白き薔薇の下で永遠の純心を君に

綾峰由宇

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三十二

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「沙雪…」

近付いてくる沙雪に一早く気付いたのは、やはりと言っていいだろう、怜だった。
怜の言葉に輪になっていた友人たちが一歩ずつ動いて自然と道が開かれ、割り進んでいた沙雪はほっと息をつく。

「お兄様、公子さんをお連れしてもよろしいですか?女性陣で集まってお茶をしたいんです。美味しいお菓子を光さんがお土産に下さったので」

その言葉に怜は光を見る。
この友人はまったくもって油断ならない。女には一切困っていない様子で浮名を流しているのに、妙に沙雪には一途なふりをする。ふりというより、沙雪に対してだけは本気の様で、それもまた怜にとっては油断できない部分である。
事あるごとに沙雪への手土産を持参し、事あるごとに沙雪を口説く。
今回の沙雪の婚約は怜にとって不満まみれの出来事だが、唯一この親友であり幼馴染の傷心はざまぁみろという気分である。
今日の手土産もきっと光は沙雪個人に差し入れたのであろうが、沙雪は自らへの想いにはとんと疎い。恋愛系の気持ちには殊更疎い。
あれだけ人に気持ちを敏感に悟るにも関わらずである。
それが怜にとってはありがたいことであったのだが。

「そうか…では公子さん、少し沙雪の相手をしてもらえますか?」
「勿論です。有り難うございます、怜さん」

光が沙雪にちょっかいをかけないかわずかに警戒しながらも、怜は公子を促す。わずかにホッとしたように公子は頷き、沙雪の元へと向かい、女性陣は会場の端の席を陣取った。

「お疲れ様です、公子さん」

テーブルに着けば、沙雪はお茶の準備をしながら公子を見る。気が抜けたのか、小さくも深い息をつき、公子は微笑んだ。

「ありがとう、沙雪さん。私…来月のパーティーが不安になってきました。こんな少人数ですら大変なのに、きっと大規模なパーティーになるでしょうし、しっかりと怜さんのご迷惑にならないように努められるんでしょうか…。皆さんはよくパーティーには参加されるんでしょう?」

公子の問いに、沙雪と宮子は顔を見合わせる。確かに出席は少なくなく、反対に多いほうではあるが、物心ついてからの習慣のようにもなっているので、改めて問われると思わず首を傾げてしまうのである。

「そうですね…一時期は誘われるがままに、下手すれば毎晩…でもさすがに学業や生活に支障が出るほどに疲れてしまって、今では大切なお友達や父の会社の物しか出なくなりました」
「私も沙雪と同じです。私の出席が必要な場合のみ、出席することにしています」
「私は沙雪姉様に誘われた時くらいです。体調の心配もありましたし…」

三者三様の答えに公子はこくこくと頷く。
沙雪や宮子はその美貌から、よく雑誌などにも華族の令嬢として特集が組まれ、写真なども何度か載っている。それ故に、箔をつけたい者達からのパーティーへの誘いも多い。始めはよくわからぬままに出席していたが、その裏の思惑に気付いてからは、みだりに誘いを受けることはしなくなった。
知らない顔の多いパーティーに出るより、気の合う友人と過ごす方が何杯も楽しくて健やかだ。
それでもルールやマナーはそんなに変わっていない。少しでも話を聞いて備えておきたいような公子。
ならばと沙雪は宮子と共に今までの夜会での体験談などを話し始めた。

「……暗黙の了解に、独特なマナー…聞いているだけで眩暈が…」
「私もです……沙雪姉様、私を誘ってくださった時はさりげなく助けてくださっていたんですね」

沙雪と宮子の話に、こめかみや額を抑え唸る公子と彩子。
多少感覚が麻痺していたであろうが、改めて話をした沙雪や宮子ですら苦笑気味である。

「今回はお父様の仕事関係での発表という意味合いが大きいので、挨拶回りが終わってしまったら、休んでも構わないと思います。…まぁ、お兄様目当てでお父様方について来た婦女子方もたくさんいらっしゃるでしょうから、早めの退席もお勧めします。彼女たちは少々厳しい部分があるので…」

沙雪は身分、家柄、容姿、全てを兼ね備えた社交界一の華。
という事は即ちその兄の怜も若手の中では家柄容姿共に一、二を争うのは必然である。
故に怜に憧れる婦女子も後を絶たない。そんな怜の婚約披露パーティーなのだ。憧れの君の婚約者は誰なのだろうと見定め、悪く言えば値踏みに来るものも少なくないだろう。大きな瞳を更に見開き、鋭い眼差しを向けてくるに違いない。
公子にとっては針の筵になる可能性もあるために、そうなる前に逃げるのはありだろう。
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