異世界での喫茶店とハンター《ライト・ライフ・ライフィニー》

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第四章 スザク・アルト編

騎士

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第四十一話 騎士


スザク・アルトが開催され、時間は昼を回った。
依頼所、ハウン・ラピアスでフミカをからかうことに成功したルーサーは、小腹の空いたついでと美野里の営むマチバヤ喫茶店に向かっている所だった。
大通りには大層な飾り付けが施された店の数々と並び、外から来たハンターや客がそれらを見に集まっている。
普段でも歩きにくいはずの道が今では子供がすり抜けるほどしか隙間がない。
ルーサーは苦い表情を浮かべつつ、屋根上から移動したほうが早いのではと思いながらも目的地へと足を速めるのだった。
そして、数分して目的の店についたそこには、

「何やってんだ、お前」
「………働かされています」

マチバヤ喫茶店の壁を飾り付けるべく魔法使いのアチルが現在、働いていた。
彼女の手には綺麗な花や草が多数あり、それらをドアや窓、外壁などにはりつけようとしているようだ。
しかし、全くの準備をしていなかった喫茶店がここまでの道具を半日で揃えられるとは到底思えない。大方、アチルの転移魔法で道具を揃えたのだろうが…。

(まぁ、自分で蒔いた種だしな…)

スザク・アルトの一件を知って必死に彼女に助けをと頼み込んでいた美野里を見捨てたアチル。
捕まったのだとすれば、それは自業自得と言うしかない。
ルーサーは呆れかえったように溜め息を吐き、今も働くアチルに尋ねた。

「で、美野里は?」
「グズッ……今、店の中で料理してます。何でも、ツブラというのをためすとか」
「ツブラ?」
「私も知らないんです。後で食べさせてくれるって……」

流石にタダ働きは不味いと思ったのか、美野里はアチルにそう言って店内に入っていたらしい。
ルーサーはその初めて聞く言葉に首を傾げつつ、一先ず店内へ入る。
チリリン、とドアの開け閉めを教える鈴音が鳴り、店内に入ったルーサーがそこで一番に気づいたのは肉の香ばしい匂いだった。
匂いの発生場所である調理場に視線を向けると、そこには眉を顰めつつも料理に集中する美野里の姿がある。

「美野里」
「え、ルーサー?」

声を掛けられるまで気づかなかったのだろう。美野里は目を見開き、少し驚いた表情を見せた。
ルーサーは調理場前のカウンタ―に近寄り、空いた椅子に腰かける。
近くによった分、匂いは強さを増し肉の焼ける音が直に耳に届く。と、その直後にできたのだろう。美野里は焼けた肉をフライパンから木の板に移し、包丁で平べったく伸びた肉を細切りに切り分け、事前に用意していた野菜の盛り合わせが乗った容器の上にそれを乗せると最後に別で置いていた赤茶のタレを上にかけた。

「何作ってんだ?」
「え、……んーと、ツブラの焼肉添え」
「ツブラの? アチルからも聞いたけど、それって肉か?」

ツブラという生物をルーサーは知らない。
今焼いていた物の名前なのかとう、もっともな問いに対し美野里はシンク上に置いていた小さな瓶を取り出しカウンターにいるルーサーに渡した。
瓶の中には淡い赤の液体が入っており、試しに蓋を開けるとそこからは醤油のような匂いと少しキツイ辛さを感じさせる匂いが混ざり合って漂っている。

「美野里、これって」
「それがツブラ。前に一回、アチルと一緒にワリガムエっていう生き物を討伐に行って………たまたまそこで良い調味料を見つけたの。で、今度は一人でそれを取りにいって、それを煮込んだら黒かったタレが淡い赤に変わったのよ」
「ふーん、ってあれ? 確か、前にアチルから何かそういう話聞いたような…」
「…………後でアチルを絞めようかな」
「……悪い、今のは聞かなかったことにしてくれ」

この後のアチルの仕打ちを予想するのが怖い。
ルーサーは口元を引きつらせ、話を変えようと今出来上がった一品を指さす。

「それ、よかったら俺に食わせてくれるか?」
「え? でも、これアチルに食べさせて実験台になってもらおうと」
「いやいや、いくら何でも酷いだろ」

俺が代わりに食ってやるから、とルーサーは出来上がったその一品を美野里から受け取るとカウンターに置いてある箸を手に取り食べ始める。
肉と一緒に野菜を口に入れ咀嚼すると、シャキシャキと音がたち野菜と肉の味が交じり合う上でさらにタレがそれらを結合させる。
まさに、普通の焼肉の味が今までに食べた事のない味へと変貌した。
ルーサーは咀嚼した口内のものを喉奥に呑みこませ、そして、同時に後悔した表情を浮かべる。

