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第4章 芳しい花には裏がある
3.初めての遠征へ
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朝五時、私とミーチャは起床した。
彼女も今日から遠征に行くらしく、二人で手軽にサンドウィッチで朝食を済ませる。
「持ち物の用意は大丈夫?」
「ええ、もう一度確認しましたから問題ありませんわ」
重い物は男子三人が運んで下さるそうだ。
私は念の為に拡張魔法をかけたウエストポーチに、傷薬や解毒薬を入れて持って行く事にした。
ミーチャは自分の髪を結いながら、鏡越しに語り掛ける。
「ケント先輩達と一緒なんでしょ? なーんかイケメンだらけで楽しそうですなー!」
「た、確かに私以外は男性ですけれど……」
「イケメン三人と美少女が寝泊まりするんですよー? 何か起きないかワクワクしちゃわない!?」
彼女にそう言われて、私はハッとした。
そうだ。私以外は全員男子。そして、その三人は私が未来の旦那様候補に決めた方々だ。
これは……チャンスなのではありませんこと!?
「そうですわよ! 何か起きれば良いのですわ!」
椅子から急に立ち上がった私に、ミーチャがびくりと肩を跳ねさせた。
「お、おぉう……? それってつまり、ラブラブハプニングを自ら起こしにいく感じ? ていうか、やっぱりレティシアってあの中の誰かが好きだったりしちゃうんですかー!?」
おさげを結い終えた彼女は、興味津々な様子で目をキラキラさせながら振り向いた。
ストレートにそう問われた私はこう返す。
「そ、そうですわね……ケントさん以外は、まだ知り合って間も無いですし……少しずつ彼らを理解していきたいと思っていますわ」
「あーん、やっぱり選び難いもんねー! ケント先輩は優しくてキラキラしたイケメンって感じだし、ウォルグ先輩もクールだけどお菓子が好きってギャップが最高だし、ウィルも普段はあんなだけど黙ってれば色気がムンムンだし、決められないよねー!?」
朝からよくもまあそんなに叫べるものだなと驚きつつ、私は興奮気味の彼女に逆に問う。
「ミーチャさんは誰かお慕いしている殿方は居りませんの? それだけケントさん達を褒めていますし……」
「いやまあ、皆カッコイイとは思うんだけどね? 何ていうか、あたしには雲の上の存在すぎるメンズ達と言いますか……レティシアがあの中の誰か、もしくはリアンとか他の美男子とくっついてもらう方がテンションが上がるっていうか!? 生きる活力になるっていうか!!」
「そ、そういうものなんですの……?」
「そういうもんなんです! だーかーらっ!」
ミーチャに両肩をがっしりと掴まれ、真っ直ぐに見詰められる。
「気になる男子と何かあったら、すぐに報告して! あたしも力になれる事があれば協力するし、レティシアのウェディングドレス姿を拝む為なら頑張っちゃいますよ!」
「だ、誰ともお付き合いすらしていないのに気が早いですわよっ!」
「美男美女のカップル誕生を拝む事こそがあたしの夢だからっ! あーもう、そうやって照れてほっぺた赤くするとこもかーわーいーいー! こんなに可愛い女の子が幸せな結婚式を挙げて、友人代表としてお祝いの言葉を読み上げるのがあたしの至上の喜びなんですからね!!」
結婚式、か……。
そうよね。私もいつか、誰か素敵な男性と……
私は真っ白なドレスを身に纏って、左手の薬指にリングを嵌めてくれる、私だけの旦那様──
「……想像しましたね? 今、幸せな式を想像しましたね!?」
「し、して……」
「ましたね?」
「……ました……」
「そうです! それこそが夢見る乙女の幸せへのスタート地点なんですよ! あー、誰と結婚するのかなぁー! 今から楽しみで仕方無いんですけどどうしましょうか!」
「……と、とにかくその……私を好きになって下さるように、頑張るしかないのでは?」
私がそう言うと、ミーチャはきょとんとした顔で黙ってしまった。
さっきまであれだけ喋っていたのに、急にどうしたのかしら。
「ええと……どうしたの、ミーチャさん?」
「……レティシアって、意外と鈍感さん?」
「え?」
鈍感……?
