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三十六
「おや、そろそろ写真を撮るみたいだよ。行こう」
怜がこちらを見ていることに気付いた勘太郎が皆に声をかける。
公子がいち早く動き、宮子と彩子もそれに続く。
しかし、沙雪がなかなか動こうとしない。何事かと勘太郎が心配そうに顔を覗き込めば、そのまま沙雪に口付けられた。
「沙雪…?」
突然のことに驚き、小さく苦笑すれば沙雪の頬を撫で、今度は勘太郎が口付けた。
怜の突き刺さらんばかりの視線に気づいているのかいないのか、二人はそっと微笑みあう。
「沙雪、どうしたの?」
「…やっぱり、お兄様が怖いんです。でも、こうしたら大丈夫かと…」
「もう…なんでそんなに可愛いの?沙雪ってば」
「きゃ…っ」
勘太郎に抱き締められ、沙雪も微笑みながら抱き着く。
矢張り怜の目つきと共に周りの男性陣の視線も険しくなる。
二人の仲睦まじさを見れば、割りいることができないことは解っている。
公式か非公式かまだ定かではないが、婚約も発表された。仕方なしに一旦認めたものの、すぐに諦められるものではない。
「ねぇ、彩子ちゃん…」
そんな一同の様子を眺めていた宮子。思うところがあるのか、彩子にそっと声をかける。
「どうしました?」
「…男性陣の皆様の視線と、怜様の視線…同じ感情が滲んでいると思わなくて?」
宮子の言葉にこっそりと怜の表情を垣間見る。
視線はしっかり沙雪と勘太郎。その瞳の奥の感情までは読み取れないが、確かに周りの男性陣と似た、嫉妬混じりの目つきには見えた。
「怜さんは、本当に沙雪さんを大切に思ってらっしゃいますから」
二人も会話が聞こえていたらしい、公子が苦笑交じりに呟けば、宮子は慌てたように手を振った。
「あっ、ごめんなさい公子さん…怜様の婚約者であるあなたの前で失礼なこと…」
「良いんです、宮子さん。お気になさらないで」
微笑みながら頷く公子に、ほっとしたような笑みを浮かべ、宮子はもう一度謝罪してから礼を言った。
しかし、彩子は目を細め、再度怜を見た。睨み付けるようなまなざし。
今日、朝西園寺家を訪れてから、彩子は沙雪と怜の距離感が気になっていた。
以前、勘太郎と共に沙雪と怜と会ったときは、沙雪はもっと怜の傍に居た。勘太郎が少々妬いてしまう程度には仲の良い兄妹だったはずだ。
勘太郎と付き合い始めたから、年頃だから、理由を付けようとすればこの距離感の説明は出来るが、何だかどれも腑に落ちない。
怜の眼差し。それが何を意味するのかを、彩子は気づき始めてしまったのかもしれない。
一方、公子も彩子と宮子の会話に、内心焦っていた。
これまでの言動から、怜が沙雪を妹以上の感情を持ってみていることは嫌でも理解してしまった。
だが、その事実を、この家の中から出すわけにはいかないのだ。
とっさに否定はしたものの、訝しげな表情の彩子を見て、公子は肝が冷える思いをするのであった。
「…沙雪姉様、お兄様!いつまでもいちゃいちゃなさってないで、早くいらしてくださいよー!」
にこりと微笑み手を上げながら彩子が勘太郎と沙雪を呼ぶ、呼ばれた二人はしっかりと手を繋ぎ、苦笑しながらも輪の中に入ってきた。
「よし、皆の衆、目つきが悪いぞ?せっかくの写真なんだ。たかが数分笑っていたまえ」
怜と公子を中心に二列ほどで撮影のために列を作った一同。
本日のカメラ写真家は光の知り合いらしく、カメラマンの隣に立ってくすくす笑いながら皆に指示を出す。
皆も光の指示に従いながら、何やかんやと写真を撮り終えた。
出来上がった写真は、さぞかしひきつった笑みが多いだろうと推察する。
「宮子さんは、今日はお帰りに?」
「いいえ、明日もお休みですし、泊まらせてもらおうと思っています」
公子の問いに答え、宮子は微笑み答える。
この日だけではなく、宮子はよく沙雪の家へ泊る。反対に、沙雪もまた宮子の家へお邪魔して泊まることもある。
二人ともお互いの家を行き来し、乙女の秘密の話を繰り広げるのが何より楽しみなのだ。
「いいなぁ、宮子さん。私も沙雪姉様ともっとお話ししたいです」
「あら、良ければ彩ちゃんも泊まって?是非。今夜は女性陣でもっとたくさんお話ししましょう?公子さんも」
にこりと微笑む沙雪に、彩子の表情がパッと明るくなる。そして喜びのあまり沙雪に抱き着いた。
と同時に勘太郎が沙雪の背を支える。
そんな勘太郎を見上げ、沙雪は唇だけで、ありがとうございます、と呟いた。
「そして、私と明日一緒に帰りましょうね?」
「お姉様が…今度はうちに来てくれるの?」
彩子の言葉に、沙雪はにこりと微笑み頷く。
