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二十九
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「おーおー、怜さんが僕を射殺さんばかりに睨んでるよ。そろそろ始まる時間かい?」
苦笑しながら抱き締めた腕を緩め、沙雪からそっと一歩離れながら問いかける勘太郎に、懐中時計を取り出し見れば小さく苦笑し頷いた。
沙雪は、怜の事を敢えて見なかった。
あの恐ろしい目は、嫌なことを思い出してしまいそうで、これからの楽しい会に水を差したくなかったからだ。
「はい、そろそろ予定していた時間です。参りましょうか」
沙雪の言葉に宮子たちもうなずき、一同会場の中心へと向かう。
既に中心に集まっていた怜の友人たちは、沙雪を見つけるなり色めき立った。
誰もかれもがこの美しい少女に夢中のようだ。
今日の沙雪は、少々露出が激しいと高山にも言われてしまったドレスのせいもあるかもしれないが、あどけなさの中にほんの少しの妖艶さが見え隠れしている。
男性たちはその隠されたものを引き出したい欲に駆られるものなのかもしれない。
「皆様こんにちは。本日は兄の為にわざわざご足労有り難うございます」
「いやいやなんのなんの。我らは怜でなく沙雪姫に一目お会いしたが為馳せ参じたようなものですよ!なぁ、皆の衆!」
「ああそうだ!よく言った倉科!」
友人たちの言葉にくすくす笑っていれば、沙雪は給仕に目配せで合図する。
「皆様、只今より乾杯用のグラスをお配りいたします。お好みの飲み物をお申し付けください。今お飲みの物も是非お取替えください」
メイドたちが配り始めたグラスを各々手に取る。乾杯は基本がシャンパンだが、まだ酒を飲めない年齢の物もいるために、グラスはシャンパン用のものだが、中身は変えられるように手配した。
沙雪は怜と公子に前に出るよう声をかけ、自身も二人の後に続く。沙雪に乾杯の音頭を取ってほしいと公子に頼まれ、沙雪は二つ返事で受け入れた。
辺りを見回してグラスと飲み物がいきわたったのを見れば、微笑みグラスを掲げる。
「若輩者の私が音頭を取ることをお許しいただきありがとうございます。この度、我が兄西園寺怜と、寺宮家ご長女、公子さんの婚約が調いました。二人の栄えある未来と、益々の両家の繁栄、そしてこれからも皆様とのご縁が続くことをお祈りして…乾杯の音頭とさせていただきます。乾杯」
沙雪の言葉に一同グラスを掲げる。
辺りから祝福の声が上がる中、怜と公子は微笑みあいグラスを重ねた。
「勘太郎さん」
「お疲れ様、沙雪」
怜達を囲む輪から離れ、沙雪は勘太郎の傍へと戻る。勘太郎は酒を嗜み、よく飲む口なのでシャンパーニュ。沙雪は飲めないことはないが独特の香りが苦手なため今日はジュースである。
「…二杯目ですね?」
「おや、もうバレてしまった。ほら彩子、沙雪は鋭いだろう?僕の顔を見ただけで何杯目か分かってしまうんだ」
「さすが沙雪姉様ですね。それだけお兄様をよく見てくれてる…妹の私も嬉しいです」
勘太郎の言葉にくすくす笑い、彩子の言葉に微笑み、三人で顔を見合わせる。
昔から、一ノ宮兄妹と沙雪が揃えば、何か不思議なほど穏やかな時間が流れるのであった。
「沙雪」
そこへ声をかけられ、沙雪は振り向く。
怜と公子へ祝いを述べた友人たちは今度は麗しの妹姫に声をかけるタイミングを伺っていたらしい。
