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5章 銀狐と星の愛子と大地の王冠
67話 魔物の森
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「……これは、凄まじい」
思わず言葉を漏らしたリュカオンに、私は無言で頷いた。グランがいるから襲われないとはいえ、巻き添えを食らう可能性があり、私達は巨木の影にいる。
深層の少し手前まで私達はやって来た。思いのほか早く行けたが、それ以上は進めないと判断し、周囲の魔物達を観察している。
牙獣の王冠はゲーム上エンカウント率が高いとは知っていたが、現実では一歩進んで遭遇どころか、周囲を多くの魔物が闊歩している。
あっちで草食の魔物2匹が角をぶつけ合い縄張り争いをしていると思えば、虎の様な魔物が草むらから襲い掛かって来る。
こっちで蛇と豹の様な魔物が戦っているかと思えば、上空から飛竜が飛んできて2匹とも捕まえて巣に持ち帰ろうと上昇する。そして、鳥系の魔物や小型の飛竜種がおこぼれを狙って集まって来る。
等々…………視界がうるさい、忙しない。そう表現できる位に、色んな出来事が30分もしないうちに同時に起こり、終わったかと思えば何処かでまた発生している。
4年間、アンジェラさんの調査に同行させてもらった中で、森の魔物は木々やその葉を利用して身を潜めて行動する種類が多かった。魔物がここまで堂々と表立ち、一堂に会して衝突し合う姿を見るのは初めてだ。
「いやぁ、興味深いね。今回は例年にない大賑わいだ」
グランを抱き上げる私の隣で、アンジェラさんはずっとメモを取っている。どうやら、アンジェラさんもこの事態を見るのが初めてらしく、かなりの速さで文章を書き連ねている。
「ボクはここに何度も来ているけど、全種が精霊憑きだと気づかなかった理由がわかったよ。敗者にいた精霊が勝者に移動して、精霊の個体数による光量が全く違うからだ。敗者は光量が全く無いね」
『敗者に共生している精霊が全て移動したわけではない。勝者に比べ魔素の放出量は確かに少ないが、他の精霊が居なくなれば取り分が増える。なので、少数が残っている』
「若いから弱いって事もあり得るし、経験がものを言って返り咲くなんて場合もあるからね」
2人が会話している最中に、豹の様な魔物が私達の隠れる巨木へと飛び乗った。目線があったはずが、全くこちらに興味を示さない。まるで無いものの様に扱われ、不思議な気分だ。
ここまでの道中で、グラン達〈星の愛子〉の力が人類に対して通用しない理由をレフィードに訊いた。
グラン達の原点は神話の時代にまで遡る。グラン達と本来定義される妖精や精霊を創造した神は同一存在。人類はまた別の神。亜人種はさらに細分化され、それぞれ違う神らしい。魔物を創造した神と、グラン達の創造主は対の存在のため、危害を加えられることは一切ない。
どういう仕組みでそうなっているのか首を傾げるが、神の領域は生物に越えられない分厚い壁である為ので〈そういうもの〉と認識して欲しい、とレフィードに言われた。
木精に連れ込まれた領域や遺物とそれに代わる浄化の仕組みを考えると、人間には到達できないと充分に分かる。下手に探求すれば禁忌に触れそうなので、私はレフィードの言う通りにして思い留まった。
「活発に動いている魔物の種類だけ記録して、一旦戻りましょうか」
「そうだね。この様子だとニアギスの力を借りないといけないから、それだけ調べておこう」
アンジェラさんがそう言った瞬間、2メートルほど離れた場所にある木が魔物の頭突きによって倒された。ムシャムシャと木を食べ始める牛の様な魔物を見て、私達は思わず無言になった。
豹同様に陸上と木の上を生活圏とし、爪に麻痺を引き起こす毒を持つヴァオルト。
鹿の様な見た目をしながら、角は剣や槍先を思わせるヒルシュヴェ。
牛を思わせる見た目でありながら、鋼鉄の鎧の様に固い皮膚を持つリュストゥーカン。
確認できる魔物を全て書き上げ、私達は小屋へと戻った。
「お帰りなさいませ」
空が赤くなり始めた頃に私達が戻ってくると、ニアギスは小屋の修復を終えていた。二階建てにせず、瓦礫を使って新たに一軒小屋を建築していた。中を見せてもらうと、一軒はベッド一台とテーブルや椅子などの家具が置かれ、もう一軒はベッドが三台置かれていた。瓦礫であったとは思えない程、ちゃんと建物として完成され、家具も問題なく使えるようになっている。ベッドの毛布やシーツに汚れは無く、洗濯したての様な清潔さがあり驚いた。