沙雪に、そして兄の勘太郎に似て鋭い彩子。沙雪が何をしに自らの屋敷に来るのか、察したようである。
怜がこちらを見ていることに気付いた勘太郎が皆に声をかける。
公子がいち早く動き、宮子と彩子もそれに続く。
しかし、沙雪がなかなか動こうとしない。何事かと勘太郎が心配そうに顔を覗き込めば、そのまま沙雪に口付けられた。
「沙雪…?」
突然のことに驚き、小さく苦笑すれば沙雪の頬を撫で、今度は勘太郎が口付けた。
怜の突き刺さらんばかりの視線に気づいているのかいないのか、二人はそっと微笑みあう。
「沙雪、どうしたの?」
「…やっぱり、お兄様が怖いんです。でも、こうしたら大丈夫かと…」
「もう…なんでそんなに可愛いの?沙雪ってば」
「きゃ…っ」
勘太郎に抱き締められ、沙雪も微笑みながら抱き着く。
矢張り怜の目つきと共に周りの男性陣の視線も険しくなる。
二人の仲睦まじさを見れば、割りいることができないことは解っている。
公式か非公式かまだ定かではないが、婚約も発表された。仕方なしに一旦認めたものの、すぐに諦められるものではない。
「ねぇ、彩子ちゃん…」
そんな一同の様子を眺めていた宮子。思うところがあるのか、彩子にそっと声をかける。
「どうしました?」
「…男性陣の皆様の視線と、怜様の視線…同じ感情が滲んでいると思わなくて?」
宮子の言葉にこっそりと怜の表情を垣間見る。
視線はしっかり沙雪と勘太郎。その瞳の奥の感情までは読み取れないが、確かに周りの男性陣と似た、嫉妬混じりの目つきには見えた。
「怜さんは、本当に沙雪さんを大切に思ってらっしゃいますから」
二人も会話が聞こえていたらしい、公子が苦笑交じりに呟けば、宮子は慌てたように手を振った。
「あっ、ごめんなさい公子さん…怜様の婚約者であるあなたの前で失礼なこと…」
「良いんです、宮子さん。お気になさらないで」
微笑みながら頷く公子に、ほっとしたような笑みを浮かべ、宮子はもう一度謝罪してから礼を言った。
しかし、彩子は目を細め、再度怜を見た。睨み付けるようなまなざし。
今日、朝西園寺家を訪れてから、彩子は沙雪と怜の距離感が気になっていた。
以前、勘太郎と共に沙雪と怜と会ったときは、沙雪はもっと怜の傍に居た。勘太郎が少々妬いてしまう程度には仲の良い兄妹だったはずだ。
勘太郎と付き合い始めたから、年頃だから、理由を付けようとすればこの距離感の説明は出来るが、何だかどれも腑に落ちない。
怜の眼差し。それが何を意味するのかを、彩子は気づき始めてしまったのかもしれない。
一方、公子も彩子と宮子の会話に、内心焦っていた。
これまでの言動から、怜が沙雪を妹以上の感情を持ってみていることは嫌でも理解してしまった。
だが、その事実を、この家の中から出すわけにはいかないのだ。
とっさに否定はしたものの、訝しげな表情の彩子を見て、公子は肝が冷える思いをするのであった。
「…沙雪姉様、お兄様!いつまでもいちゃいちゃなさってないで、早くいらしてくださいよー!」
にこりと微笑み手を上げながら彩子が勘太郎と沙雪を呼ぶ、呼ばれた二人はしっかりと手を繋ぎ、苦笑しながらも輪の中に入ってきた。
「よし、皆の衆、目つきが悪いぞ?せっかくの写真なんだ。たかが数分笑っていたまえ」
怜と公子を中心に二列ほどで撮影のために列を作った一同。
本日のカメラ写真家は光の知り合いらしく、カメラマンの隣に立ってくすくす笑いながら皆に指示を出す。
皆も光の指示に従いながら、何やかんやと写真を撮り終えた。
出来上がった写真は、さぞかしひきつった笑みが多いだろうと推察する。
「宮子さんは、今日はお帰りに?」
「いいえ、明日もお休みですし、泊まらせてもらおうと思っています」
公子の問いに答え、宮子は微笑み答える。
この日だけではなく、宮子はよく沙雪の家へ泊る。反対に、沙雪もまた宮子の家へお邪魔して泊まることもある。
二人ともお互いの家を行き来し、乙女の秘密の話を繰り広げるのが何より楽しみなのだ。
「いいなぁ、宮子さん。私も沙雪姉様ともっとお話ししたいです」
「あら、良ければ彩ちゃんも泊まって?是非。今夜は女性陣でもっとたくさんお話ししましょう?公子さんも」
にこりと微笑む沙雪に、彩子の表情がパッと明るくなる。そして喜びのあまり沙雪に抱き着いた。
と同時に勘太郎が沙雪の背を支える。
そんな勘太郎を見上げ、沙雪は唇だけで、ありがとうございます、と呟いた。
「そして、私と明日一緒に帰りましょうね?」
「お姉様が…今度はうちに来てくれるの?」
彩子の言葉に、沙雪はにこりと微笑み頷く。
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