赤髪と狼、旅に出る。 〜未知のスキル【オート周回】で(将来的に)ダンジョンを無双する〜

由岐

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第4章 怪しい影

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 プリュスと別れ、イスカ大草原に帰還したザイン達。
 探索者バッジの機能で『スズランの花園』から脱出した後、エルは解毒剤によってすっかり元気になっていた。
 彼女はザインとフィルに何度も謝り、感謝の言葉を述べ続け……フィルには涙混じりに抱き着いていた。

 不甲斐無い姉でごめんなさい。
 頼りない仲間で、本当にごめんなさい。

 そんな言葉を何度も繰り返すエルの口を止めたのは、ザインの一言だった。

「俺だってエルに謝らないといけないよ。君を護れなかったのは、リーダーである俺の責任だ。……こんな未熟なリーダーでごめんな、エル」
「ザインさんっ……そんな、そんな事……!」

 何かを言い掛けたエルは、その言葉をぐっと飲み込んだ。
 エルはローブの袖でゴシゴシと涙を拭うと、赤くなってしまった両目を向けてザインを見る。

「わたし……もう二度と皆さんをこんな事に巻き込んでしまわないように、もっともっと強くなります……! 今のままのわたしじゃ、父を捜し出すなんて出来るはずないものっ……‼︎」

 ザインは弱い自分の殻を破ろうと決意した少女の覚悟を目の当たりにして、彼もまた決意を固めた。

 ──仲間を護れないリーダーなんかに、母さんを超える事なんで出来る訳が無い。

 彼女達が誇れるようなリーダーであれるよう、もっと強くならなければならないのは自分の方だ。
 この苦い記憶を胸に刻み、更なる高みを目指す。
 そうして皆で共に成長していく事こそが、ザインの思い描く探索者に至る道なのだと信じて……。




 ジルに乗って王都に帰還したザイン達は、真っ先に探索者ギルド会館へと直行した。
 そこで彼らを出迎えたのは、いつもの男性職員とその後輩の金髪女性職員のジェシカ。そして、本部長のカレンであった。

「『鋼の狼』、只今帰還しました!」
「ああ……皆様、よくぞご無事で……!」

 受付のカウンター横から駆け出してきた男性職員が、ザイン達三人の姿を順番に眺め、安堵の表情を浮かべて言う。
 どうやらエルが拐われた件は他の探索者達の耳にも入っていたらしく、『鋼の狼』が三人全員が揃って帰還した事実にどよめいていた。
 少し遅れてジェシカとカレン本部長も側に集まって来て、「よく無事で戻って来てくれた」と何度も感謝された。

 三人はすぐに別室に案内され、カレンから今回の事件についての説明がなされた。

「先程、白百合聖騎士団からの連絡がございました。エル様をダンジョンに連れ込んだ件の誘拐犯らは、聖騎士によって城へと連行されたそうです」

 カレンはふわりとした長い白髪の結び目を直しながら、改めてザインの顔を見詰めて言う。

「私共も彼らの情報を集め、どうにか連続失踪事件の解決に当たろうとしていたのですが……思いがけぬ形で犯人らを捕らえて頂いた事、当ギルドの代表として心からの感謝と報酬をお受け取り頂ければと考えておりますわ」
「報酬……ですか? でも、今回の事は依頼を受けて解決させた事件じゃありませんし……」

 ザインがそう否定すると、カレンは眉を下げて首を横に振った。

「いえ、今回は何としても報酬をお受け取り下さいませ。事件の解決に協力して下さった探索者の方々には、ギルドからの緊急依頼扱いとして、報酬金とランクのポイント加算をさせて頂いておりますの」

 彼女が言うには、この件を解決へ導いた『鋼の狼』のメンバーにはそれらの報酬が与えられるのだという。
 これまでにも、突如として大量発生した有害な魔法植物の駆除を行ったパーティーや、山賊を捕らえた探索者に同じような報酬が支払われてきたそうだ。

「ですから、皆様にも当ギルドから相応の報酬をお支払いさせて頂きたいのです」
「……という事らしいですが、どうしましょうか? ザインさん」

 ザインを挟むように三人掛けのソファに座るエルが、横からザインの顔を見上げている。
 問われたザインはうぅむと顎に手を当てて、しばらく黙り込んだ後に口を開いた。

「……そういう決まりなんでしたら、報酬を受け取らせてもらいます」
「はい、それではすぐに今回の報酬とポイントの加算をさせて頂くよう連絡して参りますわ」

 カレンは安心したように微笑むと、向かいのソファから立ち上がった。

「それでは皆様、一度受付の方に移動して頂いても宜しいでしょうか?」
「あの、その前にちょっとお話があるんですけど……」

 扉に向かうカレンにザインが声を掛けて引き止めると、彼女は振り返って首を傾げる。

「如何なさいました?」
「この前の、俺達を最優先育成枠の候補に考えてるって話の件なんですが……まだ枠は残ってますか?」
「……お受けして、頂けるのですか?」

 その言葉にザインが頷くと、カレンは胸に両手を当てて微笑んだ。
 まるで聖母のような仕草をした彼女。

「ああ、本当に良かった……。エル様がご無事だった事も何よりですが、こうして皆様を我がギルドの最優先育成枠としてお迎え出来る事……。今日は二つもの幸福に恵まれてしまいましたわ……!」

