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二十一
「兄妹だからこそ、生まれてくる子は純血として正当な跡継ぎになれると言うものだろう?沙雪、前にも言っただろう。お前を西園寺家から出す気はないと」
「…お父様がお許しになるわけありません。それに公子さんは…」
沙雪の呟きに、怜はそちらを見て微笑む。
その笑みは“父のことも公子のことも何の弊害にもならない”とでも言っているように見えた。
そんな不敵ともいえる怜の笑みに身を震わせ、勘太郎にそっと寄り添い腕に抱き着く。小さく震える沙雪を見て抱き締めるように引き寄せ、勘太郎は沙雪を安心させるように笑みを向けた。
その笑みに漸く人心地付いたのか、沙雪も小さくだが笑みを浮かべ頷いた。
「…気に喰わないな」
そんな仲睦まじい二人の様子を見ていた怜が、ぽつりと呟く。
勘太郎がそんな怜を見れば、その表情は嫉妬に歪み、酷く醜く見えた。
元は沙雪と似ている面差しの怜だが、今は別人にさえ見える。
「それは僕の台詞だよ、怜さん。あんな事をしてあれだけ沙雪の心を傷つけた君が、まだ勝手を並べて沙雪を困らせている。怜さんが本当に沙雪を愛しているというのなら、そんなことは言えない筈だ。君の言葉はさらに沙雪を傷付けているだけだよ」
勘太郎の言葉を噛み砕くように、怜は一度黙り込む。だが、すぐに不敵に微笑み二人を見た。
「俺が傷付け、そしてお前がその傷を癒したんだろう?昨晩、薔薇園で。そしてあの離れで?沙雪の肌、唇…その感触はさぞや気持ちのいいものだったろうな?反対にお前が癒されたんじゃないか?」
「…怜さん、君……」
怜の言葉に、勘太郎は息を呑む。沙雪は愕然としたまま、怜を見ていた。
薔薇園で口付けを交わしたことを、離れのあの部屋で二人眠っていた事を、怜は見ていたのだ。
今までの怜の沙雪への溺愛ぶりは、勘太郎でも閉口することが多々あった。これは同族嫌悪という奴だろうかと思っていたが、今わかった。これは絶対に違う。
これまではそれでも笑って済ませていいものであったが、今の怜は兄から妹への溺愛を大幅に超え、はるかにずれている。
その沙雪への執念の深さには、思わず背筋が粟立つほどの狂気すら感じる。
「一ノ宮様、沙雪様、彩子様をご案内いたしました」
怜の狂気に絶句し、固まっていた沙雪と勘太郎の傍に高山がスッスと近づいてくる。
そんな高山の声に二人が我に返ると共に、一人の少女が高山を追い越し駆け寄ってきた。
「沙雪姉様ー!」
「彩ちゃん!」
抱き着いて来る華奢な彩子を抱きとめようとする沙雪もまた華奢な少女。少しばかりよろめけば、勘太郎が彩子ごと沙雪を支えた。運動部所属の勘太郎には、華奢な女子二人を支えるのは造作もないことであろう。
そんな勘太郎に何やら嬉しそうに微笑み、そのまま彩子にも笑みを向け抱き締めた。
正直、彩子のおかげで凍り付いた場が氷解し、空気が和やかなものになった。彩子の存在がこれだけ支えになったことに沙雪はこそっと感謝した。
「沙雪姉様!お会いしたかったです!」
勘太郎によく似た面差しの少女は、沙雪に大層懐いており嬉しそうに微笑み沙雪を見上げた。沙雪もまた勘太郎とともに彩子をとても可愛がっていて、目に入れても痛くないと親のような発言をしている。
「私も会いたかったわ。来てくれてありがとう、彩ちゃん」
「こちらこそ、ご招待してくれてありがとう、沙雪姉様。いつもお兄様ばかり姉様に会えてずるいと思っていたのよ?」
今度は、屋敷にも遊びに来てね!と無邪気に微笑む彩子に、沙雪も微笑み勿論、と頷いた。
「彩ちゃん、朝食は食べた?」
「実は…寝過ごしてしまったからまだなんです」
呟きながら彩子はテーブルにセッティングされた朝食に目を向ける。
通常ならばお行儀が悪いと勘太郎もそっと注意はするだろうが、体調がよくなってきてから食欲も増え、食べる楽しみを見出している妹に強く言うことはできなかった。今の空気が和らいだことにも感謝しているため、厳しいことを言う気などさらさらない。
何より沙雪が彩子を甘やかしに甘やかすのだから、沙雪に甘い勘太郎は口を出せない。
「丁度よかった。勘太郎さんと食べようと思っていたのだけれど、そろそろ公子さんの所へお手伝いに行かなければいけないの。せっかく作っていただいたものを残すのは忍びなくて…彩子ちゃんが食べてくれると嬉しいわ。我が家のシェフさんはとっても腕がいいから彩子ちゃんも気に入ってくれると思うの」
「でも、それだと沙雪姉様が…」
沙雪の言葉に彩子は心配そうに呟く。
沙雪は食欲というものが頗る薄い。誰かが見ていて食べさせなければ、数食ほど簡単に抜いてしまう。勿論美味しいものを美味しいと感じることは出来るが、極端なことを言えば食事は栄養摂取の一環とすら思っていそうである。
彩子の勘太郎にそのことを聞き、自分以上に沙雪の食事の有無を心配してしまうのであった。
「大丈夫、今日は園遊会ですもの。何かしら食べさせられてしまうわ」
彩子の心配の種を悟ったのか、沙雪は微笑み答える。
その笑みと言葉に安心したのか彩子は頷き“では、有難くいただきます”と沙雪を見上げた。
「よかった。無理せず好きなだけ食べてね。では勘太郎さん、またあとで…」
「うん、僕も食べ終わったら着替えて待ってるよ。行っておいで」
