白き薔薇の下で永遠の純心を君に

綾峰由宇

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三十九

「お待たせ、宮子」
「おかえりなさい、沙雪。光様と何を話していたの?」

宮子の問いに、沙雪は小さく微笑む。
光が社交界で注目の紳士だという事は皆が知っている。それと同時に、光が恋多き男性という事も周知の事実。
故に、娘を今光の手に落とさせぬよう、彼に近づかぬ様厳しく注意する親も少なくはない。
宮子も両親から、自ら男性、特に光に近づくな、と言われていたが為に、話しかけられれば答えるものの、未だに自ら近付くことはしていない。

「婚約のお祝いと、勘太郎さんについて少々お話をしてたの」
「倉科様…光様って、やっぱりその、いろんな方とお付き合いしてらっしゃるんでしょう?沙雪は大丈夫なの?」

心配そうにこちらを見る宮子に、沙雪は微笑んで頷く。

「光様は、確かにたくさんの方にオモテになられるから、お付き合いしてきた方は多いと思うけれど…。一度に複数の方と付き合ってりはしていないのよ?それに、私にはお土産を下さったり、楽しくお話ししてくださってはいたけれど、ひどいことをされたり、付き合いを求められたこともないの」
「でも、見ただけでわかるわ。光様も、貴女の事がお好きだって」

宮子の言葉に、沙雪は軽く目を見開いてから頷く。
沙雪は人の心情には敏感ではあるが、自らに向けられる恋愛感情にはとんと疎いし、自らが持つ恋心にも鈍かった。
けれど、宮子は沙雪とは反対に、人の恋模様にとても敏感である。
単純に興味の違いなのだろうが、沙雪も宮子や彩子のその恋の話、恋心の機微には素直に感心する。

「さっき、言われました」
「やっぱり」
「本当に沙雪姉様はモテるんですから。婚約を発表しても、しばらくは落ち着かないかもしれませんねぇ」
「それもちょっと困ってしまうような…」
「まぁ、沙雪姉様はお兄様以外目に入りませんもんね」

彩子の言葉にその通り、と頷き沙雪は微笑む。
ごちそうさまです、と宮子は彩子と共に頷く。

「公子さん、今日は怜兄様も離れでご友人方とお話しするみたいですし、公子さんも私たちと一緒にお話ししませんか?」
「私も、良いんですか?」

沙雪の誘いに首を傾げ問う公子。
勿論、当たり前じゃないですか、と頷く沙雪に続く様に宮子も彩子も頷く。

「では、お邪魔いたしますね」
「はい!では、窮屈なドレスを脱ぎに行きましょうか。実はコルセットを締めすぎて少々苦しくて」

くすくすと笑う沙雪に、同感、と項垂れる一同。
綺麗にドレスと着るためとはいえ、この締め付けは少々厳しい。脱げるならばいざ早く!と言わんばかりに、少女たちは館へと足早に向かうのであった。

「はぁ…解放感ってこういう事を言うんですね…」
「彩ちゃんもお着物が多いものね」
「はい、洋装もしますけど、ドレスをしっかり着たのはほとんど初めてでした。帯の締め付けと、コルセットの締め付けは全く違いますね」

ドレスからゆったりとしたワンピースへと着替えた沙雪たちは、客間を占領し何度目かのお茶会を開催していた。
食べきれなかった食事も少しだけ頂戴し、あいさつ回りで食べる間もなかった公子へと差し出す。

「ありがとう、沙雪さん」
「いえ、ドレスの締め付けの中食べるのも大変ですし、食べてからドレスを着るとますます苦しいしで、本当に不便ですよね」

くすくす笑いながら、沙雪もサンドイッチに手を伸ばす。
沙雪もそこそこ食べていた気はするが、矢張り精神的に張っていた部分もあったのか、緊張から解放され食欲が出てきたらしい。
そんな沙雪に一安心というばかりに彩子も頷き、彼女もまた焼き菓子に手を伸ばす。皆が食べるならば、と宮子も焼き菓子に手を伸ばし、しばし小腹を満たす。

「だけど、沙雪に先を越されると思わなかったわ…」

焼き菓子を飲み込み、ティーカップを持ち上げながら宮子は呟く。

「そうね、私も宮子の方が早いだろうと思っていたもの」

二人とも結婚願望は薄いものの、いずれするだろうとは思っていたし、ある意味覚悟のようなものもしていた。
沙雪と違い宮子は就職を希望しているわけではないが、すぐに結婚をする気もない様で、しばらくは花嫁修業とかこつけてゆっくり過ごそうと思っている様である。
それでもいずれはどこかの御曹司と見合いをして結婚することになるだろうと思っていた。
沙雪も同じだと思っていれば、決定事項ではないものの、あっさりと婚約をしてしまった。

「とんだ裏切りだわ」
「またそんなこと言って」

くすくす笑って返すことから、沙雪もこれが宮子の冗談であるとわかっている。それだけの絆を二人は育んできているのだから。

「沙雪様、お電話でございます。一ノ宮勘太郎様から」
「もうご自宅へ着かれたんですね」
「で、早速沙雪姉様に連絡とは…我が兄ながらまめですねぇ」

高山がノックと共に声をかけ、沙雪は微笑み立ち上がる。

「すぐに参ります。公子さん、宮子、彩ちゃん、少し失礼いたしますね」

皆に断り、何とも軽い足取りで沙雪は電話へと急ぐのであった。

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