 カレンは報酬の件と同時に育成枠についての手続きも行うと言ってザイン達を連れ、受付まで上機嫌で歩いていく。
 奥の職員室に姿を消したカレンを待ちながら、その間にすっかり顔馴染みになった男性職員から、誘拐事件の報酬を受け取った。

「こちらが今回の報酬となります。それから、お預かりしていた皆さんのバッジもお返し致しますね。しっかりとポイントを加算させて頂きました」
「ありがとうございます!」

 バッジを返却され、エルとフィルもそれぞれ服にバッジを付け直す。
 これにはギルドでの活躍で稼いだポイントを集計する機能もある為、依頼の達成報告をする度に、一度受付に預ける必要があるのだ。
 三人共まだブロンズランクのままではあるが、このまま依頼をこなし続けていけば、いつの日かシルバーランクに昇格する事が出来る。

(ちょっとずつの積み重ねだけど、母さんだってこういう下積みを重ねてプラチナランクにまで上り詰めたんだよなぁ)

 憧れの存在であり、いずれは超えるべき目標である母──『銀糸のエルフ』ことガラッシア。
 ザインはそんな母と同じ探索者という道を歩み始めたばかりの今、少しずつ彼女の遠い背中を追い掛けている。
 探索者ギルドの最優先育成枠という制度がその後押しとなってくれるのであれば、願ってもない事だ。


 そうしてしばらくカレン本部長を待っていると、彼女が何枚かの書類を持って受付に戻って来た。
 ザインはパーティーのリーダーとしてそれらに必要事項を書き込み、無事に王都ノーティオ本部の育成枠として登録してもらった。
 それらを済ませた後、カレンから近日中に育成担当の探索者を呼び寄せるので、その際にギルド会館に顔を出してほしいと伝えられたのだった。




 会館を出たザイン達は、外で待たせていたジルを連れて『銀の風見鶏亭』へ向かおうとしていたのだが、その途中でザインは違和感を覚えた。
 何となくの勘のようなものなのだが、ザインのコピー体が消滅したような予感がザインの胸に過ったのだ。
 試しにエル達に声を掛け、少し足を止めて自身のアイテム回収ポーチを調べてみる。
 すると、ザインの予想が的中していた。コピー体の魔力が尽きて、自然消滅したのだろう。
 ポーチの中には見覚えの無い量の薬草や魔物の素材で溢れており、このままではすぐに中身がパンパンになってしまいそうな程だったのだ。
『拡張』スキルを持つ職人が作ったポーチだとはいえ、中に入れられるものには上限がある。
 定期的にコピー体が集めた素材を売却するか、何かの材料としてアイテムを作成するかしなければ、許容量を超えたポーチが壊れてしまうかもしれない。

「あー……ごめん、二人共! 先に宿に行って休んでおいてくれるか?」
「何か用事があるのですか?」
「うん。どうやらスキルの効果時間が切れたみたいで、一気にポーチにアイテムが届いたんだよ。それをちょっと売って来ようかなと思って……」
「それならぼく達もご一緒します! お昼時ですし、そのついでに師匠をご案内したい場所があるので……!」

 元気に挙手したフィルに、隣で微笑むエルも頷いて賛同している。
 そんな二人を見て、ザインはふと考えた。
 つい先日彼女達と別行動をしたせいで発生してしまったのが、今回のエルの誘拐事件だった。
 ならば、迂闊に二人と離れるのは避けるべきなのではないか。
 それに、フィルも何か自分に行かせたい場所があるようだ。どこか良い食事処でも見付けたのだろうか。
 だとすれば、尚更二人の厚意を無下にするのははばかられてしまう。
 ザインはへらりと笑って、大きく頷いた。

「……じゃあ、皆で一緒に行こうか!」
「はいっ!」
「ワフッ!」
「では、まずはどちらに向かいましょうか?」
「ひとまず『ねこのしっぽ』で予備のポーションを作ってもらうかなぁ」

 三人と一匹は、にこやかに会話をしながら歩き始める。
 けれどもザインの心には、聖騎士の掟を破ってしまったプリュスの事が引っ掛かっていた。

(まだ彼女は王都のどこかに居るはずだ。途中でプリュスさんに会えれば良いんだけど……)

 ザインは未だ、彼女を巻き込んでしまった事を後悔していた。
 確か、聖騎士団の宿舎がこの都のどこかにあると記憶している。
 薬品店『ねこのしっぽ』の看板娘のレナが場所を知っているのなら、彼女に宿舎までの道を教えてもらって顔を出しておくべきだろう。

(彼女がどれだけ立派な人なのか、騎士団の人達にしっかり伝えておかなくちゃ気が済まないからな)

 ザインはエル達と他愛も無い話をしながら、頭の片隅で予定を組み立てていくのであった。
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