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五章
60話
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謡い終わったエンティーは、違和感を覚えた。
「……なんだか、揺れていない?」
聞いてみると、2人も頷く。
どうも座っているのに、どこか落ち着かない。壁に吊るされている革袋が小さく揺れ、立てかけてあった箒が床へと倒れた。
「地震でしょうか」
島は全くと良い程地震の被害は無いが、知識として備わっている。ミースアは地面に寝そべり、全身で感じ取ろうと試みる。
「うーん。地震にしては長すぎるよ。なんか……揺れは小さいけど、広がっているような……」
表現するには難しいと言いたそうに、ミーリアは答える。
その瞬間。
「……え?」
エンティーは目を丸くし、即座に2人を腕に抱く。
風化による痛みは砂の様に落ち、地面が、天井が、全てが正方形の白い石となり割れ、分裂する。
「何これ!?」
ミースアは思わず声を上げる。
部屋に置いてあった道具は落ちて行く。3人の座っている石は分裂せず、落ちる様子は一切なく浮遊を続けている。
島は海に囲われ、地下が崩壊したとなれば海水が流れ込むはずが、何も起きない。どうやら、地上の神殿とほぼ同じ広さでくり抜かれた巨大な空洞のようだ。周囲に浮かぶ正方形の白い石は、神殿の石材によく似ているが淡い光を放ち、地下であった筈の空間は星空に似た異様な光景を作り出している。
その時エンティーの首へ、一匹の蜂が留まる。
「えっ、なに、この虫……」
「エンティー!」
聞き慣れた声に、エンティーは下を見る。
そこには、自分達と同じように浮遊する石の上にいるシャングアと初老の男性だ。
「シ、シャングア……」
彼の姿を見て安心したエンティーは目じりが熱くなる。
シャングアは男性に何かを話すと、すぐにエンティーの元へと向かう。奇蹟によって生み出した両手程の大きな蜘蛛に糸を噴出させ、浮遊する石から石へと渡っていく。
石はただ浮遊するばかりでシャングアの妨害をする事は無い。すぐに3人の元へ到達することができた。
「遅くなって、ごめん」
シャングアはエンティーに謝罪する。エンティーは大きく首を振り、笑顔を見せる。
「君達も、怪我は無い?」
シャングアは2人に生える鱗を見て驚いたが、すぐに3人の状態を確認する。
「はい!」
「大丈夫です!」
2人は安心した様子で、大きく頷いた。
「シャングアは、この状況は何なのか知っている?」
「先程俺と一緒にいたガンザの話によると、戦争があった時代に作られた奇蹟らしい。地下に敵を侵入させないために、定期的に道や部屋を動かしていたんだ」
迷宮の様に作られていても、それを攻略されては意味がない。定期的に動かしていた為、整備担当者の部屋には何冊も地下見取り図が存在していた。平和な時代になってからは役目を終え、その機能を隠すように加工が施された。
「奇蹟の作用は地下2階から。規模が大きい分、かつては階層ごとに少しずつ行っていた。こんな規模は一度だって起こってはいない」
一つ一つ動かす為にはそれ相応の神力が必要になる。地下再構築は十数人規模で発動させるものだ。犯人は大勢いる。シャングアは身構えつつ、周囲を見渡す。
「……? どうかした?」
ふと、エンティーが不思議そうな目でこちらを見ていた事に気づき、シャングアは問いかける。
「あ、いや。何でもない」
エンティーは軽く首を振り、シャングアもとりあえずは納得をする。
「そう? それでこの奇蹟を使った奴は、分裂に力を裂き過ぎている。証拠に、地下の再構築が遅れている。地上に戻るなら、今だ」
「わかった。足手まといにならない様に、頑張る」
エンティーは大きく頷き、シャングアは下にいるガンザへ呼びかけようと下を見るが、言葉を飲み込む。
暗闇の中に、大きな光る目が見えた。
聖徒達と同じ紺色の瞳。その瞳孔は、縦長であり猫に似ているが、シャングアは即座にそれが何であるか気づいた。
あれは、蛇の目だ。
「うわっ!?」
「あれ、なに?!」
驚く子供達。シャングアの対応よりも早く、それは上へと登り、浮遊する石を鋭い爪の生えた前足で掴み4人を見下ろす。
飛竜よりもはるかに大きく、傷だらけの胴は長く、オパールの様に光の加減で色彩を放つ白い鱗はどこか濁りがある。鹿の様に長く四方に延びる筈の角は切り取られ、銀色の鬣は汚れまみれでくすんでしまっている。
絶滅種と書物に記載されている竜と特徴が一致する。
地下の再構築の影響で、檻から解放されてここまで飛んできたのだろう。
腹を空かせ、丁度良い獲物が4匹いると思っているのかもしれない。
