追放投獄全部乗り越えて復讐を、執着無双の脱獄者〜夜だけ最強?いえ闇の中ならいつでも最強です〜

鮎川重

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第一章 アルカトラからの脱出

1.追放と投獄

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「おい、ハクア。一体何なんだよこの状況は。」

 冒険者協会内部。銅から黒曜まで六段階ある冒険者等級において、上から二番目。金剛等級にのみ貸与される巨大な部屋にて、闘士ガジュ・アザットは兵士に取り囲まれていた。

 鍛え抜かれた胸筋を露出してほぼ全裸に近い格好のガジュに対し、兵士は完全武装。そしてその中心では、ガジュのパーティメンバーであるハクアが剣を抜いていた。白い髪に切長の目。いつもありとあらゆる女性の視線をかき集めているこの男も、今日に限ってはその魅力を打ち捨て、殺意に満ちた容貌である。

「何が楽しくて朝っぱらから兵士に囲まれなくちゃいけないんだ?俺には清々しい朝の空気を吸い込む権利もないのかよ。」
「その通りだ。ガジュ、俺達は今日を持ってお前を追放する。この部屋ともおさらばだ。」

 寝ぼけたガジュの眼にハクアの剣が突き立てられ、兵士達の槍によって体の動きが封じられる。その扱いはどう考えても仲間に向けるものではなく、ハクアの発言が冗談ではない事を示していた。

「いいか、俺達『カイオス』が金剛等級になってからそろそろ一年。そろそろ次のステップに進む時だ。」
「黒曜等級を目指すのか。確かに、頃合いとしては最適だな。」

 銅、銀、金、白銀、金剛、黒曜とある冒険者等級は冒険者協会が出す依頼の達成数や魔物の討伐数、あるいは討伐した魔物の脅威度などによって定められるが、最高等級である黒曜だけは例外。実績による一方的な昇級は行われず、特定のダンジョンを攻略することによってのみ昇級が認められる。

 世界最古の冒険者ユノが製作した『試練の迷宮』。

 誰かが侵入する度に形を変え、様々な仕掛けと共に侵入者を追い詰める最高難易度の迷宮。そこを攻略する事は、全冒険者の目標と言ってもいいだろう。それは金剛等級に到達したガジュ達『カイオス』も例外ではなかった。

「それで、何で俺が追放される事になるんだ。『剣士ハクア、魔道士ラナーナ、治癒士レザに闘士のガジュ。この四人だからこそのカイオス』じゃなかったのか。」
「俺がその発言をしたのは冒険者協会の人間との会話中だろう。本心ではそんなこと思っていない。いいかガジュ、お前の【夜の王ナイトメア】は弱すぎるんだ。」

夜の王ナイトメア

 ガジュの持つスキルであるそれは、非常に限定的な力である。その名の通り夜の間だけ自身の筋力が強化され、岩をも砕く破壊力を手に入れる。

「お前のスキルは確かに強力な時もある。だがな、制限が酷すぎるんだ。魔物の活動時間は須く昼。日中ろくに戦えないお前はパーティにとって無駄な存在だ。」
「ここまで一緒にやってきて今更かよ。昼間は荷運びをしてるし、戦いが夜まで長引いた時は俺も役に立ってる。」
「あぁ、金剛まではそれぐらいの活躍度でよかったさ。だが試練の迷宮はそうもいかない。あそこはただの荷物運びを頭数に入れておける程容易い場所じゃない。それに周りを見てみろ。金剛等級の冒険者ともなれば夜のお前すら凌駕する力の持ち主が山のようにいる。力自慢にもなれないお前に価値はないんだ。」

 冒険者協会に登録可能なパーティには『四人』という絶対的な制限がある。これは人数の管理や報酬の分配などを考慮した結果ではあるものの、最たる理由は試練の迷宮に入れる人数が一度に四人までという制限があるからだろう。あの奇妙なダンジョンは、四人以上の人間を決して受け入れない。

「はぁ……分かった。じゃあ追放の話は取り敢えず受け入れよう。ただこの状況は一体なんだ。どうしてパーティから人を追い出すのに兵士を用意しなきゃならない。それに他の二人はどこに行ったんだ。」
「ラナーナとレザには別の場所へ避難して貰っている。お前に殺されないようにな。」
「殺される?俺が追放程度で腹を立てて癇癪を起こすと思ってるのか?」
「追放はあくまで前段階だからな。この先の話をすれば、お前はきっと暴れ始める。」

 ハクアがそう述べた時には、既にガジュの腕に手錠が嵌められていた。

「お前がいなくなった後、俺達は次の仲間を探さなければならない。そうなった時、お前が居ると困るんだ。だから俺達は、お前を逮捕する事にした。」
「ガジュ・アザット。貴様を強盗致傷の罪で逮捕する。」

 ハクアの意味不明な発言と共に兵士の一人が差し出した令状。そこには紛れもなくガジュの名前が刻まれていた。

「強盗致傷……?何だ俺が誰を殺したっていうんだ。」
「罪状はでまかせだ。大事なのはお前を監獄にぶち込むこと。お前にはこれから、『アルカトラ』で余生を送ってもらう。」

 アルカトラ。

 試練の迷宮製作者であるユノが現役時に攻略したダンジョンを元にして作られた、脱獄不可能な監獄。

 ガジュもその存在は認知しているが、程遠い世界だと思っていた。普通に生きている人間は名前を聞きもしない、複数人の人間を残虐な方法で殺したり、国家を転覆させたり、そういった極悪人だけが送られる生き地獄。それがあの場所と聞いている。

「何でそこまでされなきゃならないんだ。何度も言うが俺は追放を受け入れてる。」
「それは表面の話だろう。俺達は知っている、お前は表でニコニコしながら腹の底に黒いものを溜め込む性格だ。お前が言っている事は全くもって信用ならない。」
「おいおい俺が今二十五、お前らと冒険を始めたのが十八だから……今年で七年目か。こんなにも行動を共にしているのにどうしてこんなに信頼されてないのやら。」
「全てお前が原因だろ。足元のそれ、バレてるからな。」

 そう言ってハクアがガジュの左足を蹴りつける。その攻撃によって彼が足蹴にしていたナイフが弾け飛び、兵士が素早くそれを回収した。

「何が追放を受け入れてるだ……。話しながら足でナイフを引き寄せてる人間がそう思っている訳がないだろ。」
「これぐらいは暴れる内に入らないだろ。あくまで抵抗。こちとら無実の罪で監獄に入れられそうになってるんだ。追放に関しては受け入れてやるが、そっちに関しては素直に了承してやるつもりはない。」
「お前の意志など関係ない、これは決定事項だ。俺達の輝かしい未来の為にはお前は不要な存在なんだ。俺達はもっと優れた仲間をパーティに入れ、試練の迷宮を突破する。」

 もう会話の時間は終わりという事だろう。ハクアが剣をしまい、ガジュの首や足にも鉄の輪っかが嵌められ、全身が鎖で縛られていく。ハクアの言うように、朝のガジュにまともに抵抗する力はない。だが恨み言を言う元気だけは残されていた。

「全く追放だけで止めとけばよかったものを……。覚えとけよハクア。俺はいつかきっとお前を殺す。」
「やれるものならやってみろ。その時は黒・曜・等級パーティ、カイオス総出で叩きのめしてやる。」

 こうして冤罪の復讐者、ガジュ・アザットは囚われの身になったのであった。
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