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十九
「さ、今日は園遊会。お客様も楽しみゆえにお早く参られますから、支度なさいましょう」
高山の言葉に頷き、沙雪は高山に渡された包みに視線を落とす。
「ねぇ、高山さん…この包み、私が初めてお針を習った時に作った風呂敷でしょう?」
「その通りでございますよ。沙雪様がいつものお礼にと私めに下さったときのものです」
沙雪から包みを再度受け取り開き、ドレスを取り出しながら高山は微笑み頷いた。その笑みは何とも柔らかく、沙雪に渡された時の気持ちを思い出しているのであろう。
ドレスに置いて行かれた風呂敷は、何年も経っているにも拘らず、未だ綺麗な状態を保っていた。
たかだか、五、六歳の幼子が作ったのだから、縫い目はバラバラで仕上がりも雑。制作者本人は思わず視線をそらしたくなってしまうくらい、とてもいい品ではない。それでも大切にしてくれる高山の思いが嬉しかった。
「ありがとう、高山さん」
「…いいえ、沙雪様」
鏡の前に立つ二人。今日着る予定のドレスを沙雪の体に当てる。
母目線になってしまう高山からすれば少々露出が多いのではと心配してしまうが、今はまだ肌寒いので羽織を羽織るという沙雪に心の奥でほっとした。
「よくお似合いです。加賀友禅の反物をドレスに仕立てたんですね」
「ええ。もとはお着物だったそうなの。りめいく…?と言うらしいんですよ?一度宮子と行った着物屋さんで、二人そろって一目惚れしてしまったの」
微笑む沙雪に頷き、着替えを促す。沙雪がドレスに手早く着替えれば、スツールに座らせ髪を整え始めた。
サラサラの髪を結いあげているとき、ふと手を止めて鏡越しに沙雪を見た。
「沙雪様…あなたは一ノ宮様を…?」
高山の問いは最後まで聞かずとも沙雪には分かった。そして最後まで問わないのは沙雪の答えがもう分っているが故であろう。
「はい、私…勘太郎様が好きです」
「やはりそうでしたか。一ノ宮様は聡明で、一途で心の広いお方。何よりこの高山から見ても心から沙雪様を想っているのがわかります。一ノ宮様なら安心して沙雪様をお任せできます」
髪を結いあげ着替えを終えた沙雪を見、誇らしげに微笑む高山。
五十歳を間近に迎えた彼女にとって、沙雪は手塩にかけて育ててきた娘のようなものである。
幼い頃から何んとも愛らしく、素直な性格であった沙雪は、高山の教え込むことをどんどん吸収していき、今や社交界一の花と呼ばれるまでに成長したのである。
そしてそんな沙雪は、高山の誇りなのだ。
沙雪もそんな高山を母のように慕っている。そんな高山が世間の評判でなく勘太郎自身を見てくれ、認めてくれた事が何より嬉しかった。
「はい、出来ました。…お綺麗ですよ」
「ありがとう、高山さん」
にこりと微笑みながら沙雪がドレスの裾を広げる。古い友禅着物をドレスにリメイクしたものである。
黒地に色とりどりの牡丹をあしらった、鮮やかであり艶やかなこのドレスは、大胆にもワンショルダーとなっており、右肩には生地がかかっていない。普段は結っても垂らしている髪も今日はまとめ上げ、いわゆる夜会巻というものをしているために、普段は愛らしい沙雪を艶っぽく、大人びて見せていた。
まだ十五歳と思ってはいたが、立派な女性に育ったのだと高山も感慨深い思いに至る。
「さ、一ノ宮様がお待ちですよ」
「はい」
高山の声に微笑み頷いて、部屋の扉を開いた。
扉の対面の壁に凭れて待っていた勘太郎は、読んでいた本から目を上げ、そして沙雪を視界に止めるなり、そのままの格好で固まった。
「…?勘太郎さん?」
「あ、いや…参った。ずっと、沙雪は可愛い可愛いと思っていたけど…」
沙雪に声を掛けられ、ハッとすれば勘太郎は苦笑しながら壁から背を離し、顎に手をかけながらうんうんと頷き沙雪を頭のてっぺんからつま先までじっくりと眺めた。
「うん、綺麗だ。どこの女神が現れたかと思ったよ」
そう言って微笑めば、沙雪は真っ赤になりながら小さく“ありがとうございます”と照れ臭そうに呟き微笑んだ。そんな沙雪に勘太郎は再度微笑む。
「やっぱり可愛い」
小さく笑いながら沙雪のドレスに皴が入らぬ様、そっと抱きしめる。
「褒めすぎです」
「事実です」
間髪入れずにキッパリと答える勘太郎を見上げれば、にっこり微笑みながら沙雪も“もう、負けました。勘太郎さんてば…”と抱き着く。
