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四十二
「そろそろ夜も更けて来ましたし、寝ましょうか」
時計を見ながら沙雪が呟けば、皆一様にそれもそうねと頷く。
沙雪と彩子は翌日に予定があるし、宮子も今日宿泊をしたのだから明日は早めに帰るつもりである。
そもそも、沙雪も出かけてしまうのだから長居する理由はない。
公子も久しぶりに同年代の女性陣と話せて満足げであるし、普段からあまり夜更かしをしない彼女はすでに眠そうである。
「…ねぇ沙雪、私すっかり忘れていたのだけど、宿題は終わって?」
「ええ、終わってるわよ」
「……貴女のどこにそんな暇があったの?」
「時間を見て少しずつ進めたの。だって猶予は一週間あったでしょう?」
そこを言われると弱い。
月曜日に提出する予定の宿題は浴衣。夏に向けての寝巻にしようというテーマで、裁縫の先生から出されたものである。
園遊会の準備はあったものの、沙雪は暇を見つけては少しずつ取り組んでいた為に、木曜日には出来上がって後は提出をするばかりである。
「宮子、お裁縫苦手じゃないでしょう?」
「苦手ではないけれど、気が乗らない時はあるの」
宮子のその気持ちもよくわかる。
沙雪も気分が乗らない時は中々取り組めない。
「月曜日の朝、終わってなかった部分は一緒にやりましょう?二人でやったらきっと早く終わるわ」
「沙雪…良いのよそんな」
「あら、私がお数字の宿題を忘れてしまったときも宮子は手伝ってくれたじゃない」
お互い様よ、と微笑む沙雪に、宮子もまた微笑み嬉しそうに微笑む。
「ありがとう、沙雪。明日、出来るだけやってみる」
「宮子ならやる気になったらすぐ終わらせてしまいそうな気もするけれど」
そう言ってくすくす笑う沙雪に、そうかも、と返す宮子である。
「私も女学校へ通っていたら、沙雪姉様たちと通えていたんですよね」
「そうね、でも彩ちゃんは家庭教師でとっても優秀って聞いたわよ?」
ぽつりとつぶやいた彩子に、沙雪は微笑み問いかける。
「他にやることもなかったし、勉強は楽しかったんです。でも、やっぱりお友達と一つの部屋で勉強したり、お掃除したり、帰りに寄り道したり、そういう学校にも行きたかったなって思うんです」
沙雪と宮子の通う女学校は、裕福な子女の通う由緒正しい歴史ある学校である。
彩子も健康ならば、沙雪の一つ下の学年で通っていた可能性はある。
「もう少し体の具合が良くなれば、学校も通えるんじゃないかって、期待しているんですけど」
「近頃の彩ちゃんはお医者様が驚くほど具合が良いと勘太郎さんに聞いたわ。だからお薬を頑張って、体力を少しずつ付けたらその夢もかなうかもしれないわ」
「沙雪姉様…私、頑張ります!でも、一番の夢は学校じゃないんですよ?」
「え?」
彩子の言葉に沙雪は首を傾げる。
「私の一番の夢は、お兄様と沙雪姉様の結婚式で、沙雪姉様からブーケを頂くことです」
「ブーケ…」
読書家でもある彩子が海外の本で知ったらしいブーケトス。
ブーケは花嫁の持つ花束。その花嫁が投げたブーケを受け取ったものが、次の花嫁になるという言い伝えだ。
洋装での結婚式も増えては来ているが、まだまだ格好だけで、やることは白無垢の物と変わらないことも多いという。
そんな中での彩子の説明に、沙雪のみならず、宮子も瞳をキラキラと輝かせる。
「素敵!」
「そんな素敵な風習があるのね。次の花嫁につながるなんて素敵」
「公子さんの結婚式はは、洋装ではないんですか?」
