白き薔薇の下で永遠の純心を君に

綾峰由宇

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二十三

「ああ、素敵…。やっぱり公子さんは清純な白が似合いますね。サイズも良さそうで安心しました」

公子の着付けの手伝いに公子の部屋を訪れた沙雪。
新たに設えさせたウェディングドレスを思わせる、真っ白なドレスを広げながら沙雪は微笑む。
そんな沙雪に笑みを返しながら、公子は口を開いた。

「沙雪さんのドレスも素敵ね。友禅かしら…ドレスにしちゃうなんて斬新」
「有り難うございます。私もこれをとても気に入ってます。では、早速着替えましょうか」
「ええ、お願いします」

微笑みあい、沙雪はドレスの着付けを始める。着物と違い、大変なのは下着のみではあるが、そこは照れ臭がった公子が先に着用してくれていたおかげで、沙雪は改めて締め付けを強くするだけで済んだ。
後はドレスをしわが寄らないように着付けるだけである。

「…公子さん」

着付けの最中、沙雪がぽつりと呟く。
今まで和やかに話していた中、少しばかり声の調子が下がり、公子は不思議に思いながら首を傾げた。

「どうなさったの?沙雪さん…」
「私、勘太郎さんと思いを通わせられたんです。それでお付き合いを始めたばかりなんですけど…結婚も考えているんです。すぐではないと思いますが、早いうちに、と考えています」

 少々申し訳なさそうに呟く沙雪に、公子は納得したようで、小さく二度頷いた。

「兄より先に妹が結婚、というのも少し順序がいけませんね。でも、女性のほうが結婚する年齢は早いですし、もしかしたら先に結婚となっても世間的にはさほど大きな問題はないかもしれませんけど…」

それでも、西園寺家は伯爵家。
沙雪が結婚適齢期を過ぎて行き遅れと呼ばれるのもよろしくないが、怜の結婚より早すぎるのも世間体から見れば些か気になるものがある。

「お兄様と公子さんの足並みもあるので、急かしたくはないのですが…」
「いいえ、良いんです。私のほうも、両親が早く籍を入れろと急かしてきますし…。出来たら私も早いうちに、と思ってるんです」

苦笑交じりに頷く公子に、曖昧に笑みを返し、座るよう促す。
促されるままに公子がスツールに腰掛ければ、髪を整え始めた。

「勘太郎さんがお父様にお許しをもらえたら私、すぐにでも公子さんみたいに一ノ宮家に行儀見習いに行こうと思うんです。一ノ宮家に爵位はありませんけど、大きなおうちと会社ですから覚えることはたくさんあると思いますし」

櫛で公子の髪を解き、結い上げながら鏡越しに視線を合わせる。
おっとりと微笑む公子に、自分がこの家にいることで、怜の執着が止まらず、公子を知らず知らず傷付けているのだと改めて思った。
だが公子の笑みは、怜がいくら沙雪を想っても沙雪は怜の元へ行かない。当然のことだ。
そう確信したが故の笑みであった。

「そうなの。寂しくなりますね」
「公子さんにはお兄様がいらっしゃるじゃないですか」

小さく微笑みながら、沙雪は器用に公子の髪を整えていく。沙雪の言葉に苦笑しながら、公子は呟いた。
いるにはいるが、心はかなりかけ離れていると感じている公子には、少々の虚しさを感じる。

「一番寂しがるのは、怜さんでしょうね…。あの人は本当に貴女を可愛がっているから」

公子の言葉に曖昧に笑みを浮かべれば、沙雪はブラシをテーブルにそっと置いた。
それから紅を唇に差し、沙雪は鏡越しに公子の顔を確認する。

「はい、出来ました。公子さん、きっと今日のお客様の誰より一番綺麗ですよ」

沙雪の言葉に鏡の中の自分を見つめ、公子は嬉しそうに微笑んだ。お化粧などはじめてに近いが、沙雪はとても綺麗に仕上げてくれた。
一緒に鏡に映る沙雪は恋を知ってから更に美しく愛らしくなった。
普段から公子は自分が平均的な平凡な顔だと思っていたが、今の公子はそんな沙雪に追いつきそうな美を誇っている。
こうやって自分を姉のように慕って色々気遣ってくれる沙雪。怜とのことで妬いてしまうこともあるが、普段は公子も沙雪を妹のように思っていた。

「ありがとう、沙雪さん。こんなに綺麗になれるなんて…私じゃないみたい」
「大好きなお義姉様が綺麗になられるのを惜しむわけないです。私の知識総動員して頑張りました」

にこりと微笑む沙雪に笑みを返しながら公子は立ち上がった。ドレスに伴ってヒールの高い靴も履いているために、少しふらついてしまうところを沙雪がそっと支える。

「ありがとう、沙雪さん。一ノ宮様をお待たせしてしまっていますね。あんまり貴女を独り占めしたらいけないですね」
「勘太郎さんの妹の、彩ちゃんがいてくれているので退屈はなさってないとは思いますが…。でも、早くお兄様に見せてあげてくださいな」

公子を見て、軽くドレスのしわを伸ばせば小さく頷き“完璧です”と微笑む。
沙雪を見て頷き返せば、公子はゆっくりと歩き出した。
沙雪も公子の後に続き部屋から出れば、怜、勘太郎、彩子がそろって待ち構えていたのであった。
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