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二十二
「彩子、今日の主役に挨拶して」
「あ…怜様、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。早くにお邪魔してしまったにも拘らず迎えてくださり感謝します。本日はお招きいただき有り難うございます。そして此度のご婚約、おめでとうございます」
丁寧に礼をして微笑む彩子に、怜は小さく会釈し、笑みを浮かべた。
先ほどの狂気はどこへ行ってしまったのかとでもいうような、何とも爽やかな笑みである。
「ようこそ、彩子さん。お祝いもありがとう。小さな会ですけど、体調に気を付けて楽しんで行ってくださいね」
彩子の体質のことを沙雪から聞き知っている怜。
彩子に向けて心遣いの言葉と共に微笑めば“では、僕も友人たちの出迎えがありますので、失礼しますね”とその場を去っていく。
その後ろ姿を見送れば、勘太郎と彩子は二人揃って違う意味のため息をついた。
勘太郎は怜と凍り付いた空気から解放されたが故の安堵。一方は彩子はうっとりと惚けたため息である。
「あぁ…もう、助かったよ彩子」
「え?」
首を傾げながら勘太郎を見上げてくる彩子に“何でもない”と苦笑しながら勘太郎は、椅子を引き彩子に座るよう促す。
せっかくの朝食は冷めかけてしまっているが、まだおいしく食べることは出来るだろう。
焼きたてであったろうパンが数種類と、透明なコンソメスープ、サラダとハムにスクランブルエッグ。
西園寺家の朝食は近頃パンの魅力に気付いた祖父、大造の意向で洋食が多いと沙雪が言っていたのを思い出した。
「で、思いはとうとう告げられたんですか?お兄様」
「喜べ彩子。可愛い可愛い沙雪は、僕の可愛い可愛いお嫁さんになってくれそうだ」
「ということは、沙雪姉様が私の本当のお姉様になってくれる、と?」
柔らかく焼かれたパンを半分にちぎりながら、彩子はきらきらとして瞳で勘太郎を見る。
その期待に応えるように勘太郎が頷けば、至極嬉しそうに彩子は何度も頷き笑みを浮かべる。
「長年の夢の一つが叶うんですね」
「ん、僕にとっても夢にまで見たことだからね。本当に嬉しいよ」
勘太郎もまたスクランブルエッグを口に運びながら頷く。その表情は何とも幸せそうなものだ。
食後には少々早いが、給仕がコーヒーを運んできてくれる。
ホテルの朝食みたいだと、勘太郎は素直に感心した。
「でも沙雪姉様、少し元気なさそうでしたけど、大丈夫でした?」
「ん、ちょっと準備が忙しかったみたいだね。でも、大丈夫。出来うるだけ支えるから」
忙しかったのも事実だが、それ以外に大きな理由がある。けれど、それをいくら信頼を置ける妹とは言え、おいそれと話すわけにもいかないし、言える内容でもない。彩子にもそれで余計な心配をかける必要はないだろう。
一方勘太郎の言葉に“おー”と感心したように見る彩子。
元々しっかりした兄ではあったが、沙雪と出会ってからは頼りがいというものが出てきたように感じる。
それ故に、他の婦女子にも目をつけられて言い寄られてしまうのだが。とはいえ勘太郎が今までほかの女性に目移りしたことなどない事も、彩子は知っている。
「お兄様になら私も安心して沙雪姉様を任せられます」
「どの立ち位置で言ってるんだい?それは…」
くすくすと笑う勘太郎に、彩子もにこりと微笑み、兄妹は仲良くコーヒーも飲み干し平らげ、朝食を摂り終えた。
「さて、着替えて待っていようかな。手伝ってくれるか?妹よ」
彩子から荷物を受け取り、首を傾げながら問う。
そんな勘太郎に彩子は頷き笑みを浮かべた。
「ええ勿論。それより、いつもタイを結ぶのが苦手なお兄様がずいぶん綺麗に結べていますこと」
「沙雪が結んでくれたんだよ。僕もしっかり教えてもらって結べるようにならないとね」
勘太郎のその言葉に微笑みというよりにんまりと悪戯めいた笑みを浮かべる彩子。
その悪戯めいた笑みはやはり兄妹。そっくりである。何を考えてるんだろうなぁ、など苦笑しながら、勘太郎は彩子と共に昨晩与えられた部屋へと向かうのであった。
