モブ令嬢はモブとして生きる~周回を極めた私がこっそり国を救います!~

片海 鏡

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7章 氷塊は草原に憧れる

116話 要素は増え続けて

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 兄様が一目散にこちらに走って来る。私も急いで兄様の元へ走る。

「無事でよかった!」
「兄様もご無事で!」

 何年も離れていたかのような懐かしさと安心感から、私の緊張の糸が緩んだ。

「ミューを守ってくれて、ありがとう」

 私の一歩後ろで待機しているニアギスに兄様は礼を言う。ニアギスは左手を胸に当て、深々と頭を下げた。

「ここで何があったんですか?」
「一から説明すると長くなるな……まず結果としては、この町は封鎖される」
「え?」

 思いがけない言葉に、私は呆気にとられた。

「ミューが銀狐と逃げた後、俺達が来て、サジュと話し合っている最中に非常事態が発生したんだ。地面の裂け目から出た赤い光も含めてな。ラグニールが国に要請をして、調査が開始される。子供である俺達では、手に余るものなんだ」

 ニアギスの負傷状態を思い返せば、相当危険だ。ここには、テロ組織や赤い液体の製造所があったのだろうか。それに、兄様は裂け目と赤い光以外にも何かあったかの様に言っているのが気になる。

「私にも、詳しく教えていただけませんか?」

 兄様は一瞬険しい顔をした。兄妹喧嘩をしても、一度だって見たことが無い表情だ。

「…………辛い話だぞ。知ったら、ミューのやりたい事に何らかの支障が出る」
「それでも聞きたいです」

 負の想念に関わる事なら、何でも集めておきたい。

「サージェルマン・エレウスキーは既に死亡し、ホムンクルスとして復元された」

 は? 
 え? ど、どういう……

「ラグニールが調べてくれた。エレウスキー商会は当主及び上層部は全て殺害され、彼等の血肉を元にホムンクルスが製造されていた。数少ない人間の生存者は心臓を握られた状態で働き、末端となる従業員もまたホムンクルスが占めていた」

 兄様は真剣な顔つきで淡々とした声で述べる。レーヴァンス王太子の遊び相手から、いずれは子爵になる。責任を背負う以上、現実を受け止める覚悟はもうできているんだ。
 私も、ゲームに無い情報に動揺しても、逃げないで受け止めなければならない。

「エレウスキー商会の店舗の地下にはホムンクルス製造所があった。ホムンクルス達はどれも新型。特定の時期、会話、物資などの条件に反応し、会話をする。行動には周期があり、外部から見れば人間とさして変わらない。銀狐の報告では、同じ外見の者が数体見つかったそうだ」
「それって……」

 まるでNPC(ノンプレイヤーキャラクター)だ。
 どうなっているの?
 赤い毒薬によって人々が病に倒れたのではなく、メインストーリーの患者の中には寿命間近のホムンクルスが含まれている……?
 一人の人間の情報源から複数体のホムンクルスを作るとして、これでは犠牲の量産だ。
 リティナの物語は仕組まれている?

「それじゃ、ヤレアの町の住民は……」
「8割がたがホムンクルスになっていた。生存者は銀狐が保護したが、薬物の依存状態だった。これから、行方不明者の捜索が開始される」
「町に人がいなくて、建物に吊るされていた繭は」
「銀狐が捕獲したホムンクルスだよ。いずれかを解剖して、誰が作ったのか調査する」

 ホムンクルスの核には、どの様に動くか予め決める魔方陣が刻まれている。そこから、誰が、何処の研究所か工房か、と特定する事が出来る。
 この規模は、反逆どころの騒ぎではない。エレウスキー商会の店舗がある町や村の住民がホムンクルスであるが容疑が掛かる。全てが明るみになれば、国そのものが危険だ。

「兄様は、それを知って辛くはありせんでしたか?」

 衝撃的過ぎて、受け止めきれない。
 それと同時に、親友を既に亡くし、再会していたのがホムンクルスだったなんて現実を叩きつけられた兄様の悲しみが計り知れないと思い、心配になった。

「なんで俺の心配するんだよ」
「だ、だって、サジュと一番仲が良かったのは兄様ですよ」

 兄様に訴えかけると、何故か微笑まれた。

「3人が待ってるから、行くぞ」 
「えっ、は、はい……」

 話題をいきなり替えられた。
 歩き出した兄様を私は追いかける。徐々に歩調を合わせてくれたが、お互いに無言になってしまった。
 兄様って直情的に見えて、かなり考えていて、本心を曝け出す事が滅多にない。溜め込んでいないか、心配だ。

「あの、この町にいた彼は」
「あいつはサジュだよ。製造者に操られていた部分はあったけど、今のところは俺とミューの知るサジュだ」
「でもホムンクルスって……」
「あぁ、だから俺の監視下に置いて、たとえ殺す事になっても看取るって決めた」

 親友を2度も見送る覚悟を決めた兄様に、私は掛ける言葉が見つからなかった。

「着いたぞ」

 5分ほど歩くと、町の出入り口に到着した。すでに馬車と護衛兵達は出発の準備が完了している所を見るに、先程の銀狐の男性が連絡をしていたようだ。
 何かを話しているシャーナさんとラグニールさんの元へ、兄様は一足先に向かい、私が来たことを伝える。そして、馬車の後ろに隠れていたサジュの手を引っ張り、私の元へと戻って来た。
 昔、遊び場の1つである草原で2人があんな風に、私と母様の元までやって来たのを思い出した。

「ほれ。サジュ」
「う、うん……」

 視線がこちらに向いたかと思えば泳ぎ出し、下に落ちる。それを何度かサジュが繰り返していると、いつもの素直な表情に戻った兄様が痺れを切らした。

「なにやってんだ。さっさと言っちまえ」
「うわっ!?」

 兄様に背中を押され、サジュが私の前へと出てくる。

「ミューゼリア…………ごめん。僕は、どうかしていた」

 驚いた。謝罪の言葉を貰えたからではない。
 サジュの表情がどこか晴れたような、見覚えのある顔つきに変わっていたからだ。
 学園の登校時、生徒達が行き交う中で私へと微笑んだあの得体のしれなさは一切ない。
 安心をした。この人は、兄様の親友なんだと理解した。

「君を怖がらせ続けてしまった償いはする。出来るだけ、視界に入らないようにする。許されない行為だから、謝罪を受け入れなくても仕方ないと思ってる」

 どう伝えるのか迷いながら、途切れ途切れにサジュは言う。

「た、ただ、今回君が被害に遭った事件に関して、僕自身は知らなくて、関与していないんだ。そこだけは……信じて欲しい」

 顔を青くし、目線を落としているサジュは、必死に私に訴えた。
 怖かった日々を思えば、一回の謝罪では許すのは難しい。製造者に操られていたとしても、何もなかった事にはならないから。
 でも、サジュが商会の裏を関わっていなかったのは、ラグニールさんが証明してくれている。
 なにより、覚悟を決めた兄様と同じように、私もサジュを信じたい。

「……わかった。信じるよ」
「ごめん」

 掠れかけの声でサジュは言った。

「昔のように仲良くするのは難しいけれど、視界に入れたくない程嫌いじゃないよ」
「ごめん」
「兄様を裏切らないでね」
「絶対に、しないよ」 

 サジュの震える右肩を兄様は小さく叩いた。
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