【完結】モブは乙女ゲームにツッコミたい

airria

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影025

影012

その後も何度かモリー嬢の奇行を目撃した俺は、モリー嬢について少し調べてみる事にした。

シーク王子をつけ狙っている訳ではないようだ。

どうも、こないだ殿下にぶつかりそうになった、リサとか言う伯爵令嬢の現れる所に、毎度狙ったかのように出没する。

というよりも、そこに現れることを確信しているかのようだ…

リサ嬢とモリー嬢が接触を持ったことは一度もない。

つまり、示し合わせている訳ではない。

ではなぜ、そこにリサ嬢が現れるとわかるのか…

相変わらず陰に隠れてケラケラ笑っているモリー嬢が不気味で仕方ない。

思いあまった俺は、影012に事の次第を相談した。

因みに、影012は女である。

得意としているのは変装で、王子の授業中を警護するため、女子学生として編入手続きを済ませたのが2年前。

王子と同じクラスで、学生生活を満喫中だ。

「あー、あの令嬢ね」

「やはりお前も気になってたか」

「ていうか、こないだ遭遇しちゃったんだよね」

「遭遇?」

「王子の昼休憩の時間 、B棟の屋上から張ってたら、急にあの令嬢が来て」

「げ、何やってんだよ」

B棟の屋上はカフェを見張るにはベストポジションだが、身を隠すものが一切ないので隠密には不向きである。

「大丈夫だって。“音楽室のメリーアン”に化けてたし」

“音楽室のメリーアン”は、この学園の七不思議に数えられる怪談話である。

雨の日、白布を纏った女子生徒の幽霊が音楽室に現れる、と、生徒たちの間で恐れられ、雨の日に音楽室に近づく者はほとんどいない。

だがその実態は、影012である。

雨の日、濡れずに王子の昼休憩を見張りたい。

ただそのために、影012が変装して"音楽室のメリーアン"を作り上げ、雨の日の音楽室を確保した。

「そんでどうなった?モリー嬢はメリーアンに遭遇して、腰でも抜かしたか?」

「いや、感激された」

「…感激?」

「凄い勢いで近寄ってきて『まさかまさか音楽室のメリーアン!?マジか!こんなレアキャラに会えちゃうの?人外じゃん!あれ?幽霊じゃなくない?人だよね!?』って、すごい早口だった」

「バレてるじゃねーか!」

「大丈夫だって。メリーアンの下に、女子学生の変装してたから。シーク王子に片想いしてる女子生徒が、遠くからでも王子を見たいが為に、メリーアンを演じてるって筋書きになったわ」

影012は、目元を緩ませながら、その時のことを話し出した。



メリーアンの正体が女子学生だと知ったモリーは、急に女子生徒を心配し始めた。

「メリーアンに実はこんな裏話があったなんて…」

「裏話?」

モリーはキッと、影012扮する女子生徒を見据えた。

「厳しいこと言うようだけど、王子なんて高嶺の花だよ?報われないとしても王子がいいの?雨の日忘れ物を取りに音楽室に寄るリサが怖がって、王子について来てほしいとか言って、それでメリーアンに遭遇して、腰を抜かしたリサが王子にお姫様抱っこされる、みたいなイベント、あるかもしれないよ?親密度上げに自分が使われてしまうかもしれないんだよ?そんなの悲しくない?もっと自分を大切にしたほうがいいよ!」

すごい早口で捲し立てられ、話の内容の半分も聞き取れなかったが、どうやら自分のことを案じてくれているようである。

「えっと…まあ、うん大丈夫。なんか、心配してくれてありがとう」

モリーは何か言いたげな顔でしばらくこちらを見ていたが、大きく息を吐くと、女子生徒に歩み寄った。

「そっか…そんなに好きならしょうがないよね…ごめん、私酷いこと言って。わかった。応援するよ!」

それ以来、モリー嬢とは廊下で行き合った際に、少し立ち話する仲である。





話を聞いた影025はこめかみを押さえながら呻いた。

「…お前、それ、報告書もんだぞ」

「影の仕事までは気づかれてないからよくない?あの令嬢、面倒見よくてさ。今日は見に行かない方がいいよ、ってアドバイスくれる日に限って、王子の周りで小さいハプニングが起こったりするんだよね。逆に助かるって言うか」

影025はふと顔を上げた。

「つまり、モリー嬢は何か起こることを前もって知っていた、と?」

影012が目を泳がせた。

「答えろ。」

「確かなことはわからない。それとなく聞いてみたけど、濁された。」

「影012。使命を忘れた訳では、ないだろうな」

王子のすぐそばに、王子の身に起こることを予見する者がいる。

その危険性に気づかない影012ではあるまい。

影025の真っ直ぐな視線を受けて、影012は目を逸らした。

「モリーがなんで知ってるのかはわからない。だけど…あのコは、悪い奴じゃない…誰かに危害を加えるどころか、平和に過ごすことを一番に考えてる…」

「目的を履き違えるな。我々の使命の前に、お前のその感想は無意味だ」

影025は踵を返した。

「モリー嬢のことを殿下に報告する。それでいいな」

項垂れて、それでも首を小さく縦に振った影012を残して、影025は音もなくその場を離れた。

















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