「あ…怜様、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。早くにお邪魔してしまったにも拘らず迎えてくださり感謝します。本日はお招きいただき有り難うございます。そして此度のご婚約、おめでとうございます」
丁寧に礼をして微笑む彩子に、怜は小さく会釈し、笑みを浮かべた。
先ほどの狂気はどこへ行ってしまったのかとでもいうような、何とも爽やかな笑みである。
「ようこそ、彩子さん。お祝いもありがとう。小さな会ですけど、体調に気を付けて楽しんで行ってくださいね」
彩子の体質のことを沙雪から聞き知っている怜。
彩子に向けて心遣いの言葉と共に微笑めば“では、僕も友人たちの出迎えがありますので、失礼しますね”とその場を去っていく。
その後ろ姿を見送れば、勘太郎と彩子は二人揃って違う意味のため息をついた。
勘太郎は怜と凍り付いた空気から解放されたが故の安堵。一方は彩子はうっとりと惚けたため息である。
「あぁ…もう、助かったよ彩子」
「え?」
首を傾げながら勘太郎を見上げてくる彩子に“何でもない”と苦笑しながら勘太郎は、椅子を引き彩子に座るよう促す。
せっかくの朝食は冷めかけてしまっているが、まだおいしく食べることは出来るだろう。
焼きたてであったろうパンが数種類と、透明なコンソメスープ、サラダとハムにスクランブルエッグ。
西園寺家の朝食は近頃パンの魅力に気付いた祖父、大造の意向で洋食が多いと沙雪が言っていたのを思い出した。
「で、思いはとうとう告げられたんですか?お兄様」
「喜べ彩子。可愛い可愛い沙雪は、僕の可愛い可愛いお嫁さんになってくれそうだ」
「ということは、沙雪姉様が私の本当のお姉様になってくれる、と?」
柔らかく焼かれたパンを半分にちぎりながら、彩子はきらきらとして瞳で勘太郎を見る。
その期待に応えるように勘太郎が頷けば、至極嬉しそうに彩子は何度も頷き笑みを浮かべる。
「長年の夢の一つが叶うんですね」
「ん、僕にとっても夢にまで見たことだからね。本当に嬉しいよ」
勘太郎もまたスクランブルエッグを口に運びながら頷く。その表情は何とも幸せそうなものだ。
食後には少々早いが、給仕がコーヒーを運んできてくれる。
ホテルの朝食みたいだと、勘太郎は素直に感心した。
「でも沙雪姉様、少し元気なさそうでしたけど、大丈夫でした?」
「ん、ちょっと準備が忙しかったみたいだね。でも、大丈夫。出来うるだけ支えるから」
忙しかったのも事実だが、それ以外に大きな理由がある。けれど、それをいくら信頼を置ける妹とは言え、おいそれと話すわけにもいかないし、言える内容でもない。彩子にもそれで余計な心配をかける必要はないだろう。
一方勘太郎の言葉に“おー”と感心したように見る彩子。
元々しっかりした兄ではあったが、沙雪と出会ってからは頼りがいというものが出てきたように感じる。
それ故に、他の婦女子にも目をつけられて言い寄られてしまうのだが。とはいえ勘太郎が今までほかの女性に目移りしたことなどない事も、彩子は知っている。
「お兄様になら私も安心して沙雪姉様を任せられます」
「どの立ち位置で言ってるんだい?それは…」
くすくすと笑う勘太郎に、彩子もにこりと微笑み、兄妹は仲良くコーヒーも飲み干し平らげ、朝食を摂り終えた。
「さて、着替えて待っていようかな。手伝ってくれるか?妹よ」
彩子から荷物を受け取り、首を傾げながら問う。
そんな勘太郎に彩子は頷き笑みを浮かべた。
「ええ勿論。それより、いつもタイを結ぶのが苦手なお兄様がずいぶん綺麗に結べていますこと」
「沙雪が結んでくれたんだよ。僕もしっかり教えてもらって結べるようにならないとね」
勘太郎のその言葉に微笑みというよりにんまりと悪戯めいた笑みを浮かべる彩子。
その悪戯めいた笑みはやはり兄妹。そっくりである。何を考えてるんだろうなぁ、など苦笑しながら、勘太郎は彩子と共に昨晩与えられた部屋へと向かうのであった。
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