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第5章 闇夜に羽ばたく不穏な影
3.語り継がれなかった物語
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中庭から昇降口へ、昇降口から廊下をずんずん進む。
その間もルークさんは私の手を離さず、追い付いたウォルグさんとリアンさんが彼に文句を垂れながら、私達は案内されるがままに歩いていた。
「いつまで手を離さないつもりだ!」
「ほらほらー、ウォルグ先輩ずっと怒鳴ってるじゃん! そろそろ手離しても良いんじゃないの?」
いつもは決して怒鳴り散らす事などないウォルグさんが、珍しく声を張り上げている。
それに驚いているのは私だけではなく、すれ違う生徒達も同じだった。冷静沈着なあのウォルグさんが、感情を露わにして怒っているのだから。
「何、羨ましいの? だったらキミもカノジョの手を取れば良いじゃないか。それで解決でしょ? 人間には手が二つあるんだからさ」
しかし、怒鳴られている張本人は全く気にする素振りも見せない。なんというメンタルの強さだ。
言いながらルークさんは立ち止まり、視線でウォルグさんに私の手を取るよう促した。
「…………」
急に黙り込んだ彼は、そのまま自然な動きで私の空いた方の左手に指を絡める。
「へっ!?」
「……嫌、だったか?」
いきなりの事で肩が大きく跳ねてしまった私に、彼が問う。
無表情ではあるけれど、その声音からは不安の色が感じとられる。
ある程度仲の良い人間にしか察知出来ないレベルなのだが、私には分かる。
「いえ、あの……嫌ではありません。むしろ、その……」
絡められた指は、私の指ときゅっと密着する。
これは巷に溢れる親しい若い男女がするという、いわゆる恋人繋ぎ……というものではなかっただろうか。
普通に手を繋いでいたルークさんとの右手と違い、ウォルグさんに繋がれた左手は、彼の骨張った男性的な指の感触がよりダイレクトに伝わって来る。
わ、私……こんな手の繋ぎ方、誰ともした事がありませんわ!
恋人繋ぎ……。こんなっ、こんなにドキドキするものなのですね……!
「あ、レティシア顔真っ赤だね。コイツにはドキドキしてくれるのに、ボクには何とも思ってくれないの?」
「ま、真っ赤!? そ、そんな事っ……」
「耳も赤くなってきたんじゃないか? 大丈夫? 熱でもあるんじゃないの?」
「リアンは鈍感だなぁ。女の子が手を繋いでドキドキするなんて、理由は一つしかないじゃないか」
「え、そうなの?」
ああぁぁぁ!
逆にルークさんは勘が鋭すぎて困りますわ!
そしてリアンさんはこの年頃の男子にあるまじき鈍感さ! 恋の『こ』の字も知らないのではありませんこと!?
「……そうか。それなら……今はまだ、それで良い」
私にしか聞こえなかったのではないかという、ぼそりとした呟き。
彼の顔を見上げると目と目が合い、ほんのりと幸せそうに口元を緩ませたウォルグさん。
その表情を見た瞬間、さっきからずっとうるさかった心臓が、きゅうっと締め付けられるようだった。
やはりあの時の言葉は、私への告白だったのだわ。
……ああ、どうしましょう。
それが確信に変わった途端、彼と触れ合っている手を離してしまいたいような、このまま繋がったままでいたいような……矛盾する、甘く痺れる渦が心の中を掻き乱してしまう。
「ああ、そういえばヘンリー先生のところに向かいながら、キミの相談を受けるって話だったよね。からかい甲斐のあるコだから、すっかり忘れてたよ」
「いや、だから先輩に任せるのはあんまり信用出来ないっていうか……」
かと思えば、完全に振り回される形で話題を戻したルーク。
結局彼とウォルグさんに両手を塞がれたまま──左手は恋人繋ぎを継続しながら──何事も無かったかのように、再び歩き始めた。
「で、何の話なの? これでもボク、色々と物知りなんだよね」
悪気があるんだか無いんだか、彼は積極的に私から話を聞き出そうとしてくる。
まあ、彼が本当に物知りだというのなら、思い切って質問してみるのも良いのかもしれませんわね。
「……魔族について、何か知っている事はありませんこと?」
「魔族について? 何でそんな事で悩んでるのさ」
「ちょっと調べ物をしていて、気になっていたものですから」
ルークさんは不思議そうに首を傾げ、しかし真面目に答えてくれた。