「そういう話はまだとんと出ていなくて…洋装も憧れてはいますけど、今日のコルセットの事を考えると、私は和装の方がいいかも、なんて思ってしまいます」
公子のその返答に、コルセットの苦しさを思い出したのか、彩子は腹の辺りを撫でる。
「確かに……ただでさえ緊張しそうなのに、更にあの締め付け…でも、沙雪姉様は慣れてらっしゃるし、洋装ですよね?!」
「私は勘太郎さんの望むままに。洋装は憧れますけどね」
「お兄様を説得しておきます!」
「頼もしい」
ぐっと胸の前で拳を握る彩子に、沙雪はころころと笑い、そして彩子の頭を撫でた。
「さ、彩子ちゃん、そろそろ寝ましょう?」
「もう少し起きていたいけれど……はい、明日も有りますものね」
「彩子ちゃんを送っていくだけではなくて他にも何かあるの?」
「ええ、勘太郎さんのご両親に簡単にではあるけれどご挨拶をしに行くの」
宮子の問いにこくりと頷き、沙雪は答える。
その後息をついたところを見ると、こっそり緊張している様である。
「あら、沙雪にしては珍しく緊張しているのね?」
「先ほどの電話で勘太郎さんからは好感触と聞いたけれど、でも…やっぱり緊張しちゃうの」
小さく苦笑し、沙雪はそっと胸元を撫でる。
「大丈夫だと思いますけど…両親ともに、沙雪姉様の事褒めちぎってるし」
「褒めちぎる……は言い過ぎなんじゃ……」
「いえ、それが事実なんです。沙雪姉様が遊びに来て下さって帰った後は、沙雪姉様のここが良かったとか、早く嫁に貰えってお兄様に詰め寄ったりとか」
僕だって早くそうしたいよ!が、その時のお決まりの返し文句だという事まで彩子は教えてくれた。
「だから、安心して大丈夫ですよ」
「……期待されているのが分かって嬉しいけれど、新たな重責になりそうだわ、彩ちゃん……」
大きな期待をかけられ、そのプレッシャーに緊張感が増す沙雪なのであった。
時計を見ながら沙雪が呟けば、皆一様にそれもそうねと頷く。
沙雪と彩子は翌日に予定があるし、宮子も今日宿泊をしたのだから明日は早めに帰るつもりである。
そもそも、沙雪も出かけてしまうのだから長居する理由はない。
公子も久しぶりに同年代の女性陣と話せて満足げであるし、普段からあまり夜更かしをしない彼女はすでに眠そうである。
「…ねぇ沙雪、私すっかり忘れていたのだけど、宿題は終わって?」
「ええ、終わってるわよ」
「……貴女のどこにそんな暇があったの?」
「時間を見て少しずつ進めたの。だって猶予は一週間あったでしょう?」
そこを言われると弱い。
月曜日に提出する予定の宿題は浴衣。夏に向けての寝巻にしようというテーマで、裁縫の先生から出されたものである。
園遊会の準備はあったものの、沙雪は暇を見つけては少しずつ取り組んでいた為に、木曜日には出来上がって後は提出をするばかりである。
「宮子、お裁縫苦手じゃないでしょう?」
「苦手ではないけれど、気が乗らない時はあるの」
宮子のその気持ちもよくわかる。
沙雪も気分が乗らない時は中々取り組めない。
「月曜日の朝、終わってなかった部分は一緒にやりましょう?二人でやったらきっと早く終わるわ」
「沙雪…良いのよそんな」
「あら、私がお数字の宿題を忘れてしまったときも宮子は手伝ってくれたじゃない」
お互い様よ、と微笑む沙雪に、宮子もまた微笑み嬉しそうに微笑む。
「ありがとう、沙雪。明日、出来るだけやってみる」
「宮子ならやる気になったらすぐ終わらせてしまいそうな気もするけれど」
そう言ってくすくす笑う沙雪に、そうかも、と返す宮子である。
「私も女学校へ通っていたら、沙雪姉様たちと通えていたんですよね」
