【完結】モブは乙女ゲームにツッコミたい

airria

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連行される

なぜ、こんなことに。

脇と後ろを私服の近衛らしき男達にガッチリと固められ、モリーはお茶に連行された。

着いたのは、学園の高位貴族の中でもハイソなご身分の方しか使えない、予約制の温室サロンだった。

もちろんモリーは来たことがないが、好感度があがってくるとヒロインが様々な攻略対象者からここにご招待されていたので、由美は知っていた。

王太子は、温室の中にあるラタンのソファに腰を下ろすと、向かいの席にすわるようモリーに促した。

本当にお茶をするらしい。

口元に小さく微笑みをたたえながら、楽しそうにモリーを見つめてくる王太子を前に、モリーはこの事態を打開する術を必死に考えた。

なぜ王太子が学園にいるのか。

なぜ自分がお茶に呼ばれているのかもわからない。

ダラダラと冷や汗をかきながら、モリーは必死に考えた。

「モリーのお父上は、トワンク政務官だよね。お母上は確か、グスタフ伯爵家の出だったな。あ、お好きなケーキをどうぞ?」

王太子を心の中で『歩く貴族名鑑』と呼ぶことに決めたモリーは、紅茶と共に運ばれてきたカートに目を向けた。

ケーキがホールのまま、3種類と、シュークリームとエクレアが載っている。

「あの…ではチーズケーキを…」

懐かしい味が口に広がる。

「美味しい?」

「は、はい!」

ニッコリ笑って、王太子は長い足を組み替えた。

「さて、それじゃいくつか質問するけど、嘘をつかないって約束してくれる?」

「王太子様に嘘をつくなんて、そんな罰あたりなこと、しないです、絶対!」  

一拍、間が空いてから、王太子が話を続ける。

「君は王城に来たことはある?」

「1度だけ、デビュタントの時に…」

「本当に1度だけ?他には?」

「1度だけです」

「じゃあ、入学する前に、この学園に来たことはある?」

「入学する前に来たことは…ないです」

なんの質問なんだろう、と内心首を傾げながら、モリーの記憶を頼りに答える。

「確かだね?」

「えと…はい」

「ふうん…」

王太子の口元はそのまま微笑みをたたえている。

何だか急に居心地が悪くなって、モリーはチーズケーキをもそもそと食べ終えた。

どうしよう、帰りたい。

本能が、早くこの場から脱出せよと告げている。

王太子相手に、自分から話を切り上げてもいいものだろうか?

意を決して口を開くが、王太子の方が早かった。

「モリーは今日の私の格好、どう思う?」

「は?」

格好って何?スタイル?ファッション?
まじまじと王太子を見つめてみた。

「あの…そのお姿も、大変格好いいと思います」

「そうか、ありがとう。この学園に来るのは卒業以来でね。さすがに学生服は着れないから、教師をイメージした格好にしたんだけど。お忍びだから、一応、ばれないようにね」

そう言われると、シャツにスラックス姿で、教師に見えなくもない。

こんなイケメン教師が居たら、学生さんは勉強どころじゃないと思う。

さっき声をかけられて、すぐに王太子だと気づかなかったのは、服が違ったからか。

「だけどモリーには気づかれちゃったね」

ニッコリと笑う王太子に、はぁ、と気の抜けた返事を返す。

「不思議だなぁ。なんでモリーは私だってわかったの?」

え?と顔を上げると、真っ直ぐこちらを見つめる王太子と目が合った。

「2年前のデビュタントの舞踏会、私は欠席したんだ。陛下の代わりに公務で隣国へ行っていたからね」

え?

「それに、君がここに入学する前には私も卒業していたから、学生時代も接点は無いはずだろう?」

あ…

「なのに何で君は見ただけで、私が王太子だとわかったんだろうねぇ?モリー?」

悪寒が走り、モリーは背筋を伸ばした。

王太子の顔を知っていたのは由美の方で、通常、子爵令嬢如きが、王太子の顔など知る筈がないのだ。

自分の勘の悪さに眩暈がする。

最悪の可能性が頭を過ぎる。

影から高位の貴族達を覗き、王太子の顔も知っていた。

間者を疑われても仕方ない状況だ。

ひたり、とこちらを見つめて視線を外さない王太子に、モリーは沈黙し俯いた。

「何か言いたいことは?」

「ごめんなさい…」

「一応確認だけど、諜報活動、破壊工作活動、裏社会や他国との取引、いずれかに関与していたりは?」

「してません!!!信じてください!私1人の個人的な趣味の一環です!見たこと聞いたことを誰かに言ったり、何かに利用したりなんて考えもしてません!」

モリーは必死に弁解した。

もし罰せられるなら、それはそれで恐ろしいが、自分1人で受けなければ。

あの人畜無害そうなモリーの両親にまで累が及ぶようなことはあってはならない。

王太子はあっさりと頷いた。

「そうか、じゃあ私が言うことは特にないよ」

「え…い、いいんですか?」

「褒められた行為ではないが、法に反しているわけじゃないからね。」 

逆に言えば、法は犯していないがモラル違反ではある。

夕方のニュースの特集に時折出てくる、電車を停めてしまう撮り鉄や、禁漁区域で貝を採るおじさんが頭に浮かんだ。

なんかヤダ。

モリーは覗きを止めようと決意した。 

「やめます!すみませんでした!」

「その方がいいだろうね」

王太子はニッコリと笑って、さて、と続けた。

「そろそろ戻るとしよう。モリー、私は時折学園に来るつもりだから、その時にまた、話をしようね」

「え、ヤダ…」

「君とのティータイムはとっても楽しかったよ。それじゃ、またね。」

思わず出た本音は黙殺され、お茶会は幕を閉じた。

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