赤髪と狼、旅に出る。 〜未知のスキル【オート周回】で(将来的に)ダンジョンを無双する〜

由岐

文字の大きさ
4 / 57
第1章 夢への誓い

4.あの橋を渡って

しおりを挟む
 ──翌朝。天気は快晴。

「それでは行って来る。皆、良い子で待っているのだぞ」
「はーい! いってらっしゃい、母さん!」

 ガラッシアはソノ村からの依頼をこなすべく、足りない薬草を調達する為ダンジョンへ向かおうとしていた。
 全身灰色の毛並みの鋼狼──ギルに跨がったエルフの母ガラッシアは、愛しい子供達の見送りを受けている。元気に声を上げたザインに続いて、エイルとディックも笑顔で手を振って送り出す。
 そんな最中、ディックはひっそりとザインに耳打ちをする。

「……なあザイン、後でちょっと話があるんだ」
「うん。別に良いけど」

 もう見えなくなった母の背。
 口うるさい姉には聞かれぬよう、声を潜めて話し掛けてきた兄。
 小さく口元を歪め、悪戯っぽく微笑むディックの様子を見て、ザインは内緒話を持ち掛けられたのだと理解した。




 エイルは一足先に家に戻り、読みかけだった本を手に過ごし始めた頃。
 ザインはディックに連れられて、家の状況を把握出来る木陰へと身を隠していた。

「どうしたんだよ、ディック。エイルに聞かれちゃまずい話でもあるの?」
「ああ、その通りさ」

 チラリと玄関の方へ視線を向け警戒しつつ、兄はひっそりと語り始める。
 何故なら、これから彼がザインに打ち明ける計画は、母の言い付けを絶対とするエイルには聞かれてはいけない内容であるからだ。

「……お前のスキル、『オート周回』がどんな能力なのか、知りたくないか?」
「え? そ、そりゃあ、知れるものなら知りたいけど……母さんはスキルを使っちゃダメだって言ってたし……」
「一回ぐらい大した事無いだろ。それにほら、いざとなったら──」

 言いながら、ディックは懐からある物を取り出す。
 それは、半透明なオレンジ色の液体が入った小瓶だった。
 ディックはその中身をちゃぷん、と揺らしながらザインに笑いかける。

「母さんがいざって時の為に部屋に置いてた、エルフの万能薬……! これさえあれば、お前のスキルが自傷系の能力でも安心だろ?」
「ええぇ~……? これ、勝手に持ち出しちゃって良いの? もしも母さんにバレたら……」
「大目玉を喰らうだろうなぁ、絶対に」

 ガラッシアが保存しておいた、エルフ秘伝の万能薬。
 今日のように子供達だけで過ごす時、誰かが大怪我をした際などに使うよう言い付けられていたものだ。保管場所は、家族ならば全員が知っている。
 母の寝室の棚にある、薬箱の中。
 普段ならば誰も中身を確認しないので、ディックがこっそり持ち出している事実を知る者は、ザイン以外に誰も居ない。

「でもさ、今日なら母さんも夕方まで帰って来ないだろ? 今の内に二人で行っちまおうぜ……ダンジョンに!」
「ダンジョンに……⁉︎」

 その提案にザインの目が輝いたのを、兄は見逃さなかった。
 ディックはここぞとばかりに甘言を畳み掛ける。

「オレ達だって、歴戦の探索者の母さんから指導を受けて剣術を磨いてきたんだぜ? 初心者向けのダンジョンなら楽勝だって!」
「そ、そう……かなぁ……?」
「そうに決まってるさ……! それに、オレのスキルは『見切り』だぜ? その辺のザコ相手なら、無傷で倒せるに違いねえ……‼︎」
「ディックがそこまで言うなら……行ってみたい、かも……!」

(よっし、作戦成功っ……!)

 内心ガッツポーズを取りつつ、ニヤリと口角を上げるディック。
 すっかりその気になってしまったザインは、これ以上無い程に胸をドキドキさせていた。

「それじゃあオレは武器庫から丁度良さそうなのを持って来るから、エイルには上手い事言ってごまかしておいてくれ。集合場所は橋の手前な!」
「うん、分かった!」
「じゃ、また後でな!」

 そう言って、家の横に建てられた簡素な武器庫へと駆け出していくディック。
 武器庫の鍵は特に取り付けられておらず、中には訓練用の木剣や木槍などが保管されている。
 その間にザインは目立たぬように家の中に戻り、エイル達には「これからディックと川の方で稽古をしてくる」と告げておいた。エイルも特に怪しむ様子も無く、ひらひらと手を振ってザインを送り出す。
 兄との約束通り、川に架かる橋の前まで向かえば、そこにはしたり顔のディックが待ち構えているではないか。

「無事に抜け出して来られたみたいだな!」
「うん、まあね。それで、持って来た武器って……もしかして、母さんの?」
「ああ。後で元の場所に戻しとけば大丈夫だろ?」

 ディックの右手には、ガラッシアの短剣が。
 もう一方の手にあるのは、彼女が狩りに出る際に使用する弓だった。
 母の武器を持ち出して来るとは思いもしなかったザインは、流石に罪悪感が募り始める。

「ほら、お前なら弓も使えるだろ? オレが前衛で、ザインが後衛。魔力の判定も済ませた事だし、多分お前なら魔力の矢も使えると思うんだよなぁ」

 けれども無許可で武器を持ち出した張本人は、まるで気にも留めていない。
 いつも通りの様子でサッと弓を手渡されたザインは、反論する暇も無く受け取らざるを得なかった。
 細かな意匠が施された短剣と弓は、ガラッシアが長年愛用している思い出の品でもある。
 それを何度も母の口から聞かされてきたザインの胸に、言葉に出来ない複雑な思いが渦巻いていた。




 ザインとディックは、橋を渡って川を越えた。

 ──子供だけで、川より向こう側には行かない事。

 ──森のダンジョンには絶対に近寄らない事。

 耳にタコが出来る程、繰り返し言い聞かされてきた母との約束。
 川を越えた先には、ガラッシアが張った結界は届かない。
 二人が目指す森のダンジョンは、初心者向けではあるものの、魔物達は立ち入る者に容赦無く牙を剥く。


「さぁて、ここが森のダンジョン……ポポイアの森の入り口だな」

 ザイン達がやって来たのは、川を北上した先に続く小道の奥。
 隙間無くびっしりと立ち並ぶ樹木は壁の役割を果たしており、一箇所だけ人が通れる隙間がある。
 その手前には木製の立て看板が設置されており、ディックが口にしていた通り『ポポイアの森 入り口』と書き記してあった。

「そうみたいだね。……ねえ、本当に俺達だけで行くの?」

 不安を滲ませながら訊ねるザインに、ディックが鼻で笑う。

「なんだよザイン、今更怖気付いてんのか?」
「べ、別に怖がってなんかないよ!」
「必死で言い訳してんのが怪しいなぁ~」
「~~っ! い、行けば良いんだろ、行けば‼︎」

 売り言葉に買い言葉。
 まんまとディックの策略にハマったザインは、二人だけでポポイアの森へと足を踏み入れてしまう。
 ザインの手には、ガラッシアがエルフの王家から譲り受けた風神の弓が。
 ディックの腰には、彼女が勇者と共に素材を集めて駆け回り、やっとの思いで完成させた治癒の短剣がある。
 それらの武器の価値を全く知らぬ、幼い少年達。彼らは背後から向けられる邪な眼光に、これっぽっちも気付いてはいなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

処理中です...