初々しい恋人たちを、高山は微笑ましい瞳で見つめるのであった。
高山の言葉に頷き、沙雪は高山に渡された包みに視線を落とす。
「ねぇ、高山さん…この包み、私が初めてお針を習った時に作った風呂敷でしょう?」
「その通りでございますよ。沙雪様がいつものお礼にと私めに下さったときのものです」
沙雪から包みを再度受け取り開き、ドレスを取り出しながら高山は微笑み頷いた。その笑みは何とも柔らかく、沙雪に渡された時の気持ちを思い出しているのであろう。
ドレスに置いて行かれた風呂敷は、何年も経っているにも拘らず、未だ綺麗な状態を保っていた。
たかだか、五、六歳の幼子が作ったのだから、縫い目はバラバラで仕上がりも雑。制作者本人は思わず視線をそらしたくなってしまうくらい、とてもいい品ではない。それでも大切にしてくれる高山の思いが嬉しかった。
「ありがとう、高山さん」
「…いいえ、沙雪様」
鏡の前に立つ二人。今日着る予定のドレスを沙雪の体に当てる。
母目線になってしまう高山からすれば少々露出が多いのではと心配してしまうが、今はまだ肌寒いので羽織を羽織るという沙雪に心の奥でほっとした。
「よくお似合いです。加賀友禅の反物をドレスに仕立てたんですね」
「ええ。もとはお着物だったそうなの。りめいく…?と言うらしいんですよ?一度宮子と行った着物屋さんで、二人そろって一目惚れしてしまったの」
微笑む沙雪に頷き、着替えを促す。沙雪がドレスに手早く着替えれば、スツールに座らせ髪を整え始めた。
サラサラの髪を結いあげているとき、ふと手を止めて鏡越しに沙雪を見た。
「沙雪様…あなたは一ノ宮様を…?」
高山の問いは最後まで聞かずとも沙雪には分かった。そして最後まで問わないのは沙雪の答えがもう分っているが故であろう。
「はい、私…勘太郎様が好きです」
「やはりそうでしたか。一ノ宮様は聡明で、一途で心の広いお方。何よりこの高山から見ても心から沙雪様を想っているのがわかります。一ノ宮様なら安心して沙雪様をお任せできます」
髪を結いあげ着替えを終えた沙雪を見、誇らしげに微笑む高山。
五十歳を間近に迎えた彼女にとって、沙雪は手塩にかけて育ててきた娘のようなものである。
幼い頃から何んとも愛らしく、素直な性格であった沙雪は、高山の教え込むことをどんどん吸収していき、今や社交界一の花と呼ばれるまでに成長したのである。
そしてそんな沙雪は、高山の誇りなのだ。
沙雪もそんな高山を母のように慕っている。そんな高山が世間の評判でなく勘太郎自身を見てくれ、認めてくれた事が何より嬉しかった。
「はい、出来ました。…お綺麗ですよ」
「ありがとう、高山さん」
にこりと微笑みながら沙雪がドレスの裾を広げる。古い友禅着物をドレスにリメイクしたものである。
黒地に色とりどりの牡丹をあしらった、鮮やかであり艶やかなこのドレスは、大胆にもワンショルダーとなっており、右肩には生地がかかっていない。普段は結っても垂らしている髪も今日はまとめ上げ、いわゆる夜会巻というものをしているために、普段は愛らしい沙雪を艶っぽく、大人びて見せていた。
まだ十五歳と思ってはいたが、立派な女性に育ったのだと高山も感慨深い思いに至る。
「さ、一ノ宮様がお待ちですよ」
「はい」
高山の声に微笑み頷いて、部屋の扉を開いた。
扉の対面の壁に凭れて待っていた勘太郎は、読んでいた本から目を上げ、そして沙雪を視界に止めるなり、そのままの格好で固まった。
「…?勘太郎さん?」
「あ、いや…参った。ずっと、沙雪は可愛い可愛いと思っていたけど…」
沙雪に声を掛けられ、ハッとすれば勘太郎は苦笑しながら壁から背を離し、顎に手をかけながらうんうんと頷き沙雪を頭のてっぺんからつま先までじっくりと眺めた。
「うん、綺麗だ。どこの女神が現れたかと思ったよ」
そう言って微笑めば、沙雪は真っ赤になりながら小さく“ありがとうございます”と照れ臭そうに呟き微笑んだ。そんな沙雪に勘太郎は再度微笑む。
「やっぱり可愛い」
小さく笑いながら沙雪のドレスに皴が入らぬ様、そっと抱きしめる。
「褒めすぎです」
「事実です」
間髪入れずにキッパリと答える勘太郎を見上げれば、にっこり微笑みながら沙雪も“もう、負けました。勘太郎さんてば…”と抱き着く。
初々しい恋人たちを、高山は微笑ましい瞳で見つめるのであった。
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