50 / 57
第4章 怪しい影
12.迷宮の底に眠りしは
しおりを挟む
魔物だらけだった第二階層を突破し、次なる第三階層へと降り立つ面々。
ここでも相変わらず暗い視界をライトの魔法で確保しつつ、いつまた魔物と戦闘になっても良いように警戒は怠らない。
「……今の所ここは安全なようですね、ザインさん」
「うん。特に魔物の気配もしないみたいだ」
階段を降りてすぐに出たフロアは、これまでの階層とは少々様子が違っていた。
土と砂の香りは相変わらずではあるのだが、レンガのような長方形に切り出された石を積み重ねて整えた壁や床に、先の長い通路。
人工的に作り出されたようなこの空間は、最早洞窟と呼ぶには相応しくない。そう、これはまるで──
「……まるでどこかの遺跡みたいな場所だな、このフロアは」
見て感じた通りの感想を述べたザインの言葉に、フィルも頷き同意する。
「師匠の言う通り、冒険物語に出て来るような古代遺跡みたいな雰囲気ですよね。ぼく、こういうのワクワクします!」
「……二人の言い分は、あながち間違いではないのよね」
すると、カノンが辺りを観察しながら口を開いた。
「ワタシはこのダンジョンに来るのは初めてなのだけれど……こういう様式のフロアは、謎解きが必要になるケースが多いのよ」
「謎解き……っていうと、大陸の南方に多い形式のダンジョンフロアだよな?」
「ええ。何度か謎解き系のフロアを突破してきたからこそ分かるのだけれど、そういったフロアはこんな風に古代遺跡のような内装になっている場合がほとんどなの」
カノンが語るには、これまで発見されてきたダンジョンの中に似た様式の古代文明じみた階層が、数々の探索者によって発見されているのだという。
けれども、そのような様式の遺跡自体はどこにも存在していない。
神々を祀る神殿や、古代からの精霊信仰に関連する遺跡であれば発掘されているのだが……ダンジョン内にある遺跡のような様式のものは、迷宮外では未だ発見されていないのである。
探索者達の間では『ダンジョン遺跡』とも呼ばれるこのフロアの特徴は、カノンの言っていた仕掛けによる謎解きと、不気味な壁画や石像が残されている点だ。
ダンジョン遺跡の調査には、探索者を護衛として雇った研究者達も向かっている。
しかし、彼らの知識や古い文献を以ってしても、壁画に描かれた存在や石像についての情報は得られぬまま。
「ダンジョン遺跡の調査を続ける研究者の中には、魔王の配下だったダンジョンマスター達が崇める魔王や、魔物達にまつわる遺跡だという予想もあるそうよ。……そんな考察も出るような場所だから、当然罠も仕掛けられているわ」
「罠に謎解き、ですか……」
「冒険心をくすぐられますね、師匠っ!」
「ああ! 母さんから話には聞いていたけど、こんな風になってるんだなぁ~!」
瞳をキラキラと輝かせるザインとフィルに、カノンは小さく苦笑する。
一方、エルは不安げな表情で通路の先を見詰めていた。
そんな彼女を見て、カノンがそっとエルの側に歩み寄る。
「安心して、エル。油断せずに全員で協力していけば、無事に依頼を達成出来るんですもの。不安がる必要なんてどこにも無いわ」
「カノンさん……」
優しくエルの肩に手を置いて、ふわりと微笑むカノン。
「それに、さっきはアナタのお陰でゴーレムの群れを突破する事が出来たんですもの。だから、今度はワタシがエルの為に頑張らないと……ね?」
その言葉を受けて、エルは少しだけ緊張が解けていくのを感じた。
エルは心を落ち着ける為に小さく息を吐くと、改めてカノンの顔を見てこう言った。
「……わたしに出来るのは、あれぐらいしかありませんでしたから。フィルやカノンさんのように身体を動かすのは不得意ですし、かといってザインさんのようなリーダーシップもありませんし……それに……」
「……それに?」
エルは少し離れた位置で盛り上がっているザイン達をちらりと見て。
そうして彼らに聞こえないように声を抑え、恥ずかしそうに眉を下げてカノンに告げた。
「わたし、昔から本を読むのが好きで……探索者をしている父の影響もあって、よく冒険小説を読んでいたんです。ですからその……こういったダンジョン遺跡には、きっと恐ろしい呪いや罠が待ち受けているのではないかと……」
でも、とエルは更に続けて言う。
「……カノンさんがそう仰って下さるなら、とても心強いです。わたしとカノンさんとフィル……そしてザインさんの四人で、絶対に竜翡翠をセッカさんに届けましょう!」
「ええ、勿論よ! このワタシが居れば、ダンジョン遺跡なんてあっという間に突破出来てしまうのですから!」
そうして楽しげに微笑み合う二人の少女達は、すぐにザイン達に声を掛けてフロアの探索を開始するのだった。