「大雑把に説明しちゃうと、千年前に巫女と勇者と戦った魔の一族だね。女神に魔族を滅ぼす力を貰った勇者は、人類を脅かすその軍勢をボロッボロにして、叩きのめした」
「その時、やはり魔族は全て滅んだのでしょうか……?」
「どうだかねぇ。キミが想像している以上にとんでもない数だったとしたら、ちょっとは滅ぼし損ねてるかもしれないよ? もしかしたらその生き残りが、今もどこかで息を潜めてるかも……なーんてね!」
私が行き着いた予想と同じだ。
勇者が一人しか居なかったのなら、女神の力を持つ者は巫女と勇者の二人だけ。そんな人数で、魔族軍全てを滅ぼすだなんてにわかには信じられない。
「まあ、この程度の知識ならその辺で売ってる歴史書にも載ってるレベルだし、大した事無いと思うけど。これぐらいならキミも知ってるんじゃないの?」
「ええ。そこまでは調べられたのですけれど……」
「それ以上を知りたい、という訳だな」
「ルーク先輩、何か他に知ってたりする?」
「ふふーん、当たり前でしょ? だってボク、ルーク様だよ?」
「う、うん。ルークって名前なのは知ってるけど」
そして、彼は語ってくれた。
魔族というのは、千年前に存在していた、武力と魔力の両方に長けた者が多く存在する一族だった。
人間のような外見をしている者も居れば、獣人やエルフにも似た者まで様々だった。
そんな彼らと魔物との大きな違いとは、言葉を操れる事と、他の種族との間にハーフの子供を設けられる事。
魔物の中には、ゴブリンのように多種族の女性に子供を産ませるものも居るのだけれど、産まれて来る子供の種族は純粋なゴブリンとなる。だから、人間のようにすらりとした身長と手足を持つ、人とゴブリンとのハーフは誕生しない。
「魔族のハーフとそれ以外の種族との見分けは難しくて、本当の事じゃなくても、穢れた血って言われてる魔族の血が流れてるんじゃないかって差別される人も居たみたいだよ。今でもその疑いの目が向けられてる種族も居るしね」
「……最低だな、それ」
「ああ、本当に最低だよ。魔族と同じように魔力が高い種族……例えばエルフなんかは、特定の国や地域じゃえらく迫害されてるもんね。実際は魔族と関係が無くても、可能性があるだけで散々な目に遭うんだからさ」
「そんなエルフの中でも、人間とのハーフは差別される。エルフの高貴な血と、下賎な人間の血を混ぜた忌み子である──そんな馬鹿げた古い風習を、今でも熱心に守っている」
「ウォルグさん……」
彼はそんな差別の中で、どんな思いで生きてきたのだろう。
「そういえば、キミはハーフエルフだったね」
「ああ。だが俺は、この身体を流れる血には感謝している。両親が俺を作ったからこそ、今の俺という存在があるんだ。ただの小綺麗なエルフとは違う、獣のような闘争心──これは、俺がハーフエルフでなければ得られなかった」
「ウォルグ先輩、戦うのがすごい好きだもんな! 俺も先輩みたいにカッコよく戦えるようにって、毎日練習してるんだぜ!」
「フッ……練習して得られるような強さではないぞ」
「リアンさんの仰る通り、貴方の強さには強く心惹かれるものがあるのは本当ですわ。ウォルグさんはとっても頼もしい、私のパートナーでもありますもの」
けれども彼は、自分の境遇を全て受け入れて、それをプラスの要素として今を突き進んでいる。
環境のせいにせず、自分を悪く言って来る者を跳ね除けるようなパワーがあるのだ。
大嵐の中でも歩みを止めない、勇ましい人。
それが、ウォルグ・ゼナートという男性──
「ウォルグの例は珍しい方だよ。普通のハーフエルフじゃ、子供の内に心を病んでる。自暴自棄になって大暴れして、立派なオトナ気取りのエルフ達に押さえ付けられるのがほとんどさ。その後どうなるかなんて知りたくもないけど」
「うわー……」
「とまあ、こんな具合で今でも種族間での差別やら何やらがあるっていうのに、千年前にはここに魔族が大勢居たワケさ! 魔族の王──いわゆる魔王ってヤツが、魔族の国からある日突然軍を動かした。目的は世界征服。理由は単純に、世界の全てを自分のものにしたかったからだ」
女神の神託を受けた当時の巫女は、勇者と共にその力を更に高めるべく旅に出た。
聖地を巡り、またある所で仲間を得て、力を増していった。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 魔族の国があったというのは本当なんですの!?」
「うん。魔王っていうんだから、当然王様なワケでしょ? だったら魔族の国の王様に決まってるじゃない」
