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第6章 逆風を追い風にして
4.問題は山積みで
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夏休みを目前に控えた生徒達は皆、帰省や遠征に向けて準備を始めていた。
その中には当然私達も含まれている。
今日は終業式の後、ミーチャとサーナリアさんと一緒に買い物に行く約束をしていた。
私達の班は砂浜と太陽の似合うリゾート地、アルマティアナ近海に出現する魔物を退治しに向かう。
アルマティアナまでの交通費と宿泊費などは、本来ならばそれぞれで出し合って賄うもの。
けれど、一ヶ月以上心配を掛けてしまったお詫びとして、ルークさんが全員分の旅行費を支払うと申し出た。
彼が魔族だというのは、遠征へ行く私以外のメンバーも知っている。
しかし、彼が魔族社会の中では貴族と同じ位置付けであるのは私しか知らされていなかった。
貴族だからアルマティアナへの旅費を負担する余裕があるのかとも思っていたのだけれど、魔族自体は表向きには千年前に滅んでいた。それなのに、そんなお金はどこから出て来るのかしら?
私のこの疑問は、そう遠くない未来に解決する事になる。
終業式の準備が整うまで教室で待機を命じられた私達は、いつものように窓際に集まり雑談をしていた。
「クラスの半数は、ご実家に顔を出しに行かれるそうですわね」
「オレはこのまま寮に残るけど……」
「俺もだな」
今朝のホームルームまでに、アレク先生に帰省届を提出したのはこのクラスの半数程。
ケントさんやサーナリアさんは帰省なんてしなくても、元々この学校のあるアレーセルの街の住人だ。
そういう人も少なくはないのだけれど、夏の間に畑の手伝いに帰る方や、単純に家族に会いに行くという方も多いようだった。
「あたしは遠征が済んだら帰省しますね~。元気にやってるよって報告したいし、地元の友達とも久々に会いたいですし!」
彼女の明るい性格を踏まえれば考えるまでもなかった事だけれど、やはり私達以外にもお友達がいらしたようね。
別に、ちょっぴり寂しかった訳ではありませんけれど。
……ほ、本当ですわよ?
すると、サーナリアさんが言う。
「アルマティアナには、今週末に出発するのよね。それなら、ご家族の皆さんにアルマティアナ産のマーマレードを贈られてはどうかしら?」
「マーマレード?」
首を傾げたミーチャに、サーナリアさんは流れるような口調で語り続けた。
「アルマティアナは温暖な気候と精霊の気とのバランスの良い土地でして、とても良いオレンジが採れる事で有名なんです。以前、療養生活の最中に兄様が送って下さって……香りと味は当然の事、見た目も鮮やかで、とても嬉しかったの!」
「ああ~、何かもうサーナリアの話聞いてたらマーマレード食べたくなってきちゃいました! そんなにオススメの品でしたら、確実にゲットして買って帰ります!」
「ええ! きっと喜んで下さるはずだわ」
「へぇー、物知りだね!」
「た、たまたまですよ。兄様は昔から色々な土地の食べ物を送って下さったので、気になって調べていたら詳しくなっていただけですし……実家の方でも取り扱っている商品ですもの」
そうは言っても、言葉だけでミーチャをその気にさせるセールストーク。
流石はミンクレール商会の娘。その商才は会長様からしっかりと受け継がれているようだ。
私はそれが自分の事のように誇らしくなって、自然と口もとが綻んでいた。
それに気付いたサーナリアさんと目が合った。
彼女は照れ臭そうに、けれど嬉しそうにはにかむ。
こうして年頃の少女らしい可憐な姿を見ていると、こちらの方まで幸せな気持ちで胸が満たされていくのを感じる。
「いつかは実家で働くのか?」
「ええ。兄様と一緒に、商会をもっと盛り上げていきたいと考えています」
「貴女ならきっと出来ますわ、サーナリアさん」
「そうだと……良いですね。頑張ります」
一足先に婦人服担当として働かせて頂いた私。
けれども、接客なんて一生するとは思っていなかった私は、彼女のように動けていただろうか?