「光様…ご機嫌よう」
微笑みながら声の主を見れば、彼は沙雪に近づくなり膝をつき沙雪の手の甲に口付けた。
瞬間、勘太郎の目つきが険しくなる。
「お兄様、顔怖い」
「彩子、君はたまに鋭すぎる。これでも隠してたんだよ。参ったね、こんなに嫉妬深い性格じゃないと思ってたんだけど…」
沙雪に視線を向けたまま突っ込む彩子に、勘太郎は苦笑しながら彩子の頭を撫でた。そんな勘太郎の様子に微笑めば、彩子は沙雪の様子に再度微笑んだ。
「でも沙雪姉様は、お兄様以外興味なしね」
くすくす笑う彩子の言葉に沙雪を見れば、次々と声をかけれらているにも関わらず笑みを返しながらもその輪から抜け出して自らに駆け寄ってくる姿が見えた。
勘太郎も足を踏み出すも、立ち止まり両腕を広げれば、飛び込んでくる華奢な体。
僅かに感じていた嫉妬心も即座に引っ込み、勘太郎は幸せそうに微笑んだ。
「お帰り」
「只今戻りました」
沙雪を抱きしめ呟けば、嬉しそうに返事し擦り寄る沙雪。
今にもゴロゴロと喉を濡らしそうなほど甘えてくる沙雪がたまらなく可愛くて、そのまま頬に口付ける。
「勘太郎さん…?」
「黙って。ダメでしょ?沙雪。僕以外の男に触れられて…」
瞼、鼻、唇の端に口付けられ、真っ赤になりながら沙雪は勘太郎を見上げる。
周りは呆気。
それもそうである。社交界一の美少女が社交の場には殆ど出てこない放蕩息子に抱き着いた挙句、顔中に唇を押し当てられても拒否することなく、照れ臭そうに真っ赤になりながらただわたわたとしているだけなのだから。
「一ノ宮!いい加減にしろ!西園寺家の娘に気易く触れるな!」
呆け切っている周りをかき分け、怜が怒鳴りながら沙雪の肩を掴み引き離す。
一同怜の怒声に我に返り、この時ばかりは目のやり場に困っていた公子も、対処に困っていた沙雪もほっと小さく息をついたのであった。
苦笑しながら抱き締めた腕を緩め、沙雪からそっと一歩離れながら問いかける勘太郎に、懐中時計を取り出し見れば小さく苦笑し頷いた。
沙雪は、怜の事を敢えて見なかった。
あの恐ろしい目は、嫌なことを思い出してしまいそうで、これからの楽しい会に水を差したくなかったからだ。
「はい、そろそろ予定していた時間です。参りましょうか」
沙雪の言葉に宮子たちもうなずき、一同会場の中心へと向かう。
既に中心に集まっていた怜の友人たちは、沙雪を見つけるなり色めき立った。
誰もかれもがこの美しい少女に夢中のようだ。
今日の沙雪は、少々露出が激しいと高山にも言われてしまったドレスのせいもあるかもしれないが、あどけなさの中にほんの少しの妖艶さが見え隠れしている。
男性たちはその隠されたものを引き出したい欲に駆られるものなのかもしれない。
「皆様こんにちは。本日は兄の為にわざわざご足労有り難うございます」
「いやいやなんのなんの。我らは怜でなく沙雪姫に一目お会いしたが為馳せ参じたようなものですよ!なぁ、皆の衆!」
「ああそうだ!よく言った倉科!」
友人たちの言葉にくすくす笑っていれば、沙雪は給仕に目配せで合図する。
「皆様、只今より乾杯用のグラスをお配りいたします。お好みの飲み物をお申し付けください。今お飲みの物も是非お取替えください」
メイドたちが配り始めたグラスを各々手に取る。乾杯は基本がシャンパンだが、まだ酒を飲めない年齢の物もいるために、グラスはシャンパン用のものだが、中身は変えられるように手配した。