「…………………」
「も、もしかして不味かった。まさか、吐きそうな」
「いや、ただ…………アチルに悪いことしたなって…」
「? 何で?」
「だって、………これ美味いし…」
「!」
「これなら、何回でも食べたいなって思って……」

そう言って顔を上げるルーサー。
すると、そこには彼の言葉に対して頬を赤くさせる美野里の顔があった。

「…………………あ、いや」
「ん、ありがとう」

顔を伏せ、視線を合わせられない美野里。
ルーサーも同じように頬に赤みが出る。
店内には誰もいず、二人だけの時間が続く。あの時のように急接近とはいかないが、それでもこの時間がずっと続けばいいと思ってしまうほどに。
だが、その時。



「こりゃ、またいいものをみたね」
「「!?」」



突然の第三者からの介入。
二人しかいないはずの店内からの声に美野里とルーサーは直ぐに顔を引き締め、共に手元にある武器を手に取り視線を声のした店内奥に向け、そこいたのはテーブル前の椅子に座る金髪の短髪、黒のローブを着た一人の男。
美野里は最初、敵意むき出しで殺気を込めようとした。
だが、一方のルーサーは彼の顔を見るや何故か肩をダラリと落とし、武器であるハンマーを納め溜め息を吐いた。
そして、投げやりのような口調で話す。

「お前、普通にドアからこいよ」
「そうは言うけど、今帰ってきたところなんだよ?」

親しそうな話し方から、どうやらルーサーの知人らしい。
二人揃って、募る会話を話続ける。それは、久々にあった旧友のようなそんな感じの雰囲気だ。
だが、しかしだ。
美野里は一人、体を小刻みに震わせ声を出す。

「ねぇ、ルーサー…」
「あ、どうした美野っ!?」

声を掛けられ振り返るルーサーだったが、その直後に血の気が引いたように顔を青ざめ口元を引きつらせた。
一方で優男らしい男はまだ気づいていない様子で平然としている。
苛立ちを耐え、美野里は言葉を続ける。

「………私の店って何? 不法侵入していいって噂でもたってるの?」
「あ、いや……それは…」
「ああ、ごめんね。僕はちょっとルーサーに用があったからこうして勝手に入ったんだよ。なに、決して悪いことをしようと来たわけじゃなくて」

優男は呑気に悠長な言葉を続けた。
しかし、その話し方が不味かった。
プチン、と美野里の脳内で何かの線がちぎれた………怒りというスイッチをオンに変わって…。
ルーサーは突然と湧いた殺気に後ろに後ずさる。だが、そんなことをしても逃げれるはずがない。

何故なら、散々の不法侵入についに内に溜まっていた怒りを今まさに爆発させようとする、彼女がいたから…、




「そんなの、当たり前でしょうがああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」




次の瞬間。
ゴォン!!! と、盛大な二つの衝音。
共にマチバヤ喫茶店に強烈な怒号が響き渡る事となった。









「で? 誰なの、コイツ」

怒りの矛を収め、目を座らせた美野里はルーサーに問う。
ちなみに脳天に拳を叩き込まれたルーサーと男は現在、店内床で正座中である。

「こ、コイツは、……昔に知り合いで」
「あ、アーサーって言います」

強烈な一撃で今の現状にやっと自覚したのか優男である金髪、アーサーは怯んだ声色を出し目の前にいる彼女を直視することが出来ない。
だが、アーサーの名を聞いた美野里は不意にその名前に素朴な疑問を抱き尋ねる。


「アーサー? え、もしかして…………王様?」


アーサー=王様。
美野里の元いた世界では、王などはよくアーサーと呼ばれている。
と言うのも昔、妹から教えてもらったことがあり美野里もただ知識として覚えていただけなのだが、対してアーサーはそんな彼女の言葉に顔を固まらせると、それから小さく笑い声を出す。

「はは、いやその……ごめんね。僕は王じゃなくて騎士なんだ」
「騎士?」
「そう、上層部が直々に選抜したハンターとかがなるんだけど、僕なんかはまだまだで」
「とかいうけど、コイツ一応は騎士団のリーダーだから」
「……………………っえ?」