「いや、だってほら。ウィルってどう見てもレティシアにベタ惚れでしょ? ケント先輩とウォルグ先輩もあたしよりレティシアに優しいし……リアンも何だかんだで好意的でしょ? これってどう考えてもめっちゃモテてるじゃないですか」
「ウィリアムはまあ初対面でアレでしたから分かりますけど……ほ、他の方々もその、私の事を……そんな風に思ってらっしゃるのかしら……」
「今はまだ恋愛感情とまではいかないかもしれないけど、今回の遠征で距離がグッと縮まるかもしれないでしょ! もっと自分に自信を持ってレティシア! あたしが男の子だったらウィルより猛アタックしてるからね!? 頑張ってきて! ラブラブハプニング引き起こしてきて!! ね!?」
「は、はい……。頑張りますわ!」
具体的に何をすれば良いか分かりませんけれど、このまま何もせずに学生生活が終わってしまっては意味がありませんわ!
学生ならではの制服デートとか、一緒にお勉強とか、そういう青春時代にしか出来ない事をする時間は限られているのですから!
私はミーチャの手を取って、大きく頷いた。
「貴女の言う通り、男子達との距離を縮めてみせますわ! 完全にノープランですけれど、頑張りますわ!」
「レティシアなら出来ます! あたしも遠くから応援してるからね!」
「ありがとうございます、ミーチャ!」
強く手を握りあって、私達はそれぞれの集合場所へと向かった。
────────────
中庭には既にケントさんとウォルグさんが揃っていて、ケントさんは私の姿を見付けると片手を上げた。
「おはよう、レティシア」
「おはようございます。お待たせしてしまいましたか?」
「いや、待ってなんていないよ」
「むしろ、これからウィリアムに待たされるだろうからな」
布袋を背負った二人と一緒に待っていると、走ってこちらにやって来るウィリアムさん。
またいつもの遅刻癖が出たか、と私は苦笑して小さく手を振った。
「また遅刻ですか、ウィリアムさん」
「済まねぇ! 髪のセットに時間が掛かっちまって……!」
男子寮から中庭までそれなりに距離があるはずなのに、私達の所に来た彼は、息一つ乱れていなかった。
「今回はウォルグとレティシアが班員だからまだ良いけれど、次からは気を付けてくれたまえ。君の遅刻は僕の指導不足だと判断されて、他の生徒に報告されてしまうおそれがあるからね」
「ああ、なるべくアンタの足を引っ張らねぇように気を付けるよ」
「いっその事、今度からは前日に僕らの部屋に泊まるかい? そうすれば今日のような事も無くなるだろう」
「いや、流石にそりゃ勘弁してくれ……」
夜早く寝ていないのだろうか。
授業中は居眠りもしていないし、もしかしたら寝付きが悪いのかしら。
「じゃあ今度からは僕が迎えに行くよ。それならまだ良いだろう?」
「まあそれなら構わねぇかな」
「よし、それじゃあ約束もした事だし……そろそろ行こうか」
四人揃って校門を出て、班長のケントさんが予約していた馬車に乗り込んでアレーセルを出発した。
なんとウォルグさんは馬を操れるそうで、彼に御者をお願いして、私達は幌馬車の荷台に座っている。
他の生徒達の馬車も街道を走っていたが、それぞれ目的地が異なるので次第にばらけていった。
時々、行商人や旅人を乗せた馬車とすれ違いながら、陽が暮れてきた頃に見晴らしの良い草原で休む事になった。
「夜は僕達が交代で見張りをしよう。レティシアはゆっくり休んでいてくれ」
「それでは皆さんにだけ負担を掛けてしまいますわ」
馬車から降りて野宿の準備をしていると、ケントさんがそう言った。
私は野宿なんて今回が初めてだけれど、セイガフに入学した以上、こうなる事は覚悟していたのだ。
「俺達が向かう村は、森を抜けた先にある。ゴブリンの巣を探すとなると、嫌でも森の中を歩き回る事になるだろう。お前の体力を残す為に決めた事だ」
「それに、君にはもっと別の役割をお願いしたいんだ」
「私の役割ですか……?」
「夜は魔物の行動が活発化しやすいから、皆が休んでいる最中に襲われる危険がある。だから、君の防御結界で僕達を守ってもらいたいんだ」
「ああ、それなら確かに安心して休めるよな。レティシアの魔法の強さは俺も実感済みだし、アンタの魔法に包まれて眠れるなら最高だな!」
ウィリアムさんは、そう言って笑った。
私の魔法で皆を守れるのなら……それも悪くないのかもしれない。
「分かりました。しっかりお守りさせて頂きますわ!」
「うん、助かるよ。ありがとう」
「んじゃ、焚き火用に適当な木でも集めてくっかな。飯はウォルグが用意してくれんだろ?」
「ああ」
「では、私もウィリアムさんと一緒に薪を集めに行きますわ」
「じゃあ僕は寝床の準備かな。暗くなる前に戻って来るんだよ?」
「ええ、勿論ですわ」
「任せとけって!」
こうして私とウィリアムさんは、少し離れた所に見える林の中に入っていった。
彼女も今日から遠征に行くらしく、二人で手軽にサンドウィッチで朝食を済ませる。
「持ち物の用意は大丈夫?」
「ええ、もう一度確認しましたから問題ありませんわ」
重い物は男子三人が運んで下さるそうだ。
私は念の為に拡張魔法をかけたウエストポーチに、傷薬や解毒薬を入れて持って行く事にした。
ミーチャは自分の髪を結いながら、鏡越しに語り掛ける。
「ケント先輩達と一緒なんでしょ? なーんかイケメンだらけで楽しそうですなー!」
「た、確かに私以外は男性ですけれど……」
「イケメン三人と美少女が寝泊まりするんですよー? 何か起きないかワクワクしちゃわない!?」
彼女にそう言われて、私はハッとした。
そうだ。私以外は全員男子。そして、その三人は私が未来の旦那様候補に決めた方々だ。
これは……チャンスなのではありませんこと!?
