追放投獄全部乗り越えて復讐を、執着無双の脱獄者〜夜だけ最強?いえ闇の中ならいつでも最強です〜

鮎川重

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第三章 冒険者になろう

46.犯罪者上等

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「うわぁ……こっち来たの失敗だったかもなぁ。大人しくあの覇王様の子守りを引き受けるべきだった……。」
「すみませんすみません。私のようなクソ犬が相方で誠に申し訳ありません。どうかこの駄犬のことを好きにお使いください。すみませんすみません。」
「いやキュキュちゃんが一緒なのは別にいいんだけどね。この地面がさぁ……。」

 ユンは不満げに足を動かし、ぬかるんだ地面を軽く踏みつける。ぐちょぐちょとした質感が体力を奪い、歩く度に撥ねる泥が服を汚す。怠惰を極めたユンからすれば、最悪の環境である。

 ガジュ提案の『秩序と混沌の鬼ごっこ作戦』を成功させるべく、ユンとキュキュはイリシテア東の沼を訪れていた。この二人がペアになった理由はただ一つ。ユンがクルトの相手をめんどくさがったからである。

「何だっけ、魔物に喧嘩を売ってイリシテアまで引っ張ってくればいいんだっけ?どうしてガジュはこんなに面倒臭い作戦ばかり考えるかなぁ。いっそイリシテアじゃなくてガジュに魔物をけしかけようかな!」
「……。」
「ちょっとキュキュちゃん。今日はガジュがいないんだからちゃんとツッコんでもらわないと困るよ。僕は真面目な場面でふざけるのだけが生きがいなんだからさ。」
「え、あ、すみませんすみません。」

 いつもの調子で適当なことを言い続けるユンだが、今日ばかりは言葉を返してくれる相手がいない。しかしだからといって黙ってやるほどユンは落ち着いた人間でもない。キュキュが返事をしてくれないなら、全力で絡みにいくだけだ。

ふさふさの長髪が揺れる肩に手を回し、ユンは内気な少女の頬をツンツンと刺突する。

「キュキュちゃんはさぁ~もっと我儘に生きていくべきだよ。獣人ってことで差別されてきたのは知ってるけどさぁ。」
「すみませんすみません陰鬱に生きててすみません。私は人に迷惑しかかけることしかできないんですすみません。」
「あーキュキュちゃんって監獄にいた頃に一回暴れたことがあるんだっけ?いいじゃん、どうせ魔物も当分見つからなさそうだしさ、その時の話でも聞かせてよ。」

 ユンはアルカトラでキュキュが狂乱した時の事を思い出す。

『過去にも意識を失って暴れ回り、同室にいた囚人を怖がらせた。』

 要約するとそんな話をしていた気がするが、あの時はシャルルやら脱獄やら色々と忙しくて詳しく聞く暇がなかった。二人きりの今、暇を潰す話題としては丁度いいだろう。

「えと……わ、私は獣人の隠れ里で生まれたんですが、生後すぐ村が役人に見つかって、両親は私を守ろうと抵抗して亡くなりました。その後私含め生き残った村人は全員アルカトラに入れられて……私はあの狭い雑居房に入れられました。すみませんすみません話すのが下手ですみません!!!」
「懐かしいねぇ。アルカトラのゴミ箱、思い出すだけで息苦しいよ。続けて続けて。」
「と、当時は看守もシャルルさんではなくて、私達は罵詈雑言を吐かれ、時には暴力も振られながら、最低最悪の存在として扱われていました……。」

 冒険者協会で適性検査を受けた際に仲間の年齢はユンもある程度把握している。シャルルが十三歳、キュキュが二十一歳で、シャルルは五歳の時にアルカトラに入れられているはずだから……この二人が囚人と看守の関係になったのはキュキュが丁度今のシャルルぐらいの年齢の時だろう。

 シャルルは囚人に暴力を振るったりせずただ己の正義だけを貫く善良な看守だが、あれは彼女が例外。看守など元来暴力的な生き物だ。
 自我を形成する上で重要な幼年期の時点から、特に意味もなく罵倒され、特に意味もなく殴られる。

 生きている事が罪。

 それが獣人、ひいては亜人達の宿命だ。

「しゅ、囚人の皆さんもそんな生活に絶望していて……。わ、私は長い間同じ牢の人と話すこともありませんでした。ただ少ない食事だけを与えられ、何とか成長して……。丁度十歳になった時、あの人と出会ったんです。」
「……例のお姉さん?」
「は、はい。長い間放浪生活をしていたその人は私達と同じ牢に入れられて、私に……色々な話をしてくれました。これまでにしてきた旅の話や……亜人を差別しない人達の話とか……。私にとってあの人は……初めて出来た家族だったんです。」

 口下手なキュキュが必死に言葉を紡いでいく。今彼女が喋っているのは、最早ユンの暇を潰すためではなく自身の過去と向き合うためなのだろう。ユンがそう思いながら話を聞いていると、足元が少しずつ揺れ始める。

「けど私は……あの人の優しさを受け入れられなかったんです……。私は、私は人に認められていい生物ではないんです……。」
「クポァァァァァ!!!」

 キュキュが感情の限界を超え、地面に膝をついた時。少し先の地面から巨大な土色の芋虫が砂塵を撒き散らしながら現れる。この魔物ならユンも知っている。泥と砂をこよなく愛するぶよぶよの化け物、サンドワーム。その異形の体を見ながら、ユンは微笑んでいた。

「まぁ事情はわかったよ。正直なこと言うとさ、僕も亜人ってあんまり好きじゃないだよね。僕が檻の外にいた頃は今よりずっと亜人=犯罪者って認識が濃かったんだ。だから僕も、直接何かされたことはないけど亜人をなんとなーく嫌ってる節がある。」
「そ、そうですよね。すみませんすみません。」
「けどね、一つだけ確かな事があるよ!亜人がいくら気持ち悪かろうと、他人に認められてはならない絶対悪だったとしてもさ、キュキュちゃんはキュキュちゃんじゃん!少なくとも僕はキュキュちゃんの事を仲間だと思ってるよ。本当の怪物ってのは……こういう化け物の事を言うんだもん!」

 ユンの体の三倍はあろうかという大きな口を開き、二人を丸呑みにしようとするサンドワーム。その黄土色の舌が頬に触れそうになった時、ユンは芋虫の顎と呼ぶべき部分を蹴り上げる。

「どうせ僕ら皆犯罪者なんだしさ、思うがままに生きようよ!罪を背負ってジメジメなんて……『犯罪者クリミナル』には似合わないんだしさ!」

 ユンの蹴りがサンドワームの体を打ち砕き、大地が揺れ動く。
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