病弱だった彼女は、それでもいつかは治ると信じて、将来の夢の為に知識を蓄えている。
当たり前の事ながら、そんな彼女と私では商売への心構えが全く違っていたのだろう。
向き不向きもあるのだろうけど、私の初仕事の時よりも、サーナリアさんのセールストークは上を行っていた。
きっと彼女は夢を叶えて、立派な職業婦人へとなるだろう。
「あ、そういえばレティシアはどうするんです?」
「私ですか?」
急にミーチャに話を振られて驚いた。
「落ち着いたら、一度実家に帰ろうかと思っていたのですけれど……」
「けれど?」
先日のルークさんとの話を思い出す。
彼は女神の遺した神器を集めている。
まだ確定した訳ではないけれど──といっても、それらしい疑惑はいくつかある──私が巫女なのであれば、彼に協力すべきではないかと思っていたのだ。
それに、未だ彼を蝕む魔王の呪いについても解決していない。この長期休暇を利用しない手は無いのではないだろうか。
巫女が施した封印は、ルークさんの話を聞く分にはもう限界が近い。
となると、それが解けてしまったら……?
既に封印の綻びから抜け出した吸血鬼──カナリア副団長を攫ったクリストフだけが敵ではない。
巫女と勇者が倒せなかった魔王は、まだ生きている。
ルークさんはアルマティアナへ行くついでだと言っていたけれど、神殿へ行く事も獣王国への神器探しも、今度こそ魔王を倒す上で最優先事項だろう。
しかし、魔王の脅威が去っていない事実を彼らは知らない。知っているのは各国の王と一部の臣下だけのはず。
あまりに目立った行動を取って、それが公になるのは避けるべきだ。
「……色々ありまして、今年は帰れそうにありませんの。手紙は出してありますから、それ程心配はしないでしょうし」
「結構な長旅になりそうだしなぁ。連絡取れてんなら大丈夫じゃねぇか?」
「ええ。それに先日はお兄様が会いにきて下さったので、私の事はお父様達もお兄様から話を聞いているかと思いますわ」
二日前、お兄様が突然私に会いに来ていた。
理由はやはり、魔族についての事だった。
お兄様は『ガリメヤの星』の本拠地を捜索中、国王陛下に城へと呼び出されだのだそうだ。
そこでルークさんという生徒が吸血鬼である事と、もしかすると私が女神の巫女である可能性があると告げられた。
陛下はお兄様に『ガリメヤの星』の本拠地捜索に加え、魔王軍対策の一環として、ルークさんと共に私の護衛任務に就く事になったのだ。
つまりはアルマティアナでの依頼をこなした後、リアンさん達とはそこで解散し、お兄様とルークさんと共に、そのまま神殿と獣王国へ向かう予定になるらしい。
国家機密扱いの魔王と巫女の最重要案件なので、ここでウォルグさんやウィリアムさんが素直に引き下がってくれるかどうかが鍵になる。
私やお兄様、そしてルークさんのように王命を受けた者ならまだしも、彼ら一介の学生が獣王国の王にお会い出来る訳もない。
どこまで真実を伝えるべきなのか私には判断し難いから、お兄様達にお任せするしかないのが、とても歯痒い。
なので、現時点でこの事を知るのは各国の上層部と、私とルークさんとお兄様だけ。
いつかは嫌でも知られる事になるのだろうけれど、せめてその時までは彼らに平穏な時間を過ごしてもらいたいのだ。
それからしばらくして、終業式が始まった。
一年生から四年生まで、全クラスが集まる。
壁際には先生達が並んでいた。
『それではまず始めに、セイガフ理事長からご挨拶をお願い申し上げます』
拡声魔法が講堂に響き渡る。
声に従って、くすんだ赤髪の男性が壇上に現れた。
よく見ると猫耳らしきものが見える。獣人だろうか。
肉体派のこの学校を体現するような逞ましい身体つきが、服の上からでもよく分かる。
『新入生の諸君、入学おめでとう。挨拶が今日まで遅れてしまった事、ここに深くお詫びする。私はこの学校の理事長を務めるログス・セイガフだ』
ログス理事長はベンドバルフ団長に負けず劣らずの強面だった。
しかし、悪い人ではなさそうだった。
『今年は優秀な生徒が多いと聞いている。二年生、三年生、そして最上級生も含め、休み明けのルディエルとの魔法大会にて諸君らの活躍を期待している。以上で私からの挨拶を終わる』
それから何事も無く式が終わり、教室に戻ってアレク先生から通知表を受け取った。
私の成績は絶好調だった。主に座学と魔法はパーフェクトと言っても過言ではない。
「うわぁぁぁ! 実技系以外ほぼヤバい!! こんなのオヤジに見られたら半殺しじゃすまねーよ!!」