ピシリっと。
笑い事で済ませようとするアーサーだが、今のルーサーの言葉でその場の空気が粉々に粉砕され、上乗せするように凍りついた。
美野里も開いた口が閉まらない。
騎士というのは、この都市で上層部直属と言っていいハンターたちに名づけられる名だ。そして、ルーサーの言葉が正しければこの男が団長ということになる。
さらに、そんな彼に美野里は手を出してしまったのだ。自分がやってしまったことに対し、今度は逆に顔を青くさせ、

「………えーっと、もしかして……私、捕まるの?」
「うえっ!? いやいや、そんなことしないからね!? もうルーサーは何でいつもバラしちゃうかな!?」
「………お前がいつもそうやって隠したがるからだろ」
「ホント、そういう所は全然変わってないんだね!」

共に暴言を吐きだし睨み合うルーサーとアーサー。
だが、美野里にとってはルーサーが騎士団長と旧友の中だということに驚いてしまう。
しかし、このままこうやって店内で喧嘩をされたら元も子もない。
空気を変えようと、言い合いの仲裁に入り美野里はアーサーに尋ねる。

「で、アーサーさんは何をしに」
「え、ああ、そんなかしこまらなくてもいいよ。…ただちょっと久々にルーサーに会おう思ってね」
「俺はお前に会いたくなかったけど」
「ルーサーは黙ってて」
「…………………………」

美野里の言葉に口を閉じるルーサー。
アーサーはそんな彼に口元を緩ませ、満面の笑みを浮かべる。女性の言葉に黙る彼を見るのは新鮮だったのだろう。
若干、拗ねたような表情を作るルーサーに、彼はその表情のまま顔を詰め寄り、

「ルーサー」
「……なんだよ」
「明日、僕とグラメッスに一緒に出ないかい?」
「…………は?」

グラメッス。
聞いたことのない言葉に美野里は首を捻る。
対してルーサーは顔を歪ませ、驚いた表情で口を開く。

「それって、大分前になくなったんじゃ」
「闘技場の中でやることが今回、決まったんだよ」

スザク・アルトに元々公表されていなかった上層部でしか知らない秘密情報。
本当なら今日の夕方近くに流すはずの情報を何故今ここで言ったのか?
直感で何かを察した眉間に皺を寄せるルーサーに対し、アーサーは不敵な笑みと共に今度は腰に携えた金の柄を見せつけながらはっきりと言った。
それは、挑戦ともいえる言葉。




「僕と一緒に、戦ってくれないか?」




















どの都市でも、決まった場所がある。
それは、外に出ていき、凶暴とかした生物に敗れ、帰ってこれなくなった者。
たとえどれだけ醜くても、遺骨の一つだけでも都市に返してやろうという上層部の働きにようって作られた墓地、ルーバス・ルーツ。
それはインデール・フレイムも同様に含まれ、塀で囲まれた都市の西側に建てられていた。
そして、外から帰ってきた者はそこで彼らと再会する。


「こちらが、……ライザムさんです」


ルーバス・ルーツの受付を担当する者が、そう言ってその場を後にした。
平らな真四角の石に刻まれた名前、そこには確かにライザムの名前が刻みこまれている。
そして、ガサッと。
手にたくさんの土産を持っていたそれらを落とし、地面に両膝をつく少女。
ワバルは、その悲しい現実に直面する。


「え…………、はは……そんなの……嘘ですよね? …そうですよ…ね? ライザムさんは上級のハンターなんですよ? そんなの、そんな馬鹿な話があるわけない…はずっ」


震える手で、石に刻まれた名前を触りそこに書かれた彼の名前をなぞる。
長い間、外で修行してやっと生まれ故郷であるインデール・フレイムに帰ってきた。
師匠であり、親みたいな存在だったライザム。
そんな彼に、褒めてもらおう、抱きしめてもらおう、話を聞いてもらおう……、その感情のどれもが彼女にとって待ち遠しくて仕方がなかった。
しかし、帰ってきて待っていたのは………何も与えてくれない、何も語ってくれない、ただの石……。


「………………うそだ…」


その直後に響き渡る。





「嘘だ、嘘だっぅ、嘘だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」










この瞬間。
彼女の抱く、淡い願望は粉々になるまで砕け散った。
ただ、絶望に彼女が落ちても……。
祭り、スザク・アルトはそれでも止まりはしない…………。


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