「そうですわよ! 何か起きれば良いのですわ!」
椅子から急に立ち上がった私に、ミーチャがびくりと肩を跳ねさせた。
「お、おぉう……? それってつまり、ラブラブハプニングを自ら起こしにいく感じ? ていうか、やっぱりレティシアってあの中の誰かが好きだったりしちゃうんですかー!?」
おさげを結い終えた彼女は、興味津々な様子で目をキラキラさせながら振り向いた。
ストレートにそう問われた私はこう返す。
「そ、そうですわね……ケントさん以外は、まだ知り合って間も無いですし……少しずつ彼らを理解していきたいと思っていますわ」
「あーん、やっぱり選び難いもんねー! ケント先輩は優しくてキラキラしたイケメンって感じだし、ウォルグ先輩もクールだけどお菓子が好きってギャップが最高だし、ウィルも普段はあんなだけど黙ってれば色気がムンムンだし、決められないよねー!?」
朝からよくもまあそんなに叫べるものだなと驚きつつ、私は興奮気味の彼女に逆に問う。
「ミーチャさんは誰かお慕いしている殿方は居りませんの? それだけケントさん達を褒めていますし……」
「いやまあ、皆カッコイイとは思うんだけどね? 何ていうか、あたしには雲の上の存在すぎるメンズ達と言いますか……レティシアがあの中の誰か、もしくはリアンとか他の美男子とくっついてもらう方がテンションが上がるっていうか!? 生きる活力になるっていうか!!」
「そ、そういうものなんですの……?」
「そういうもんなんです! だーかーらっ!」
ミーチャに両肩をがっしりと掴まれ、真っ直ぐに見詰められる。
「気になる男子と何かあったら、すぐに報告して! あたしも力になれる事があれば協力するし、レティシアのウェディングドレス姿を拝む為なら頑張っちゃいますよ!」
「だ、誰ともお付き合いすらしていないのに気が早いですわよっ!」
「美男美女のカップル誕生を拝む事こそがあたしの夢だからっ! あーもう、そうやって照れてほっぺた赤くするとこもかーわーいーいー! こんなに可愛い女の子が幸せな結婚式を挙げて、友人代表としてお祝いの言葉を読み上げるのがあたしの至上の喜びなんですからね!!」
結婚式、か……。
そうよね。私もいつか、誰か素敵な男性と……
私は真っ白なドレスを身に纏って、左手の薬指にリングを嵌めてくれる、私だけの旦那様──
「……想像しましたね? 今、幸せな式を想像しましたね!?」
「し、して……」
「ましたね?」
「……ました……」
「そうです! それこそが夢見る乙女の幸せへのスタート地点なんですよ! あー、誰と結婚するのかなぁー! 今から楽しみで仕方無いんですけどどうしましょうか!」
「……と、とにかくその……私を好きになって下さるように、頑張るしかないのでは?」
私がそう言うと、ミーチャはきょとんとした顔で黙ってしまった。
さっきまであれだけ喋っていたのに、急にどうしたのかしら。
「ええと……どうしたの、ミーチャさん?」
「……レティシアって、意外と鈍感さん?」
「え?」
鈍感……?
「いや、だってほら。ウィルってどう見てもレティシアにベタ惚れでしょ? ケント先輩とウォルグ先輩もあたしよりレティシアに優しいし……リアンも何だかんだで好意的でしょ? これってどう考えてもめっちゃモテてるじゃないですか」
「ウィリアムはまあ初対面でアレでしたから分かりますけど……ほ、他の方々もその、私の事を……そんな風に思ってらっしゃるのかしら……」
「今はまだ恋愛感情とまではいかないかもしれないけど、今回の遠征で距離がグッと縮まるかもしれないでしょ! もっと自分に自信を持ってレティシア! あたしが男の子だったらウィルより猛アタックしてるからね!? 頑張ってきて! ラブラブハプニング引き起こしてきて!! ね!?」
「は、はい……。頑張りますわ!」
具体的に何をすれば良いか分かりませんけれど、このまま何もせずに学生生活が終わってしまっては意味がありませんわ!