空間魔術内で、魔素を接着剤や洗剤の様に使っているのだろうと想像してみるが、その途方もない消費量にニアギスの体調が心配になる。
「えっ、私が一人でここを使うの?」
「はい。お嬢様を使用人達と同じ部屋でお休みになるのは、禁止されていますので」
「ここは屋敷では無いし、私は平気だよ」
「お心遣いは大変うれしく思いますが、お嬢様の休息と警備の観点から、我々は別の場所で休むべきです。活動中の生物が近くにいる環境で、眠りにつけますか?」
「それは……うーん……気になる、かも」
ニアギスの問いに、できるとは言えなかった。
飛竜による建物被害。例年にない魔物達の活発な行動。結界魔術が発動しているので、周囲に魔物の気配は無いが、何があるか分からない。
いつもと違う環境は、自然と身体を緊張させ、些細な事でも敏感に感じ取ってしまう。人の呼吸音ですら気になってしまいそうだ。
「フニ?」
グランが人数を数えて、首を傾げる。レフィードは姿を消せるので数に入れないとしても、ここには5人いる。ベッドが一台足りない。
「私は寝ませんので、グランギア様があちらのベッドをお使いください」
「グー!」
「魔力消耗しているのに、休まないのは危ないんじゃないの」
「せめて仮眠をしないと」
グランの抗議の声とアンジェラさんの意見に、私も加勢する。
「今後の活動において、あなたは重要な役割をするですから、ちゃんと休息を取ってください」
リュカオンも加勢をしてくれる。
「わかりました。それでは、外で」
「中で休め! それこそ、今! 俺達が食事を作るから、あなたは寝転がるなり楽にしていろ!」
これは強引な手段を取らないと駄目だな、と思った矢先に、リュカオンがわざと口調を崩して、ニアギスを無理やり小屋の中へと入れた。
「しかし」
「グラン。この人見張っていてほしい」
「ピ!」
〈了解!〉とばかりに、グランがしっかりとニアギスさんの足にしがみ付いた。
グランもこれから重要な役割をする。ここで体力を消費させては、今後に支障が出てしまう。リュカオンは、特に断れない相手を選んだ。
「プニムイムイ」
「わかりました。2時間ほど休憩を頂きます」
ようやく折れてくれたニアギスは、足にしがみついたままのグランと一緒に小屋へと入っていた。
「お嬢様も、夕食が出来るまでお休みください」
「うん。ありがとう」
私も自分の使わせてもらう小屋に入った。
思わず言葉を漏らしたリュカオンに、私は無言で頷いた。グランがいるから襲われないとはいえ、巻き添えを食らう可能性があり、私達は巨木の影にいる。
深層の少し手前まで私達はやって来た。思いのほか早く行けたが、それ以上は進めないと判断し、周囲の魔物達を観察している。
牙獣の王冠はゲーム上エンカウント率が高いとは知っていたが、現実では一歩進んで遭遇どころか、周囲を多くの魔物が闊歩している。
あっちで草食の魔物2匹が角をぶつけ合い縄張り争いをしていると思えば、虎の様な魔物が草むらから襲い掛かって来る。
こっちで蛇と豹の様な魔物が戦っているかと思えば、上空から飛竜が飛んできて2匹とも捕まえて巣に持ち帰ろうと上昇する。そして、鳥系の魔物や小型の飛竜種がおこぼれを狙って集まって来る。
等々…………視界がうるさい、忙しない。そう表現できる位に、色んな出来事が30分もしないうちに同時に起こり、終わったかと思えば何処かでまた発生している。
4年間、アンジェラさんの調査に同行させてもらった中で、森の魔物は木々やその葉を利用して身を潜めて行動する種類が多かった。魔物がここまで堂々と表立ち、一堂に会して衝突し合う姿を見るのは初めてだ。
「いやぁ、興味深いね。今回は例年にない大賑わいだ」
グランを抱き上げる私の隣で、アンジェラさんはずっとメモを取っている。どうやら、アンジェラさんもこの事態を見るのが初めてらしく、かなりの速さで文章を書き連ねている。
「ボクはここに何度も来ているけど、全種が精霊憑きだと気づかなかった理由がわかったよ。敗者にいた精霊が勝者に移動して、精霊の個体数による光量が全く違うからだ。敗者は光量が全く無いね」
『敗者に共生している精霊が全て移動したわけではない。勝者に比べ魔素の放出量は確かに少ないが、他の精霊が居なくなれば取り分が増える。なので、少数が残っている』
「若いから弱いって事もあり得るし、経験がものを言って返り咲くなんて場合もあるからね」
2人が会話している最中に、豹の様な魔物が私達の隠れる巨木へと飛び乗った。目線があったはずが、全くこちらに興味を示さない。まるで無いものの様に扱われ、不思議な気分だ。
