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第4章 芳しい花には裏がある
5.ゴブリンに悩む村
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朝、再び馬車は村へ向けて走り出す。
川に架かった橋を越え、またしばらく進むと森に入った。
そのまま森の中の開けた道を行くと、私達の目的地である村が見えてきた。
「あの村ですわね」
「うん。まずは村の人達に話を聞いてみよう。何か被害が出ているなら、それの報告も必要だからね」
村に到着した私達は、二人ずつに分かれて聞き込みをしていく事になった。
私はウォルグさんと一緒に、まずは村で畑仕事をしている男性達に声を掛ける。
「お仕事中に申し訳ございません。セイガフ魔法武術学校から来た者なのですが……」
「おお、セイガフの学生さんか! 待ってたんだよ」
男性達は農作業の手を止め、私達の近くに集まってくれた。
「ゴブリンによる被害が出ているとお伺いしております。何か情報をお持ちでしたら、私達にお話しして頂けませんか?」
「一番困ってるのは畑だな。夜中にゴブリン共が忍び込んで、育てた野菜を勝手に持って行っちまうのさ」
「後は森に猟に出る時だな。あいつらは群れで行動しやがるから、おいら達も大人数で動くようにしてるんだ。お陰で獲物を捕るにも時間が掛かっちまって……」
「村人が襲われた事はあるのか?」
「何度かあったが、その時はどうにか追い返してやれたよ。だが、次も無事でいられるかは分からん。君らが来てくれたならもう安心だろうけどな」
収穫にはまだ早い作物まで荒らされてしまっているらしく、村人達は本当に困っているらしい。
その後も他の村人達にも話を聞き、ケントさんとウィリアムさんと合流した。
二人も同じような話を聞いたらしく、最後にこの村の村長の家へ行く事になった。
村長は私達を丁寧に出迎えて下さり、これからゴブリンの巣を探しに行く事と、マルクルポットが森のどこかに居るかもしれないという話を伝えた。
「そうですか……。あの人食い植物が、この森に……」
優しそうなお爺さんといった雰囲気の村長は、ケントさんの言葉を受けて心配そうにそう言った。
「ここに来る途中で見付けた誘い花の花畑の一つは、彼女が燃やしてくれました。ですが、まだ他にも花畑があるかもしれません。村の方が野草や木の実を探しに行かれる際は、誘い花に注意するようにお伝え下さい」
「俺達の方でも聞き込みついでに話してはおいたが、村長のアンタからもよく言い聞かせておいてくれると助かる。万が一あの花の実を食い過ぎたヤツが居たら、夜中にあの化け物の所まで歩いて行っちまうかもしれねぇ。村人同士で互いを見張るようにも言っておいてもらえるか?」
ウィリアムさんの忠告に、村長さんは深く頷く。
「ええ、勿論ですとも。あの人食いの討伐は、貴方がたのような学生さんには大変でしょう。また改めて、ギルド宛に討伐依頼をする事にしまょう」
そうして村長の家を出て、森へと向かう途中で私はケントさんに訊ねた。
「ねえ、ケントさん。そのマルクルポットという魔物は、そんなに手強い相手なんですの?」
「個体差はあるけれど、充分に育ったマルクルポットなら僕らでも手こずると思うよ」
「人食い植物なんて呼ばれてるアレはな、誘い込んだ人間や動物を丸ごと飲み込んじまうんだ。体に取り込んだエサを中の消化液でドロドロに溶かして、そこから栄養を吸収する。そうやって成長していくにつれて、どんどん強さが増していくんだ」
「時々大きな実を付けるらしいのだけれど、それはそういった餌にされてしまった生物から得た魔力が詰まっているそうなんだ。その実は高値で取引される代物なのだと、以前父さんから話を聞いたよ」
動物ならまだしも、人間までコントロールされてしまうマルクルポットの恐ろしい能力。