「ほほーん? ま、俺様はお前と違って勉強も出来ちまうから? 超余裕で夏休みをエンジョイ出来ちまうんだよなぁ~コレが! 自分の才能が怖いわ、ホント」
「どれどれ~?」
横からミーチャがウィリアムさんの通知表を持ち去り、私とサーナリアさんにも見えるように隣に並んだ。
彼の発言通り、魔法系の科目は私より劣るものの、確かに好成績に間違いなかった。
「うわ、あたしより成績良いとかマジですか!?」
「ウィリアムさん、確か特待生で入学なさったんでしたよね? わたしよりも評価が高い科目ばかりです!」
驚く二人に、ウィリアムさんは機嫌良く答える。
「そうだぜ、見直したか? これで俺様は心置き無く南のリゾートで美少女様と遊び尽くせるってワケだ! リアンと違ってな」
「ぐうっ……反論出来ないのが悔しい! 相手がウィリアムっていうのが余計に悔しい!!」
「まあまあウィリアムさん、その辺にしてあげて下さいな。リアンさんも次こそはもっと良い成績を残せるよう頑張りましょう? 私も教えられる範囲なら勉強にお付き合いしますわ」
私の言葉にリアンさんと、何故かウィリアムさんまでもが反応した。
「ホント!? じゃあ今度のテストの時に勉強付き合ってよ!」
「ええ、勿論ですわ」
「おい、バカリアン! てめぇ、バカってのを利用してレティシアとイチャイチャお勉強会しようったってそうはいかねえぞコラァ!!」
「バカなのは認めるけど……い、イチャイチャだなんて、そんな事考えてねーよ!」
「今一瞬想像しただろ? 二人っきりの甘い時間を想像しただろ! 俺はした! 想像だけでも最高だったさ!」
ああ、また二人の喧嘩が始まった……。
「そんな……そんな羨ましいシチュエーションをお前だけに味わわせてやるかってんだよ! その時は俺も参加するからな! 絶対だからなこの野郎!!」
「ちょっと落ち着きなってウィル! レティシアが困ってるでしょー!」
でも、こんな喧嘩でもちょっとだけ心地良かったりもする。
あの日ウィリアムさんに森の中で告白されてから、もしかしたらこれまでの関係がぎこちなくなってしまうかもと心配していた。
けれども彼は今のように、それまでと変わらずに私と接してくれている。
いつまで答えを出すのに悩んでいるかは、私にも予想がつかない。
ウィリアムさんのそういった優しさに、私は甘えてしまっている。
ウォルグさんの事だってそうだ。
でも……今は、まだ。
全てに決着がついたら、答えを出そう。
私を愛してくれる、素敵な人。
私の未来の旦那様になる人を──きっと。
その中には当然私達も含まれている。
今日は終業式の後、ミーチャとサーナリアさんと一緒に買い物に行く約束をしていた。
私達の班は砂浜と太陽の似合うリゾート地、アルマティアナ近海に出現する魔物を退治しに向かう。
アルマティアナまでの交通費と宿泊費などは、本来ならばそれぞれで出し合って賄うもの。
けれど、一ヶ月以上心配を掛けてしまったお詫びとして、ルークさんが全員分の旅行費を支払うと申し出た。
彼が魔族だというのは、遠征へ行く私以外のメンバーも知っている。
しかし、彼が魔族社会の中では貴族と同じ位置付けであるのは私しか知らされていなかった。
貴族だからアルマティアナへの旅費を負担する余裕があるのかとも思っていたのだけれど、魔族自体は表向きには千年前に滅んでいた。それなのに、そんなお金はどこから出て来るのかしら?
私のこの疑問は、そう遠くない未来に解決する事になる。
終業式の準備が整うまで教室で待機を命じられた私達は、いつものように窓際に集まり雑談をしていた。
「クラスの半数は、ご実家に顔を出しに行かれるそうですわね」
「オレはこのまま寮に残るけど……」
「俺もだな」
今朝のホームルームまでに、アレク先生に帰省届を提出したのはこのクラスの半数程。
ケントさんやサーナリアさんは帰省なんてしなくても、元々この学校のあるアレーセルの街の住人だ。
そういう人も少なくはないのだけれど、夏の間に畑の手伝いに帰る方や、単純に家族に会いに行くという方も多いようだった。
「あたしは遠征が済んだら帰省しますね~。元気にやってるよって報告したいし、地元の友達とも久々に会いたいですし!」
彼女の明るい性格を踏まえれば考えるまでもなかった事だけれど、やはり私達以外にもお友達がいらしたようね。
別に、ちょっぴり寂しかった訳ではありませんけれど。
……ほ、本当ですわよ?