シャングアは3人を庇うように前に立ち、蜂達は威嚇行動を開始する。
竜の眼は、4人を見つめている。
「……なんだか、揺れていない?」
聞いてみると、2人も頷く。
どうも座っているのに、どこか落ち着かない。壁に吊るされている革袋が小さく揺れ、立てかけてあった箒が床へと倒れた。
「地震でしょうか」
島は全くと良い程地震の被害は無いが、知識として備わっている。ミースアは地面に寝そべり、全身で感じ取ろうと試みる。
「うーん。地震にしては長すぎるよ。なんか……揺れは小さいけど、広がっているような……」
表現するには難しいと言いたそうに、ミーリアは答える。
その瞬間。
「……え?」
エンティーは目を丸くし、即座に2人を腕に抱く。
風化による痛みは砂の様に落ち、地面が、天井が、全てが正方形の白い石となり割れ、分裂する。
「何これ!?」
ミースアは思わず声を上げる。
部屋に置いてあった道具は落ちて行く。3人の座っている石は分裂せず、落ちる様子は一切なく浮遊を続けている。
島は海に囲われ、地下が崩壊したとなれば海水が流れ込むはずが、何も起きない。どうやら、地上の神殿とほぼ同じ広さでくり抜かれた巨大な空洞のようだ。周囲に浮かぶ正方形の白い石は、神殿の石材によく似ているが淡い光を放ち、地下であった筈の空間は星空に似た異様な光景を作り出している。
その時エンティーの首へ、一匹の蜂が留まる。
「えっ、なに、この虫……」
「エンティー!」
聞き慣れた声に、エンティーは下を見る。
そこには、自分達と同じように浮遊する石の上にいるシャングアと初老の男性だ。
「シ、シャングア……」
彼の姿を見て安心したエンティーは目じりが熱くなる。
シャングアは男性に何かを話すと、すぐにエンティーの元へと向かう。奇蹟によって生み出した両手程の大きな蜘蛛に糸を噴出させ、浮遊する石から石へと渡っていく。
石はただ浮遊するばかりでシャングアの妨害をする事は無い。すぐに3人の元へ到達することができた。
「遅くなって、ごめん」
シャングアはエンティーに謝罪する。エンティーは大きく首を振り、笑顔を見せる。
「君達も、怪我は無い?」
シャングアは2人に生える鱗を見て驚いたが、すぐに3人の状態を確認する。
「はい!」
「大丈夫です!」
2人は安心した様子で、大きく頷いた。
「シャングアは、この状況は何なのか知っている?」
「先程俺と一緒にいたガンザの話によると、戦争があった時代に作られた奇蹟らしい。地下に敵を侵入させないために、定期的に道や部屋を動かしていたんだ」
迷宮の様に作られていても、それを攻略されては意味がない。定期的に動かしていた為、整備担当者の部屋には何冊も地下見取り図が存在していた。平和な時代になってからは役目を終え、その機能を隠すように加工が施された。
「奇蹟の作用は地下2階から。規模が大きい分、かつては階層ごとに少しずつ行っていた。こんな規模は一度だって起こってはいない」
一つ一つ動かす為にはそれ相応の神力が必要になる。地下再構築は十数人規模で発動させるものだ。犯人は大勢いる。シャングアは身構えつつ、周囲を見渡す。
「……? どうかした?」
ふと、エンティーが不思議そうな目でこちらを見ていた事に気づき、シャングアは問いかける。
「あ、いや。何でもない」
エンティーは軽く首を振り、シャングアもとりあえずは納得をする。
「そう? それでこの奇蹟を使った奴は、分裂に力を裂き過ぎている。証拠に、地下の再構築が遅れている。地上に戻るなら、今だ」
「わかった。足手まといにならない様に、頑張る」
エンティーは大きく頷き、シャングアは下にいるガンザへ呼びかけようと下を見るが、言葉を飲み込む。
暗闇の中に、大きな光る目が見えた。
聖徒達と同じ紺色の瞳。その瞳孔は、縦長であり猫に似ているが、シャングアは即座にそれが何であるか気づいた。
あれは、蛇の目だ。
「うわっ!?」
「あれ、なに?!」
驚く子供達。シャングアの対応よりも早く、それは上へと登り、浮遊する石を鋭い爪の生えた前足で掴み4人を見下ろす。
飛竜よりもはるかに大きく、傷だらけの胴は長く、オパールの様に光の加減で色彩を放つ白い鱗はどこか濁りがある。鹿の様に長く四方に延びる筈の角は切り取られ、銀色の鬣は汚れまみれでくすんでしまっている。
絶滅種と書物に記載されている竜と特徴が一致する。
地下の再構築の影響で、檻から解放されてここまで飛んできたのだろう。
腹を空かせ、丁度良い獲物が4匹いると思っているのかもしれない。
シャングアは3人を庇うように前に立ち、蜂達は威嚇行動を開始する。
竜の眼は、4人を見つめている。
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