学生ならではの制服デートとか、一緒にお勉強とか、そういう青春時代にしか出来ない事をする時間は限られているのですから!
私はミーチャの手を取って、大きく頷いた。
「貴女の言う通り、男子達との距離を縮めてみせますわ! 完全にノープランですけれど、頑張りますわ!」
「レティシアなら出来ます! あたしも遠くから応援してるからね!」
「ありがとうございます、ミーチャ!」
強く手を握りあって、私達はそれぞれの集合場所へと向かった。
────────────
中庭には既にケントさんとウォルグさんが揃っていて、ケントさんは私の姿を見付けると片手を上げた。
「おはよう、レティシア」
「おはようございます。お待たせしてしまいましたか?」
「いや、待ってなんていないよ」
「むしろ、これからウィリアムに待たされるだろうからな」
布袋を背負った二人と一緒に待っていると、走ってこちらにやって来るウィリアムさん。
またいつもの遅刻癖が出たか、と私は苦笑して小さく手を振った。
「また遅刻ですか、ウィリアムさん」
「済まねぇ! 髪のセットに時間が掛かっちまって……!」
男子寮から中庭までそれなりに距離があるはずなのに、私達の所に来た彼は、息一つ乱れていなかった。
「今回はウォルグとレティシアが班員だからまだ良いけれど、次からは気を付けてくれたまえ。君の遅刻は僕の指導不足だと判断されて、他の生徒に報告されてしまうおそれがあるからね」
「ああ、なるべくアンタの足を引っ張らねぇように気を付けるよ」
「いっその事、今度からは前日に僕らの部屋に泊まるかい? そうすれば今日のような事も無くなるだろう」
「いや、流石にそりゃ勘弁してくれ……」
夜早く寝ていないのだろうか。
授業中は居眠りもしていないし、もしかしたら寝付きが悪いのかしら。
「じゃあ今度からは僕が迎えに行くよ。それならまだ良いだろう?」
「まあそれなら構わねぇかな」
「よし、それじゃあ約束もした事だし……そろそろ行こうか」
四人揃って校門を出て、班長のケントさんが予約していた馬車に乗り込んでアレーセルを出発した。
なんとウォルグさんは馬を操れるそうで、彼に御者をお願いして、私達は幌馬車の荷台に座っている。
他の生徒達の馬車も街道を走っていたが、それぞれ目的地が異なるので次第にばらけていった。
時々、行商人や旅人を乗せた馬車とすれ違いながら、陽が暮れてきた頃に見晴らしの良い草原で休む事になった。
「夜は僕達が交代で見張りをしよう。レティシアはゆっくり休んでいてくれ」
「それでは皆さんにだけ負担を掛けてしまいますわ」
馬車から降りて野宿の準備をしていると、ケントさんがそう言った。
私は野宿なんて今回が初めてだけれど、セイガフに入学した以上、こうなる事は覚悟していたのだ。
「俺達が向かう村は、森を抜けた先にある。ゴブリンの巣を探すとなると、嫌でも森の中を歩き回る事になるだろう。お前の体力を残す為に決めた事だ」
「それに、君にはもっと別の役割をお願いしたいんだ」
「私の役割ですか……?」
「夜は魔物の行動が活発化しやすいから、皆が休んでいる最中に襲われる危険がある。だから、君の防御結界で僕達を守ってもらいたいんだ」
「ああ、それなら確かに安心して休めるよな。レティシアの魔法の強さは俺も実感済みだし、アンタの魔法に包まれて眠れるなら最高だな!」
ウィリアムさんは、そう言って笑った。
私の魔法で皆を守れるのなら……それも悪くないのかもしれない。
「分かりました。しっかりお守りさせて頂きますわ!」
「うん、助かるよ。ありがとう」
「んじゃ、焚き火用に適当な木でも集めてくっかな。飯はウォルグが用意してくれんだろ?」
「ああ」
「では、私もウィリアムさんと一緒に薪を集めに行きますわ」
「じゃあ僕は寝床の準備かな。暗くなる前に戻って来るんだよ?」
「ええ、勿論ですわ」
「任せとけって!」
こうして私とウィリアムさんは、少し離れた所に見える林の中に入っていった。
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