりだというのに。気付くのが遅すぎたのか。
思えば思うほど涙が溢れる。
怜の吐息を首元に感じた瞬間、鈍い音と共に今までのしかかっていた怜の重みが消えた。
何事かと目を開き、恐る恐る横に視線を向ければ目を見開いた。
「か、んたろう、さま……?」
「何を…一体何をしているんだ怜さん!!」
そこには拳を硬く握り、息を荒らげながら怜に怒鳴りつける、ここにはいない筈の勘太郎の姿があった。
怒気の収まらぬ様子の勘太郎の視線を追えば、ベッドから落ち、蹲る怜が見えた。
「沙雪の様子がおかしかったから、高山さんに無理言って来てみれば…。沙雪、大丈夫かい?おいで」
勘太郎の言葉に我に返った沙雪は、縺れる足を何とか叱咤して動かし、ベッドから降りて勘太郎に駆け寄り抱きついた。
勘太郎が上着を脱ぎ、肌けた着物から見える沙雪の肩にかけ抱きしめる。
我に返った瞬間から体が恐怖でがくがくと震え、勝手に涙が溢れてくる。
そんな沙雪の頭をそっと撫で、反対の手できつく抱きしめた。
「無事でよかった…。でももっと早く来ていればこんな思いさせずに済んだのに……。ごめん、ごめんね沙雪…」
抱き締める腕の力が強まると共に、沙雪も勘太郎の胸にすり寄る。震えは勘太郎の温もりによって先程よりは幾分か落ち着いていた。
「大丈夫です、勘太郎様…大丈夫。来てくださって、本当にありがとうございます」
沙雪が呟けば、怜が小さく唸りながら起き上がった。
頬が既に赤く腫れているのが、月明かりしか入らないこの部屋の暗さでもわかった。
勘太郎も手加減する余裕も情も無かったらしい。愛しい人が組み敷かれている様を見てしまったのだ。冷静な思考など到底無理であろう。
沙雪は怜の動作に一度ビクリとしたものの、そっと勘太郎から離れ、怜の方を向いた。
「…お兄様、先程のことは誰にも言いませんし、私は忘れることに致します。お兄様のことは、兄以上には見られません。貴方が守るのは西園寺家、愛するものは公子さん。私は妹であり、それ以上にも以下にもなりません。今後はそれを心に留めて、二度と忘れないでくださいな」
そう言い切れば、まだ何か言いたそうな勘太郎の手を引き沙雪は部屋を出ていった。
言葉はかけたが、一刻も早く怜から離れたかった。
「沙雪…」
「怖かった…勘太郎様に、もう会えなくなってしまうと…そうなったらどう、生きていけばいいのか…って…すごく怖かったんです…」
「…うん、うん。沙雪…良かった。本当に良かった…!」
部屋から離れ、一先ず客間へと入れば、沙雪は勘太郎を見上げ呟きながら抱きつく。
そんな沙雪を抱きしめれば、ほっとしたような吐息を感じた。
「本当に、来てくださってありがとうございます。勘太郎様…」
「沙雪の様子がいつもと少し違ったから…。来てよかった」
「勘太郎様の勘はとてもよく働きますのね」
「まぁ、「勘」太郎だしね。でも、勘だけじゃないよ。いつも沙雪が、僕に素直な君を見せてくれていたから。だから少しの変化に気付けた。沙雪が、自分でちゃんと僕に助けを求めてくれたから、助けられた」
ちょっと、遅くなっちゃったけど、ごめんね。そう言って小さく微笑む勘太郎に、沙雪は軽く目を見開きそして小さくころころと笑う。
もう大丈夫、そんな沙雪の笑みに、やっと見られた愛しい人の笑顔に、勘太郎もやっと人心地着いたのである。
一方、一人部屋に残された怜は床に座り込み、そのままベッドに背を預け天井を見上げた。
「…今更…お前以外の女を愛せるわけがないだろう…。沙雪…」
口の端から流れる血を親指で拭い、悲しさに満ちた怜の小さな呟きは闇に溶け、消えた。
