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出産編
祝福
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シャン
シャン
シャン
聖錫の音が澄み渡る。
陽の光を受けて、白亜の大神殿は眩ゆいほど白く光り輝いていた。
白い法衣に身を包んだ大神官が静々と前に進み出て、手を高く掲げる。
その手には、ハマナスの枝がある。
「汝、レリアム」
大神官のよく通る声が神殿内に響いた。
「レリアム ヴィンセント グロース。神の御名において、汝に祝福を与えん。」
大神官は厳かにレリアムの頭上でハマナスの葉を振る。
葉の動きを目で追って、レリアムの頭も同じように弧を描く。
「これは神の手であり、神の御心である」
「だー、だ、だ」
「恵みは地より湧き、水を得て、天へ向かい、光へ帰す。」
「だーだ!」
「汝、汚れなき魂の生まれ出ずる光は、いずれ帰すべき光である」
「だ!だ!だー!」
フフフ・・・クスクス・・
ハマナスの葉を掴もうと手を伸ばす幼子と、その手を絶妙に避けて慣れた様子で葉を振り続ける大神官との攻防に、会場のそこここから笑みが溢れる。
ハマナスの枝を台座に下ろし、大神官は小さな香炉をかざした。
聖煙が近づくと、レリアムが待ちかねたように手を伸ばす。
「だー!だー!」
「汝、レリアムは祝福を授かった。」
「ブー!!」
会場から漏れ出る笑いがひと際大きくなったので、大神官はコホン、と咳払いをして周囲を見回した。
静かになったのを確認して頷くと、片袖をまくる。
「光を恐れず、愛し愛され、歩む先に汝は知るであろう」
聖水に浸した手をレリアムの頭に当て、額に正十字を描いた。
「汝こそが神の愛であり、祝福である」
国教の大神殿で、5か月になるレリアム王子は香授の儀を受けた。
儀式が終わり、本日の主役であるレリアム王子が王太子夫妻と共に、その場を退場する。
儀式の間は神官と王子が対面になるように、王太子妃が膝に座らせていたが、退場の前に、すかさず王太子が抱っこを代わった。
そういえば入場の際にも王太子が抱っこしていた。
王太子の抱っこの手慣れた様子や、喜んで父に抱っこされる王子の姿を見るに、王太子も普段から育児しているのだろう。
王太子妃が育児のために一旦執務を離れることが発表された際は、「王族でも自分たちと同じ感覚を持っている」と、その親近感から多くの国民に受け入れられた。
王太子夫妻の人気は益々盤石なものとなっている。
香授の儀を終え、晴れて正式な国教徒となった王子のお披露目も兼ねて、帰路ではパレードが予定されている。
久方ぶりのロイヤルベビーの誕生に、国民の盛り上がりは生後5ヶ月を迎えても尚、止まるところを知らない。
行きの道ですら、沿道に人が溢れていた。
帰路はどれほどの人出になるのだろう。
控えの間に戻ったら、急ぎパレード用の衣装に着替えねばならない。
足早に控えの間へ向かう。
「今のレリアムは身を捩るから、座っていたとはいえ、ずっと抱っこは大変だっただろう。」
「式の間中、起きているとは思いませんでした。いつもなら寝る時間なのに」
「それにしてもご機嫌だったな。泣くよりは良かったと思うが…あの反応は、あやうく俺も笑うところだった。」
「私も…神の与えたもうた試練かと思いました」
セイラムはレリアムを抱え上げて目を合わせた。
「レリアム、そなた、罪深い真似はやめるのだ」
レリアムは人差し指を口に含みながら「ケケッ」と笑った。
「反省の色がないな。それに、よだれがひどい」
「お腹が減ったんでしょう。そろそろお乳の時間ですもの。きっと帰りの馬車ではぐっすり寝てしまいますね」
パレードの間は起きていられるとよかったけれど、と続けるリリアナに、呆れたようにセイラムが言う。
「どうせ周りを近衛が固めるから、民はレリアムの姿を見られないかもしれないぞ」
何しろ近衛には、パレードの間、王子を隙間なく囲んでハエ一匹通すな、との王命が出ている。
王子を披露したいの?したくないの?どっちなの?と民からつっこまれそうである。
国王の溺愛ぶりもいい加減にしてほしい。
そう言うと、リリアナがクスクスと笑った。
「この部屋ですね。さあレリアムおいで。」
「レリアム、母上にもらっておいで」
キャーと興奮した様子で手を伸ばすレリアムを受け取る。
いちいち反応が面白くて、2人ともどうしても笑ってしまう。
「ククッ…それではリリアナ。またすぐにな」
「っふ…はい!」
*****************************************
次で最終話です!
