元花乙女は幸せを求めて家出する 〜悪役令嬢みたいな人生なんて、もう結構ですわっ!〜

由岐

文字の大きさ
30 / 47
第4章 芳しい花には裏がある

3.初めての遠征へ

しおりを挟む
 朝五時、私とミーチャは起床した。
 彼女も今日から遠征に行くらしく、二人で手軽にサンドウィッチで朝食を済ませる。

「持ち物の用意は大丈夫?」
「ええ、もう一度確認しましたから問題ありませんわ」

 重い物は男子三人が運んで下さるそうだ。
 私は念の為に拡張魔法をかけたウエストポーチに、傷薬や解毒薬を入れて持って行く事にした。
 ミーチャは自分の髪を結いながら、鏡越しに語り掛ける。

「ケント先輩達と一緒なんでしょ? なーんかイケメンだらけで楽しそうですなー!」
「た、確かに私以外は男性ですけれど……」
「イケメン三人と美少女が寝泊まりするんですよー? 何か起きないかワクワクしちゃわない!?」

 彼女にそう言われて、私はハッとした。
 そうだ。私以外は全員男子。そして、その三人は私が未来の旦那様候補に決めた方々だ。
 これは……チャンスなのではありませんこと!?

「そうですわよ! 何か起きれば良いのですわ!」

 椅子から急に立ち上がった私に、ミーチャがびくりと肩を跳ねさせた。

「お、おぉう……? それってつまり、ラブラブハプニングを自ら起こしにいく感じ? ていうか、やっぱりレティシアってあの中の誰かが好きだったりしちゃうんですかー!?」

 おさげを結い終えた彼女は、興味津々な様子で目をキラキラさせながら振り向いた。
 ストレートにそう問われた私はこう返す。

「そ、そうですわね……ケントさん以外は、まだ知り合って間も無いですし……少しずつ彼らを理解していきたいと思っていますわ」
「あーん、やっぱり選び難いもんねー! ケント先輩は優しくてキラキラしたイケメンって感じだし、ウォルグ先輩もクールだけどお菓子が好きってギャップが最高だし、ウィルも普段はあんなだけど黙ってれば色気がムンムンだし、決められないよねー!?」

 朝からよくもまあそんなに叫べるものだなと驚きつつ、私は興奮気味の彼女に逆に問う。

「ミーチャさんは誰かお慕いしている殿方は居りませんの? それだけケントさん達を褒めていますし……」
「いやまあ、皆カッコイイとは思うんだけどね? 何ていうか、あたしには雲の上の存在すぎるメンズ達と言いますか……レティシアがあの中の誰か、もしくはリアンとか他の美男子とくっついてもらう方がテンションが上がるっていうか!? 生きる活力になるっていうか!!」
「そ、そういうものなんですの……?」
「そういうもんなんです! だーかーらっ!」

 ミーチャに両肩をがっしりと掴まれ、真っ直ぐに見詰められる。

「気になる男子と何かあったら、すぐに報告して! あたしも力になれる事があれば協力するし、レティシアのウェディングドレス姿を拝む為なら頑張っちゃいますよ!」
「だ、誰ともお付き合いすらしていないのに気が早いですわよっ!」
「美男美女のカップル誕生を拝む事こそがあたしの夢だからっ! あーもう、そうやって照れてほっぺた赤くするとこもかーわーいーいー! こんなに可愛い女の子が幸せな結婚式を挙げて、友人代表としてお祝いの言葉を読み上げるのがあたしの至上の喜びなんですからね!!」

 結婚式、か……。
 そうよね。私もいつか、誰か素敵な男性と……
 私は真っ白なドレスを身に纏って、左手の薬指にリングを嵌めてくれる、私だけの旦那様──

「……想像しましたね? 今、幸せな式を想像しましたね!?」
「し、して……」
「ましたね?」
「……ました……」
「そうです! それこそが夢見る乙女の幸せへのスタート地点なんですよ! あー、誰と結婚するのかなぁー! 今から楽しみで仕方無いんですけどどうしましょうか!」
「……と、とにかくその……私を好きになって下さるように、頑張るしかないのでは?」

 私がそう言うと、ミーチャはきょとんとした顔で黙ってしまった。
 さっきまであれだけ喋っていたのに、急にどうしたのかしら。

「ええと……どうしたの、ミーチャさん?」
「……レティシアって、意外と鈍感さん?」
「え?」

 鈍感……?