「言われてみれば……で、ですが、そんな記述はどこにも……!」
私がまだ読んでいないだけで、どこかにその情報が書かれた書物があるのかもしれない。
けれど、そんな危険な思惑を持った魔王が支配する国があっただなんて。
ウォルグさんとリアンさんもそれは初耳だったらしく、ひどく驚いていた。
「何故お前がそんな事を知っている。それがもし事実だとしたら、今すぐにでもしかるべき機関や研究者に報告すべき重要な──」
「──でもさ、その国はもうこの世界に無いんだよ。まるごとね」
「え……っと、つまりどういう意味?」
「巫女が封印したんだよ。魔族が住んでた大陸まるごと、とんでもない大規模な封印術を使ったんだ。魔族も魔王も、多分今でもどこかの次元に閉じ込められてるんじゃないかな」
「……けれど、もしかしたらその封印から逃れた魔族が居るかもしれないのですわよね?」
「そうだよ。もしかしたらすごい身近に、魔族が居るかもしれないね! なんていっても魔族はエルフのように長生きする者も居るんだから、千年なんて軽く生き延びててもおかしくないよ!」
彼の話が本当ならば、また新たな不安要素が出て来てしまう。
私はその先にあるかもしれない最悪の未来を想像して、顔を歪めた。
「もしも、その封印が解けてしまったら……この世界はどうなってしまうのでしょう」
私の零した言葉に、三人が言葉を失う。
「女神の巫女は、現代にはもう存在していません。その神殿だって、随分と昔に廃墟になってしまったと本に書いてありました。もし、万が一、近い将来にその封印が解かれてしまったら……」
魔王は再び、この世界を掌握せんと動くのだろう。
巫女エルーレへの千年分の憎悪と激しい怒りを膨らませ、魔王がこの地に舞い戻ってしまったら──
「……そうならない為に、動いてる人が居るよ」
「ただの学生であるはずのお前が、何故そんな事まで知っている」
ルークはまた意地の悪い笑みを浮かべて、人差し指を自分の唇にあてた。
「それはヒ・ミ・ツ! そんなに魔族とこの世界の未来が気になるっていうなら、今度その人に話でも聞いてみる? 会わせてあげようか?」
「その方とお話出来るのでしたら、是非お願いします!」
「オレも気になるから、一緒に会わせてよ!」
「……レティシアがそう言うのなら、俺も同行しよう。お前に彼女を任せてはおけないからな」
「じゃあ決まりね! 話も纏まった事だし、ひとまずヘンリー先生の所にさっさと行っちゃおうか」
ああ、魔族の話で忘れかけていたけれど、私達はヘンリー先生に呼ばれていたのでしたわね。
気が付いたら立ち止まって話し込んでいたから、きっと待ちくたびれているかもしれませんわ。
その間もルークさんは私の手を離さず、追い付いたウォルグさんとリアンさんが彼に文句を垂れながら、私達は案内されるがままに歩いていた。
「いつまで手を離さないつもりだ!」
「ほらほらー、ウォルグ先輩ずっと怒鳴ってるじゃん! そろそろ手離しても良いんじゃないの?」
いつもは決して怒鳴り散らす事などないウォルグさんが、珍しく声を張り上げている。
それに驚いているのは私だけではなく、すれ違う生徒達も同じだった。冷静沈着なあのウォルグさんが、感情を露わにして怒っているのだから。
「何、羨ましいの? だったらキミもカノジョの手を取れば良いじゃないか。それで解決でしょ? 人間には手が二つあるんだからさ」
しかし、怒鳴られている張本人は全く気にする素振りも見せない。なんというメンタルの強さだ。
言いながらルークさんは立ち止まり、視線でウォルグさんに私の手を取るよう促した。
「…………」
急に黙り込んだ彼は、そのまま自然な動きで私の空いた方の左手に指を絡める。
「へっ!?」
「……嫌、だったか?」
いきなりの事で肩が大きく跳ねてしまった私に、彼が問う。
無表情ではあるけれど、その声音からは不安の色が感じとられる。
ある程度仲の良い人間にしか察知出来ないレベルなのだが、私には分かる。
「いえ、あの……嫌ではありません。むしろ、その……」
絡められた指は、私の指ときゅっと密着する。
これは巷に溢れる親しい若い男女がするという、いわゆる恋人繋ぎ……というものではなかっただろうか。
普通に手を繋いでいたルークさんとの右手と違い、ウォルグさんに繋がれた左手は、彼の骨張った男性的な指の感触がよりダイレクトに伝わって来る。
わ、私……こんな手の繋ぎ方、誰ともした事がありませんわ!
恋人繋ぎ……。こんなっ、こんなにドキドキするものなのですね……!
