白き薔薇の下で永遠の純心を君に

綾峰由宇

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二十四

話は少し戻って十数分ほど前。

「お前…早すぎるだろう」
「怜さんは少し遅いんじゃないかい?」

沙雪から事前に、着替えを終えた公子を部屋の外で出迎えたらどうかと提案され、了承していた怜。
そろそろかと見計らい公子の部屋へ向かえば、そこには既に勘太郎と彩子がいた。

「大体何でお前がここに居るんだ」
「沙雪居るとこ僕ありきだからね。それより感心じゃないか、フィアンセの出迎えに来るなんて」
「…沙雪が言わなければ来ていないよ」

怜の言葉に、勘太郎はわずかに顔を顰めるも、すぐに頷き彩子に視線を向ける。

「なるほど。沙雪か。あ、彩子、あそこの椅子を借りようか」
「大丈夫です、立っていることも少しだけれど体力づくりの一つになりますもの」

最近は多少調子のいい彩子。主治医からはまず歩くことから、と多少の運動は許可を得ているらしい。
とはいえまだ油断はできないので、運動時は付き添いが必須ではあるが。
今はもっぱら勘太郎が朝の散歩に付き添っていくことが多い。

「とはいえ無理は禁物ですよ、彩子さん。辛くなったらいつでも言ってください」
「ありがとうございます、怜様」

にこりと怜に微笑む彩子だが、その隣で勘太郎は“よく言う”とばかりに苦笑する。
先日沙雪の唇を奪った、昨晩、沙雪の操を奪おうとした彼が、何故こうも平然としているのか、勘太郎には全く理解できない。
かといって理解したいとはみじんも思わないけれど、そう思いつつ勘太郎は沙雪がいる公子の部屋の扉を見てから、天井に視線を向けた。

「前からこうだったわけじゃないと思うんだけどなぁ…」
「何の話ですか?」

ふと呟いた言葉に彩子が反応するが、勘太郎は何でもないというように軽く首を振る。
怜との出会いは、今日のような園遊会であった。
沙雪とは幼少期からの付き合いだが、怜とは年が近いにも関わらず、初めて顔を合わせたのは三年ほど前だ。
その頃には沙雪とは週に何度も会うようになっており、それを訝しんだ怜が勘太郎と会わせろと言われたことが発端らしい。
沙雪に誘われるがまま園遊会へやってきた勘太郎は、怜に頭のてっぺんからつま先までじろじろと見られーー背は勘太郎のほうが高いが為にてっぺんは見られていないがーー家の事や様々なことを質問攻めされた。
中には恋愛経験など不躾な質問もあったが、沙雪の結婚相手として見定められているのかもしれないと、すでにその頃沙雪に夢中になっていた勘太郎は喜び、素直に経験などないと答えたものである。

「そういえばお兄様、今日の園遊会は沙雪姉様が準備なさったのでしょう?」
「うん、急なことだったけど、頑張ったって言っていたよ」

食事などはパーティー用のメニューはある程度決まっているので、変更点などを伝えればシェフが頑張ってくれる。
今回は終日天気が良さそうだからと庭で園遊会を行うこととなった為に、立食形式をとることにしたから細かいテーブルセッティングなどは考えなくてもいい。
けれど、実の兄とその婚約者が主役の園遊会。装飾などはこだわりたかった様で、沙雪は怜によって心に傷を付けられたものの、それでも懸命に準備に勤しんでいた。
その結果は後のお楽しみとして、園遊会の話をしていた時の沙雪はとても充実感に溢れた表情であったことを思い出した。とはいえ昨晩の話だが。

「沙雪は、学校とかでは余り中心に立って何かをする性格ではないけど、丁寧できちんとした仕事が出来る聡明な子だからね」
「…随分と、うちの妹に詳しいな」
「まぁ…一緒にいる時間がとても長いからね。多分君より」

勘太郎の言葉に怜が呟く。憮然とした表情の怜に、勘太郎は笑みを浮かべ答えた。
その余裕ありきな表情に怜はいら立ちを隠せない。
そもそも怜からしたら、勘太郎の存在はおよそ看過出来るものではない。
沙雪が四歳の時、“お父様とお出かけしたい”と我儘を言って、父である真の参加する夜会へ行った先で勘太郎に出会ったのだという事は知っている。
その時はただ知り合っただけだと思っていた。
しかし、沙雪はどこを気に入ったのか勘太郎と幾度も会いたがっていた。沙雪が生まれた時から沙雪にめっぽう甘い真は、その度に一ノ宮家の参加する夜会やパーティーに沙雪を連れて行っていたのを覚えている。

「いつの間にか、君と出かける日が増えていたな」
「深窓の令嬢な沙雪も奥ゆかしくて可愛いけど、外に出かけて小間物屋で目を輝かせたり、美味しいケーキを食べてほころぶほっぺを見せてくれる沙雪がまた何とも可愛いんだよ。だからつい連れ出してしまう」
「…そうか」

内心怒りで満載なのだろうが、公子の部屋の前であり彩子の手前、静かに頷くに留める。
怜も沙雪と二人で出かけることはある。だが、夜会など、会社関係のものばかりで私的な用事で出かけるようなことは稀だ。これまでは稀に荷物持ちとして連れ出されたが、そのようなことはもうないだろう。
平然と沙雪を連れ出し、それを自慢げに報告してくる勘太郎に、嫉妬してしまう。
嫉妬のままに拳を握り、唇を噛んでいれば、公子の部屋の扉が開かれた。
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