追放投獄全部乗り越えて復讐を、執着無双の脱獄者〜夜だけ最強?いえ闇の中ならいつでも最強です〜

鮎川重

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第三章 冒険者になろう

48.心労が募る

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「なる、ほど……?つまりあのサンドワームはお前を追いかけてるんじゃなくて、キュキュから逃げてるってことか?」
「そういう事だね!自分以外の同族を一瞬で皆殺しにした悪魔から命懸けで逃げてる!哀れなもんだよ!」

 イリシテア付近の平原に生えた木を飛び回りながら、東の沼地で起きていた出来事を一通りユンから説明される。出現したサンドワームの群れと、それを蹴散らしたキュキュ……らしきもの。何とも情報量の多い話だ。加えてガジュ達の足元には、連れ出してきた大量のゴブリン達が蠢いている。

「それで何でお前は平然と生きてるんだ。あの芋虫の腹の中に入ったんじゃないのか?」
「そうだけど、それ以前に僕は無敵だからね。芋虫のブヨブヨのお腹を突き破ってばばーんと参上したよ。後半の話は胃袋の中で聞こえた声からの憶測。」
「だからお主妙に臭いのか。ベタベタしてるし不潔だな。」
「な、クルちゃん!言っていいことと悪いことがあるでしょうが!」
「うわ!止めろ、我輩に近づくな!」

 ガジュの後ろでクルトとユンが和気藹々とはしゃぎ合い、緊迫していたはずの空気が一気に緩む。だがしかし、視界の先から迫り来る一人と一匹は依然として止まることはない。

「こっちのゴブリンも想像より数が多かったからな。イリシテアを襲わせる分はこいつらで十分だ。だからサンドワームが一匹しか生き残ってないことはどうでもいい。ただ、その後ろのはどうするかな……。」
「今回のキュキュちゃんは前回僕らが目にした第二人格とは少し違うみたいなんだよね。ここまでの道中で罵詈雑言を吐いたり逆に褒めちぎったりしてみたんだけど、そもそも僕の存在にすら気づいてなさそうだった。まぁ目の前の生物を叩き潰すっていう思考自体は変わってないみたいだけど。」
「スキルも【強化】と【狂化】どちらでも無さそうだしな。多重人格、厄介なことこの上ないな。」

 ユンの話とここから見える情報、それらを総合するとキュキュが今使っているのは彼女ののスキルだろう。

【凶化】

 とでもいうべきだろうか。キュキュの細いながらも筋肉質な左腕が丸ごと消失し、黒い影となって巨大な刀へと姿を変えている。

「体を【強化】させて、他人を【凶化】させて、自分を【凶化】させる……。いくら何でもてんこ盛りすぎるだろ。」
「本当にねぇ。ユンちゃん無双の時間を邪魔された気分だよ。で、どうするの?」
「俺がどうにかするしかないだろ。ユンとクルトは下のゴブリン共を連れてイリシテアを目指してくれ。街に着くまでには……あいつを落ち着かせる。」

 ガジュはそういって空を見上げる。雲一つない綺麗な夜空と輝く月。かくのごとく正気を失ったキュキュを相手にするには恨めしいほどの明るさだが、ガジュに戦う以外の選択肢はない。

 あのままキュキュをイリシテアに向かわせればバーゼを引き摺り出すどころか、住民全員皆殺しだ。ユンに対応を任せるという手もあるが、ユンという人間は倫理観というものが欠如している節がある。もし「キュキュを止めるのは不可能」と判断すれば迷わず戦闘を諦める、そういった雰囲気をガジュはユンから感じ取っている。

「ガジュ、本当に大丈夫か?吾輩がいなくてもくたばるなよ!お主は吾輩のしもべの中でも数少ない戦闘員なんだからな!」
「あぁ?いつから俺はしもべしもべになったんだよ。前は同胞って言ってなかったか?」
「その時はリスペクトがあったからな!一緒に戦って分かった、お主は粗暴で極悪非道な輩だ!しもべぐらいが丁度いい!」
「はいはい、いいから悪の覇王様はユンちゃんと一緒に逃げますよ。じゃ、ガジュ!後は任せた!」
「とにかく命を大事にな~!あ、そうだ。ガジュ、お主に残りのチョココロネをくれてやる!吾輩謹製の美味しいチョココロネだ!」
「別に要らないけどな……。まぁ、そっちは任せたぞ。」

 クルトから貰った袋入りのチョココロネを懐に忍ばせ、ガジュはキュキュを睨みつける。紅くなった目が良く見える距離まで迫った彼女の前に飛び降り、地面をひと蹴り。
 舞い上がった砂埃の中、拳についたゴブリンの血液を拭い取っていく。

「はぁ……。シャルルといいキュキュといい、俺はハクアを殺したいだけだというのに身内とばかり戦ってるな。ユンはそもそも意味不明だし。普通こういうのは仲間が俺を優しく支えてくれるものじゃないのか?」
「あぁ私は劣等と醜悪の化身!全ての業を、全ての罪を!償う為にこの身を捧げます!」
「小言を聞いてくれすらしないのか。全く、相変わらず俺の仲間はどいつもこいつも我儘な奴らばっかりだな!」

 一切の躊躇なくキュキュが左手の剣を振り下ろし、ガジュが精一杯の力でそれを弾き飛ばす。通常の冒険者の本業が魔物退治なら、自分達の本業は内輪揉めと言っても過言ではない。そんなことを思いつつ、ガジュは拳を握りしめた。
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