「あ、レティシア顔真っ赤だね。コイツにはドキドキしてくれるのに、ボクには何とも思ってくれないの?」
「ま、真っ赤!? そ、そんな事っ……」
「耳も赤くなってきたんじゃないか? 大丈夫? 熱でもあるんじゃないの?」
「リアンは鈍感だなぁ。女の子が手を繋いでドキドキするなんて、理由は一つしかないじゃないか」
「え、そうなの?」
ああぁぁぁ!
逆にルークさんは勘が鋭すぎて困りますわ!
そしてリアンさんはこの年頃の男子にあるまじき鈍感さ! 恋の『こ』の字も知らないのではありませんこと!?
「……そうか。それなら……今はまだ、それで良い」
私にしか聞こえなかったのではないかという、ぼそりとした呟き。
彼の顔を見上げると目と目が合い、ほんのりと幸せそうに口元を緩ませたウォルグさん。
その表情を見た瞬間、さっきからずっとうるさかった心臓が、きゅうっと締め付けられるようだった。
やはりあの時の言葉は、私への告白だったのだわ。
……ああ、どうしましょう。
それが確信に変わった途端、彼と触れ合っている手を離してしまいたいような、このまま繋がったままでいたいような……矛盾する、甘く痺れる渦が心の中を掻き乱してしまう。
「ああ、そういえばヘンリー先生のところに向かいながら、キミの相談を受けるって話だったよね。からかい甲斐のあるコだから、すっかり忘れてたよ」
「いや、だから先輩に任せるのはあんまり信用出来ないっていうか……」
かと思えば、完全に振り回される形で話題を戻したルーク。
結局彼とウォルグさんに両手を塞がれたまま──左手は恋人繋ぎを継続しながら──何事も無かったかのように、再び歩き始めた。
「で、何の話なの? これでもボク、色々と物知りなんだよね」
悪気があるんだか無いんだか、彼は積極的に私から話を聞き出そうとしてくる。
まあ、彼が本当に物知りだというのなら、思い切って質問してみるのも良いのかもしれませんわね。
「……魔族について、何か知っている事はありませんこと?」
「魔族について? 何でそんな事で悩んでるのさ」
「ちょっと調べ物をしていて、気になっていたものですから」
ルークさんは不思議そうに首を傾げ、しかし真面目に答えてくれた。
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「その時、やはり魔族は全て滅んだのでしょうか……?」
「どうだかねぇ。キミが想像している以上にとんでもない数だったとしたら、ちょっとは滅ぼし損ねてるかもしれないよ? もしかしたらその生き残りが、今もどこかで息を潜めてるかも……なーんてね!」
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勇者が一人しか居なかったのなら、女神の力を持つ者は巫女と勇者の二人だけ。そんな人数で、魔族軍全てを滅ぼすだなんてにわかには信じられない。
「まあ、この程度の知識ならその辺で売ってる歴史書にも載ってるレベルだし、大した事無いと思うけど。これぐらいならキミも知ってるんじゃないの?」
「ええ。そこまでは調べられたのですけれど……」
「それ以上を知りたい、という訳だな」
「ルーク先輩、何か他に知ってたりする?」
「ふふーん、当たり前でしょ? だってボク、ルーク様だよ?」
「う、うん。ルークって名前なのは知ってるけど」
そして、彼は語ってくれた。
魔族というのは、千年前に存在していた、武力と魔力の両方に長けた者が多く存在する一族だった。
人間のような外見をしている者も居れば、獣人やエルフにも似た者まで様々だった。
そんな彼らと魔物との大きな違いとは、言葉を操れる事と、他の種族との間にハーフの子供を設けられる事。
魔物の中には、ゴブリンのように多種族の女性に子供を産ませるものも居るのだけれど、産まれて来る子供の種族は純粋なゴブリンとなる。だから、人間のようにすらりとした身長と手足を持つ、人とゴブリンとのハーフは誕生しない。
「魔族のハーフとそれ以外の種族との見分けは難しくて、本当の事じゃなくても、穢れた血って言われてる魔族の血が流れてるんじゃないかって差別される人も居たみたいだよ。今でもその疑いの目が向けられてる種族も居るしね」
「……最低だな、それ」
「ああ、本当に最低だよ。魔族と同じように魔力が高い種族……例えばエルフなんかは、特定の国や地域じゃえらく迫害されてるもんね。実際は魔族と関係が無くても、可能性があるだけで散々な目に遭うんだからさ」
「そんなエルフの中でも、人間とのハーフは差別される。エルフの高貴な血と、下賎な人間の血を混ぜた忌み子である──そんな馬鹿げた古い風習を、今でも熱心に守っている」