すると、サーナリアさんが言う。
「アルマティアナには、今週末に出発するのよね。それなら、ご家族の皆さんにアルマティアナ産のマーマレードを贈られてはどうかしら?」
「マーマレード?」
首を傾げたミーチャに、サーナリアさんは流れるような口調で語り続けた。
「アルマティアナは温暖な気候と精霊の気とのバランスの良い土地でして、とても良いオレンジが採れる事で有名なんです。以前、療養生活の最中に兄様が送って下さって……香りと味は当然の事、見た目も鮮やかで、とても嬉しかったの!」
「ああ~、何かもうサーナリアの話聞いてたらマーマレード食べたくなってきちゃいました! そんなにオススメの品でしたら、確実にゲットして買って帰ります!」
「ええ! きっと喜んで下さるはずだわ」
「へぇー、物知りだね!」
「た、たまたまですよ。兄様は昔から色々な土地の食べ物を送って下さったので、気になって調べていたら詳しくなっていただけですし……実家の方でも取り扱っている商品ですもの」
そうは言っても、言葉だけでミーチャをその気にさせるセールストーク。
流石はミンクレール商会の娘。その商才は会長様からしっかりと受け継がれているようだ。
私はそれが自分の事のように誇らしくなって、自然と口もとが綻んでいた。
それに気付いたサーナリアさんと目が合った。
彼女は照れ臭そうに、けれど嬉しそうにはにかむ。
こうして年頃の少女らしい可憐な姿を見ていると、こちらの方まで幸せな気持ちで胸が満たされていくのを感じる。
「いつかは実家で働くのか?」
「ええ。兄様と一緒に、商会をもっと盛り上げていきたいと考えています」
「貴女ならきっと出来ますわ、サーナリアさん」
「そうだと……良いですね。頑張ります」
一足先に婦人服担当として働かせて頂いた私。
けれども、接客なんて一生するとは思っていなかった私は、彼女のように動けていただろうか?
病弱だった彼女は、それでもいつかは治ると信じて、将来の夢の為に知識を蓄えている。
当たり前の事ながら、そんな彼女と私では商売への心構えが全く違っていたのだろう。
向き不向きもあるのだろうけど、私の初仕事の時よりも、サーナリアさんのセールストークは上を行っていた。
きっと彼女は夢を叶えて、立派な職業婦人へとなるだろう。
「あ、そういえばレティシアはどうするんです?」
「私ですか?」
急にミーチャに話を振られて驚いた。
「落ち着いたら、一度実家に帰ろうかと思っていたのですけれど……」
「けれど?」
先日のルークさんとの話を思い出す。
彼は女神の遺した神器を集めている。
まだ確定した訳ではないけれど──といっても、それらしい疑惑はいくつかある──私が巫女なのであれば、彼に協力すべきではないかと思っていたのだ。
それに、未だ彼を蝕む魔王の呪いについても解決していない。この長期休暇を利用しない手は無いのではないだろうか。
巫女が施した封印は、ルークさんの話を聞く分にはもう限界が近い。
となると、それが解けてしまったら……?
既に封印の綻びから抜け出した吸血鬼──カナリア副団長を攫ったクリストフだけが敵ではない。
巫女と勇者が倒せなかった魔王は、まだ生きている。
ルークさんはアルマティアナへ行くついでだと言っていたけれど、神殿へ行く事も獣王国への神器探しも、今度こそ魔王を倒す上で最優先事項だろう。
しかし、魔王の脅威が去っていない事実を彼らは知らない。知っているのは各国の王と一部の臣下だけのはず。
あまりに目立った行動を取って、それが公になるのは避けるべきだ。
「……色々ありまして、今年は帰れそうにありませんの。手紙は出してありますから、それ程心配はしないでしょうし」
「結構な長旅になりそうだしなぁ。連絡取れてんなら大丈夫じゃねぇか?」
「ええ。それに先日はお兄様が会いにきて下さったので、私の事はお父様達もお兄様から話を聞いているかと思いますわ」
二日前、お兄様が突然私に会いに来ていた。
理由はやはり、魔族についての事だった。
お兄様は『ガリメヤの星』の本拠地を捜索中、国王陛下に城へと呼び出されだのだそうだ。
そこでルークさんという生徒が吸血鬼である事と、もしかすると私が女神の巫女である可能性があると告げられた。
陛下はお兄様に『ガリメヤの星』の本拠地捜索に加え、魔王軍対策の一環として、ルークさんと共に私の護衛任務に就く事になったのだ。
つまりはアルマティアナでの依頼をこなした後、リアンさん達とはそこで解散し、お兄様とルークさんと共に、そのまま神殿と獣王国へ向かう予定になるらしい。
