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三十四
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「剣道、柔道、弓道、その他諸々合わせて十八段ですから、勘太郎さん。そうそう負けません。あ、ほら…帰ってきました」
「なんだか良く絡まれて喧嘩も場慣れしていますから。心配しなくても大丈夫なんです」
勘太郎の姿を見つけ、沙雪は立ち上がり駆け寄っていく。
彩子の言葉に宮子と公子が勘太郎を見れば、なるほど、ピンピンしている。
「勘太郎さん!」
「ただいま、沙雪」
駆け寄ってきた沙雪を抱きしめ、勘太郎はニコリと微笑む。
「…お兄様ですか?」
「みたいだねぇ。よっぽど僕が気に入らないらしい」
「ひどい…いくら何でも…」
呟きながらギュっと抱き着く力を込める沙雪。少しばかり潤む瞳を見て、勘太郎は優しく微笑み沙雪をきつく抱きしめた。
「勘太郎さん…」
「大丈夫。僕は怜さんになんか負けない。沙雪を想う気持ちもね」
こっそりと勘太郎の様子をうかがうも、どこか殴られた様子もないし、何なら服も一切汚れていない。
きっと大丈夫だろう、そう安心し沙雪は勘太郎にすり寄った。
「勘太郎さん…大好きです。貴方が大好き」
「ん、僕も」
微笑みながら勘太郎は沙雪の顎をそっとすくい口付けた。
沙雪の唇を自らの唇でなぞり、押し付ける。
「あら熱烈…」
「でもお似合い」
「本当に。見ているほうは少し恥ずかしいですけれど」
微笑みながら勘太郎と沙雪を見守る三人。
それでも気恥ずかしいのか公子がふと怜を見れば、頬を腫らした数人と話しているところであった。
その表情は冷酷そのもので、公子ですら思わずぞくりと背筋が震えた。ふと、怜がこちらを見そうな気配に気づき、バッと顔をそらす。見ていることを知られるのがもはや恐怖だった。
「沙雪、今日は誰かに傍に居てもらえそうかい?」
「はい、明日はお休みなので、宮子が泊まりたいと…」
唇が離れ、体も少し離れて、勘太郎は沙雪を見て首を傾げる。
「あと、彩子も仲間に入れてあげてくれる?」
勘太郎の言葉に勿論とばかりに頷き、“…勘太郎さんは?”と首を傾げる。
その表情がなんとも愛らしかったのか、やっと離れられたのにまた思わず抱き寄せてしまった。
「一度帰って、両親に婚約の事を話してくる。明日の朝、また来るよ」
「……勘太郎さん、私、明日彩ちゃんとお伺いします。正式に父がご挨拶に向かう前に、勘太郎さんのご両親にきちんとお会いしてご挨拶したいです」
沙雪の言葉に勘太郎は頷き“わかった。じゃあ首を長くして待ってる”と微笑んだ。
「車を迎えに向かわせるから」
「はい、ありがとうございます。…私、認めてもらえるでしょうか…」
「沙雪を嫌う親なら、僕はとうに両親を見限ってる。大丈夫だよ、僕が愛した君なんだから」
不安げに見上げてくる沙雪の頬にそっと口付け、勘太郎はしっかりと頷いた。
そんな勘太郎の笑みと言葉に、沙雪も安心したように笑みを浮かべ、同じようにしっかりと頷いた。
「私、頑張ります。早く勘太郎さんに相応しいお嫁さんになれるように」
「僕にとっては、そのままの沙雪が最高の花嫁だよ。愛してるよ、沙雪」
向かい合わせに手を繋ぎ合い、額をこつんと合わせる。二人微笑みあいながらそのままそっと口付けた。
「あーぁ…、カメラで写真が一瞬で撮れたら…こっそり撮るのに」
当時のカメラ撮影の露出時間が約二分ほど。その後二~三十秒程で露出が可能となるカメラが発売されるが、未だ上流階級でも個人で所有しているものは殆どいなかった。
「そうですねぇ…あのお似合いな所を撮れないのはとても残念…勿体ない…いや、あのお二人なら二分あのままでいてと言ってもそのままでいてくれそうですけど…」
彩子の言葉にくすくす笑い、そうかもしれないと公子と宮子は頷く。
「そういえば…最後に怜さんが写真を撮ると仰っていたような…?」
公子の言葉に宮子と彩子は揃ってドレスを整え始める。やはり二人ともお年頃の婦女子である。
お互いのどれをや髪形をあぁでもないこうでもない、とお互いに手を出しながら整えていく。
「やっぱり、公子さんが一番綺麗じゃないとね」
公子が微笑ましく二人を見ていれば、ある程度整え終えた二人がにこりと微笑み公子を見た。
首を傾げる公子に近づき、二人はどこへ隠し持っていたのか、ヘアピンやブラシを取り出して公子を椅子に座らせ、髪形とドレスを整え始めた。
やはりここでもあぁでもないこうでもない、これはこう、と言いながら。公子はまるで二人のおもちゃである。
「公子さん、宮子は御髪を整えるのがとても上手ですから、安心して任せてくださいね」
いつの間にか戻ってきた沙雪が三人を見て微笑む。
「沙雪も後で直すわよ」
「私はいいの。勘太郎さんのお傍に居るだけで、なんだか綺麗になれる気がするもの」