「ウォルグさん……」
彼はそんな差別の中で、どんな思いで生きてきたのだろう。
「そういえば、キミはハーフエルフだったね」
「ああ。だが俺は、この身体を流れる血には感謝している。両親が俺を作ったからこそ、今の俺という存在があるんだ。ただの小綺麗なエルフとは違う、獣のような闘争心──これは、俺がハーフエルフでなければ得られなかった」
「ウォルグ先輩、戦うのがすごい好きだもんな! 俺も先輩みたいにカッコよく戦えるようにって、毎日練習してるんだぜ!」
「フッ……練習して得られるような強さではないぞ」
「リアンさんの仰る通り、貴方の強さには強く心惹かれるものがあるのは本当ですわ。ウォルグさんはとっても頼もしい、私のパートナーでもありますもの」
けれども彼は、自分の境遇を全て受け入れて、それをプラスの要素として今を突き進んでいる。
環境のせいにせず、自分を悪く言って来る者を跳ね除けるようなパワーがあるのだ。
大嵐の中でも歩みを止めない、勇ましい人。
それが、ウォルグ・ゼナートという男性──
「ウォルグの例は珍しい方だよ。普通のハーフエルフじゃ、子供の内に心を病んでる。自暴自棄になって大暴れして、立派なオトナ気取りのエルフ達に押さえ付けられるのがほとんどさ。その後どうなるかなんて知りたくもないけど」
「うわー……」
「とまあ、こんな具合で今でも種族間での差別やら何やらがあるっていうのに、千年前にはここに魔族が大勢居たワケさ! 魔族の王──いわゆる魔王ってヤツが、魔族の国からある日突然軍を動かした。目的は世界征服。理由は単純に、世界の全てを自分のものにしたかったからだ」
女神の神託を受けた当時の巫女は、勇者と共にその力を更に高めるべく旅に出た。
聖地を巡り、またある所で仲間を得て、力を増していった。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 魔族の国があったというのは本当なんですの!?」
「うん。魔王っていうんだから、当然王様なワケでしょ? だったら魔族の国の王様に決まってるじゃない」
「言われてみれば……で、ですが、そんな記述はどこにも……!」
私がまだ読んでいないだけで、どこかにその情報が書かれた書物があるのかもしれない。
けれど、そんな危険な思惑を持った魔王が支配する国があっただなんて。
ウォルグさんとリアンさんもそれは初耳だったらしく、ひどく驚いていた。
「何故お前がそんな事を知っている。それがもし事実だとしたら、今すぐにでもしかるべき機関や研究者に報告すべき重要な──」
「──でもさ、その国はもうこの世界に無いんだよ。まるごとね」
「え……っと、つまりどういう意味?」
「巫女が封印したんだよ。魔族が住んでた大陸まるごと、とんでもない大規模な封印術を使ったんだ。魔族も魔王も、多分今でもどこかの次元に閉じ込められてるんじゃないかな」
「……けれど、もしかしたらその封印から逃れた魔族が居るかもしれないのですわよね?」
「そうだよ。もしかしたらすごい身近に、魔族が居るかもしれないね! なんていっても魔族はエルフのように長生きする者も居るんだから、千年なんて軽く生き延びててもおかしくないよ!」
彼の話が本当ならば、また新たな不安要素が出て来てしまう。
私はその先にあるかもしれない最悪の未来を想像して、顔を歪めた。
「もしも、その封印が解けてしまったら……この世界はどうなってしまうのでしょう」
私の零した言葉に、三人が言葉を失う。
「女神の巫女は、現代にはもう存在していません。その神殿だって、随分と昔に廃墟になってしまったと本に書いてありました。もし、万が一、近い将来にその封印が解かれてしまったら……」
魔王は再び、この世界を掌握せんと動くのだろう。
巫女エルーレへの千年分の憎悪と激しい怒りを膨らませ、魔王がこの地に舞い戻ってしまったら──
「……そうならない為に、動いてる人が居るよ」
「ただの学生であるはずのお前が、何故そんな事まで知っている」
ルークはまた意地の悪い笑みを浮かべて、人差し指を自分の唇にあてた。
「それはヒ・ミ・ツ! そんなに魔族とこの世界の未来が気になるっていうなら、今度その人に話でも聞いてみる? 会わせてあげようか?」
「その方とお話出来るのでしたら、是非お願いします!」
「オレも気になるから、一緒に会わせてよ!」
「……レティシアがそう言うのなら、俺も同行しよう。お前に彼女を任せてはおけないからな」
「じゃあ決まりね! 話も纏まった事だし、ひとまずヘンリー先生の所にさっさと行っちゃおうか」
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