国家機密扱いの魔王と巫女の最重要案件なので、ここでウォルグさんやウィリアムさんが素直に引き下がってくれるかどうかが鍵になる。
私やお兄様、そしてルークさんのように王命を受けた者ならまだしも、彼ら一介の学生が獣王国の王にお会い出来る訳もない。
どこまで真実を伝えるべきなのか私には判断し難いから、お兄様達にお任せするしかないのが、とても歯痒い。
なので、現時点でこの事を知るのは各国の上層部と、私とルークさんとお兄様だけ。
いつかは嫌でも知られる事になるのだろうけれど、せめてその時までは彼らに平穏な時間を過ごしてもらいたいのだ。
それからしばらくして、終業式が始まった。
一年生から四年生まで、全クラスが集まる。
壁際には先生達が並んでいた。
『それではまず始めに、セイガフ理事長からご挨拶をお願い申し上げます』
拡声魔法が講堂に響き渡る。
声に従って、くすんだ赤髪の男性が壇上に現れた。
よく見ると猫耳らしきものが見える。獣人だろうか。
肉体派のこの学校を体現するような逞ましい身体つきが、服の上からでもよく分かる。
『新入生の諸君、入学おめでとう。挨拶が今日まで遅れてしまった事、ここに深くお詫びする。私はこの学校の理事長を務めるログス・セイガフだ』
ログス理事長はベンドバルフ団長に負けず劣らずの強面だった。
しかし、悪い人ではなさそうだった。
『今年は優秀な生徒が多いと聞いている。二年生、三年生、そして最上級生も含め、休み明けのルディエルとの魔法大会にて諸君らの活躍を期待している。以上で私からの挨拶を終わる』
それから何事も無く式が終わり、教室に戻ってアレク先生から通知表を受け取った。
私の成績は絶好調だった。主に座学と魔法はパーフェクトと言っても過言ではない。
「うわぁぁぁ! 実技系以外ほぼヤバい!! こんなのオヤジに見られたら半殺しじゃすまねーよ!!」
「ほほーん? ま、俺様はお前と違って勉強も出来ちまうから? 超余裕で夏休みをエンジョイ出来ちまうんだよなぁ~コレが! 自分の才能が怖いわ、ホント」
「どれどれ~?」
横からミーチャがウィリアムさんの通知表を持ち去り、私とサーナリアさんにも見えるように隣に並んだ。
彼の発言通り、魔法系の科目は私より劣るものの、確かに好成績に間違いなかった。
「うわ、あたしより成績良いとかマジですか!?」
「ウィリアムさん、確か特待生で入学なさったんでしたよね? わたしよりも評価が高い科目ばかりです!」
驚く二人に、ウィリアムさんは機嫌良く答える。
「そうだぜ、見直したか? これで俺様は心置き無く南のリゾートで美少女様と遊び尽くせるってワケだ! リアンと違ってな」
「ぐうっ……反論出来ないのが悔しい! 相手がウィリアムっていうのが余計に悔しい!!」
「まあまあウィリアムさん、その辺にしてあげて下さいな。リアンさんも次こそはもっと良い成績を残せるよう頑張りましょう? 私も教えられる範囲なら勉強にお付き合いしますわ」
私の言葉にリアンさんと、何故かウィリアムさんまでもが反応した。
「ホント!? じゃあ今度のテストの時に勉強付き合ってよ!」
「ええ、勿論ですわ」
「おい、バカリアン! てめぇ、バカってのを利用してレティシアとイチャイチャお勉強会しようったってそうはいかねえぞコラァ!!」
「バカなのは認めるけど……い、イチャイチャだなんて、そんな事考えてねーよ!」
「今一瞬想像しただろ? 二人っきりの甘い時間を想像しただろ! 俺はした! 想像だけでも最高だったさ!」
ああ、また二人の喧嘩が始まった……。
「そんな……そんな羨ましいシチュエーションをお前だけに味わわせてやるかってんだよ! その時は俺も参加するからな! 絶対だからなこの野郎!!」
「ちょっと落ち着きなってウィル! レティシアが困ってるでしょー!」
でも、こんな喧嘩でもちょっとだけ心地良かったりもする。
あの日ウィリアムさんに森の中で告白されてから、もしかしたらこれまでの関係がぎこちなくなってしまうかもと心配していた。
けれども彼は今のように、それまでと変わらずに私と接してくれている。
いつまで答えを出すのに悩んでいるかは、私にも予想がつかない。
ウィリアムさんのそういった優しさに、私は甘えてしまっている。
ウォルグさんの事だってそうだ。
でも……今は、まだ。
全てに決着がついたら、答えを出そう。
私を愛してくれる、素敵な人。
私の未来の旦那様になる人を──きっと。
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