「そうね、でも彩ちゃんは家庭教師でとっても優秀って聞いたわよ?」
ぽつりとつぶやいた彩子に、沙雪は微笑み問いかける。
「他にやることもなかったし、勉強は楽しかったんです。でも、やっぱりお友達と一つの部屋で勉強したり、お掃除したり、帰りに寄り道したり、そういう学校にも行きたかったなって思うんです」
沙雪と宮子の通う女学校は、裕福な子女の通う由緒正しい歴史ある学校である。
彩子も健康ならば、沙雪の一つ下の学年で通っていた可能性はある。
「もう少し体の具合が良くなれば、学校も通えるんじゃないかって、期待しているんですけど」
「近頃の彩ちゃんはお医者様が驚くほど具合が良いと勘太郎さんに聞いたわ。だからお薬を頑張って、体力を少しずつ付けたらその夢もかなうかもしれないわ」
「沙雪姉様…私、頑張ります!でも、一番の夢は学校じゃないんですよ?」
「え?」
彩子の言葉に沙雪は首を傾げる。
「私の一番の夢は、お兄様と沙雪姉様の結婚式で、沙雪姉様からブーケを頂くことです」
「ブーケ…」
読書家でもある彩子が海外の本で知ったらしいブーケトス。
ブーケは花嫁の持つ花束。その花嫁が投げたブーケを受け取ったものが、次の花嫁になるという言い伝えだ。
洋装での結婚式も増えては来ているが、まだまだ格好だけで、やることは白無垢の物と変わらないことも多いという。
そんな中での彩子の説明に、沙雪のみならず、宮子も瞳をキラキラと輝かせる。
「素敵!」
「そんな素敵な風習があるのね。次の花嫁につながるなんて素敵」
「公子さんの結婚式はは、洋装ではないんですか?」
「そういう話はまだとんと出ていなくて…洋装も憧れてはいますけど、今日のコルセットの事を考えると、私は和装の方がいいかも、なんて思ってしまいます」
公子のその返答に、コルセットの苦しさを思い出したのか、彩子は腹の辺りを撫でる。
「確かに……ただでさえ緊張しそうなのに、更にあの締め付け…でも、沙雪姉様は慣れてらっしゃるし、洋装ですよね?!」
「私は勘太郎さんの望むままに。洋装は憧れますけどね」
「お兄様を説得しておきます!」
「頼もしい」
ぐっと胸の前で拳を握る彩子に、沙雪はころころと笑い、そして彩子の頭を撫でた。
「さ、彩子ちゃん、そろそろ寝ましょう?」
「もう少し起きていたいけれど……はい、明日も有りますものね」
「彩子ちゃんを送っていくだけではなくて他にも何かあるの?」
「ええ、勘太郎さんのご両親に簡単にではあるけれどご挨拶をしに行くの」
宮子の問いにこくりと頷き、沙雪は答える。
その後息をついたところを見ると、こっそり緊張している様である。
「あら、沙雪にしては珍しく緊張しているのね?」
「先ほどの電話で勘太郎さんからは好感触と聞いたけれど、でも…やっぱり緊張しちゃうの」
小さく苦笑し、沙雪はそっと胸元を撫でる。
「大丈夫だと思いますけど…両親ともに、沙雪姉様の事褒めちぎってるし」
「褒めちぎる……は言い過ぎなんじゃ……」
「いえ、それが事実なんです。沙雪姉様が遊びに来て下さって帰った後は、沙雪姉様のここが良かったとか、早く嫁に貰えってお兄様に詰め寄ったりとか」
僕だって早くそうしたいよ!が、その時のお決まりの返し文句だという事まで彩子は教えてくれた。
「だから、安心して大丈夫ですよ」
「……期待されているのが分かって嬉しいけれど、新たな重責になりそうだわ、彩ちゃん……」
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