白き薔薇の下で永遠の純心を君に

綾峰由宇

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三十五

公子を完璧に仕立て上げ、次は沙雪に狙いを定める。

「確かに沙雪姉様は美しいです。でもお兄様、沙雪姉様には更に美しくなってほしいと思いませんか?思うでしょう?思いますよね?」
「まぁ、ね。充分可愛くて綺麗だとは思っているけども…。でも沙雪、これ以上可愛くなって僕をどうしたいのかな?」

呟きながら沙雪を見れば、苦笑しながら自らを見上げる真ん丸の瞳が目に入る。
勘太郎はいつでも沙雪を褒める。嫌味もなく、真っすぐぶつけてくる勘太郎のその言葉は全く嫌ではないのだが、真っすぐであるが故に照れてしまうのである。

「勘太郎さんは、手放しで私を褒めすぎだと思います。彩ちゃんや宮子もそうですけど…。皆さんがそんなに言う程じゃ…」
「何を言ってるの沙雪。君は世界一可愛いよ?」

至って真顔で首を傾げながら呟く勘太郎に、うんうんと肯定の意を表している彩子と宮子。
公子は頷きこそしないものの、おっとりと微笑んでいた。

「日本の美しき令嬢三選に選ばれてますし」
「この間、見開きで沙雪姉様のお写真が載っているのを見ました」
「ほら、世間も認める愛らしさ」
「うう…」
「さ、いつまでも可愛いそうじゃないと言い合っていないで、可愛くなっちゃいましょう」

彩子に背を押され、沙雪は勘太郎と共にテーブルへと戻る。そして椅子に座れば待ち構えていた宮子により、髪をいじられ始めた。

「そういえば、お兄様はいつ、どうしてお姉様をお好きになったの?」

しゃがみ込みながら沙雪のドレスを整えつつ彩子が問う。お茶を飲んでいた勘太郎が視線を向ければ、妹の興味津々な瞳が返ってきた。最近彩子の好きな恋の話である。

「いつ…?というともう、初めて会った時だねぇ…」

空を見上げ呟く勘太郎に、一同視線を向ける。中でも沙雪は驚いた眼をしているのがわかった。

「沙雪、どうしたの?」
「だって勘太郎さん…。初めて私たちが会ったのって、私が四歳であなたが六歳の時です、よ?いた」
「動いちゃだめよ沙雪」

宮子によってぐい、と顔を動かされる沙雪に苦笑し、勘太郎はそうだねぇ、と頷く。

「うん、だって沙雪は僕の初恋だもの」

こくこくと頷く勘太郎に、沙雪は思わず惚けてしまう。
そんな沙雪の髪をまとめながら宮子が口を開いた。

「ちなみに沙雪、貴女の初恋は?」
「それは興味があるなぁ…」

宮子の問いに勘太郎が首を捻りながら呟く。
そういえばこの十何年、会う回数も話をする回数も多くあったが、恋の話は全くなかった気がする。というよりも、沙雪の口から他の男の話を聞きたくなかったというのが本心かもしれない。

「私と話している間、貴女から聞く男性の名前はお父様、お兄様、一ノ宮様だけでしたし?」
「私と話しているときも、ご家族と一ノ宮様しか聞いたことないですねぇ…」
「私の時はお兄様だけでしたね、沙雪姉様…」

宮子の言葉に公子がそういえばと頷き、彩子が腕を組みながらうんうんと頷く。
という事は、と一同沙雪に視線を向ければ、沙雪は観念したかのように真っ赤になりながら白状するがごとく右手を挙げた。

「か…勘太郎さん…です」

呟くなり更に頬を真っ赤に染める沙雪に、矢張りね、と大納得の一同。

「あら、じゃあ初恋同士ですね、お兄様」
「純愛ですねぇ…」

頷きながら呟く彩子と公子に沙雪は勘太郎を見上げ、そしてその表情に思わず小さく笑ってしまった。

「お兄様、頬がゆるゆるですよ」
「あぁ、ごめん。嬉しすぎてつい…」

沙雪の代わりに彩子が指摘し、勘太郎は掌で頬をかるく揉む。
そんな勘太郎にそっと沙雪は近付いた。いつの間にか、髪もドレスも整い終えていたらしい。そんな沙雪の手を引いて肩を抱く。

「うん、可愛くしてもらったね」
「はい、ありがとうございます」
「でも、お互い初恋だったのなら、もっと早くこんな関係になれたじゃないか。ちょっと悔しいなぁ…」

そう呟き勘太郎は沙雪を見る。

「だから沙雪、これからはさ」
「はい」

首傾げる沙雪の耳に唇を寄せる。
耳にかかる吐息に、わずかに肩を震わせると勘太郎の優しく甘い声が流し込まれる。

「何があっても、僕の傍から離れないで。僕も君から離れるなんてことはしないから」
「勘太郎さん…はい、勿論。今、私が一番望んでいて、これからも望み続けることですもの」

耳元で囁かれピクリとしながらも勘太郎を見上げ微笑み答える。
周りの三人には何を言ったかは聞こえていないようだが、それでも微笑ましく見守ってくれることに感謝である。
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