ここでも相変わらず暗い視界をライトの魔法で確保しつつ、いつまた魔物と戦闘になっても良いように警戒は怠らない。
「……今の所ここは安全なようですね、ザインさん」
「うん。特に魔物の気配もしないみたいだ」
階段を降りてすぐに出たフロアは、これまでの階層とは少々様子が違っていた。
土と砂の香りは相変わらずではあるのだが、レンガのような長方形に切り出された石を積み重ねて整えた壁や床に、先の長い通路。
人工的に作り出されたようなこの空間は、最早洞窟と呼ぶには相応しくない。そう、これはまるで──
「……まるでどこかの遺跡みたいな場所だな、このフロアは」
見て感じた通りの感想を述べたザインの言葉に、フィルも頷き同意する。
「師匠の言う通り、冒険物語に出て来るような古代遺跡みたいな雰囲気ですよね。ぼく、こういうのワクワクします!」
「……二人の言い分は、あながち間違いではないのよね」
すると、カノンが辺りを観察しながら口を開いた。
「ワタシはこのダンジョンに来るのは初めてなのだけれど……こういう様式のフロアは、謎解きが必要になるケースが多いのよ」
「謎解き……っていうと、大陸の南方に多い形式のダンジョンフロアだよな?」
「ええ。何度か謎解き系のフロアを突破してきたからこそ分かるのだけれど、そういったフロアはこんな風に古代遺跡のような内装になっている場合がほとんどなの」
カノンが語るには、これまで発見されてきたダンジョンの中に似た様式の古代文明じみた階層が、数々の探索者によって発見されているのだという。
けれども、そのような様式の遺跡自体はどこにも存在していない。
神々を祀る神殿や、古代からの精霊信仰に関連する遺跡であれば発掘されているのだが……ダンジョン内にある遺跡のような様式のものは、迷宮外では未だ発見されていないのである。
探索者達の間では『ダンジョン遺跡』とも呼ばれるこのフロアの特徴は、カノンの言っていた仕掛けによる謎解きと、不気味な壁画や石像が残されている点だ。
ダンジョン遺跡の調査には、探索者を護衛として雇った研究者達も向かっている。
しかし、彼らの知識や古い文献を以ってしても、壁画に描かれた存在や石像についての情報は得られぬまま。
「ダンジョン遺跡の調査を続ける研究者の中には、魔王の配下だったダンジョンマスター達が崇める魔王や、魔物達にまつわる遺跡だという予想もあるそうよ。……そんな考察も出るような場所だから、当然罠も仕掛けられているわ」
「罠に謎解き、ですか……」
「冒険心をくすぐられますね、師匠っ!」
「ああ! 母さんから話には聞いていたけど、こんな風になってるんだなぁ~!」
瞳をキラキラと輝かせるザインとフィルに、カノンは小さく苦笑する。
一方、エルは不安げな表情で通路の先を見詰めていた。
そんな彼女を見て、カノンがそっとエルの側に歩み寄る。
「安心して、エル。油断せずに全員で協力していけば、無事に依頼を達成出来るんですもの。不安がる必要なんてどこにも無いわ」
「カノンさん……」
優しくエルの肩に手を置いて、ふわりと微笑むカノン。
「それに、さっきはアナタのお陰でゴーレムの群れを突破する事が出来たんですもの。だから、今度はワタシがエルの為に頑張らないと……ね?」
その言葉を受けて、エルは少しだけ緊張が解けていくのを感じた。
エルは心を落ち着ける為に小さく息を吐くと、改めてカノンの顔を見てこう言った。
「……わたしに出来るのは、あれぐらいしかありませんでしたから。フィルやカノンさんのように身体を動かすのは不得意ですし、かといってザインさんのようなリーダーシップもありませんし……それに……」
「……それに?」
エルは少し離れた位置で盛り上がっているザイン達をちらりと見て。
そうして彼らに聞こえないように声を抑え、恥ずかしそうに眉を下げてカノンに告げた。
「わたし、昔から本を読むのが好きで……探索者をしている父の影響もあって、よく冒険小説を読んでいたんです。ですからその……こういったダンジョン遺跡には、きっと恐ろしい呪いや罠が待ち受けているのではないかと……」
でも、とエルは更に続けて言う。
「……カノンさんがそう仰って下さるなら、とても心強いです。わたしとカノンさんとフィル……そしてザインさんの四人で、絶対に竜翡翠をセッカさんに届けましょう!」
「ええ、勿論よ! このワタシが居れば、ダンジョン遺跡なんてあっという間に突破出来てしまうのですから!」
そうして楽しげに微笑み合う二人の少女達は、すぐにザイン達に声を掛けてフロアの探索を開始するのだった。
0
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる