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六章
62話
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竜の鱗と子供達に生えている鱗は類似しているだけではない。竜と聖徒の色が共通している。初代聖皇の時代に、絶滅したとされる竜。生き物であれば研究資料として骨や爪、毛の一部等、何か残っている筈だ。それが一切なく、書物に絶滅と記載されるのみ。
「私はその悩みを聞き、相談に乗っていたに過ぎない。だが、アリアナさんを真に救う事は叶わず、あのような取り返しのつかない事になってしまった。あの時私は、日に日にやつれるアリアナさんが心配になり合いに行ったが…………目にしたのがあの惨状であった。私が出来たのは、立ち尽くす君をその場から離すのがやっとだった」
イルディナータは嘆く様に言う。
「戯言を……貴様が何の罪でここへ堕とされたのか忘れたのか」
シャングア達と同じ高さまで登ってきたガンザは、イルディナータを睨む。
「おや。ガンザではないか。親しいな」
にっこりと笑顔を見せるイルディナータだが、ガンザが憎悪の念を露にしている。
「貴様が作った流行り病の特効薬が原因で、外殻の人々が苦しんだと思っているんだ!思考が錯乱し、不眠や被害妄想、多くの症状が出た。すぐにメルエディナ様が対応しなければ、死者が出るだけでなく、世界からの神殿の信頼は致命的となっていたんだぞ!!」
約10年前に外界から持ち込まれ、外殻に広まってしまった感染病。内殻は直ぐに外からの接触を最低限に抑えた為、神殿は医療機関として機能し続けることが出来た。外界の医療機関と協力し合い予防接種と薬を作り、なんとか最小限に抑え、今も治療が行われている。
病状の悪化を抑える為に必要な予防接種。そして、感染後に病状を抑え込み、治療する道を切り開く薬は重要な存在だ。
しかし、薬はそう簡単に作り出し、表舞台に出せるものではない。物理や薬理、毒性などの基礎研究、動物や細胞を用いる非臨床試験、そして3回に渡る臨床試験を終え、そこでようやく申請が出来、神殿が審査を開始する。承認され、製造が開始され、病院での使用や外殻の薬局での販売には、9年から17年の歳月が掛かる。流行り病の場合は早急な対策が必要だった為、外界で薬品開発がされていたので、その情報を基に研究と試験がされ、たった3年で承認と製造がされた。
「聖徒への臨床試験を行い、副作用も規定内のものであった。問題は、外殻のもの達だ」
「神殿の存続が危ぶまれる程の事態を人のせいにするな!」
イルディナータの母方の貴族は薬品研究・製造の管理者である。第三貴族の地位にあり、神殿の信頼も厚かった。メルエディナが即位後は、イルディナータは母方の貴族達と協力し新薬の開発に携わっていた。
「あの薬の成分には、アリアナ様の栄養剤と同じものが存在した。たとえ、貴様がアリアナ様を唆していなくとも、きっかけを作っていた。それも人のせいにするのか!!」
ガンザの話を聞き、シャングアは飲まされ、母が服用し続けた薬を思い出す。透明感のある水色の液体。これを飲んであなたを授かった、神秘の薬だと母は妄信していた。
「栄養剤?」
「ねぇ、もしかして……」
ラニャとミースアがその話に反応する。
「シャングア様。ボク達の姿は、栄養剤によるものです。」
「同じものかは分かりませんが、一週間前に子供組全員が皆飲んでいます。鱗が生えてきたのは2人だけで、大人達に地下に連れてこられました」
「……その栄養剤は、どんな色だった?」
「透明な水色です」
ラニャの言葉に、シャングアは驚き、さらにエンティーも目を丸くした。
「それ、俺の知っている色かもしれない。内殻にいた時、抑制剤を飲もうとして手を滑らせてしまった時、湯飲みに落ちた抑制剤が、その色を出しながら解けたんだ」
犯罪を防止する目的で、睡眠剤等の特定の錠剤は水に溶かすと青く変色するように神殿では義務付けられている。当時のエンティーはそれと似たように、抑制剤の試作であるのを判別する為に色が付けられていると思っていた。
「イルディナータ叔祖父様……あなたは、いやあなた達は」
Ωである母が飲んでいた薬。エンティー達平民Ωが服用していた抑制剤。そして、子供に急に与えられた栄養剤。第二の性は13歳から判明し始めるが、10歳には男女の性別による体の成長の兆候が表れる。この兆候が、第二の性判明の引き金ではないかと研究が近年始まり、もしそれが事実であれば、2人の子供はΩの可能性が高い。
Ω達の薬物中毒及び依存症の余りにも長い歴史。センテルシュアーデが洗脳に関する疑惑を持ち始めたのが9年前。神殿で製造された流行り病の薬が世に出たのは7年前。約14年間服用を続けたアリアナによるメルエディナ殺人が6年前。
途方もない時間を費やし生み出された闇が、地下から這い上がろうとしている。
「Ωを母体に、何をするつもりなんだ」
イルディナータはずっと疑いをかけられ続けながら平然としている。
勝ち誇るでも、負けを悟り諦めているわけでもなく、表情は崩さない。
「シャングア。何故そこまでΩを心配しているんだ?」