そんな魔物が自由に動き回る森の中を、私達はゴブリンの巣を探して進まなければならない。
「いざという時は、倒せる程度のものなら倒す。そうでなければ全力で逃げる。強すぎる相手だった場合は、俺の能力でも制御出来ない」
「ウォルグさんの魔法でも効かないかもしれないなんて……」
「そう心配するな。あの魔物は滅多に人里には顔を出さない。俺達でゴブリンを一掃してしまえば、村人はしばらく村から出ずに、畑や近くの場所から食料を確保するようになる。基本的には水場の近辺を縄張りとする魔物だから、討伐ギルドが来るまでは持ち堪えられるだろう」
「そうだと良いのですけど……」
一つだけ心配なのが、昨日ウィリアムさんと見付けた誘い花だ。
あの花が付けた実は、一粒残らず消えていた。
動物が全て食べてしまったか、人間が持ち去ったのか……。
真相は分からないけれど、もし誘い花の危険性を知らない者が実を口にしていたら大変だ。
「……誰かが操られていたら、アレは特殊な魔力を発するはずだ。もし今夜にでも動きを見せれば、俺の感知能力で居場所を割り出せる。今夜でなくとも、いつ誰が被害に遭うかも分からないがな」
「ゴブリンの件が片付いたら、ウォルグとウィリアムにはここに残ってもらって、僕とレティシアでギルドに応援を頼みにアレーセルに戻ろう。僕もウォルグ程ではないけれど、馬は操れるからね」
「全員で帰って、その間に村が大惨事になったらやべぇもんな。巣を潰したらまた改めて村長に相談してみっか」
「それが良いですわね」
村から出た私達は、森の手前で立ち止まる。
ケントさんは制服のポケットから地図を取り出し、ウォルグさんに言う。
「頼めるかい、ウォルグ」
「任せておけ」
そんな短いやり取りを交わした後、ウォルグさんは果樹園で見せたようなあのエルフ魔法を発動させる。
青い目が緑色に輝き、波動が何度も空気を揺さぶっていく。
「……巣は三つあるらしい。場所は──」
動植物の意識に干渉した彼は、この森の生き物達からゴブリンの巣の場所を聞き出せたようだ。
ウォルグさんは地図に三つの丸印を書いていき、話を聞いた限りではその辺りに巣があるとの事だった。
私とウォルグさんは村の南側へ、ケントさんとウィリアムさんは、東側の巣へ向かう。
「残る北の巣は、それぞれの巣を潰した後に合流してから叩きに行く。東は任せたぞ」
「うん、しっかり潰してくるよ」
「そっちも気を付けて行ってこいよ。特にレティシアはレジェンド美少女だから、ゴブリンの嫁にされないように気を付けろよ?」
「ゴブリンの嫁って、何ですの……?」
「知らねぇのか? ゴブリンにはメスが居ねぇから、他の種族のメスに子供を産ませんだよ」
そ、そんな風にしてゴブリンが繁殖していただなんて……。
私が顔を青くしていると、ウォルグさんが言う。
「俺のパートナーに手出しはさせない。一匹残らず狩り尽くしてやるさ」
「それなら良いんだけどよ」
私達はそこで二手に別れ、巣のある方へと進んでいく。
村の南側は木が多く、視界が悪い。
どこからゴブリンが飛び出して来ても対処出来るように、私はあらかじめ防御魔法を展開させたまま移動していた。
「……魔物とやり合うのは初めてか?」
「やり合うどころか、魔物を見た事もありません。遠出する際はいつも箱馬車の中で、道中で魔物が出れば護衛の騎士達がすぐに倒していましたから」
「そうか。ゴブリンは比較的弱いものが多いが、中には少々面倒な奴も居る。油断しない方が良い」
「分かりましたわ」
しばらく森の中を歩いていると、ウォルグさんが何かを見付けた。
立ち止まった彼の隣に行くと、木の幹に何かで斬りつけたような跡があった。
「この傷は……?」
「刃物で付けた傷だな。ゴブリンが何か狩りをしていて、偶然この木を斬りつけたのか……」
という事は、もうこの辺りは彼らの縄張りなのだろう。
刃物を持っているのなら、武器を使った接近攻撃をされる。私は何の武器も扱えないから、近距離戦は槍使いのウォルグさんに任せるしかない。
私は、防御と後方からの魔法攻撃で支援だ。
「奴らの巣も近い。より気を引き締めていけ」
川に架かった橋を越え、またしばらく進むと森に入った。
そのまま森の中の開けた道を行くと、私達の目的地である村が見えてきた。
「あの村ですわね」
「うん。まずは村の人達に話を聞いてみよう。何か被害が出ているなら、それの報告も必要だからね」
村に到着した私達は、二人ずつに分かれて聞き込みをしていく事になった。
私はウォルグさんと一緒に、まずは村で畑仕事をしている男性達に声を掛ける。
「お仕事中に申し訳ございません。セイガフ魔法武術学校から来た者なのですが……」
「おお、セイガフの学生さんか! 待ってたんだよ」
男性達は農作業の手を止め、私達の近くに集まってくれた。
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「一番困ってるのは畑だな。夜中にゴブリン共が忍び込んで、育てた野菜を勝手に持って行っちまうのさ」
「後は森に猟に出る時だな。あいつらは群れで行動しやがるから、おいら達も大人数で動くようにしてるんだ。お陰で獲物を捕るにも時間が掛かっちまって……」
「村人が襲われた事はあるのか?」
「何度かあったが、その時はどうにか追い返してやれたよ。だが、次も無事でいられるかは分からん。君らが来てくれたならもう安心だろうけどな」
収穫にはまだ早い作物まで荒らされてしまっているらしく、村人達は本当に困っているらしい。
その後も他の村人達にも話を聞き、ケントさんとウィリアムさんと合流した。
二人も同じような話を聞いたらしく、最後にこの村の村長の家へ行く事になった。
村長は私達を丁寧に出迎えて下さり、これからゴブリンの巣を探しに行く事と、マルクルポットが森のどこかに居るかもしれないという話を伝えた。
「そうですか……。あの人食い植物が、この森に……」
優しそうなお爺さんといった雰囲気の村長は、ケントさんの言葉を受けて心配そうにそう言った。
「ここに来る途中で見付けた誘い花の花畑の一つは、彼女が燃やしてくれました。ですが、まだ他にも花畑があるかもしれません。村の方が野草や木の実を探しに行かれる際は、誘い花に注意するようにお伝え下さい」
「俺達の方でも聞き込みついでに話してはおいたが、村長のアンタからもよく言い聞かせておいてくれると助かる。万が一あの花の実を食い過ぎたヤツが居たら、夜中にあの化け物の所まで歩いて行っちまうかもしれねぇ。村人同士で互いを見張るようにも言っておいてもらえるか?」
ウィリアムさんの忠告に、村長さんは深く頷く。
「ええ、勿論ですとも。あの人食いの討伐は、貴方がたのような学生さんには大変でしょう。また改めて、ギルド宛に討伐依頼をする事にしまょう」
そうして村長の家を出て、森へと向かう途中で私はケントさんに訊ねた。
「ねえ、ケントさん。そのマルクルポットという魔物は、そんなに手強い相手なんですの?」
「個体差はあるけれど、充分に育ったマルクルポットなら僕らでも手こずると思うよ」
「人食い植物なんて呼ばれてるアレはな、誘い込んだ人間や動物を丸ごと飲み込んじまうんだ。体に取り込んだエサを中の消化液でドロドロに溶かして、そこから栄養を吸収する。そうやって成長していくにつれて、どんどん強さが増していくんだ」
「時々大きな実を付けるらしいのだけれど、それはそういった餌にされてしまった生物から得た魔力が詰まっているそうなんだ。その実は高値で取引される代物なのだと、以前父さんから話を聞いたよ」
動物ならまだしも、人間までコントロールされてしまうマルクルポットの恐ろしい能力。
そんな魔物が自由に動き回る森の中を、私達はゴブリンの巣を探して進まなければならない。
「いざという時は、倒せる程度のものなら倒す。そうでなければ全力で逃げる。強すぎる相手だった場合は、俺の能力でも制御出来ない」