ここまでの道中で、グラン達〈星の愛子〉の力が人類に対して通用しない理由をレフィードに訊いた。
グラン達の原点は神話の時代にまで遡る。グラン達と本来定義される妖精や精霊を創造した神は同一存在。人類はまた別の神。亜人種はさらに細分化され、それぞれ違う神らしい。魔物を創造した神と、グラン達の創造主は対の存在のため、危害を加えられることは一切ない。
どういう仕組みでそうなっているのか首を傾げるが、神の領域は生物に越えられない分厚い壁である為ので〈そういうもの〉と認識して欲しい、とレフィードに言われた。
木精に連れ込まれた領域や遺物とそれに代わる浄化の仕組みを考えると、人間には到達できないと充分に分かる。下手に探求すれば禁忌に触れそうなので、私はレフィードの言う通りにして思い留まった。
「活発に動いている魔物の種類だけ記録して、一旦戻りましょうか」
「そうだね。この様子だとニアギスの力を借りないといけないから、それだけ調べておこう」
アンジェラさんがそう言った瞬間、2メートルほど離れた場所にある木が魔物の頭突きによって倒された。ムシャムシャと木を食べ始める牛の様な魔物を見て、私達は思わず無言になった。
豹同様に陸上と木の上を生活圏とし、爪に麻痺を引き起こす毒を持つヴァオルト。
鹿の様な見た目をしながら、角は剣や槍先を思わせるヒルシュヴェ。
牛を思わせる見た目でありながら、鋼鉄の鎧の様に固い皮膚を持つリュストゥーカン。
確認できる魔物を全て書き上げ、私達は小屋へと戻った。
「お帰りなさいませ」
空が赤くなり始めた頃に私達が戻ってくると、ニアギスは小屋の修復を終えていた。二階建てにせず、瓦礫を使って新たに一軒小屋を建築していた。中を見せてもらうと、一軒はベッド一台とテーブルや椅子などの家具が置かれ、もう一軒はベッドが三台置かれていた。瓦礫であったとは思えない程、ちゃんと建物として完成され、家具も問題なく使えるようになっている。ベッドの毛布やシーツに汚れは無く、洗濯したての様な清潔さがあり驚いた。
空間魔術内で、魔素を接着剤や洗剤の様に使っているのだろうと想像してみるが、その途方もない消費量にニアギスの体調が心配になる。
「えっ、私が一人でここを使うの?」
「はい。お嬢様を使用人達と同じ部屋でお休みになるのは、禁止されていますので」
「ここは屋敷では無いし、私は平気だよ」
「お心遣いは大変うれしく思いますが、お嬢様の休息と警備の観点から、我々は別の場所で休むべきです。活動中の生物が近くにいる環境で、眠りにつけますか?」
「それは……うーん……気になる、かも」
ニアギスの問いに、できるとは言えなかった。
飛竜による建物被害。例年にない魔物達の活発な行動。結界魔術が発動しているので、周囲に魔物の気配は無いが、何があるか分からない。
いつもと違う環境は、自然と身体を緊張させ、些細な事でも敏感に感じ取ってしまう。人の呼吸音ですら気になってしまいそうだ。
「フニ?」
グランが人数を数えて、首を傾げる。レフィードは姿を消せるので数に入れないとしても、ここには5人いる。ベッドが一台足りない。
「私は寝ませんので、グランギア様があちらのベッドをお使いください」
「グー!」
「魔力消耗しているのに、休まないのは危ないんじゃないの」
「せめて仮眠をしないと」
グランの抗議の声とアンジェラさんの意見に、私も加勢する。
「今後の活動において、あなたは重要な役割をするですから、ちゃんと休息を取ってください」
リュカオンも加勢をしてくれる。
「わかりました。それでは、外で」
「中で休め! それこそ、今! 俺達が食事を作るから、あなたは寝転がるなり楽にしていろ!」
これは強引な手段を取らないと駄目だな、と思った矢先に、リュカオンがわざと口調を崩して、ニアギスを無理やり小屋の中へと入れた。
「しかし」
「グラン。この人見張っていてほしい」
「ピ!」
〈了解!〉とばかりに、グランがしっかりとニアギスさんの足にしがみ付いた。
グランもこれから重要な役割をする。ここで体力を消費させては、今後に支障が出てしまう。リュカオンは、特に断れない相手を選んだ。
「プニムイムイ」
「わかりました。2時間ほど休憩を頂きます」
ようやく折れてくれたニアギスは、足にしがみついたままのグランと一緒に小屋へと入っていた。
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私も自分の使わせてもらう小屋に入った。
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