そんな絶望感が沙雪を襲う。自らの気持ちに気付いたばかりだというのに。気付くのが遅すぎたのか。
思えば思うほど涙が溢れる。
怜の吐息を首元に感じた瞬間、鈍い音と共に今までのしかかっていた怜の重みが消えた。
何事かと目を開き、恐る恐る横に視線を向ければ目を見開いた。
「か、んたろう、さま……?」
「何を…一体何をしているんだ怜さん!!」
そこには拳を硬く握り、息を荒らげながら怜に怒鳴りつける、ここにはいない筈の勘太郎の姿があった。
怒気の収まらぬ様子の勘太郎の視線を追えば、ベッドから落ち、蹲る怜が見えた。
「沙雪の様子がおかしかったから、高山さんに無理言って来てみれば…。沙雪、大丈夫かい?おいで」
勘太郎の言葉に我に返った沙雪は、縺れる足を何とか叱咤して動かし、ベッドから降りて勘太郎に駆け寄り抱きついた。
勘太郎が上着を脱ぎ、肌けた着物から見える沙雪の肩にかけ抱きしめる。
我に返った瞬間から体が恐怖でがくがくと震え、勝手に涙が溢れてくる。
そんな沙雪の頭をそっと撫で、反対の手できつく抱きしめた。
「無事でよかった…。でももっと早く来ていればこんな思いさせずに済んだのに……。ごめん、ごめんね沙雪…」
抱き締める腕の力が強まると共に、沙雪も勘太郎の胸にすり寄る。震えは勘太郎の温もりによって先程よりは幾分か落ち着いていた。
「大丈夫です、勘太郎様…大丈夫。来てくださって、本当にありがとうございます」
沙雪が呟けば、怜が小さく唸りながら起き上がった。
頬が既に赤く腫れているのが、月明かりしか入らないこの部屋の暗さでもわかった。
勘太郎も手加減する余裕も情も無かったらしい。愛しい人が組み敷かれている様を見てしまったのだ。冷静な思考など到底無理であろう。
沙雪は怜の動作に一度ビクリとしたものの、そっと勘太郎から離れ、怜の方を向いた。
「…お兄様、先程のことは誰にも言いませんし、私は忘れることに致します。お兄様のことは、兄以上には見られません。貴方が守るのは西園寺家、愛するものは公子さん。私は妹であり、それ以上にも以下にもなりません。今後はそれを心に留めて、二度と忘れないでくださいな」
そう言い切れば、まだ何か言いたそうな勘太郎の手を引き沙雪は部屋を出ていった。
言葉はかけたが、一刻も早く怜から離れたかった。
「沙雪…」
「怖かった…勘太郎様に、もう会えなくなってしまうと…そうなったらどう、生きていけばいいのか…って…すごく怖かったんです…」
「…うん、うん。沙雪…良かった。本当に良かった…!」
部屋から離れ、一先ず客間へと入れば、沙雪は勘太郎を見上げ呟きながら抱きつく。
そんな沙雪を抱きしめれば、ほっとしたような吐息を感じた。
「本当に、来てくださってありがとうございます。勘太郎様…」
「沙雪の様子がいつもと少し違ったから…。来てよかった」
「勘太郎様の勘はとてもよく働きますのね」
「まぁ、「勘」太郎だしね。でも、勘だけじゃないよ。いつも沙雪が、僕に素直な君を見せてくれていたから。だから少しの変化に気付けた。沙雪が、自分でちゃんと僕に助けを求めてくれたから、助けられた」
ちょっと、遅くなっちゃったけど、ごめんね。そう言って小さく微笑む勘太郎に、沙雪は軽く目を見開きそして小さくころころと笑う。
もう大丈夫、そんな沙雪の笑みに、やっと見られた愛しい人の笑顔に、勘太郎もやっと人心地着いたのである。
一方、一人部屋に残された怜は床に座り込み、そのままベッドに背を預け天井を見上げた。
「…今更…お前以外の女を愛せるわけがないだろう…。沙雪…」
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