白き薔薇の下で永遠の純心を君に

綾峰由宇

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三十七

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「今日の夜も楽しみだけれど…明日も楽しみです、沙雪姉様」

彩子の言葉に、沙雪は小さく苦笑で返す。彩子には楽しみでも、沙雪には緊張の一日になることは必須。
いくら勘太郎が何度も大丈夫と言ってくれても、やはり緊張はしてしまうものらしい。

「お兄様は?」
「僕は一旦帰るよ、お姫様達の中に混ざるわけにはいかないし、両親に話すこともあるしね」

勘太郎の言葉に、彩子が沙雪を見上げる。
微笑みながら沙雪は彩子の頭を撫で頷いた。

「勘太郎さんと、一日も早く一緒になれるように頑張るから…応援してね?彩ちゃん」
「勿論です、沙雪姉様!私だって一日も早く沙雪姉様にうちに来てほしいもの」

屈託なく笑って見上げてくる彩子に、沙雪もまた嬉しそうに微笑む。
沙雪と彩子には本当の姉妹以上の絆が紡がれている様である。

「さて、園遊会もそろそろお開きのようだし…。僕は失礼しようかな」

勘太郎の言葉に沙雪はわずかに表情を曇らせた。
それを見逃す筈がないのが、勘太郎である。沙雪の頭を撫で微笑み、そのまま頬に指を滑らせれば、顎を掬い口付けた。

「明日、待っているからね?大丈夫。沙雪の想っている通りに向く様に話しをするつもりだから、安心して」
「…え?」

首を傾げ勘太郎を見上げる。
沙雪の望み、思っていることは一つである。だが、未だ口に出してはいない。
公子には少し漏らしてしまったが、公子がわざわざそれを勘太郎に言う理由もない。
いくら勘太郎が我儘を言って欲しいと、聞いてあげるからと言われても、中々自らねだれるものでもなかった。
この家を出て、勘太郎と共に暮らしたいなどと…。
少々自由に育っては来たが、沙雪は一人前の淑女。流石に同棲など出来るわけがない。
それなのに、勘太郎は沙雪の考えをあっさりと見抜いたようである。

「勘太郎さん…」
「僕の望みも沙雪と一緒。でもまだ僕たちは少し若いから、自由ではないだろうけど。でも、一緒に時を過ごすことは出来るようになると思うよ」

笑みを溢しながら沙雪の頭を撫で、勘太郎は呟く。

「…有り難うございます、勘太郎さん…。私、そのお気持ちだけでとても勇気が湧いてまいりました」

呟きながら穏やかに微笑み沙雪を見れば、勘太郎も安心したように頷き、そして沙雪の頭を撫でた。

「よし、じゃあ僕はそろそろお暇するよ。一晩彩子を宜しく。彩子、沙雪に迷惑かけるんじゃないよ?」
「はい、お兄様。確りと沙雪姉様と楽しみます」

勘太郎の言葉にこくりと頷き答える彩子。
その返答に沙雪はころころと愛らしく笑い、勘太郎は苦笑し彩子の頭を撫でた。

「沙雪が笑わなかったらげんこつだぞ?全く…」
「まぁ、兄様ったら…。沙雪姉様以外には物騒なんですから…。わかりました。良い子にして沙雪姉様や西園寺家の方へご迷惑はかけません」
「よろしい。じゃあ沙雪、また明日。宮子さん、公子さん、ついでに怜さん、ご機嫌よう」

微笑み周りを見回す勘太郎。
怜の姿を見れば、沙雪の手を取り歩き出した。
次いで呼ばわりをされた怜は苦々しい顔をしていたが、宿泊していく友人たちにつかまり、離れへと入っていった。

「勘太郎さん?」
「寂しそうな顔してる。甘えん坊さん」

門までやって来れば、くすくす笑いながら沙雪の頬を撫でる。
その温かい感触にそっと目を閉じ、沙雪は勘太郎にすり寄った。

「あなたを愛してますもの。離れることが寂しくないわけないです」
「嬉しいことを言ってくれるね。全く…」

頬を緩ませ、にこりと笑みを溢しながら勘太郎は沙雪を抱き寄せる。

「宮子さんや彩子と話して、眠ったら明日はすぐだよ。そうしたら、また会えるじゃない」
「勘太郎さんは、寂しくないんですか?」
「寂しいというか…恋しいかな。本当は今すぐ連れ去って妻にしないくらいなんだから」

呟くと同時に強く抱きしめる。
その行動で、勘太郎の言葉がいかに本気かがよく分かった。沙雪は笑みを深め、勘太郎に抱き着く。

「…私も、恋しい。いつも、自分の気持ちに気付くまで、どうして夜がこんなに長いのかと思っていたんです。勘太郎さんが、恋しくてたまらなかったからなんですね」

勘太郎に教わって、初めて理解したこの気持ち。
勘太郎と離れた瞬間から次が待ち遠しかったのは、彼が恋しかったからなのだと、ようやくわかった。

「そんな可愛いこと言って…本当に連れ去っちゃいたくなっちゃうでしょ?」
「…良いですよ?私を連れ去っても」

小さく首を傾げながら呟く沙雪の頬に口付け、苦笑交じりに勘太郎は沙雪を見る。

「とってもギリギリのところで理性を保ってるんだから、そんな健気な僕を惑わさないの。沙雪は本当に…」
「本当に?」
「僕の女神だよ。時に幸せを、喜びを、時に焦燥を、時に誘惑を、様々なものを与えてくれて、その全てをいとおしいと思わせれくれる、可愛い人」

勘太郎の言葉に、沙雪は笑みを深め再度寄り添った。

「じゃあ、行ってくるね」
「…はい、行ってらっしゃいませ、勘太郎さん」

軽く沙雪の肩を押し、そっと離れれば身を屈め口付ける。
小さく頷けば沙雪も頷き、そして返答をした。
手を振り、帰路へとつく勘太郎の姿が見えなくなるまで、沙雪はその背をずっと見送っていた。
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