沙雪は怜と公子に前に出るよう声をかけ、自身も二人の後に続く。沙雪に乾杯の音頭を取ってほしいと公子に頼まれ、沙雪は二つ返事で受け入れた。
辺りを見回してグラスと飲み物がいきわたったのを見れば、微笑みグラスを掲げる。
「若輩者の私が音頭を取ることをお許しいただきありがとうございます。この度、我が兄西園寺怜と、寺宮家ご長女、公子さんの婚約が調いました。二人の栄えある未来と、益々の両家の繁栄、そしてこれからも皆様とのご縁が続くことをお祈りして…乾杯の音頭とさせていただきます。乾杯」
沙雪の言葉に一同グラスを掲げる。
辺りから祝福の声が上がる中、怜と公子は微笑みあいグラスを重ねた。
「勘太郎さん」
「お疲れ様、沙雪」
怜達を囲む輪から離れ、沙雪は勘太郎の傍へと戻る。勘太郎は酒を嗜み、よく飲む口なのでシャンパーニュ。沙雪は飲めないことはないが独特の香りが苦手なため今日はジュースである。
「…二杯目ですね?」
「おや、もうバレてしまった。ほら彩子、沙雪は鋭いだろう?僕の顔を見ただけで何杯目か分かってしまうんだ」
「さすが沙雪姉様ですね。それだけお兄様をよく見てくれてる…妹の私も嬉しいです」
勘太郎の言葉にくすくす笑い、彩子の言葉に微笑み、三人で顔を見合わせる。
昔から、一ノ宮兄妹と沙雪が揃えば、何か不思議なほど穏やかな時間が流れるのであった。
「沙雪」
そこへ声をかけられ、沙雪は振り向く。
怜と公子へ祝いを述べた友人たちは今度は麗しの妹姫に声をかけるタイミングを伺っていたらしい。
「光様…ご機嫌よう」
微笑みながら声の主を見れば、彼は沙雪に近づくなり膝をつき沙雪の手の甲に口付けた。
瞬間、勘太郎の目つきが険しくなる。
「お兄様、顔怖い」
「彩子、君はたまに鋭すぎる。これでも隠してたんだよ。参ったね、こんなに嫉妬深い性格じゃないと思ってたんだけど…」
沙雪に視線を向けたまま突っ込む彩子に、勘太郎は苦笑しながら彩子の頭を撫でた。そんな勘太郎の様子に微笑めば、彩子は沙雪の様子に再度微笑んだ。
「でも沙雪姉様は、お兄様以外興味なしね」
くすくす笑う彩子の言葉に沙雪を見れば、次々と声をかけれらているにも関わらず笑みを返しながらもその輪から抜け出して自らに駆け寄ってくる姿が見えた。
勘太郎も足を踏み出すも、立ち止まり両腕を広げれば、飛び込んでくる華奢な体。
僅かに感じていた嫉妬心も即座に引っ込み、勘太郎は幸せそうに微笑んだ。
「お帰り」
「只今戻りました」
沙雪を抱きしめ呟けば、嬉しそうに返事し擦り寄る沙雪。
今にもゴロゴロと喉を濡らしそうなほど甘えてくる沙雪がたまらなく可愛くて、そのまま頬に口付ける。
「勘太郎さん…?」
「黙って。ダメでしょ?沙雪。僕以外の男に触れられて…」
瞼、鼻、唇の端に口付けられ、真っ赤になりながら沙雪は勘太郎を見上げる。
周りは呆気。
それもそうである。社交界一の美少女が社交の場には殆ど出てこない放蕩息子に抱き着いた挙句、顔中に唇を押し当てられても拒否することなく、照れ臭そうに真っ赤になりながらただわたわたとしているだけなのだから。
「一ノ宮!いい加減にしろ!西園寺家の娘に気易く触れるな!」
呆け切っている周りをかき分け、怜が怒鳴りながら沙雪の肩を掴み引き離す。
一同怜の怒声に我に返り、この時ばかりは目のやり場に困っていた公子も、対処に困っていた沙雪もほっと小さく息をついたのであった。
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