白き薔薇の下で永遠の純心を君に

綾峰由宇

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二十

「お二人とも、そろそろ朝食が用意されているはずです。冷めてしまわれる前にお召し上がりくださいませ。それと沙雪様、先ほど長谷川様から連絡が入られたそうなので、もう間もなくお見えになられるかと…如何いたしましょう?」

抱き合う二人に小さく咳ばらいをし、高山が他の使用人から伝えられた事柄を伝える。
高山には勘太郎とのことを伝えはしたが、うっかりこうして抱き合っているのを見られたのは些か恥ずかしいものがある。

「宮子ったら、少し早くないかしら?」

高山の言葉に苦笑しながらそっと勘太郎から離れ、仲の良い親友の顔を思い浮かべた。
始めは下心のあった宮子を避けてはいたものの、親友になってから二人はいつも一緒であった。互いに財閥華族の娘ではあるものの、二人で供も連れずに出かけたり、お互いの家に泊まってみたり等楽しく過ごしているのである。

「勘太郎さん、宮子も一緒に朝食をとってもいいですか?間に合わなかったらお茶でも」
「勿論、構わないよ」

宮子のことを直接は知らないまでも、沙雪から話を聞き勘太郎も宮子の人となりを知っているつもりだ。
それ故、沙雪が宮子をいかに大切に思っているかも理解しているので、一も二もなく微笑み頷いた。
そんな勘太郎の返答に嬉しそうに微笑み沙雪は高山に庭で朝食を食べること、そのあと公子の着替えを手伝いに行くことを伝えた。

「もし、朝食に宮子が間に合わなかったらご案内お願いします、高山さん」

苦笑交じりに呟く沙雪に、高山は微笑み頷く。そこへ、使用人が駆け寄ってきた。

「お嬢様、高山さん、一ノ宮彩子様がお見えになられました。ご招待の時間にはまだ早いですが、如何なさいましょう?」
「ああ、彩子は僕の着替えを持ってきてくれたんだ。沙雪、入れてもらっていいかな?」
「ええ、勿論。彩子ちゃんですもの。何も持ってなくてもお迎えします」

微笑み勘太郎に頷けば、使用人に彩子を招き入れるように伝える。
勘太郎がこんなに朝早く西園寺家にいること、着替えを持ってこさせていることに使用人は勘太郎や沙雪にはわからない程度に訝し気に首を傾げる。
確かに沙雪と勘太郎は古くからの友人であり、それは使用人たちももちろん周知しているが、それにしては今までになかった親密さが出ている。

「何をしているのですか?早く彩子様をお迎えに行きなさいな」

使用人の視線から邪推していると気付いたのか、高山が少々厳しい口調で使用人に告げる。
ハッとした様子で使用人は慌てて一礼し、そのまま去っていった。

「さて、一ノ宮様、沙雪様、お庭にご朝食のご用意が整いました。彩子様と長谷川様は高山が責任を持ってご案内いたしますので、先にお召し上がりください」

微笑む高山に勘太郎と沙雪も笑みを返し頷く。そんなふたりに頷き返せば高山は一礼し、その場を離れた。

「じゃあ、僕たちも行こうか」
「はい、勘太郎さん」

勘太郎の差し出す手に沙雪も手を伸ばし、手を繋いで歩き出す。
沙雪は夜会はほぼ洋装で出席しているため、ヒールの靴も慣れている様子。
離れを出て、庭の木陰、沙雪のお気に入りの場所に朝食は用意されていた。
普段の休みの日はここで本を読んだりするという沙雪に、今度は僕もご一緒しようかな、と勘太郎も辺りを見回す。
時間によっては木陰はとても大きく作られ、風も通るので読書には最適かもしれない。

「立派な樹だなぁ…」
「お屋敷が建つずーっと前からここに居るんですって。こんなに大きく育った木を切ってしまうのはもったいないとお父様が…。今はこの樹が我が家の守り神です」

樹の幹に触れながら見上げつつ微笑む沙雪。だが視線を動かした瞬間、その笑みが消えた。
そんな沙雪の表情に何事かと勘太郎も視線を辿り、そして僅かに顔を顰めた。

「おはよう、沙雪」

二人の視線の先に立っていたのは怜。ニコリと何食わぬ顔で微笑みながら沙雪に近づいてくる。
怯えた表情を浮かべる沙雪に近づき肩を抱き寄せ、勘太郎は怜を見た。抱いた沙雪の肩は微かに震えている。
怜が怖い。
だから、そしてそれゆえに勘太郎へ怜が危害を加えないか、不安で仕方がなかった。

「…沙雪、どうした?」

勘太郎の動きに、沙雪の自らと勘太郎への態度と表情に、怜の顔からは笑みが消え、また近頃よく見せる気持ちの読み取れない表情へと戻った。
その変わりように沙雪は怯えるばかりである。

「沙雪、兄様への挨拶はないのか?」

近づいてくる、頬に手を伸ばす怜にびくりと肩が跳ねる。
怜の手が触れようとするその瞬間に、勘太郎は沙雪を強く抱き寄せた。
そして怜を牽制するかのように睨み付ける。

「…無理強いはよくないよ、怜さん。沙雪は嫌がっているんだ。君が理解のある兄だと言うのなら、気づこうよ」
「一ノ宮…いやに馴れ馴れしいな。沙雪に容易に近づかないでもらいたい」

勘太郎の睨み付ける視線に怯むこともなく、怜は鼻先で小さく笑うと、とんでもない言葉を発した。

「沙雪は西園寺家の跡継ぎを生む、俺の大切な女だからな」
「…な、なにを言っているんですか…お兄様…」
「怜さん、冗談にも程があるよ。第一、君と沙雪は兄と妹だ。万が一にも結婚なんて…」

目を見開きながら怜を見上げる沙雪に、何とか平静を装いながら怜を一瞥する勘太郎。
そんな二人を見て小さく笑えば、怜は口を開いた。
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