白き薔薇の下で永遠の純心を君に

綾峰由宇

文字の大きさ
22 / 45

二十一

「兄妹だからこそ、生まれてくる子は純血として正当な跡継ぎになれると言うものだろう?沙雪、前にも言っただろう。お前を西園寺家から出す気はないと」
「…お父様がお許しになるわけありません。それに公子さんは…」

沙雪の呟きに、怜はそちらを見て微笑む。
その笑みは“父のことも公子のことも何の弊害にもならない”とでも言っているように見えた。
そんな不敵ともいえる怜の笑みに身を震わせ、勘太郎にそっと寄り添い腕に抱き着く。小さく震える沙雪を見て抱き締めるように引き寄せ、勘太郎は沙雪を安心させるように笑みを向けた。
その笑みに漸く人心地付いたのか、沙雪も小さくだが笑みを浮かべ頷いた。

「…気に喰わないな」

そんな仲睦まじい二人の様子を見ていた怜が、ぽつりと呟く。
勘太郎がそんな怜を見れば、その表情は嫉妬に歪み、酷く醜く見えた。
元は沙雪と似ている面差しの怜だが、今は別人にさえ見える。

「それは僕の台詞だよ、怜さん。あんな事をしてあれだけ沙雪の心を傷つけた君が、まだ勝手を並べて沙雪を困らせている。怜さんが本当に沙雪を愛しているというのなら、そんなことは言えない筈だ。君の言葉はさらに沙雪を傷付けているだけだよ」

勘太郎の言葉を噛み砕くように、怜は一度黙り込む。だが、すぐに不敵に微笑み二人を見た。

「俺が傷付け、そしてお前がその傷を癒したんだろう?昨晩、薔薇園で。そしてあの離れで?沙雪の肌、唇…その感触はさぞや気持ちのいいものだったろうな?反対にお前が癒されたんじゃないか?」
「…怜さん、君……」

怜の言葉に、勘太郎は息を呑む。沙雪は愕然としたまま、怜を見ていた。
薔薇園で口付けを交わしたことを、離れのあの部屋で二人眠っていた事を、怜は見ていたのだ。
今までの怜の沙雪への溺愛ぶりは、勘太郎でも閉口することが多々あった。これは同族嫌悪という奴だろうかと思っていたが、今わかった。これは絶対に違う。
これまではそれでも笑って済ませていいものであったが、今の怜は兄から妹への溺愛を大幅に超え、はるかにずれている。
その沙雪への執念の深さには、思わず背筋が粟立つほどの狂気すら感じる。

「一ノ宮様、沙雪様、彩子様をご案内いたしました」

怜の狂気に絶句し、固まっていた沙雪と勘太郎の傍に高山がスッスと近づいてくる。
そんな高山の声に二人が我に返ると共に、一人の少女が高山を追い越し駆け寄ってきた。

「沙雪姉様ー!」
「彩ちゃん!」

抱き着いて来る華奢な彩子を抱きとめようとする沙雪もまた華奢な少女。少しばかりよろめけば、勘太郎が彩子ごと沙雪を支えた。運動部所属の勘太郎には、華奢な女子二人を支えるのは造作もないことであろう。
そんな勘太郎に何やら嬉しそうに微笑み、そのまま彩子にも笑みを向け抱き締めた。
正直、彩子のおかげで凍り付いた場が氷解し、空気が和やかなものになった。彩子の存在がこれだけ支えになったことに沙雪はこそっと感謝した。

「沙雪姉様!お会いしたかったです!」

勘太郎によく似た面差しの少女は、沙雪に大層懐いており嬉しそうに微笑み沙雪を見上げた。沙雪もまた勘太郎とともに彩子をとても可愛がっていて、目に入れても痛くないと親のような発言をしている。

「私も会いたかったわ。来てくれてありがとう、彩ちゃん」
「こちらこそ、ご招待してくれてありがとう、沙雪姉様。いつもお兄様ばかり姉様に会えてずるいと思っていたのよ?」

今度は、屋敷にも遊びに来てね!と無邪気に微笑む彩子に、沙雪も微笑み勿論、と頷いた。

「彩ちゃん、朝食は食べた?」
「実は…寝過ごしてしまったからまだなんです」

呟きながら彩子はテーブルにセッティングされた朝食に目を向ける。
通常ならばお行儀が悪いと勘太郎もそっと注意はするだろうが、体調がよくなってきてから食欲も増え、食べる楽しみを見出している妹に強く言うことはできなかった。今の空気が和らいだことにも感謝しているため、厳しいことを言う気などさらさらない。
何より沙雪が彩子を甘やかしに甘やかすのだから、沙雪に甘い勘太郎は口を出せない。

「丁度よかった。勘太郎さんと食べようと思っていたのだけれど、そろそろ公子さんの所へお手伝いに行かなければいけないの。せっかく作っていただいたものを残すのは忍びなくて…彩子ちゃんが食べてくれると嬉しいわ。我が家のシェフさんはとっても腕がいいから彩子ちゃんも気に入ってくれると思うの」
「でも、それだと沙雪姉様が…」

沙雪の言葉に彩子は心配そうに呟く。
沙雪は食欲というものが頗る薄い。誰かが見ていて食べさせなければ、数食ほど簡単に抜いてしまう。勿論美味しいものを美味しいと感じることは出来るが、極端なことを言えば食事は栄養摂取の一環とすら思っていそうである。
彩子の勘太郎にそのことを聞き、自分以上に沙雪の食事の有無を心配してしまうのであった。

「大丈夫、今日は園遊会ですもの。何かしら食べさせられてしまうわ」

彩子の心配の種を悟ったのか、沙雪は微笑み答える。
その笑みと言葉に安心したのか彩子は頷き“では、有難くいただきます”と沙雪を見上げた。

「よかった。無理せず好きなだけ食べてね。では勘太郎さん、またあとで…」
「うん、僕も食べ終わったら着替えて待ってるよ。行っておいで」

頷き頭を撫でる勘太郎を見上げてうれしそうに笑って頷き、沙雪は怜に一礼し、その場を去って公子のもとへ向かった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

『床下に札束を隠す金髪悪女は、毎朝赤いマットの上で黒の下着姿で股を開く』〜ストレッチが、私の金脈〜

まさき
恋愛
毎朝六時。 黒の下着姿で、赤いヨガマットの上に脚を開く。 それが橘麗奈、二十八歳の朝の儀式。 ストレッチが終わったら、絨毯をめくる。 床下収納を開けて、封筒の束を確認する。 まだある。今日も、負けていない。 儚く見える目と、計算された貧しさで男の「守りたい」を引き出し、感情を売らずに金だけを回収してきた。 愛は演技。体は商売道具。金は成果。 ブリーチで傷んだ金髪も、柔らかく整えた体も、全部武器だ。 完璧だったはずの計算が、同じマンションに住む地味な男——青木奏の登場で、狂い始める。 奢らない。 触れない。 欲しがらない。 それでも、去らない。 武器が全部外れる相手に、麗奈は初めて「演じない自分」を見られてしまう。 赤いマットの上で、もう脚を開けなくなる朝が来るまでの話。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。