「ウォルグさんの魔法でも効かないかもしれないなんて……」
「そう心配するな。あの魔物は滅多に人里には顔を出さない。俺達でゴブリンを一掃してしまえば、村人はしばらく村から出ずに、畑や近くの場所から食料を確保するようになる。基本的には水場の近辺を縄張りとする魔物だから、討伐ギルドが来るまでは持ち堪えられるだろう」
「そうだと良いのですけど……」
一つだけ心配なのが、昨日ウィリアムさんと見付けた誘い花だ。
あの花が付けた実は、一粒残らず消えていた。
動物が全て食べてしまったか、人間が持ち去ったのか……。
真相は分からないけれど、もし誘い花の危険性を知らない者が実を口にしていたら大変だ。
「……誰かが操られていたら、アレは特殊な魔力を発するはずだ。もし今夜にでも動きを見せれば、俺の感知能力で居場所を割り出せる。今夜でなくとも、いつ誰が被害に遭うかも分からないがな」
「ゴブリンの件が片付いたら、ウォルグとウィリアムにはここに残ってもらって、僕とレティシアでギルドに応援を頼みにアレーセルに戻ろう。僕もウォルグ程ではないけれど、馬は操れるからね」
「全員で帰って、その間に村が大惨事になったらやべぇもんな。巣を潰したらまた改めて村長に相談してみっか」
「それが良いですわね」
村から出た私達は、森の手前で立ち止まる。
ケントさんは制服のポケットから地図を取り出し、ウォルグさんに言う。
「頼めるかい、ウォルグ」
「任せておけ」
そんな短いやり取りを交わした後、ウォルグさんは果樹園で見せたようなあのエルフ魔法を発動させる。
青い目が緑色に輝き、波動が何度も空気を揺さぶっていく。
「……巣は三つあるらしい。場所は──」
動植物の意識に干渉した彼は、この森の生き物達からゴブリンの巣の場所を聞き出せたようだ。
ウォルグさんは地図に三つの丸印を書いていき、話を聞いた限りではその辺りに巣があるとの事だった。
私とウォルグさんは村の南側へ、ケントさんとウィリアムさんは、東側の巣へ向かう。
「残る北の巣は、それぞれの巣を潰した後に合流してから叩きに行く。東は任せたぞ」
「うん、しっかり潰してくるよ」
「そっちも気を付けて行ってこいよ。特にレティシアはレジェンド美少女だから、ゴブリンの嫁にされないように気を付けろよ?」
「ゴブリンの嫁って、何ですの……?」
「知らねぇのか? ゴブリンにはメスが居ねぇから、他の種族のメスに子供を産ませんだよ」
そ、そんな風にしてゴブリンが繁殖していただなんて……。
私が顔を青くしていると、ウォルグさんが言う。
「俺のパートナーに手出しはさせない。一匹残らず狩り尽くしてやるさ」
「それなら良いんだけどよ」
私達はそこで二手に別れ、巣のある方へと進んでいく。
村の南側は木が多く、視界が悪い。
どこからゴブリンが飛び出して来ても対処出来るように、私はあらかじめ防御魔法を展開させたまま移動していた。
「……魔物とやり合うのは初めてか?」
「やり合うどころか、魔物を見た事もありません。遠出する際はいつも箱馬車の中で、道中で魔物が出れば護衛の騎士達がすぐに倒していましたから」
「そうか。ゴブリンは比較的弱いものが多いが、中には少々面倒な奴も居る。油断しない方が良い」
「分かりましたわ」
しばらく森の中を歩いていると、ウォルグさんが何かを見付けた。
立ち止まった彼の隣に行くと、木の幹に何かで斬りつけたような跡があった。
「この傷は……?」
「刃物で付けた傷だな。ゴブリンが何か狩りをしていて、偶然この木を斬りつけたのか……」
という事は、もうこの辺りは彼らの縄張りなのだろう。
刃物を持っているのなら、武器を使った接近攻撃をされる。私は何の武器も扱えないから、近距離戦は槍使いのウォルグさんに任せるしかない。
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