シャン
シャン
聖錫の音が澄み渡る。
陽の光を受けて、白亜の大神殿は眩ゆいほど白く光り輝いていた。
白い法衣に身を包んだ大神官が静々と前に進み出て、手を高く掲げる。
その手には、ハマナスの枝がある。
「汝、レリアム」
大神官のよく通る声が神殿内に響いた。
「レリアム ヴィンセント グロース。神の御名において、汝に祝福を与えん。」
大神官は厳かにレリアムの頭上でハマナスの葉を振る。
葉の動きを目で追って、レリアムの頭も同じように弧を描く。
「これは神の手であり、神の御心である」
「だー、だ、だ」
「恵みは地より湧き、水を得て、天へ向かい、光へ帰す。」
「だーだ!」
「汝、汚れなき魂の生まれ出ずる光は、いずれ帰すべき光である」
「だ!だ!だー!」
フフフ・・・クスクス・・
ハマナスの葉を掴もうと手を伸ばす幼子と、その手を絶妙に避けて慣れた様子で葉を振り続ける大神官との攻防に、会場のそこここから笑みが溢れる。
ハマナスの枝を台座に下ろし、大神官は小さな香炉をかざした。
聖煙が近づくと、レリアムが待ちかねたように手を伸ばす。
「だー!だー!」
「汝、レリアムは祝福を授かった。」
「ブー!!」
会場から漏れ出る笑いがひと際大きくなったので、大神官はコホン、と咳払いをして周囲を見回した。
静かになったのを確認して頷くと、片袖をまくる。
「光を恐れず、愛し愛され、歩む先に汝は知るであろう」
聖水に浸した手をレリアムの頭に当て、額に正十字を描いた。
「汝こそが神の愛であり、祝福である」
国教の大神殿で、5か月になるレリアム王子は香授の儀を受けた。
儀式が終わり、本日の主役であるレリアム王子が王太子夫妻と共に、その場を退場する。
儀式の間は神官と王子が対面になるように、王太子妃が膝に座らせていたが、退場の前に、すかさず王太子が抱っこを代わった。
そういえば入場の際にも王太子が抱っこしていた。
王太子の抱っこの手慣れた様子や、喜んで父に抱っこされる王子の姿を見るに、王太子も普段から育児しているのだろう。
王太子妃が育児のために一旦執務を離れることが発表された際は、「王族でも自分たちと同じ感覚を持っている」と、その親近感から多くの国民に受け入れられた。
王太子夫妻の人気は益々盤石なものとなっている。
香授の儀を終え、晴れて正式な国教徒となった王子のお披露目も兼ねて、帰路ではパレードが予定されている。
久方ぶりのロイヤルベビーの誕生に、国民の盛り上がりは生後5ヶ月を迎えても尚、止まるところを知らない。
行きの道ですら、沿道に人が溢れていた。
帰路はどれほどの人出になるのだろう。
控えの間に戻ったら、急ぎパレード用の衣装に着替えねばならない。
足早に控えの間へ向かう。
「今のレリアムは身を捩るから、座っていたとはいえ、ずっと抱っこは大変だっただろう。」
「式の間中、起きているとは思いませんでした。いつもなら寝る時間なのに」
「それにしてもご機嫌だったな。泣くよりは良かったと思うが…あの反応は、あやうく俺も笑うところだった。」
「私も…神の与えたもうた試練かと思いました」
セイラムはレリアムを抱え上げて目を合わせた。
「レリアム、そなた、罪深い真似はやめるのだ」
レリアムは人差し指を口に含みながら「ケケッ」と笑った。
「反省の色がないな。それに、よだれがひどい」
「お腹が減ったんでしょう。そろそろお乳の時間ですもの。きっと帰りの馬車ではぐっすり寝てしまいますね」
パレードの間は起きていられるとよかったけれど、と続けるリリアナに、呆れたようにセイラムが言う。
「どうせ周りを近衛が固めるから、民はレリアムの姿を見られないかもしれないぞ」
何しろ近衛には、パレードの間、王子を隙間なく囲んでハエ一匹通すな、との王命が出ている。
王子を披露したいの?したくないの?どっちなの?と民からつっこまれそうである。
国王の溺愛ぶりもいい加減にしてほしい。
そう言うと、リリアナがクスクスと笑った。
「この部屋ですね。さあレリアムおいで。」
「レリアム、母上にもらっておいで」
キャーと興奮した様子で手を伸ばすレリアムを受け取る。
いちいち反応が面白くて、2人ともどうしても笑ってしまう。
「ククッ…それではリリアナ。またすぐにな」
「っふ…はい!」
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