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それは、裏の顔
しおりを挟む「はい、今日の修行はおしまいー?」
「っ、疲れたーっ」
魔法使いアーチェの弟子になってから、随分と経つ。
神宿はいつも通りバテバテで修行に取り組み、そんな彼をアーチェは微笑ましく見守っていた。
そして、そんなある日の夕食時の事だった。
「あ、そうだー? トオル君ー?」
「ん?」
「今日なんだけどー? 私用事でちょっと外に出てくるんだー? だから、閉じましとかしっかりしてねー?」
「は? こんな夜中に」
「後、歯磨きも忘れずにねー?」
「俺はアンタの子供かっ!!」
そんな賑やかな会話を続けながら、アーチェは神宿を見つめる唇を優しく緩ませるのだった。
行ってきますー? と神宿に言葉を伝え、外へと出て行ったアーチェ。
神宿も少し心配した様子ではあったが、言われた通り戸締りを確認して眠りについた。
そんなコクコクと時間が経って、深夜となった森の中。
神宿が眠るアーチェの家。
その周囲に微かな音を立てて集まってくる者たちがいた。
腰には短剣といった武器を所持し、また防具に身を包む者たち。
それは、アーチェの弟子になる前、神宿を追いかけていた三人組の冒険者、その中の一人が依頼を出し集まった十数人の同業者たちの姿だった。
そう、神宿の所在は既に冒険者たちに筒抜けとなっていたのだ。
彼らが受けた依頼の内容には、こう言葉が記されていた。
『森に潜伏する人間に化けた魔族の討伐』
その言葉通り、彼らは神宿を人間とは見ていなかった。
人の皮を被った魔族。
討伐せしモンスターと、捉えていたのだ。
ーーーだが、これまでの話で疑問が一つ残る。
神宿の所在はもう何日も前から筒抜けとなっていた。
それなのに、何故すぐ討伐しに冒険者たちは来なかったのか?
それは、茂みに隠れる冒険者たちの会話ですぐに答えが出ることになる。
「頭、報告どおり、あの魔法使いは今あの家を空けているそうです」
「ふっ、そうか。……依頼を受け、日にちを開けたかいがあったものだな」
魔法使いアーチェ。
彼女の存在は、冒険者たちの耳にもしっかりと情報が行き届いていた。
森に住む魔法使いであり、また特別な地位に立つもの。
そして、ギルドからは『決して関わってはならない存在である』と聞かされていた。
そう話したギルド長ですら、声を震わせるほどの存在なのだという。
『ち、忠告はしたぞ!』
と、ギルド長は言っていた。
本来ならそこで危険な仕事だと踏み、依頼をキャンセルするべきだった。
だが、
「あのガキを殺せば大金が入るんだ、なら仕方がねぇだろ」
依頼を出した冒険者が更に継ぎ足して定時した報酬金の額にーーーーー彼らの正常な判断は崩壊してしまった。
子供を殺せば大金が入る。
だから、躊躇などしない。
周囲の危険がない事を確かめて、そして、頭である男は告げる。
「よし、あのガキをころーー
「ねぇ、それーーーーーー本気で言ってるの?」
その直後。
ドン!!! という強烈な殺気がその場一体を一瞬にして支配した。
それはたった一言。
頭であった男の背後から、魔法使いアーチェの声が放たれた瞬間の出来事だった。
「っ、がっ、はっ!!?!?」
まるですぐ間近に巨大なモンスターがいるかのように、言葉一つろくに喋れない冒険者たち。
そんな彼らにアーチェは笑いながら言葉を続ける。
いつも神宿と話すような、能天気な甘い言葉使いではない。
「ちょっと時間が掛かり過ぎちゃったけど、何とか間に合ったよ。後、君たちの依頼はもうすでにキャンセルされてるから、トオル君を殺しても報酬は出ないよ?」
「っ!!?!」
「何でって、顔してる? そんなの分かり切ってることだろう?」
依頼がキャンセルされる時。
それはーーー
「依頼主自らがキャンセルした時、もしくは依頼主が死んだ時、ぐらいだって」
その瞬間。
更にその場の殺気がより重いものに変質する。
まるでそれは呪いのように、冒険者たちの体から力を奪っていく。
「大丈夫だよ? 私は君たちを殺さない。そうーーーー私は。ね」
その言葉に続くように、冒険者の周りに続々とモンスターが集まってくる。
瞳を赤く光らせ、狂気を纏わせたモンスターたち。
「っ、た!? ! っ!?!!」
頭である冒険者は涙で溢れかえった瞳を振り向かせ、アーチェの命乞いを目で訴える。だが、
「だーめ。 だって、またトオル君を狙うかもしれないし」
「ッ!?!?!?!?」
「そんなに怯えなくても、私は何もしないよ? だから君たちもいつも通りのことをすればいいんだよ?」
そして、彼女は笑って言った。
「冒険者なんだから、モンスターと戦わないとね?」
ーーーーーーーそうして、森に多くの悲鳴と血が弾けとぶのだった。
翌朝。
神宿はいつものように手洗いを済ませリビングへとやってくる。
すると、そこには、
「すぅーー、すぅーーー」
机に体を預けて眠るアーチェの姿があった。
何も考えていないような、能天気な表情。
神宿はそんな彼女の様子に笑いながら、
「風邪引くぞ」
と言葉を添えるのだった。
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