【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria

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出産編

満月の夜

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「思い通り王妃になれても、お前はそこまでだ。底意地の悪いお前を抱くつもりはない」

リリアナは目を瞬いた。

窓の外に満月が浮かんでいる。

目前に、冷たい目をしたセイラムが立っていた。

覚えがありすぎるほどの、あの場面。



ああ、夢だ。

婚姻を結んだ、あの夜の。

何も返せないでいると、セイラムが踵を返す。

行ってしまう…!

「セイラム様!」

セイラムの服を咄嗟につかんで引き止める。

驚いたような顔でこちらを振り返るセイラムに、リリアナはにっこり微笑んだ。

勉強家で、いつも自信に溢れていて、頼りになって。

そのくせ、私のことになると弱気になって、涙もろくて、心配性で。

私の大切な人や物を、丸ごと大切にしてくれる大きな心の持ち主で。

「お慕い申し上げております」

セイラムが目を丸くするので、可笑しくて益々笑ってしまう。

「これまでも、これからもずっと」

立ち上がりギュッとその体を抱きしめると、戸惑うようにゆっくりとセイラムの腕が体に回る。

「私のことを愛してくださいませ、旦那様」

頰ずりして目を閉じると、ギュッと抱きしめ返された。




身じろぐ気配に、リリアナはぼんやりと目を開けた。

今まで寄り添い寝ていたセイラムが、そっとベッドから降りていく。

夜のはずなのに、部屋の中は見通せるほどには明るい。

そういえば、今日は満月だった。

だから昨日、間も無く出産になるかもしれないね、とヒルラと話していたのだ。

床に入る前に、なんとなく腹痛を感じていたが、あれが陣痛の始まりだったのだろう。

陣痛とは痛みなのかと思っていたが、痛かったのは途中まで。

その後は、体の奥底から湧き上がる「息みたい」という衝動に苦しめられた。

その衝動を逃がすのに必死で、懸命に呼びかけてくれるセイラムの声に、応える余裕もなくなった。

でも、側にいてくれた。

いつまで続くのか、いつまで耐えればいいのか、何もわからない暗闇の中、1人ではないと思えた。

私は、やり遂げたんだ…。

達成感というより、やっと終わったという安堵の方が強い。

眠い・・体はクタクタだ。

日中の大仕事を終えて、いつもの寝室に戻ってきたのは暗くなってからだった。

我が子にお乳をあげて、セイラムと食事を摂って、そのまま2人一緒に眠っていた。



カチャッとドアを開ける音に続き、セイラムとヒルラがボソボソと話す声が聞こえる。

カラカラとゆっくり車輪の回る音が止まると、ふぇ、ふぇ、と、か細い泣き声がした。

「よしよし、抱っこするからな。左肘に頭が来るから・・向きはこっちでいいな?よし」

セイラムが小声で呼びかけながら、衣擦れの音がする。

音が止むと、ふぇふぇ泣いていた声も止んだ

「どうだ?起きたのか?目が開いたな。そなたに見つめられるとリリアナに見つめられているような心地だ。よい目をもらったな。よしよし。そなたの母が起きるまで俺が抱っこしているからな。一緒に待とう」

ひそめて語りかける、優しい声。

目を閉じたまま、リリアナは微笑んだ。

ああ、この人が好きだ。

目を開き、身を起こす。

「セイ様」

「あ・・リリアナ、すまない。起こしてしまったか」

「いえ、懐かしい夢を見て、丁度私も目が覚めたところです」

セイラムが抱っこしたままベッドの上のリリアナに近づいた。

パッチリと紫水晶アメジストの目を開いて、我が子がこちらを見つめる。

言葉もなく、じっと2人して我が子を見つめた。

「可愛い・・」

「うん」

存在するだけで、こんなにも愛らしい気持ちにさせてくれる。

「リリアナ、ありがとう。俺の宝物を増やしてくれて」

「私からも、お礼を。セイ様が居なければ、得られなかった宝です」

お互いを見つめあいながら微笑んだ。

ふぇ、と情けない声がして視線を落とすと、我が子が顔を歪めていた。

ふぎゃ、ふぎゃ、と泣き出す我が子にセイラムが動揺している。

「おお、済まない。忘れていたわけではないのだ。そなたは腹が減っているのだろう。母にお乳をもらわねばな。リリアナ、抱っこしてくれ。サフィを呼んでくる」

「は、はい!」

益々激しくなる泣き声に、俄かに室内は活気づいていった。




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