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第三章 冒険者になろう

53.チョココロネに負けた男

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「ガ、ガジュ?どうしてそんなに悲しそうなんですか。早く何が起こったのか説明してください。シャルは記憶がありません!」
「ちょっと待ってくれ……。今俺は無力感に打ちひしがれている。キュキュ、お前はこんな気持ちで暴れていたんだな。よく分かったよ……。」

 ユギ村でもガジュ達は貢献度の話をしていたが、今回もそれを採用して考えてみよう。

 まず一人目、ユン。サンドワームを討伐、及びキュキュのメンタルケア。

 次に二人目、キュキュ。サンドワーム撃滅、その後暴走するがシャルル戦に協力し、シャルルを正気に戻す。

 そして三人目、シャルル。操られていたため計算外。

 肝心の四人目、ガジュ。ゴブリンの討伐及び陽動。キュキュ、シャルルとの戦闘するも決定打にはならず。

 そして最後のクルト。ゴブリンにチョココロネをばら撒き陽動を支援。キュキュとシャルルの洗脳をチョココロネによって解除。しもべによってイリシテア全住民を避難。ユン収監をガジュに知らせ、状況説明。

 誰がどう考えても……あの悪の覇王が一番だ。

「俺、そこそこ強いと思ってたんだがな。まさかあの自称悪の覇王に及ばないとは……。一体何なんだよあのチョココロネ!」
「わ、分からないですが……。た、多分、あのチョココロネはクルトさんのスキルによって作られていると思います。食べると心が洗われるというか、まっさらな気持ちになるんです。」

 クルトは自分のスキルを知らず、【小麦粉の魔術師ダークネスブレッド】などと適当なことを言っていたが、あれはあながち間違いではないのだろう。彼女の作るチョココロネは間違いなくただのチョココロネではない。「絶対に解けない」とかけた本人が豪語していた洗脳を解除し、第三人格を発現し暴れ回る狂人を冷静にさせる。あれを魔術師と言わず何というのだろうか。

「はぁ……まぁとにかくクルトの件は後から色々と聞いてみよう。それで、シャルルに説明するんだったな。いいかよく聞けシャルル。お前の抜け落ちた記憶は……かなり凄惨だ。」

 ガジュはいい加減に覚悟を決め、シャルルに説明を始めていく。彼女の洗脳が解けていることがバーゼにバレればまた面倒だ。それより早く対策を打たなければ。

 イリシテア付近の森で暴れ始めたこと、ガジュやユンを【投獄】したこと、幼い頃にバーゼから洗脳をされ両親を殺したこと。それに対抗してガジュがとった作戦や、現在進行形でユンが収監されていること。

 話すべき内容は多岐に及び、それら全てを話し終えた後、シャルルは何とも言えない表情で過去を語り始めた。

「シャルの両親は、間違いなく悪い人でした。お金を稼ぐ為なら手段を選ばず、色々な悪事を働いていました。それこそ裁きを与えられるべき存在でした。けど……ずっと不思議ではあったんです。シャルは悪人だからといって人を殺しません。それは正義に反しているからです。だからアルカトラにいる間も色々と考えていましたが……例の頭痛に阻まれてきました。」
「バーゼの【秩序の管理者テンパランス】のせいだろうな。あいつのスキルは身体操作の性能こそ低いが、効果の強さが段違いだ。」
「早くバーゼを倒しに行きましょう。八年前の件も、今回の件も、言いたいことは山のようにあります。」
「それは勿論だが、まずはユンを助けに行こう。ケリをつけるのは全員揃ってからだ。」

 クルトに「ユンが捕まった」と告げられてから、それなりの時間が経っている。そろそろ助けに行かなければ、今度はユンが発狂しかねない。ガジュはそう思考し、シャルルに目を向ける。

「記憶がないから聞いても無駄かもしれないが……ユンを【投獄】した場所に心当たりはあるか。」
「洗脳されている間、新たに印を書かされていたら分かりませんが、シャルがこの街で印を描いている場所は少ないです。なんせ五歳までしかいませんでしたからね。クルトと街を探検している時に見つけた地下牢と……後は自宅ぐらいでしょうか。」
「自宅……取り敢えずそこに行ってみるか。バーゼは流石にいないだろうが、行く価値はある。」

 ユンを助けたとしても、ガジュ達の問題は解決しない。結局のところバーゼは一度姿を現しただけで所在不明、奴のスキルにしても自供に基づく情報だけで詳細はわかっていない。この状況でバーゼを見つけたとしても、またスキルを使われるか逃げられるかが関の山だ。

「は、早く行きましょう!ユンさんを、ユンさんを助けないと!」
「なんかキュキュは心なしか元気になりましたね……。どうしたんですか一体。」

 キュキュの中でユンは完全に恩人としてカテゴライズされているのだろう。陰鬱な獣人が息を巻き、ガジュ達はその後ろについて走り出す。
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