何食わぬ顔で言うイルディナータに、シャングアは寒気がした。
次の瞬間、再び光線が地下から放たれる。光線はエンティーと子供達が立っている石へと真っすぐに伸びて行く。
光の速さに、人は追いつけない。
しかし、其の一匹は違った。
「私はその悩みを聞き、相談に乗っていたに過ぎない。だが、アリアナさんを真に救う事は叶わず、あのような取り返しのつかない事になってしまった。あの時私は、日に日にやつれるアリアナさんが心配になり合いに行ったが…………目にしたのがあの惨状であった。私が出来たのは、立ち尽くす君をその場から離すのがやっとだった」
イルディナータは嘆く様に言う。
「戯言を……貴様が何の罪でここへ堕とされたのか忘れたのか」
シャングア達と同じ高さまで登ってきたガンザは、イルディナータを睨む。
「おや。ガンザではないか。親しいな」
にっこりと笑顔を見せるイルディナータだが、ガンザが憎悪の念を露にしている。
「貴様が作った流行り病の特効薬が原因で、外殻の人々が苦しんだと思っているんだ!思考が錯乱し、不眠や被害妄想、多くの症状が出た。すぐにメルエディナ様が対応しなければ、死者が出るだけでなく、世界からの神殿の信頼は致命的となっていたんだぞ!!」
約10年前に外界から持ち込まれ、外殻に広まってしまった感染病。内殻は直ぐに外からの接触を最低限に抑えた為、神殿は医療機関として機能し続けることが出来た。外界の医療機関と協力し合い予防接種と薬を作り、なんとか最小限に抑え、今も治療が行われている。
病状の悪化を抑える為に必要な予防接種。そして、感染後に病状を抑え込み、治療する道を切り開く薬は重要な存在だ。
しかし、薬はそう簡単に作り出し、表舞台に出せるものではない。物理や薬理、毒性などの基礎研究、動物や細胞を用いる非臨床試験、そして3回に渡る臨床試験を終え、そこでようやく申請が出来、神殿が審査を開始する。承認され、製造が開始され、病院での使用や外殻の薬局での販売には、9年から17年の歳月が掛かる。流行り病の場合は早急な対策が必要だった為、外界で薬品開発がされていたので、その情報を基に研究と試験がされ、たった3年で承認と製造がされた。
「聖徒への臨床試験を行い、副作用も規定内のものであった。問題は、外殻のもの達だ」
「神殿の存続が危ぶまれる程の事態を人のせいにするな!」
イルディナータの母方の貴族は薬品研究・製造の管理者である。第三貴族の地位にあり、神殿の信頼も厚かった。メルエディナが即位後は、イルディナータは母方の貴族達と協力し新薬の開発に携わっていた。
「あの薬の成分には、アリアナ様の栄養剤と同じものが存在した。たとえ、貴様がアリアナ様を唆していなくとも、きっかけを作っていた。それも人のせいにするのか!!」
ガンザの話を聞き、シャングアは飲まされ、母が服用し続けた薬を思い出す。透明感のある水色の液体。これを飲んであなたを授かった、神秘の薬だと母は妄信していた。
「栄養剤?」
「ねぇ、もしかして……」
ラニャとミースアがその話に反応する。
「シャングア様。ボク達の姿は、栄養剤によるものです。」
「同じものかは分かりませんが、一週間前に子供組全員が皆飲んでいます。鱗が生えてきたのは2人だけで、大人達に地下に連れてこられました」
「……その栄養剤は、どんな色だった?」
「透明な水色です」
ラニャの言葉に、シャングアは驚き、さらにエンティーも目を丸くした。
「それ、俺の知っている色かもしれない。内殻にいた時、抑制剤を飲もうとして手を滑らせてしまった時、湯飲みに落ちた抑制剤が、その色を出しながら解けたんだ」
犯罪を防止する目的で、睡眠剤等の特定の錠剤は水に溶かすと青く変色するように神殿では義務付けられている。当時のエンティーはそれと似たように、抑制剤の試作であるのを判別する為に色が付けられていると思っていた。
「イルディナータ叔祖父様……あなたは、いやあなた達は」
Ωである母が飲んでいた薬。エンティー達平民Ωが服用していた抑制剤。そして、子供に急に与えられた栄養剤。第二の性は13歳から判明し始めるが、10歳には男女の性別による体の成長の兆候が表れる。この兆候が、第二の性判明の引き金ではないかと研究が近年始まり、もしそれが事実であれば、2人の子供はΩの可能性が高い。
Ω達の薬物中毒及び依存症の余りにも長い歴史。センテルシュアーデが洗脳に関する疑惑を持ち始めたのが9年前。神殿で製造された流行り病の薬が世に出たのは7年前。約14年間服用を続けたアリアナによるメルエディナ殺人が6年前。
途方もない時間を費やし生み出された闇が、地下から這い上がろうとしている。
「Ωを母体に、何をするつもりなんだ」
イルディナータはずっと疑いをかけられ続けながら平然としている。
勝ち誇るでも、負けを悟り諦めているわけでもなく、表情は崩さない。
「シャングア。何故そこまでΩを心配しているんだ?」
何食わぬ顔で言うイルディナータに、シャングアは寒気がした。
次の瞬間、再び光線が地下から放たれる。光線はエンティーと子供達が立っている石へと真っすぐに伸びて行く。
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