「いや、だってほら。ウィルってどう見てもレティシアにベタ惚れでしょ? ケント先輩とウォルグ先輩もあたしよりレティシアに優しいし……リアンも何だかんだで好意的でしょ? これってどう考えてもめっちゃモテてるじゃないですか」
「ウィリアムはまあ初対面でアレでしたから分かりますけど……ほ、他の方々もその、私の事を……そんな風に思ってらっしゃるのかしら……」
「今はまだ恋愛感情とまではいかないかもしれないけど、今回の遠征で距離がグッと縮まるかもしれないでしょ! もっと自分に自信を持ってレティシア! あたしが男の子だったらウィルより猛アタックしてるからね!? 頑張ってきて! ラブラブハプニング引き起こしてきて!! ね!?」
「は、はい……。頑張りますわ!」

 具体的に何をすれば良いか分かりませんけれど、このまま何もせずに学生生活が終わってしまっては意味がありませんわ!
 学生ならではの制服デートとか、一緒にお勉強とか、そういう青春時代にしか出来ない事をする時間は限られているのですから!
 私はミーチャの手を取って、大きく頷いた。

「貴女の言う通り、男子達との距離を縮めてみせますわ! 完全にノープランですけれど、頑張りますわ!」
「レティシアなら出来ます! あたしも遠くから応援してるからね!」
「ありがとうございます、ミーチャ!」

 強く手を握りあって、私達はそれぞれの集合場所へと向かった。



────────────



 中庭には既にケントさんとウォルグさんが揃っていて、ケントさんは私の姿を見付けると片手を上げた。

「おはよう、レティシア」
「おはようございます。お待たせしてしまいましたか?」
「いや、待ってなんていないよ」
「むしろ、これからウィリアムに待たされるだろうからな」

 布袋を背負った二人と一緒に待っていると、走ってこちらにやって来るウィリアムさん。
 またいつもの遅刻癖が出たか、と私は苦笑して小さく手を振った。

「また遅刻ですか、ウィリアムさん」
「済まねぇ! 髪のセットに時間が掛かっちまって……!」

 男子寮から中庭までそれなりに距離があるはずなのに、私達の所に来た彼は、息一つ乱れていなかった。

「今回はウォルグとレティシアが班員だからまだ良いけれど、次からは気を付けてくれたまえ。君の遅刻は僕の指導不足だと判断されて、他の生徒に報告されてしまうおそれがあるからね」
「ああ、なるべくアンタの足を引っ張らねぇように気を付けるよ」
「いっその事、今度からは前日に僕らの部屋に泊まるかい? そうすれば今日のような事も無くなるだろう」
「いや、流石にそりゃ勘弁してくれ……」

 夜早く寝ていないのだろうか。
 授業中は居眠りもしていないし、もしかしたら寝付きが悪いのかしら。

「じゃあ今度からは僕が迎えに行くよ。それならまだ良いだろう?」
「まあそれなら構わねぇかな」
「よし、それじゃあ約束もした事だし……そろそろ行こうか」

 四人揃って校門を出て、班長のケントさんが予約していた馬車に乗り込んでアレーセルを出発した。
 なんとウォルグさんは馬を操れるそうで、彼に御者をお願いして、私達はほろ馬車の荷台に座っている。
 他の生徒達の馬車も街道を走っていたが、それぞれ目的地が異なるので次第にばらけていった。
 時々、行商人や旅人を乗せた馬車とすれ違いながら、陽が暮れてきた頃に見晴らしの良い草原で休む事になった。

「夜は僕達が交代で見張りをしよう。レティシアはゆっくり休んでいてくれ」
「それでは皆さんにだけ負担を掛けてしまいますわ」

 馬車から降りて野宿の準備をしていると、ケントさんがそう言った。
 私は野宿なんて今回が初めてだけれど、セイガフに入学した以上、こうなる事は覚悟していたのだ。

「俺達が向かう村は、森を抜けた先にある。ゴブリンの巣を探すとなると、嫌でも森の中を歩き回る事になるだろう。お前の体力を残す為に決めた事だ」
「それに、君にはもっと別の役割をお願いしたいんだ」
「私の役割ですか……?」
「夜は魔物の行動が活発化しやすいから、皆が休んでいる最中に襲われる危険がある。だから、君の防御結界で僕達を守ってもらいたいんだ」
「ああ、それなら確かに安心して休めるよな。レティシアの魔法の強さは俺も実感済みだし、アンタの魔法に包まれて眠れるなら最高だな!」

 ウィリアムさんは、そう言って笑った。
 私の魔法で皆を守れるのなら……それも悪くないのかもしれない。

「分かりました。しっかりお守りさせて頂きますわ!」
「うん、助かるよ。ありがとう」
「んじゃ、焚き火用に適当な木でも集めてくっかな。飯はウォルグが用意してくれんだろ?」
「ああ」
「では、私もウィリアムさんと一緒に薪を集めに行きますわ」
「じゃあ僕は寝床の準備かな。暗くなる前に戻って来るんだよ?」
「ええ、勿論ですわ」
「任せとけって!」

 こうして私とウィリアムさんは、少し離れた所に見える林の中に入っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが

水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。 王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。 数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。 記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。 リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが…… ◆表紙はGirly Drop様からお借りしました ◇小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

処理中です...