そう言って微笑む沙雪は確かにキラキラと輝いている。
しかし、お洒落女子はそんな沙雪でも見逃すことはなかった。
「なんだか良く絡まれて喧嘩も場慣れしていますから。心配しなくても大丈夫なんです」
勘太郎の姿を見つけ、沙雪は立ち上がり駆け寄っていく。
彩子の言葉に宮子と公子が勘太郎を見れば、なるほど、ピンピンしている。
「勘太郎さん!」
「ただいま、沙雪」
駆け寄ってきた沙雪を抱きしめ、勘太郎はニコリと微笑む。
「…お兄様ですか?」
「みたいだねぇ。よっぽど僕が気に入らないらしい」
「ひどい…いくら何でも…」
呟きながらギュっと抱き着く力を込める沙雪。少しばかり潤む瞳を見て、勘太郎は優しく微笑み沙雪をきつく抱きしめた。
「勘太郎さん…」
「大丈夫。僕は怜さんになんか負けない。沙雪を想う気持ちもね」
こっそりと勘太郎の様子をうかがうも、どこか殴られた様子もないし、何なら服も一切汚れていない。
きっと大丈夫だろう、そう安心し沙雪は勘太郎にすり寄った。
「勘太郎さん…大好きです。貴方が大好き」
「ん、僕も」
微笑みながら勘太郎は沙雪の顎をそっとすくい口付けた。
沙雪の唇を自らの唇でなぞり、押し付ける。
「あら熱烈…」
「でもお似合い」
「本当に。見ているほうは少し恥ずかしいですけれど」
微笑みながら勘太郎と沙雪を見守る三人。
それでも気恥ずかしいのか公子がふと怜を見れば、頬を腫らした数人と話しているところであった。
その表情は冷酷そのもので、公子ですら思わずぞくりと背筋が震えた。ふと、怜がこちらを見そうな気配に気づき、バッと顔をそらす。見ていることを知られるのがもはや恐怖だった。
「沙雪、今日は誰かに傍に居てもらえそうかい?」
「はい、明日はお休みなので、宮子が泊まりたいと…」
唇が離れ、体も少し離れて、勘太郎は沙雪を見て首を傾げる。
「あと、彩子も仲間に入れてあげてくれる?」
勘太郎の言葉に勿論とばかりに頷き、“…勘太郎さんは?”と首を傾げる。
その表情がなんとも愛らしかったのか、やっと離れられたのにまた思わず抱き寄せてしまった。
「一度帰って、両親に婚約の事を話してくる。明日の朝、また来るよ」
「……勘太郎さん、私、明日彩ちゃんとお伺いします。正式に父がご挨拶に向かう前に、勘太郎さんのご両親にきちんとお会いしてご挨拶したいです」
沙雪の言葉に勘太郎は頷き“わかった。じゃあ首を長くして待ってる”と微笑んだ。
「車を迎えに向かわせるから」
「はい、ありがとうございます。…私、認めてもらえるでしょうか…」
「沙雪を嫌う親なら、僕はとうに両親を見限ってる。大丈夫だよ、僕が愛した君なんだから」
不安げに見上げてくる沙雪の頬にそっと口付け、勘太郎はしっかりと頷いた。
そんな勘太郎の笑みと言葉に、沙雪も安心したように笑みを浮かべ、同じようにしっかりと頷いた。
「私、頑張ります。早く勘太郎さんに相応しいお嫁さんになれるように」
「僕にとっては、そのままの沙雪が最高の花嫁だよ。愛してるよ、沙雪」
向かい合わせに手を繋ぎ合い、額をこつんと合わせる。二人微笑みあいながらそのままそっと口付けた。
「あーぁ…、カメラで写真が一瞬で撮れたら…こっそり撮るのに」
当時のカメラ撮影の露出時間が約二分ほど。その後二~三十秒程で露出が可能となるカメラが発売されるが、未だ上流階級でも個人で所有しているものは殆どいなかった。
「そうですねぇ…あのお似合いな所を撮れないのはとても残念…勿体ない…いや、あのお二人なら二分あのままでいてと言ってもそのままでいてくれそうですけど…」
彩子の言葉にくすくす笑い、そうかもしれないと公子と宮子は頷く。
「そういえば…最後に怜さんが写真を撮ると仰っていたような…?」
公子の言葉に宮子と彩子は揃ってドレスを整え始める。やはり二人ともお年頃の婦女子である。
お互いのどれをや髪形をあぁでもないこうでもない、とお互いに手を出しながら整えていく。
「やっぱり、公子さんが一番綺麗じゃないとね」
公子が微笑ましく二人を見ていれば、ある程度整え終えた二人がにこりと微笑み公子を見た。
首を傾げる公子に近づき、二人はどこへ隠し持っていたのか、ヘアピンやブラシを取り出して公子を椅子に座らせ、髪形とドレスを整え始めた。
やはりここでもあぁでもないこうでもない、これはこう、と言いながら。公子はまるで二人のおもちゃである。
「公子さん、宮子は御髪を整えるのがとても上手ですから、安心して任せてくださいね」
いつの間にか戻ってきた沙雪が三人を見て微笑む。
「沙雪も後で直すわよ」
「私はいいの。勘太郎さんのお傍に居るだけで、なんだか綺麗になれる気がするもの」
そう言って微笑む沙雪は確かにキラキラと輝いている。
しかし、お洒落女子はそんな沙雪でも見逃すことはなかった。
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