頷き頭を撫でる勘太郎を見上げてうれしそうに笑って頷き、沙雪は怜に一礼し、その場を去って公子のもとへ向かった。
「…お父様がお許しになるわけありません。それに公子さんは…」
沙雪の呟きに、怜はそちらを見て微笑む。
その笑みは“父のことも公子のことも何の弊害にもならない”とでも言っているように見えた。
そんな不敵ともいえる怜の笑みに身を震わせ、勘太郎にそっと寄り添い腕に抱き着く。小さく震える沙雪を見て抱き締めるように引き寄せ、勘太郎は沙雪を安心させるように笑みを向けた。
その笑みに漸く人心地付いたのか、沙雪も小さくだが笑みを浮かべ頷いた。
「…気に喰わないな」
そんな仲睦まじい二人の様子を見ていた怜が、ぽつりと呟く。
勘太郎がそんな怜を見れば、その表情は嫉妬に歪み、酷く醜く見えた。
元は沙雪と似ている面差しの怜だが、今は別人にさえ見える。
「それは僕の台詞だよ、怜さん。あんな事をしてあれだけ沙雪の心を傷つけた君が、まだ勝手を並べて沙雪を困らせている。怜さんが本当に沙雪を愛しているというのなら、そんなことは言えない筈だ。君の言葉はさらに沙雪を傷付けているだけだよ」
勘太郎の言葉を噛み砕くように、怜は一度黙り込む。だが、すぐに不敵に微笑み二人を見た。
「俺が傷付け、そしてお前がその傷を癒したんだろう?昨晩、薔薇園で。そしてあの離れで?沙雪の肌、唇…その感触はさぞや気持ちのいいものだったろうな?反対にお前が癒されたんじゃないか?」
「…怜さん、君……」
怜の言葉に、勘太郎は息を呑む。沙雪は愕然としたまま、怜を見ていた。
薔薇園で口付けを交わしたことを、離れのあの部屋で二人眠っていた事を、怜は見ていたのだ。
今までの怜の沙雪への溺愛ぶりは、勘太郎でも閉口することが多々あった。これは同族嫌悪という奴だろうかと思っていたが、今わかった。これは絶対に違う。
これまではそれでも笑って済ませていいものであったが、今の怜は兄から妹への溺愛を大幅に超え、はるかにずれている。
その沙雪への執念の深さには、思わず背筋が粟立つほどの狂気すら感じる。
「一ノ宮様、沙雪様、彩子様をご案内いたしました」
怜の狂気に絶句し、固まっていた沙雪と勘太郎の傍に高山がスッスと近づいてくる。
そんな高山の声に二人が我に返ると共に、一人の少女が高山を追い越し駆け寄ってきた。
「沙雪姉様ー!」
「彩ちゃん!」
抱き着いて来る華奢な彩子を抱きとめようとする沙雪もまた華奢な少女。少しばかりよろめけば、勘太郎が彩子ごと沙雪を支えた。運動部所属の勘太郎には、華奢な女子二人を支えるのは造作もないことであろう。
そんな勘太郎に何やら嬉しそうに微笑み、そのまま彩子にも笑みを向け抱き締めた。
正直、彩子のおかげで凍り付いた場が氷解し、空気が和やかなものになった。彩子の存在がこれだけ支えになったことに沙雪はこそっと感謝した。
「沙雪姉様!お会いしたかったです!」
勘太郎によく似た面差しの少女は、沙雪に大層懐いており嬉しそうに微笑み沙雪を見上げた。沙雪もまた勘太郎とともに彩子をとても可愛がっていて、目に入れても痛くないと親のような発言をしている。
「私も会いたかったわ。来てくれてありがとう、彩ちゃん」
「こちらこそ、ご招待してくれてありがとう、沙雪姉様。いつもお兄様ばかり姉様に会えてずるいと思っていたのよ?」
今度は、屋敷にも遊びに来てね!と無邪気に微笑む彩子に、沙雪も微笑み勿論、と頷いた。
「彩ちゃん、朝食は食べた?」
「実は…寝過ごしてしまったからまだなんです」
呟きながら彩子はテーブルにセッティングされた朝食に目を向ける。
通常ならばお行儀が悪いと勘太郎もそっと注意はするだろうが、体調がよくなってきてから食欲も増え、食べる楽しみを見出している妹に強く言うことはできなかった。今の空気が和らいだことにも感謝しているため、厳しいことを言う気などさらさらない。
何より沙雪が彩子を甘やかしに甘やかすのだから、沙雪に甘い勘太郎は口を出せない。
「丁度よかった。勘太郎さんと食べようと思っていたのだけれど、そろそろ公子さんの所へお手伝いに行かなければいけないの。せっかく作っていただいたものを残すのは忍びなくて…彩子ちゃんが食べてくれると嬉しいわ。我が家のシェフさんはとっても腕がいいから彩子ちゃんも気に入ってくれると思うの」
「でも、それだと沙雪姉様が…」
沙雪の言葉に彩子は心配そうに呟く。
沙雪は食欲というものが頗る薄い。誰かが見ていて食べさせなければ、数食ほど簡単に抜いてしまう。勿論美味しいものを美味しいと感じることは出来るが、極端なことを言えば食事は栄養摂取の一環とすら思っていそうである。
彩子の勘太郎にそのことを聞き、自分以上に沙雪の食事の有無を心配してしまうのであった。
「大丈夫、今日は園遊会ですもの。何かしら食べさせられてしまうわ」
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その笑みと言葉に安心したのか彩子は頷き“では、有難くいただきます”と沙雪を見上げた。
「よかった。無理せず好きなだけ食べてね。では勘太郎さん、またあとで…」
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